干支達の夢 その八 【饒舌な羊達】
干支に関するショートショートです。今回は羊編。おとなしい動物の代名詞でもある羊。そんな彼らもいつまでも沈黙を保っているとは限りません。量はほぼ葉書一枚分。一分間だけ時間をくださいませ。
奇跡は、いつも突然にやってきます。気紛れな風に飛ばされた木
の葉もやがては何処かに舞い落ちるように、この海沿いの小さな町
にもソレはやって来ました。
きっかけは、あるお年寄りがひき逃げされた事件でした。いわゆ
る暴走族にやられたのです。
以前から彼らは週末になると無法者気取りで暴れ回るので町の人
達は困っていましたが、この町の住人は殆んどがお年寄りと子供達
でしたので、我慢するしかなかったのです。警察は建前だけで本当
味方にはなってくれません。我慢だけが残された道でした。無力な
ものはいつの時代でも虐げられるのが常なのです。
住人達はいつしか諦めにも似た無力感を当たり前のものとしてい
ったのでした。
族は自分達が捕まらないのに味を占め、益々やりたい放題を繰り
返します。
しかし! このひき逃げ事件で遂に住人達の堪忍袋の緒が切れま
した。ひき逃げされたのが、族相手に辛抱強く忠告を与えていた人
格者だったからです。無法者とは、文字通り法を守らないヤカラだ。
法を守らない者は法によって守られるものではない。だから無法者
には無法者に対する方法がある! これが町の人達の結論でした。
そして、ある週末。遂にコトが起こります。
町の道路のカーブというカーブには砂が撒かれ、住人達は家にあ
る金属バットやゲートボールのスティックを手に、族が通るのを息
を潜めて待っていました。
族が現れてからの一時間はまるでゲームのようでした。面白い程
に族はコーナーでコケ、そこを皆で袋叩きです。無力なお年寄りや
子供でも数が多いと、物凄い力が生まれるものなのですね。
ほぼ30台のバイクと族が一夜にして地上から姿を消したのです。
お前ら、そんなコトをして只で済むと思うのか! と、喚く族や泣い
て許しを乞う族も居ましたが、無法者には情けや法は味方にはなり
ませんでした。
代わりに住人達は、重い十字架を背負うことにはなるのですが。
こうしてこの海沿いの小さな町では、週末も静かで安全な夜が戻
って来たのです。
奇跡はこうして起きましたが、ここで教訓。羊達もいつまでも沈
黙しているとは限りません。自己主張し始めた羊は、奇跡を常套に
変える者と成り得るのです。
さて、例の、あの北の国の羊達は、いつ奇跡を起こせるのでしょ
うか?世界中の羊達に幸いあれと祈るばかりです。
政治的思想とは関係ありません。念の為w