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時間よ止まれ

作者: 紫鱗

 時が止まった、いや、俺が時を止めたんだ。

 すげぇ、何でもできると全能感に浸っていたのもつかの間のことだった。


 まず、公園でキャッチボールしている子供たちの浮かんだボールの軌道をそらしてやろうとした。しかし、空中に浮いていたにもかかわらず押しても引いても殴りつけても全く動かない。

 しかも、ボールを殴った時、まるで鉄球のような硬さを拳に感じた。俺はあまりの痛みに右手を左手でさすりながらうずくまった。


 自動ドアは動かない、電車はもちろん止まったままだ。何に触れても弾力を感じることがなく、それが熱いのか冷たいのかもわからなかった。水面も氷が張っているかのようだったが、やはり温度を感じることはできなかった。


 もうわかった、時なんて止まらなくったっていい、元に戻ってくれ。

 ――願いも空しく秒針は時を刻もうとしない。


 腹が減ったな……


 食べ物に手を触れても、そこから動かせないので口に運ぶことができず、ならば口を近づければよいと思いかじりついてみてもまるで石に歯を立てているようだ。

 ……ダメだ、これじゃ何も食べられない。


 時は依然として動く気配はない。人通りの多い交差点なのにもかかわらず、助けを求めても全く反応がない――動かない。何も食べることのできない俺は交差点の中心で倒れこみ、何も考えずに時の流れに身を任せた。

 いや、時は止まっていたんだったっけな。



 5月○日 日中都内の交差点で餓死者――東京都中央区銀座にある数寄屋橋交差点の中心にて若い男性が倒れているのを通行人が発見、病院へ搬送されるも死亡が確認される。死因は餓死と見られる。

 発見者によると、その男性は突然目前に現れたという。警察の調べによると男性は十分な所持金があったことが確認されており、餓死する理由が見当たらないという見解を示すとともに、自殺の可能性も含めて捜査を進めている。


 ニュースを知ったある男が小さく呟いた。

「そういえば彼を時間の束縛から解いていたのを忘れて、しばらく時間の流れを止めたままだったな」

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