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渡し守

作者: 水円 岳

(1)


今日も天気は薄曇り。

風もない。


川は、流れているのかどうか分からないくらい、ゆったりと

水をたたえている。

水面には、小さな波紋以外何も見られない。


とても広い川幅。

300メートルはあるだろうか。


わたしは、船着き場に係留された小舟の中に立っている。

竿を川底に突き、それに寄りかかるようにして、ぼんやり対

岸を見やっている。


船着き場は、川岸から川に向かってに木杭が4本打ち込んで

あるだけの、簡素な作りだ。


舟の舳先が岸に乗り上げるような形になっていて、そこから

乗り降りする。


わたしは小舟に乗ったまま、今度は薄曇りの空を見上げた。


風が止んでいるので、ほとんど物音がしない。

川の水音、草木のざわめく音、鳥や虫の鳴き声や動き回る音

などは、全く聞こえてこない。


草木が生えていなければ、ただの死の世界だ。


竿を船に引き上げて、ゆっくりと小舟を下りる。


尻ポケットに突っ込んである携帯電話を取り出す。

着信も、メールもない。

お母さんもそろそろお疲れなのかな。


まあ、何か連絡があったところで急ぎってことはないし。


携帯を畳んで、今度はシャツの胸ポケットに放り込む。

さくり、さくりと草を踏んで土手を上がり、草むらに腰を下

ろす。


こちらにも、向こう岸にも、丈の高い木はない。

灌木がところどころに茂っていて、地面は一面草で覆われて

いる。


こちら側と向こう岸とで違うのは、花の量だろう。

ここでは、探さないと見つからないくらい花が少ないが、向

こう岸には花園と呼んでもいいくらい、花が溢れている。


景色に色目の乏しいこの辺りでは、それが唯一の彩りになっ

ている。


体を倒して、仰向けになる。

濃淡のない、一様な薄雲が空を全面覆っている。

明るくも、暗くもない。


穏やかな。

変化のない。

静かな毎日。



           −=*=−



わたしの仕事は渡し守だ。


こちら側から客を乗せて、対岸まで運ぶ。

向こう岸から客が乗ることはない。

わたしは必ず独りで戻る。


それが決まりだ。


もう随分長いことこの仕事をしているように思えたが、考え

てみれば、客が来たのはここ数週間だけだ。


もう千人以上運んだことになる。

ものすごく忙しいように思えるが、自分では何かに急かされ

たり、慌ただしかったような記憶はない。


客は老若男女問わず、みな寡黙だった。

誰がやって来ても、大声で騒ぐわけでも、泣く喚くわけで

も、不満をぶちまけるわけでもない。


誰もが川岸に立って、しばらく静かに対岸を見続ける。

そして振り返ると、必ずわたしに聞く。


「向こう岸には、何があるんですか?」


わたしは、いつも同じ答えを淡々と繰り返す。


「さあ」


「わたしは、この舟を降りて向こう岸に行ったことはないの

で分かりません」


「そうですか……」


それを聞いて、誰もが軽い落胆と諦めの表情を浮かべる。


わたしが舟に上がると、客はわたしが促すまでもなく、みん

な静かに舟に乗り込んでくる。


わたしはもやい綱を解くと、竿を川底に突いて、ゆっくりと

舟を出す。


ぽちゃん。

竿が水を掻く時の小さな水音と波紋だけが、川面に残る。


舟は水面を滑るように進む。

わずかな揺れだけが、川の上にいることを感じさせる。


舟では誰も口を開かない。身動きもしない。目を合わさな

い。みな静かに、目をつぶって俯いている。


舟は20分ほどで対岸に着く。


向こう岸についた舟から客が降りる時は、誰もが柔らかな笑

顔を見せて、わたしに同じ言葉をかける。


「ありがとうございました。どうか、お元気で」


わたしは無言で、舟から一礼を返す。


客は足早に船着き場を離れると、花園に分け入って、そのま

ま何処にか姿を消す。


足音が絶えて、船着き場に静寂が戻る。


わたしはそれを見届けて、踵を返す。

そうして、ゆっくりと渡し口に舟を戻す。


まるで、同じフィルムを再生するかのように、毎回変わらず

に繰り返される情景。


わたしは、ここしばらく、そうやってたくさんの人を対岸に

渡してきた。


それがわたしの仕事。

渡し守としての。

わたしの。


仕事。




(2)


今日も、いつものように薄曇りの天気。

風もない。


川はいつもと変わらずに、ゆったりと流れている。


ここ数日は誰も来ない。

渡しの仕事はない。


正直、とても退屈だ。


土手に腰を下ろして対岸を所在なく眺めていたら、背後から

ぽんと声をかけられた。


「お兄さん」


おや、珍しい。

どのお客さんも穏やかで、覇気のない声しか出さないのに、

声がとても明るい。


振り返ると、16、7歳くらいの女の子が、屈託のない笑顔

でわたしを見下ろしていた。


ぽちゃっとした丸顔で、目がぱっちり、くりくりっとしてい

る。愛嬌のある顔だ。


明るいオレンジ色のトレーナーと膝丈の紺のプリーツスカー

ト、白いソックスに赤いスニーカー。肩までの黒髪を後ろで

二つに分けて、髪ゴムで留めている。


背丈はそれほど大きくない。わたしは背が高いので、わたし

が立ち上がると、たぶんその子を見下ろすような格好になる

だろう。


「なんですか?」


「お兄さんが、ここの渡し守?」


「そうですよ」


「そっか」


女の子はわたしの方に歩み寄って来ると、隣にちょこんと腰

を下ろした。


「お仕事、ご苦労様です」


ぺこっと頭を下げる。


ふむ。

こうやって、わたし自身に目を向けてくれた人は初めてかも

しれない。


これまで来たどの人も、対岸のことしか頭になかったみたい

だから。


女の子は顔をわたしに向けると、質問をし始めた。


「えーと、お兄さんは、この辺りのことは詳しいの?」


「さあ。わたしには、渡し守の仕事をする以外の興味はない

ので、それはなんとも……」


「うーん、そっか。じゃあ、自力で探検しなきゃならないっ

てことね」


探検?

ほう、探検ですか。

なかなかおもしろい発想だなあ。


「お兄さんは暇なの?」


「暇といえば暇かもしれませんね。川を渡りたいというお客

さんが来ない限り、わたしはこちら側でぼんやり待ってるし

かないから」


「じゃあさ。ちょっとわたしの探検を手伝ってくれる?」


ふーむ。

どうしたものか。


あまり露骨にサボると、お母さんに何を言われるか分かんな

いからなあ。


「ちょっと待っててください。伺いを立ててみます」


「え? ボスがいるの?」


「いますよ。この仕事は雇われなので」


「そうなんだ」


携帯を取り出して、メールを打つ。

女の子に探検の手伝いを頼まれたけど、つき合っていいか?


すぐに返事が来る。


『いいですよ。その子が充分納得するまでつき合ってあげな

さい』


ほう。

お墨付きだ。


それならそれで構わない。

わたしも同じことの繰り返しで、少し飽きがきていたところ

だったし。


女の子の気が済むまで、手伝ってあげることにしよう。


「ボスの許可が出ました。お付き合いしましょう」


女の子は嬉しそうに微笑むと、わたしの名を尋ねた。


「あなたのお名前は?」


さあ、困ったぞ。


「ええと。わたしに名前はないんです。この仕事をしていて

名前が必要なことはないので。」


「ええっ! それっておかしくない?」


そう言われましても。

事実そうなんだもん。


女の子は、膝に頬杖を突いたままわたしの目を覗き込むと、

わたしに提案した。


「じゃあ、大きな川を渡す人ってことで、大川渡(おおかわ

わたる)さんってことでいい?」


なんか安易だなあ。

まあ、名無しの権兵衛とかよりはましかもしれない。


「それでいいです。異存はありません」


「じゃあ、わたるさんって呼ぶね」


「ご自由に」


「わたしは希乃望まれの のぞみ。のぞみ、でいいわ」


「はいはい」


「はい、は一回!」


うーん、なんか強気な子だね。


「で、のぞみさん、どこから調べます?」


「ちょっと、この辺りを歩き回ってみたいな」


「いいですよ」


わたしはゆっくり立ち上がって、尻に付いた土埃をぱんぱん

と叩き落とした。


のぞみさんも、ぱたぱたと枯れ草の切れ端を払っている。


考えてみれば、わたしはこれまで渡し場の周囲から一度も離

れたことがない。

この辺りがどういうところなのか、全く知らないのだ。


ふむ。


のぞみさんはきょろきょろと周りを眺めながら、川上に向

かって、土手沿いにとことこと歩き始めた。

わたしもゆっくり後を追う。


道は200mくらい行ったところでゆっくり下っていって、

川のところで途切れていた。

のぞみさんは、川上の方をじっと眺めている。


左手には花で溢れた対岸が見えるが、前方から右手にかけて

は、川面以外何も見えない。

まるで、そこから先はもう何もないと言わんばかり。


突き当たりを右手に折れて、今度は岸沿いを歩く。

小砂利を敷き詰めたような川岸を踏みしめつつ、川向こうを

眺めるが、向こう側にはやはり何も見えない。


本当に何もないのか、もやっていて見えないのか、それは分

からないけど。


岸は緩やかなカーブを描いて、船着き場に至る。

わたしもこうして歩いてみて、初めて自分のいる場所の状況

が分かった。


そうか。


ここは大河の真ん中にある三角洲だ。

それもさして大きくない。


どんなにゆっくりと歩いても、15分もあれば一周できてし

まう。


三角洲は台形になっていて、中央の部分は水面から3メート

ルくらい高くなっている。縁はどこも緩やかな斜面になって

いる。


三角州の真ん中には何本か低い木が生えていて、あとは草に

覆われているだけ。他に目立つものは、何もない。


のぞみさんは、自分の今いる場所の状況が掴めて、逆にがっ

かりしたみたいで、船着き場近くの土手に力なく腰を下ろし

て、項垂れてしまった。


「はああ」


「どうしたんですか?」


「わたるさん、この状況は変だと思わない?」


「どうして?」


「わたしたち、どこから来たの?」


「さあ……」


そんなことは、考えた事もなかったなあ。


「それはわたしの仕事にはなんの関係もないので、考えたこ

とがなかったですね。」


「のんきねー」


「そうなんですか?」


「はあ」


呆れたように、わたしの顔を横目で見る。


「と言うことは、もう少しましなところに行くためには、対

岸に行かなくちゃならないってことね」


「そうでしょうね。でも」


「ん?」


「対岸に行ったら、もうこちらには戻れません」


「そうなの? どして?」


「そういう決まりなんですよ。理由はわたしに聞かないでく

ださいね。ボスにそう言うように命令されているので」


「ふーん」


のぞみさんはわたしから目を離すと、対岸の花畑をじっと見

やっていた。


「ねえ」


唐突に、のぞみさんがわたしの袖を引っ張る。


「なんですか?」


「お腹空かない?」


うーん、空腹って言葉は知ってても、それがどんなことかわ

たしには分からないからなあ。


お母さんに聞いてみるか。


携帯でメールを打つ。


『のぞみさんはお腹が空いたのだそうですが、どうしましょ

うか?』


すぐに返事が来る。


『上の茂みの下に二人分のお弁当を置きましたので、食べて

ください』


ほお?

こりゃ、手際がいいなあ。


わたしは立ち上がると、茂みに近づいた。

確かにそこに、紫色の風呂敷に包まれたお重が二つ置かれて

いた。


「のぞみさん、お弁当の差し入れがあるようです。食べます

か?」


「あ! そうなの? 嬉しいなあ」


ぴょんぴょんと跳ねるようにして、のぞみさんがわたしのと

ころまで駆け上がる。そして、風呂敷を受け取って頭上に掲

げた。


「わーい。お弁当だー!」


そんなに嬉しかったのかなあ。


土手に二人で並んで、お重の蓋を開ける。


「うわあ! 豪華あ!」


……と言われましても。

わたしには、初めて見るものばかりで何とも。


「わたるさんは、ご飯はたくさん食べるの?」


「さあ。分かりません。ご飯を食べたことがないので」


のぞみさんが絶句している。


「どういうこと?」


「わたしに聞かないでくださいってば」


お重を一つずつ持って、お弁当を食べる。


わたしは箸を持ったことがない。

棒二本を指で器用に操ってご飯を口に運ぶのぞみさんが、不

思議でしょうがない。


「うーん、これでよく食べ物を口まで運べますね」


「わたるさんは不器用ねえ」


「しょうがないですよ。わたしが教わったのは竿と舟の扱い、

それに携帯の使い方だけですから」


「そうなの?」


ぼろぼろ食べ物をこぼすわたしを見兼ねたのか、のぞみさん

が自分の箸で、ご飯やおかずをわたしの口に入れてくれる。


「なんか……子供みたいね。わたるさん」


「すみませんね。お手数かけて」


「いや、いいんだけどさ」


もぐもぐ、ごくん。

ふむ。

食事するっていうのは、こういうことか。


わたしが一人で納得していると、のぞみさんはふと首を傾げ

てわたしに聞いた。


「ねえ、わたるさん。このお弁当、おいしい?」


「さあ。わたしにはこれが初めての食事ですから、おいしい

かそうでないのか、分かんないですね」


「ふーん……」


のぞみさんは、ちょっと難しい顔をして、箸を動かすのを止

めて水面を見つめた。


「なんかね。おいしいんだけど……どこか違う」


「違うって、どこがですか?」


「分かんない……」


それから、のぞみさんは無言でお弁当を食べ続けた。

わたしの携帯が鳴る。

お母さんからメールだ。


『茂みの下にお茶の水筒を用意しました。食べ終わったお弁

当は同じところに置いておいてください』


さて、お茶ってのはなんだろう?

わたしは立ち上がって、茂みの中を覗く。

大きな銀色の水筒が置いてあった。


「のぞみさん、お茶の差し入れがあるようです」


「あ、飲む、飲む」


わたしは水筒を手に、土手に戻る。


水筒の蓋を外して、中蓋を緩める。

傾けると、湯気とともに薄緑色の液体が流れ出した。


「あ、緑茶ね。おいしそう」


のぞみさんは、そう言ってお茶を口に含んだ。

でも、さっきのお弁当の時と同じように、複雑な表情になっ

た。


「う……ん、なんか、違う。なんだろ」


そう、言われても。


わたしも飲んでみたけど、こういうものかってことくらいし

か分からない。

ましてや、おいしいかどうか聞かれても……。


おいしいって……そもそもなに?


お弁当を食べ終わったので、空いた重箱を風呂敷で包み、水

筒と一緒に茂みの下に戻す。


しばらくしてそこを覗いた時には、もう何もなかった。


のぞみさんは、それからしばらく土手に座って、じっと何か

を考え込んでいた。

わたしも特にすることがないので、ずっと川面を眺めていた。


いつもと同じように。




(3)


それから、どれくらい時間が経ったのだろう。

わたしは、相変わらず水面をぼんやり眺めていた。


突然、のぞみさんがわたしに聞いてくる。


「ねえ、わたるさん、ここって日が沈まないの?」


「日が沈むって? なんですか、それ?」


「……」


「夜は来ないの?」


「うーん、夜っていうのがどんなものか分からないから」


「……」


「昼夜がないって……。もしかして、季節もないの? 花が

咲いてるから春だと思ってたんだけど……。」


「さあ……。分かりません。」


いろいろ変わったことを気にする人だなあ。

でも、わたしの知らないことをたくさん知ってるんだろう。

少しうらやましい。


のぞみさんの表情は、どんどん険しくなる。


「どうして……」


「え?」


「どうしてわたしは、トイレに行きたくならないんだろう?

さっきご飯も食べたし、お茶も飲んだのに、満腹にもならな

ければ、トイレに行きたくもならない」


「そんなの、変」


ふーん、としか言いようがない。

わたしはトイレが何かも知らないんだから。


「わたるさんは、気にならないの?」


「そう言われましても。のぞみさんが言ったことは、わたし

には初めてのことばかりです。食事も、お茶も、トイレも、

何もかも」


「知らないから、どれも気にしたことはなかったですね」


のぞみさんは、しばらく無言でわたしの顔を見ていた。

そうして、わたしに小声で確かめた。


「……もしかして、ここは……あの世?」


「それは違います」


「どうして断言できるの?」


「ボスに、必ずそう答えるように言われてるから」


「ううむむ」


のぞみさんは、頭を抱え込んでしまった。


「じゃあ真実を知るには、そのボスと話をしないといけない

わけね」


「それは無理だと思います」


「どうして?」


「ボスにはわたしからしか連絡は取れないし、ボスがわたし

の疑問に全て答えてくれるわけではないので」


「そうなんだ」


あからさまに落胆のポーズが出る。


「わたしは……これからどうすればいいんだろ」


「さあ。それは、わたしには分かりません」


「でも、もし川が渡りたくなったら、いつでもそう言ってく

ださい。わたしの出来ることはそれしかないので」


わたしの返答には何も答えず、のぞみさんは立ち上がって土

手を川上の方に走っていった。


それからしばらく。

のぞみさんは奇妙な行動をし続けた。


川岸から川の中に入ろうとしたり、土手道でわざと派手に転

んだり、落ちていた石で自分の頭を叩いてみたり。


それから、首をふるふる横に振りながら戻って来て、わたし

の隣にしゃがみ込んだ。


憮然としている。


「現実感が、ない」


「五感が、全部外から与えられてる」


「だから、何か食べてもおいしいという実感が湧かないし、

お茶の味も、熱さも分からない」


「転んでも叩かれても、痛さは調整されちゃってるし、水を

触っても濡れない。そういう感覚がない」


「しかも、川に入ろうとすると押し戻されてしまう。禁止さ

れてるように」


「わたしはここに居るっていうだけで、その意味がなにもな

いってことみたい」


「そうなんですか?」


「人ごとみたいに言わないでよ!」


「だって、わたしにはそれしか言いようがないですから」


のぞみさんは俯いてしまった。


しばらくして、のぞみさんは眉間に深い皺を寄せて、わたし

をきっと睨んだ。


追求の矛先がわたしに向く。


「わたるさんは、本当は全部真実を知ってるんじゃないの?

それをわたしに隠してない?!」


それを言われても困る。

本当に困る。


「わたしは渡し守です。その仕事以外のことについては何も

知りませんし、興味もありません」


「じゃあ、なぜ最初にわたしにつき合ってくれたの?」


「さあ。どうしてでしょうね?」


わたしにも、その理由はよく分からなかった。

でも。


「たぶんのぞみさんが、これまでわたしが対岸に渡した人た

ちとは違ったアクションを、わたしに起こしたからだと思い

ます」


「それって、なに?」


「これまでわたしは、千人以上の人を対岸に運んできました

が、誰一人としてわたし自身に興味を示した人はいませんで

した」


「まるでみんな最初から、わたしが誰なのかをよく知ってい

たかのようです」


「それに、どなたもここに来られたことに疑問を持っていま

せんでした。ここがどこかを問う人もいませんでした」


「わたしにそういうことを聞いたのは、のぞみさんが初めて

だったんですよ」


「他の人たちは何も言わなかったの?」


「そうですね……」


「みなさんはひたすら向こう岸を見つめて、向こうには何が

あるのかって聞かれます」


「わたるさんは、それにどう答えるの?」


「わたしは向こう岸に下りたことはないので、分からない。

それは事実ですし、ボスにもそう答えるように言われている

ので」


「そうか……」


のぞみさんは寂しそうに目を伏せると、ぽつりと言った。


「ごめん……。ちょっと独りにしてくれる?」


「じゃあ、わたしは舟の方にいます。用があったら声をかけ

てください」


わたしは立ち上がって、静かに土手を下りた。

舳先を飛び越して、舟に乗る。


舟はびっくりしたように一瞬大きく揺れたが、わたしが腰を

下ろすと、何事もなかったかのように静止した。


川面には、先ほどの舟の動きが大きな波紋として刻まれた。

でもそれは、まるで溶けるように流れの中に飲み込まれ、

ゆっくりと消えていく。


舟はわずかな水の動きに促されて、ゆらゆらと揺れる。

わたしは舟縁に寄りかかって、対岸をじっと見つめていた。




(4)


舟に揺られてぼんやりしていたら、突然土手の上にいたのぞ

みさんに声を掛けられた。


「わたるさん、ちょっといい?」


「なんですか?」


わたしは起き上がって、舟からひょいと岸に下りると、土手

を上がった。


「あのね。ちょっと教えて欲しいことがあるの」


「なんでしょう?」


「あなたがこれまで向こう岸に運んだ人たちの、正確な人数

が知りたい」


わたしは携帯を取り出す。


カウンターモードにして、これまでの累計を出す。


「ええと、1204人ですね。あなたが1205番目」


「そっか……」


「何か思い出したんですか?」


「うん……。思い出したというのは、ちょっと正確じゃない

けどね」


「それよりも、分かっちゃったって言った方が近いかもしれ

ない」


「どういうことですか?」


のぞみさんは、川向こうに顔を向けたまま呟いた。


「わたしは、わたしであって、わたしでない」


「は?」


うーむ、難解。


「わたるさんはわたしと違って、何かを詮索することはない

のよね。事情を説明するから、ちょっと待っててくれる?

わたしの心の整理ができるまで」


「それは一向に構いませんが」


のぞみさんは寂しそうな笑いを浮かべて、それからわたしに

背を向けた。


そうして、わたしも、のぞみさんも、この場所も、何の変化

のないまま、数日がゆっくり過ぎていった。


のぞみさんは、もう自分が飲み食いしないことを気にするこ

とはなかったし、夜が来ないことも、自分が水に濡れないこ

とも疑問視しなくなっていた。


土手に座ったまま、膝を抱え、俯いて、ただひたすら何事か

を考え続けているようだった。


わたしは相変わらず、土手の上か舟の中からぼんやりと対岸

を見続けていた。


これまでと、全く同じように。



           −=*=−



どのくらい時間が経ったのか分からない。

土手の上で対岸をぼんやり見ていたわたしは、いきなり視界

を失った。


えっ?!


はっと気付くと、背後から手で両目を塞がれていた。


「だーれだ」


「って言っても、のぞみさんしかいないじゃないですか」


「ちぇっ、つまんないのー」


頬をぷーっと膨らませたのぞみさんが、渋々両手を離す。


「少しは夜の感覚が分かった?」


「え、真っ暗で何も見えないのが夜なんですか?」


「ここだと他に灯りが何もないから、月や星がなければ今み

たいな感じだと思うよ」


うーん、夜っていうのは、あんまり気持ちのいいもんじゃな

いんだな。


わたしがちょっと顔をしかめていたのが面白かったのか、の

ぞみさんがわたしの背後から覆い被さってきた。


のしっ。


「うー、重いですー。のぞみさん」


「人を乗せて舟を操る船頭さんなら、力持ちでしょ? 文句

言わないの」


「はいはい」


「はい、は一回!」


相変わらず手厳しい。


のぞみさんはわたしの首に手を回して、耳元で囁いた。


「ねえ、わたしってあったかい?」


「うーん、どうなんでしょう。わたしには暑い、寒いって概

念がないみたいで。お茶を飲んだ時もそうだったんですけど」


「うー」


「でも、あったかいって感じはします」


「感じ?」


「そう、感じ」


「そっか」


のぞみさんは、まあ仕方ないなという風にゆっくりと背中か

ら離れ、わたしの横に腰を下ろした。


「ねえ、わたるさんは、生きるってどういうことだと思う?

わたしは生きてると思う?」


「うーん、わたしはその問いには答えかねます」


「どして?」


「そりゃそうですよ。わたしは、自分自身が何者か分からな

いんですから。生きているのかどうかも同じことです」


「わたしが知っているのは、ごく限られたことです」


「わたしは、渡し守の仕事をしている」


「わたしには、それ以外にすることがない」


「ここには、わたししかいない」


「わたしは、ボスの指示を逸脱できない」


「それだけです」


のぞみさんは、じっとわたしを見つめている。


「わたしは、わたるさんをずーっと前から知っている。いや、

知っていないとおかしい」


「でも、わたるさんはわたしを知らないし、知らないのが当

たり前」


「わたるさんは、自分がどういう顔をしているのか知ってま

す?」


「いや、知らないです。興味もなかったし」


「そうよね。今度水面に映ったのを見てください。その顔は

ね、わたしの好きな人の顔なの」


「?」


のぞみさんは投げ出した足を両手で抱えると、そこに顔を付

けた。


「あーあ、悲しくて、情けなくて、涙が出そう。でも、ここ

じゃ泣けないのよね」


わたしは右手をぽんとのぞみさんの頭に乗せて、なでなでを

した。


「わたるさん、それはボスに頼まれたこと?」


「いいえ、わたしがそうしたいからですが、何か不都合があ

りますか?」


のぞみさんはわたしの顔をしばらく見つめていたけれど、辛

そうに顔を伏せた。


「そうか……」


「わたしは、こんな風に感じるなんて、考えてもみなかった

から……」


「みんなに、すごく残酷なことをしたのかもしれない」


それっきり。項垂れたまま。

のぞみさんはまるで何かで固められたかのように、ぴたりと

動かなくなってしまった。


川は流れる。

静かに。何も変わらずに。


わたしは川を。

そして、その対岸の花畑をじっと見やる。




(5)


どのくらい、そうやってぼんやりしていたのか分からない。


尻ポケットに入れておいた携帯が鳴って、我に返った。

お母さんからメールが入っている。


『時間がなくなってきました。渡しの準備をお願いします』


そうか。

今まで、渡しの前にこんなに時間を食ったことはなかったか

らな。催促されるのは初めてだ。


わたしはゆっくり立ち上がって、のぞみさんの方に近付く。


「のぞみさん、ボスから伝言です。そろそろ時間切れのよう

です。舟に乗ってください」


のぞみさんは顔を上げて、わたしを見る。


深い影。

底知れぬ絶望。

これまでにたくさん見て来た諦めの表情。


それが全部混じり合っている。


のぞみさんは、これまで舟に乗った誰よりも悲しそうな顔を

して、わたしの前で首を横に振った。


「わたしは……渡し舟には乗らない。それがわたしの償いだ

から。この舟に乗ったみんなに絶望しか残せなかった、わた

しの償いだから」


そう言って。

のぞみさんは、わたしに横に座るように促した。


「わたるさん」


「これからわたしは、長い長い話をします。わたしという存

在がなぜ居るのか。その訳を」


「それは、あなたに話したところで意味がないかも知れない

けど、わたしは誰かに話をしておきたい」


「それを。あなたが覚えていてくれても、忘れてくれても構

わない」


「あなたが何者であっても、わたしにはあなたが居ることが

掛け替えのない救いなの。わたしがこうしてわたしの言葉を

紡いで、誰かに伝えられること」


「あなたにそれを聞いてもらえる幸運に、深く感謝したい」


のぞみさんは対岸に目を向けて、静かに語り始めた。



           −=*=−



わたしの本名は、神納かのうしずか。

サイバネティクスが専門の研究者。


わたしはね、本当はこんな少女じゃないんです。

もし生きていたとしたら、とんでもない年齢のお婆さんのは

ずです。


でも、現実のわたしは最初からここにはいない。


そう、もともとわたしには実体がないの。

今のこの姿は、わたしの仮の姿に過ぎません。

スクリーンに映し出された映像みたいなもの。


だから、現実感がないのは当たり前だよね。

今わたしがいるのは、夢の中だもの。


でも、この夢は普通の夢とは違う。

この夢は、巧妙に作られた、仕組まれた夢。


死を目前にした時、その恐怖からみんなを解放するために、

睡眠中に幸福のイメージを脳に投影させるプログラム。


コールドスリープのトラブルがあった時、それを安楽死でカ

バーする際に稼働する、わたしが開発したプログラム。


なぜ、こんなものが必要だったのか。


人類は地球を食い潰す寸前に、新天地を求めて開拓者をあち

こちにばらまくことにしました。


でも、人類はまだ、太陽系から出て新天地を探すほどの科学

力を持ち得ていなかった。


だから、自動操舵の宇宙船にコールドスリープ状態にした人

間を乗せて、誰かが運良く新天地に辿り着くことを祈って、

たくさん送り出した。


ノアの方舟をたくさん作ったみたいなものね。


でも、それはあまりにも確率の低い賭け。


風に吹き散らかされたタンポポの種の、ほんの一部しか芽を

出して命を繋げないように、この粗末な方舟のほとんどは失

敗に終わるだろう。


それはもう、最初から分かっていたことです。


でも、方舟に乗る人たちには、それを正確には知らされてま

せん。目が覚めた時には新天地にいる、それだけを伝えられ

て、コールドスリープのカプセルに入っています。


もし、長い航海の途中で何かトラブルがあって目が覚めてし

まったら、彼らには恐怖と絶望しか残されていません。


船には、乗員の生命を維持するのに充分な水や食料がない。

それは、新天地で調達することを前提としてるから。


もし航行中に覚醒しても、その命を保つのに必要なものがほ

とんど何も積まれてないの。


飢えと渇きに苦しみもだえながら、確実に来る死をただ座し

て待つしかない。


それは……もの凄く残酷です。


だから、わたしはこのプログラムを考えた。


なにかトラブルが生じて、運悪くコールドスリープが解除に

なってしまった時は、その乗員を自動的に眠らせ、夢を見せ

て、そこで幸福体験をさせながら安楽死させる。


それが一番苦しみが少ないと思ったから。

最期に見る夢くらいは幸せであって欲しいと願ったから。

そういうコンセプトで。


でもね。

具体的にプログラムを組む段になって、わたしはすぐ行き詰

まってしまったの。


幸福の形っていうのは、一つじゃないよね。

幸福であるということを全員が体感できる形を、わたしはど

うしても思いつかなかった。


だから、わたしはそこを手抜きしてしまった。


臨死の時に、花園を見るっていうのは昔からよく言われてい

ること。川を渡るっていうのも、そう。


少なくとも。

そういう状況に自分が居れば、自分が死に向かっているとい

う覚悟はしてもらえるんじゃないか。


わたしはそう考えたの。


大きな川と対岸に見える花園。川を渡るための舟と渡し守。

できるだけ装飾を省いて、単純なイメージにして、それをプ

ログラムした。


それが、ここなの。


そう、わたしの目論みは、最初から失敗しちゃってるのよ。


だって、死を覚悟するのは幸福なんかじゃないもの。

その状況に置かれた人たちは、自分が捨て駒になったことに

嫌でも向き合わなきゃならない。


人生の最後の最後に、そういう現実を突きつけられるなんて。

とんでもなく辛いこと。悲しいこと。


だから、わたしは……。

この出来損ないのプログラムが動かずに終わる事を、心から

祈っていた。


わたしたちというタネがどこかに漂着して芽を出す事を、切

に願っていた。


でも、それはあまりにも儚い望み。


航行中にどこかで補充できるはずだったエネルギーは、結局

どこからも得られなかった。


長い漂流の間に、コールドスリープを維持するエネルギーが

ほとんど底をついて来た。


誰かを切り捨てないと、全員共倒れになってしまう。


どうしよう……。


もしわたしが感情がない冷徹なコンピュータなら、繁殖力の

強い人たちを優先的に残して、機械的に乗員を切り捨てて

いったでしょう。


でも、どういう順序で乗員を減らしていっても、せいぜい数

年延命するのが関の山。その間に、残された乗員が新天地に

辿り着ける可能性は限りなくゼロに近い。


人間はね。

結局、孤独を征服する事が出来なかった。


誰かにアダムとイブの役割を負わせても、たぶんそれを受け

入れることが出来る人はいない。


だからこそわたしたちは、こんなにたくさんの人たちを方舟

に乗せたのだから。


わたしは……。


わたしは、どうしても動かしたくなかったプログラムを、全

員に稼働させることにしました。



           −=*=−



わたしはね。

わたし本人はね、この舟には乗れなかったんです。


わたしはもう老人だったし、他の方舟の準備もしなければな

らなかったから。でも、このプログラムの設計者として、ど

うしても発動の決断は機械にさせたくなかった。


コンピュータが計算した生存率とエネルギー消費の結果で命

が振り回される。


そんな無慈悲なやり方でプログラムが動かされるのには、耐

えられなかった。


それで……。


わたしは自分のコピーを作って、方舟に載せることにしまし

た。クローンのように肉体を持ったものじゃなくて、わたし

の思想、感情、判断を正確に再現できる人工知能として。


そう。だから希乃望もプログラムなの。


船の制御用のメインコンピュータのような優秀なものじゃな

くって、出来損ないで、意気地なしで、すぐにすねる。

でも、わたしに一番近い感情を持ったプログラム。


もしメインコーピュータから生命維持の危機を知らせる警報

が出たら、安楽死プログラムとともにわたしも目覚める。

そして、わたしがそれをどう動かすか判断する。


そこだけはメインコーピュータの制御を受けない。

そういう風に設計したんです。


もちろん、わたしのやり方とは違うプログラムやプロトコル

もあります。そういう船は、また別の道を歩むのでしょう。

わたしはそれに意見できる立場にはない。



           −=*=−



わたしは。

希乃望は、これまでずっと眠ったままでした。


わたしが目覚めるということは、この安楽死のプログラムを

動かす必要があるってことだから。


目が覚めたらすぐに危機を知らされて、さっき言ったように

全員の運命を決めました。そして、あなたにたくさん川を渡

してもらってきたの。


あなたにさっき確認した乗客の数。

1204人。

それがこの船の全乗員の数です。


あなたは全員を対岸に運んだ。

全員、静かにその人生を終えました。


だから、もうこの船には誰も残っていません。

船室は切り離してしまったの。

1204個の棺とともに。


そして……。


わたしは課せられた務めを果たしたから、そのあと消えるは

ずだった。わたしのプログラムは、船室を切り離したところ

でとっくに停止しているはずなの。


なのに……。


わたしはなぜかここにいるの。

自分の作ったプログラムの夢の中に、ね。


わたしは、自分の役目が終わっても残ってしまった。

だから自分が何者か、何をすべきなのか、もう分からなく

なった。


ただ、わたしには設計者の日常もコピーされている。

飲んだり、食べたり、話したり、笑ったり、怒ったり。

人間なら誰もが毎日必ず繰り返す日常が、そのまんま。


それが最初に無意識に出たの。


消えるはずの存在が残ってるっていうのは、わたしだけでな

くて、あなたもそうなのよ。


あなたは1204人の人を運んだところで、この仕事から解

放されるはずだった。


もう、渡すはずの人はいない。

1205番目は最初からなかったの。


花園も、川も、舟も、そしてあなたも。

役割を終えて、静かに消えるはずだった。


でも、わたしも、あなたも。

間違いなくここにいる。

消えずにここにいる。


これは……。

どういうことなんでしょう?


分からない。

わたしには、分からない。


だけど、少なくともわたしはここにいてはいけないはず。

みんなに悲しい最期を押し付けてしまった責任は、取らなけ

ればならないのだから。



           −=*=−



のぞみさんは、膝を抱えて顔を伏せると、じっと黙ってし

まった。




(6)


のぞみさんの説明を聞いて、わたしはやっと自分の置かれた

状況を少し理解することができた。


なるほど。

わたしが存在し続けてるっていうのも、今はとても奇妙なわ

けね。


うん、それじゃあ……。


「のぞみさん、わたしはとても不思議な気持ちです」


「え?」


のぞみさんが、顔を上げてわたしを見た。


「だってね。神納さんがこのプログラムを作るにあたって、

わたしに感情を与える必要は、どこにもなかったはず」


「死に臨む人の心に余計な波風を立てないように、わたしは

機械のようにただ淡々とそれらの人の手を引いて、川を渡せ

ば良かった」


「でもね、少なくともわたしはここでは『生きて』いる。単

なる機械ではなくて、意志を持った渡し守として」


「のぞみさんほどのはっきりした喜怒哀楽は持っていなくて

も、退屈だとか、暇を持て余すって感覚は持ってる」


「のぞみさんが来てからは、のぞみさんの行動や言動を面白

いと感じるし、のぞみさんが教えてくれた感覚がどんなもの

かを想像してる」


「わたしが単なるプログラムだったとしたら、そうはならな

いでしょ?」


「……そうだね」


わたしは一度立ち上がって、大きく手を振り上げて、伸びを

した。


「ふーう」


今までは全く風がなかったのに、微風が吹いている。

川上から来る風が、水面にさざ波を立て始めた。

薄曇りの空も、徐々に濃淡が強くなっている。


わたしは、それをゆっくりと見回す。


「ほら」


「ここも変わってきました」


「これはね、変わったんじゃない。わたしたちが変えたんで

すよ」


「どういうこと?」


「のぞみさん、まだ気がつきませんか?」


「え? え?」


「のぞみさんが最初にここに来た時に、お弁当を食べたり、

お茶を飲んだりしましたよね」


「そうだったね」


「あれは、プログラムには必要のないこと。死を目前にした

人に現実に引き戻す要素を与えるのは、酷ですから」


「じゃあ、なぜのぞみさんにはそれが出来たのか」


「……」


「それは。のぞみさんがこの世界を創ったから」


「ここは神納さんがプログラムされた夢。でも、もうその夢

の中身は、プログラムに設定された範囲をとっくに越えてる

んです」


「そう考えると、全部辻褄が合うんですよ」


「でも……」


「わたしは……どうしたらいいんだろう?」


「さあ……それは、わたしには分かりません。ただ、一つだ

け言えることがあります。」


「なに?」


「あなたは、神納しずかではなくて、希乃望です」


「現実の世界では、もうとっくに神納さんは他界されている

でしょう」


「あなたは、神納さんの後悔をもとに、その悔いが繰り返さ

れないよう、罪滅ぼしのために創られた存在」


「完全な神納さんのコピーではなく、絶望の中に一握りでも

希望を見いだせるようにと、神納さんが願いを込めて隠して

おいた宝物」


「そして、神納さんがご自身の幸福の理想像として描いた絵

姿」


「それは、神納さんのちょっとした悪戯心だったのかもしれ

ませんね」


わたしは、もう一度土手に腰を下ろす。


風は先ほどよりさらに強くなって、木々がざわめき始めた。

空にかかっていた雲は、少しずつ吹き払われて、青空が見え

るようになってきた。わたしが初めて見る空の色。


わたしは空を仰ぐ。


「そうか。こういう空は初めて見ました。明るいですね」


「でも、太陽がないわよ?」


「わたしは太陽が何か、知りませんから」


そのあとしばらく、二人で並んでじっと川面を眺めていた。


「ねえ?」


「はい?」


「わたしたちは、いつまでこうしていられるんだろう?」


「さあ」


わたしはゆっくり立ち上がる。


「のぞみさんは、神納さんと同じようなニンゲンとしての感

覚を与えられています。ニンゲンとして生まれ、成長し、恋

をし、年を取り、死ぬ」


「でも、わたしはそのあたりがきちんと設定されていなかっ

た。わたしはあくまでも渡し守。粛々と乗員を黄泉に導くた

めの先導役」


「とんでもない無知でも、顔が無くても、ろくな会話が出来

なくても、何も支障はなかった」


「舟を操って川を渡すことさえできれば、あとはどうでも良

かった」


「ま、すごーく適当にデザインされたんでしょう。一応、人

ひとがたをしてますが、外身も中身も、のっぺらぼう

か、へのへのもへじで良かったんですね」


のぞみさんが、くすくす笑う。


「だから、わたしが自分の顔や姿を知らないのは当然なんで

すよ。もともと、はっきり定義されてないんだから」


「わたしの見た目は、たぶん見る人によって想像で補完され

るようになっていたんだと思います。一番考えられるのは近

しい故人でしょうね。祖父母や両親、親友など」


「だから、わたしにはパーソナリティがなかった」


「のぞみさんが与えてくれた名前と形が、わたしにとって初

めての姿。初めて大川渡という、確固とした存在ができたこ

とになります」


「それに」


「わたしは、ボスの命令には逆らえなかった。それがプログ

ラムですから。だから、ここが神納さんのプログラムの世界

だとすれば、めぐみさんがボスってことになる」


「でも、もうプログラムは停止してる。わたしもめぐみさん

も、すでにプログラムの制御を外れている。」


「わたしたちは何の制約も受けずに、自分がなぜここにいる

のかを考えることが出来る」


「いつまで存在できるかを考える前に、ね。それは苦痛じゃ

なくて、希望でしょう」


「わたしなら。そう考えます」


めぐみさんは、わたしをしばらくじっと見つめていた。

それから、目を対岸に移して花園を見やった。


「わたしたちは……死んでいるの? 生きているの?」


わたしはふっと笑って答える。


「それを考えることに意味がありますか?」


「わたしたちは、ここにいる」


「希乃望と大川渡がここにいる」


「わたしたちは出会った。最初は渡し守とその客として。

その使命を終えた今は、一個と一個の存在同士として、

こうして向き合っている」


「違いますか?」


めぐみさんは、またわたしの顔をじっと見つめた。


「わたしたちは、なに?」


「さあ……」


「神納さんのプログラムの中身だとすれば、夢、ですね。

誰かに見せるための。でも、もうここには誰もいない」


「夢を見せる相手が、ね」


「じゃあ……わたしたちは、なに?」


「わたしには、分かりませんね」


「そか……」


その後、二人して土手に足を投げ出して、ずっと川面を見つ

めていた。




(7)


川面に吹き渡っていた風が、また弱くなった。


青空が覗いて明るかった空は、今度は一転して暗くなって

いった。


雲がかかってきたせいではない。

全天が少しずつ光を失っていく。


辺りがゆっくりと闇に包まれていく。

わたしにとって、初めての夜。


自分が闇に沈んで、それに融けていくのを、とても不思議な

気持ちで味わっていた。


突然、横で大きな声が響いた。


「怖い!」


「え?」


「何も見えない。何も聞こえない。何もない!」


「そうですか?」


のぞみさんが、わたしの胸にしがみついてくる。

わたしは腕をのぞみさんの肩に回す。


「わたるさんは、怖くないの?」


「怖くないですね」


「どうして?」


「わたしには初めての経験ですから。闇も、それに閉ざされ

た世界も」


「あなたは、ニンゲンじゃないものね」


「それは、のぞみさん、あなたもですよ」


「……」


「じゃあ、なぜわたしはこんなに恐ろしいの?」


「そうですね……」


「それは、あなたが神納さんの心を継いだからでしょう」


「心を……継いだ?」


「そう」


「だからこそ、あなたはここにいるし、わたしもこうしてこ

こに在る」


「横になりませんか?」


わたしはのぞみさんを促した。

土手に仰向けになって、漆黒の闇を見上げる。


「わたしはね。さっきめぐみさんの話を聞いている時に、一

つだけすごく強い疑問を持った」


「疑問?」


「そう。疑問です」


「ニンゲンは、肉体も心も弱い存在のはずなのに、どうして

死をこんなに静かに受け入れるのだろうって。みんな、生き

延びるために方舟に乗ったのに」


「いくら神納さんが優秀なプログラムを書いたにしても、死

はその人たちの終わりのはずです。冷静でなんていられるわ

けがない」


「たとえ、それが夢の中であったにせよ、ね。でも、ここに

来た人たちは、みんなすでに死を覚悟していた」


「とっても奇妙です」


「……」


「で、ずっとそのわけを考えていて、わたしやめぐみさんの

ことを振り返った時に、気がついた」


「……?」


「肉体の死と、心の死は違うってことを」


「え?」


「死んだ肉体が蘇生できないことは事実です。だから、みん

なそれを怖れる」


「でも、肉体を失った後、心まで失われてしまうかどうかは

誰にも分からない」


「それは科学が、コンピュータがどんなに発達しても分から

ない」


「もちろん、わたしにも、のぞみさんにも分からない」


「……そうだね」


「ここに来たたくさんの人たちは、向こう岸の世界にそれを

託したんでしょう」


「死によって、わたしたちの全てが失われるわけではない。

わたしたちは、これで終わりではないんだ……って」


「それが……希望でしょう」


「絶対に、否定することも消すこともできない、光」


のぞみさんは、ふっと体を起こした。

闇の中で、その姿は見る事が出来ない。


「そうか。わたしたちは本当は誰かの夢の中に創られた存在

だったはず。でも、夢を見る人が誰もいなくなっても、わた

したちはここに在る。じゃあ、夢を見ているのは……」


「そう、のぞみさん、あなた自身ですよね」


「夢を見せるプログラム自体が見る、夢」


「でも、機械としてのプログラムは、もうすでに止まってる

んです。それはのぞみさん自身がよくご存知のはず」


「だから、それはもう夢じゃない。心でしょう」


「神納さんがそう祈ったように、全ての束縛を離れて、自由

にのびのびと世界を創れる。そういう存在として」


「希望として」


「あなたは、ここに在る」


「じゃあ、あなたはなぜここにいるの?」


「それは、わたしには分かりませんが……」


「役目を終えて消えるはずだったわたしが残っているのは、

のぞみさんがそう願ったからか、わたしが残りたいと思った

からでしょう」


「わたしは、その両方が合わさった結果じゃないかと思いま

すが」


「ふーん……」


その後は。

二人でまた仰向けになって、ずっと黙っていた。


わたしたちは、深いけれど優しい闇の底にいた。

夜を怖がっていたはずののぞみさんは、わたしの右手をおも

ちゃにして、ずっと遊んでいた。




(8)


のぞみさんはいつの間にか、弄んでいたわたしの右手を胸の

ところに抱え込んで、じっとしていた。


わたしは、闇の中でぼんやりと考え込む。


時間……ってなんだろう。

考えてみれば、今までは携帯が示す電光掲示だけが、時間の

流れを表していたな。


何一つ変化がなくて、ひたすらたゆたう川の流れと対岸の花

園を見つめるだけの毎日。


それに疑問を持ったことも、辛いと思ったこともなかった。


待つこと。

そして、来た人を舟に乗せて川を渡すこと。


それだけがわたしに課せられた役割であり、それ以外の意義

は、わたしにはなかった。


だからわたしは、時間を気にしたことは一切なかった。

それが気の遠くなるような時間であろうが、一瞬のことであ

ろうが、気にしたことはなかった。


今。

時がゆらゆらと動いている。

動いて、全てが少しずつ変化していく。


わたしは静かに体を起こす。

のぞみさんはわたしの右手を解放して、同じように体を起こ

した。


闇が少し褪せてくる。

川が闇からゆっくりと剥がれて、視界に浮かんでくる。


わたしは、いつものように水面を見る。


その流れは以前と全く変わらず、滔々として穏やか。

その流れがどこから来るのか、それがどこに辿り着くのか。

今までは、それはわたしにはどうでもいいことだった。


でも。

わたしの仕事は終わったのだ。


のぞみさんに言ったように、わたしは、わたしたちがここに

在る意味を考えることができるんだろう。

それがわたしにとって嬉しいのか、辛いのかは分からない。


でも、ここで待っていることの意味がなくなった以上、わた

しはここにいても退屈で仕方ない。


徐々に明るくなって来た空を見上げて、わたしは一つ深呼吸

した。


その音を聞きつけて、のぞみさんがわたしの方を向いた。


「だいぶ明るくなって来たね」


「そうですね」


「これが、朝、よ」


「そうですか。気持ちいいですね」


「そうね。何かが始まるって感じがするものね」


「……」


「これから、どうするの?」


「のぞみさんは、何かリクエストがありますか?」


「ううん、何もない」


「そうですか……」


わたしは携帯を取り出して、メールをチェックする。


『ご苦労様。わたしはもう眠ります。お休みなさい』


催促があった後、1時間後くらいの着信。

これが、お母さんからの最後のメールだったのだろう。

わたしは携帯を畳んで立ち上がった。


そして、それを向こう岸めがけて思い切り投げた。


ひゅっと空気を切り裂く小さな音がして。

ぽちゃんと微かな水音が響いた。


「今、何を投げたの?」


「ボスと連絡を取るための携帯」


「え? 大丈夫なの?」


「だって、ボスはもういませんから」


のぞみさんは、目を大きく見開いて、わたしの顔を覗き込ん

だ。


「もう、舟は操舵を止めて、コンピュータを完全に止めたは

ずです。舟を動かす意味がなくなりましたから」


「当然、神納さんのプログラムも完全に止まった。携帯に

は、それを知らせるお別れの言葉が入っていました」


「昨日、渡しを急かしたのもそのためでしょう。メインコン

ピュータが止まれば、神納さんのプログラムも同時に停止す

るから」


「ニンゲンで言えば、わたしたちはもう肉体を失って死んだ

はずです」


わたしは、目を細めて対岸を見やった。


風が少し強くなっている。

吹き散らかされた花弁が舞い上がって、水面にひらひらと落

ちている。


「でもね」


「夢は消えてない。いや、もうここは夢の世界じゃない」


「わたしたちは、ここにいる」


「わたしたちの心がここに在るから、ここにいる」


「……」


「そうね」


これまでずっと塞ぎ込んでいたのぞみさんが、立ち上がって

ぐいっと思い切り伸びをした。


「わたるさんは、強いね」


「違いますよ」


「え?」


「わたしは何も知らないのです。自分が何者かすら。だから、

それが知りたい」


「わたしが、なぜ今在るのか。わたしに何ができるのか。そ

して、わたしがのぞみさんと一緒にいるのはなぜか」


ゆっくりとのぞみさんが微笑む。


「そうね。わたしが独りだったら、わたしはカラダだけでな

くて、ココロも死んでいたでしょうね」


「だけど、わたしにはわたるさんがいる」


「現実の神納さんが、望んでも焦がれても、どうしても得ら

れなかった心の拠り所が」


「わたしの隣に在る」


「わたしは、それだけでいい」


「それ以上を望まない」


「だから」


「わたるさんが自分を探そうとするところに、わたしは付い

ていきます」


「その旅を通して、わたしはわたるさんと、わたし自身を理

解すると思う」


「そして、それを幸福だと思うでしょう」


「それが、神納さんがわたしに託した祈り」


「全ての人が幸福であるようにと、その形を探すようにと、

わたしに託した心」


のぞみさんはわたしに歩み寄ると、正面から抱きついた。

暖かい。


「わたるさんが渡し守から解放されたように、わたしももう

贖うことに縛られない」


「わたしは無に戻って、わたしの意味を考えることにしま

す。わたるさんと一緒に」


そう言って、わたしの顔を見上げた。

大きな黒い瞳に、わたしの顔が映っている。


そうか。

わたしは、こういう顔だったわけね。


「ねえ、ちょっと顔を下げて」


なんだろうと思って腰を屈めたら、いきなりのぞみさんがわ

たしの口を唇で塞いだ。

んんー?


「なんのまねですか? それは?」


ぷーっと頬を膨らませたのぞみさんが、渋々解説をする。


「キスよ。人間の愛情表現」


「うーん、わたしはいろいろとのぞみさんに教えてもらうこ

とが多そうですね」


苦笑いしたのぞみさんが、溜息混じりでこぼした。


「ちょー鈍そうだもんなあ、わたるさん」


さてと。


「のぞみさん」


「なに?」


「のぞみさんとここにいる間に、わたしとその周りにはいく

つか変化が訪れました」


「探検をした。お弁当を食べた。お茶を飲んだ。青空が見え

た。風が吹いた。夜が来て、朝が来た」


「それは、のぞみさんがもたらした変化。わたしの望んだ変

化。だから」


「わたしは向こう岸に行こうと思います。ここにいても、も

う何も変わらないでしょう。つまらない」


「向こう岸がどんな世界であっても、たとえそれが終末だっ

たとしても、わたしは変化を探したい」


「わたしは、川を渡って舟を捨てます。もう渡し守でいる必

要はないんだから」


「のぞみさん、付いて来てくれますか?」


のぞみさんは、最初に会った時みたいに、いっぱいの笑顔を

見せて頷いた。


空を覆っていた薄雲はぬぐわれたように消え去って、青空に

いくつか白い綿雲が浮かんでいる。


わたしは舟にのぞみさんを乗せて、もやい綱を解く。

竿で川床を突いて舟を出す。


わたしの、渡し守としての最後の仕事だ。


舟は、滑るように水面を進んでいく。


わたしは、初めて川面を渡る暖かい風を頬に感じた。

水面には青空が映り、散った光がわたしの目を射る。


竿を動かすたびに、水の匂いがする。


ぱしゃっ、ぱしゃっ。

竿が水を掻く音が軽快に響く。


舟から身を乗り出したのぞみさんが、川の水を手に取ってい

る。


「不思議ね。今度はちゃんと手も袖も濡れる。冷たいの。

この水、飲めるのかなあ」


「お腹壊しますよ?」


のぞみさんが、くすりと笑った。


どこか。

それがどこからかは分からないけれど。

遠く遠くから、鳥のさえずりが耳に飛び込んで来た。


ふと足元を見ると、川面に小さな虫が浮かんで、跳ね回って

いる。


そうか。

これが、わたしの望み。

命に焦がれたわたしの望んだこと。


命。

わたしがそれを手に入れることが出来るのか、出来たのか、

それは分からない。


でも、わたしはそれを確かめようと思う。


自分にとって命とは、幸福とはなにか、それを知るために。

のぞみさんと一緒に歩いていこうと思う。

どこまでも。


対岸には、まばゆいほどの花園が広がっていた。

蜜を集める蜂の甲高い羽音が、時々響いてくる。


舟着き場に舟を寄せて、真っ先に自分が下りる。

今まで、一度も下りることを許されなかった対岸に。

そして、のぞみさんを抱き上げて舟から下ろす。


わたしは、竿を静かに川に流した。


それから。

舟のもやい綱を緩めて、舳先を川に向かって押す。


舟はゆっくりと横向きになり、流れを下っていった。

わたしとのぞみさんは、それが見えなくなるまで、川縁に並

んで佇んでいた。


「さあ、行きましょうか」


わたしがのぞみさんを促すと、のぞみさんは恥ずかしそうに

手を差し出して来た。


わたしは、自然に笑顔になった。

そうして、その手を握って。


花園に足を踏み入れた。



− 了 −


渡し守をお読みいただき、ありがとうございます。


私は、どうもエスエフが苦手です。それじゃあ、苦手な人間

がそれっぽいものを書いてみたらどんな風になるかなあと、

ちょっと背伸びしてみました。


レバにら炒めが嫌いな人が、あえて自分で作ってみたって感

じでしょうか?


え? 違うだろうって?

まあまあ。


もちろん、何もないところから鳩は出せませんので、いくつ

か空想のネタを拾って、そこから話を膨らませてます。


三題噺の材料は以下の通りです。


光景はマクソフォーネのカバー画像。

状況設定は、クリス・デ・バーのトランスミッション・エン

ズとプロパガンダのドリーム・ウィズイン・ア・ドリーム。


そう、例によって全部、音です。まあ、ソースで年がバレま

すね。


はは。


何かを明示して終わるすっきりした話ではないので、あとは

あなたの想像にお任せします。


え? 無責任じゃないかって?


創造主はあなたです。

そんなことを気にしてはいけませんよ。


ね?


私も所詮、誰かの……夢なのですから。



水丸 岳 拝



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