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緋色の巫女と竜王の使い  作者: 桜椛
第一章   
10/13

9話 目が覚めると


 身体全身が針に刺されたように痛い。冷えきっているしろくに動かすことも出来ない。

 頭も重い……ぼーっとする……

 徐々に目を開けていくと無機質な灰色の壁が見えた。

 石……? 駄目……頭がよく回らない。

 頬に伝わるこの冷えた感触、どうやら私は横になっているようね。

 ゆっくりと手で支えて体を起こそうとした私は違和感に気付く。

 ガチャンガチャンと鉄を無造作に叩いた音がする。どうやら腕と足の自由が利かない。

 次第に意識が覚醒し視界も焦点が合い始めた頃、両手と両足に繋がれたソレを認識してまた頭に疑問符を浮かべる。


 え? なに、なにこれ? 私? しば、縛られてる?? てかなに全身力が入らない、めちゃくちゃしんどいんですけど??


 痛む体を抑える事も出来ず、蹲る事も出来ず、手足に嫌にくっついている枷を恨む。しかもそこから鎖が出ていてご丁寧に床へ繋がっていた。

 

 天井は石、壁も石で窓は無い。床には鎖で繋がれそして正面には…………鉄格子。



………………………………………………。


………………………………………。


……………………。


……。




「もしかして私、囚われてるぅ~~~~~~っ!?!?」





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「親父ぃっーーーーーー!!」



 まるでやまびこのように反響するほど大きな声で入ってきた男はズカズカと大股歩きで部屋を縦断する。

 カツカツとブーツを鳴らし、その顔には自信を湛えて、真っ赤なマントを翻しながら立ち止まる。



「おーー! 兄上もいたか! 聞いてくれよ聞いてくれよー! さっき兵士から報告があった通りだ! 真っ赤な髪! ありゃ間違いねえ巫女だよ!」



 珍しい虫を捕まえて自慢する子供のようにはしゃぎながら手を叩いている。兄上と呼ばれた男は一瞥だけくれると短く息を吐いた。


 入口から続く長い絨毯、大理石の床は照明を反射し天井を映している。その天井は家屋を縦に積んだ程度の高さがあり絵画が描かれている。その部屋の最奥、シャンデリアの下に鎮座する圧倒的な存在感を放つ、玉座。そこには確かな威厳を湛えた真っ白い髭をいじる老人が座っていた。



「モルドレッド王子、聊か騒がしいですぞ」



 玉座の脇、部屋を左右に分かつように人が並んでいる。その中の一人、足元まで隠れそうな長いマントを纏い、しゃがれた声でそう発言した老人がいた。同じように顔を顰める者、笑うような顔、そして我関せずで無表情を貫く者など様々だ。



「ジェフリー宰相さんよぉ、いいじゃねえか、親子なんだぜ、かたっ苦しいのは性に合わねえ!」


「野蛮人め……」


「なんか言ったかぁっ! あぁっ?」


「よさんか!! 宰相殿も発言には気をつけ給え。わしの息子であることを忘れるでないぞ」



 今にも食って掛かりそうな勢いのモルドレッドを制止したのは玉座に座る者……このアイテール王国の王そのものだった。王に叱責されてはジェフリー宰相もただ頭を下げる他無い。

 王は一度咳払いをすると、発言を促すようにモルドレッドへ視線をやった。モルドレッドは顔でジェフリーに中指を立てると、背筋を一度伸ばし気を取り直した。



「真っ赤な髪に真っ赤な目、田舎モンでもあんな格好はわざわざしねぇ、力は正直何も感じなかったが、隠しているだけかもしれねえ。とりあえずとっ捕まえたから地下の牢屋にぶち込んでるぜ」



 その発言に場がざわめき出す。



「巫女、本当にいたのか」

「遂に悲願が」

「これで帝国も恐れるに足らず!」



 明らかに浮足だっている。いや、それくらいこの報告が重要な意味を持っているに他ならなかった。



「静かに!! まだそうと決まったわけではない!!」



 空気も震えるような声で一瞬にして場を収めたのはモルドレッドが兄上と慕っているアグラヴェイン第二王子だ。

 アイテール王国騎士団団長でもある彼は、艶やかな紫の鎧に身を固めていた。粗野なモルドレッドとは対照に威厳ある、覇気ある存在感を放っていた。



「今日はこのまま投獄して放っておきましょう。衰弱疲弊した明日、父上の元へお連れ致します」


「なるほど、それなら力を隠していても抵抗出来ねえ!したところで俺らに敵わねえ! さっすが兄上だなぁっ!!!!」



 耳元で五月蠅い。すまん兄上! という会話の中、王は髭をさすりながらその口元の笑みを隠せていなかった。



「すぐそこにいるやもしれぬというもどかしさはあるが、だが我が手中に納まったともなれば焦る必要もなし。ふ、ふははっははは! 明日、明日で我が国、いや、世界が変わる!! 笑え!!!!さぁ!!」



 とても愉快そうに笑い始めた王に続くように、宰相達も大声で笑った。モルドレッドもそれにつられて大きな口をあけて笑う。



「笑え、笑えーーーーー!!!!!!!」


「あ、あはーははーあ、はっはー」



 笑い顔が似合わない男アグラヴェイン、同調圧力を感じ仕方なく笑おうとした。

それから暫く、不気味とも捉えられない笑い声が木霊するのであった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 紙袋にたくさん入った食材を両手に抱え、ビリーは王都を隈なく歩いていた。

 日も暮れ始め、そろそろ帰らなければ、夜道は何かと危険なのだが……………



「アリサがいない……っ!」



 第4中央広場で買い物してた時には一緒にいた。そこから気づいたら居なくなってた。その辺りを重点的に路地裏なども探したのだが、気配や痕跡は一切ない。



「たく、いい年して迷子になるなよなーー! どこいるんだよ馬鹿お嬢様ーーー!!」



 はぁ、はぁと肩で息をする。悪態でもつけばやかましく突っ込んでくるかと思ったがやはりそう簡単にはいかないようだ。ビリーはどうしたものかと悩みながら、歩き疲れた身体を少しでも休めようとベンチへ腰かけた。

 と、そこで隣へ目をやると、同じようにベンチに腰掛けて、アイスをちろちろなめている三人の兵士の姿があった。



「けっ、俺らの税金で、良いご身分だな……」



 ビリーは疲れもあり、腹いせから買ったリンゴを丸かじりした。



「いやぁ~~~~にしてもまさか巫女が本当にいるなんてよぉ~~俺達こんな街中の警備じゃなくて、宮廷兵士! とかなれるかもな!! がっははは~~!!」


「バカ面が、バカ声でバカな事言ってらぁ」



 むしゃり、むしゃりと齧る。甘い汁が疲れたビリーの喉を潤していく。



「でもあの子、どうなるんですかねぇ? 王様達に孕まされて、緋色の巫女軍団! とか作らされるんですかねぇ」

「御伽噺が現実にいたんだ、そらそういうことになるだろうなぁ」

「あれ……? でもそうなったら俺達宮廷兵士どころか……お役御免?」

「……………い、いやいや………いやいやいやいやいやいやいや」



 何を訳の分からない事を、とまた齧りつこうとしたその時、手が止まった。



(待て今なんて言った……? 緋色の、巫女?)



 気付けばビリーは走り出していた。食べかけのリンゴが落ちるのも気にせず、その兵士の肩を思い切り掴んだ。



「今の話本当か!! その女、今どこにいる!!!!」



 突然現れた子供に肩を掴まれた兵士は、ばつの悪そうな顔をしてその手を引き剥がした。



「何のことかなぁ? ほら、子供はそろそろお家に帰りなさい」



 嘘くさい笑顔を浮かべた兵士は、ビリーの興奮を収めようと穏やかに接する。だがビリーはそんな事で引き下がる子ではない。大人の嘘ついた顔なんかすぐ見抜けてしまう。



「ガキ扱いすんなー! 巫女だよ! 緋色の巫女つったろ!! どこいるのか吐きやがれ~~!」



 緋色の巫女、その単語を大声で叫ばれた兵士達は明らかに焦りを見せてビリーを黙らせようとする。



「ひ、緋色の巫女ねぇ~! 御伽噺が聞きたいのかい? そらお前ら、即興演劇、緋色の巫女物語を聞かせてやろうじゃぁねえのお~~!」



 街の人の視線が集まる。ビリーは察する、このまま話していてもはぐらかされるだけだ。大人はこういうところが汚い、と。そしてきっとその巫女とはアリサに違いないとも。緋色の巫女と外見の特徴は一致する。間違えて連れ去られてるかもしれない、そう思ったビリーはこの場に留まっていたら面倒になるだけだと走り去る。



(どうしようどうしよう……! 絶対アリサだよ……つ、捕まっ……城に行ったって今のを見ればわかる相手なんかしてくれやしねえ……もう暗くなるし帰らないと……! あぁあもう!!)



 ビリーは頭を掻きむしりながら城を背に走り出した。大人びた考えを持っているからこそわかっていたのだ、子供一人で出来ることは少ないということを。そして何より母親を心配させないために、今は一旦家に帰る選択をした。


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