表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パニックラプソディ  作者: 葉月迷迷
10/13

田村君子の絶叫

その後田村君子はビール瓶をラッパ飲みしたかと思うと「ぶうううううううっ!」と周囲に吐き出した。

 ハアハアと荒く呼吸をする田村君子は会場からもはっきりわかるくらい挑戦的に伊集院を睨みつけてこう言った。

「ひどくない?ひどくない?みなさあああああん!全部全部全部ぜえええええんぶ伊集院翼さんの書いたデタラメの文章です!ワタクシと良太さんはたしかに暴力団に二百万円を払うよう言われ、途方にくれていました。そしてそこに伊集院さんが現れて二百万円を工面してくれたことは間違いありません!でも!でも!でも!その後…!」

「バカ!やめろおお!」

 良太は思わず大声で田村君子を怒鳴った。

 田村君子はガードマン二人に押さえつけられ会場を後にした。

 会場はしばらくざわついていたが、やがて伊集院が言った。

「どうもお騒がせしてすみません。彼女どうやらかなり酒ぐせが悪いみたいですね。高級すぎるワインにのめり込みすぎてどうにかなったみたいです。みなさんも飲みすぎには気をつけましょうね」

 会場にドッと笑い声が溢れた。

 

 会はまだ続いていたが、良太達一同は面会室のような小部屋に通された。

 扉が開けられなくなっているため監禁されているかのようだった。

 伊集院と美奈子は先ほどの騒ぎから十分程で部屋に現れた。

 一同はパイプ椅子に腰掛けている。

 警察の取り調べ室にいるような気分だった。

「やあ、お待たせしたね」

 伊集院は口元は笑っているものの目は殺気立っていた。

 これから何らかのお仕置きをするかのような邪悪な笑みだった。

 田村君子は一言も言わずに下を向いている。

「さあて、田村さん。君は実に面白いことをしてくれたね」

「……」

「あんなことをされたのは初めてだよ」

「……」

「約束を破ったお仕置きとして、例の、二百万円を代わりに支払ってあげる話はなかったことにしよう」

「……」

「なんであんな馬鹿なことを?」

「……」

 すると美奈子が、

「ねーねー、何か言いなよ!き・も・こ」

 ニヤニヤしながら伊集院に便乗して田村君子を追いつめる。

「…く、く…」

「なあに?聞こえないわよ?」

「田村君子さん、せっかく彼氏である良太君が自分のプライドを押し殺して君を守ろうとしたのにそれを台無しにするなんて、全く大人気のない女だよ君は。さあもう一度問う。なんであんな馬鹿な真似をしてくれたんだい?」

 次の瞬間、田村君子は泣きながら大声で喚き散らした。

 それはまるで堤防を破壊する大洪水のように、今まで心の中で思っていたことが一気に吐き出されたような状況だった。

とてつもなく長い長い叫びだった。

「悔しかったからに決まってるでしょおおおおおおお!

人として当たり前じゃないの?

しかも直接関係のない良太さんにまたこんな酷い屈辱を与えて!

わざわざ良太さんの友人まで招待したのはきっと友人の前でも屈辱を味わわせるためだったんでしょうね!

絶対に許せない!訴えたいくらいよ!

たとえ裁判に負けても訴えたい!訴えたい!ああああ訴えたい!

許せない!許せない!

伊集院さん、確かにワタクシが怖いオニーサンたちの車に傷を負わせてしまって、そのお金を工面してくれたことはとてもありがたかったわよ!

でもだからといってそれをネタに次々とワタクシと良太さんに屈辱的な思いをさせて、それを見て笑っていてそんなに楽しいの?

そんなに可笑しいの?どれだけ悪趣味なの?正直言ってキモいです!

人をここまでいたぶってそれを見てあざ笑うなんて、いくらルックスがホスト系でも鳥肌立つどころか水疱瘡レベルの蕁麻疹ができるくらいキモいです!

貴方に比べたらムカデやゲジゲジがまるでひよこのように愛おしく感じるくらいです!伊集院さん、貴方は寂しい人ね!

ワタクシの憶測だけど、きっと貴方はお金が有り余ってしょうがないのでしょう。

だってお父様の名をそのまま受け継いでいればもう後ば家来のような部下たちがみんな勝手に動いでくれるのですからね。

お金がありすぎて働く必要すらも感じなくて将来が安泰すぎることで逆に妙な虚しさに襲われて、とうとう退屈でいてもたってもいられなくなり、暇を持て余して、そのせいでささいなことから庶民いじめが趣味になってしまったのね!

もしかしたら貴方自身庶民がうらやましいんじゃない?

貴方は何もしなくても有り余るほどお金がある。

でもそこには何の喜びもない。

それにくらべてワタクシのような庶民は働かないとやっていけない、だから必死に働く、それは辛いことの連続、でもそれを乗り越えて商品が売れたとか、企画がうまくいったとかそういった時の喜びというのは言葉では言い表せないものがある。

そこで得るものは勿論給料ではあるけれど、お金では買えないものも得ることができる。働くってことは食べることでもあって、人を助けることでもあって、社会に貢献するこ

とでもあって、そして自分自身にとっても生きるとは何かっていう究極の理由にもつながることだから。

でも貴方はそういう経験をしなくても社長である父親の息子というだけですでに将来が決められている。

よほどの最悪の事態が訪れない限りは父親の歩いてきた伝統的なレールをそのまま歩けばいいだけ。

仮に最悪の事態が訪れても、一生暮らせるだけの資産は持ち合わせている。

時々貴方は、本来なら父親の後を継がずに何か冒険でもしてみたいと思ったりするんでしょうね。

でもどこにも行くことができない。

ある意味可哀想。ああ可哀想可哀想!

その上どこに行っても『伊集院翼』そのものではなく『伊集院家の長男』として扱われる。

そうすると『伊集院翼』そのものではなく、ことあるごとにいちいち『後取り』としての顔で周囲に接しないといけない。

それが嫌で嫌でたまらない。

それにしてもなんで貴方ともあろう人が堀川美奈子みたいな超クソバカ女と付き合うハメになったのかしら?

美奈子なんてワタクシのことを散々いたぶりまくったのよ!

正直言ってあれほどいじめられたワタクシが未だに自殺もしないでこうして生きているなんてそれ自体が奇跡よ!

美奈子みたいな自分のことしか考えていない物欲性欲まみれの女に貴方が惹かれたのは恐らく美奈子が貴方と違って自由気ままに生きているから、それがうらやましかったんでしょうね。

でも残念ながら美奈子が貴方と付き合い始めたのははっきり言って『お金持ちの貴方』『伊集院家の長男である貴方』が好きなだけであって、『伊集院翼』そのものは殆ど興味がないに決まっているのよ!

この女が人間としての愛情をまともに備えているとでも思っているの?いるわけないでしょ!

さんざんいじめられてきたワタクシだからこそわかるのよ!

残念ね!恐らく貴方くらいの人だから許嫁がいるのでしょうけどもそんな形だけの結婚を貴方は激しく嫌ったに決まっているわ。

だってそもそも貴方はむなしさの固まりですもの!

結婚相手が決まっているにしてもせめて恋愛ぐらいは自分で選びたい、だから貴方は合コンでもしてそこで天真爛漫な美奈子を捕まえた。

一方美奈子も金のない彼氏、すなわち元彼である良太さんに飽きていて、合コンに参加して、偶然大金持ちの貴方を捕まえたのでしょう。

二人の恋愛なんてお金が結びつけただけ。試しに美奈子と駆け落ちでもしてご覧なさい。ボロアパートで一ヶ月でも暮らしてご覧なさい。

伊集院さん、貴方ためしに営業でもやってご覧なさい。

商品を売るのがいかに大変かがわかるし、ノルマを達成したところで貴方の一ヶ月の小

遣いの十分の一にも達しない程度の給料しかもらえない!

果たしてそんな収入の貴方に美奈子はついてくるかしら?

恐らくお金のない貴方にうんざりしてイヤミが増加するでしょうね。

そして当然喧嘩が絶えなくなる。

下手したら美奈子はまた良太さんのところに戻りたくなるんじゃないかしらね!

だってこんなわがままな女を受け入れてくれるようないい人なんて最終的には良太さんくらいのものですもの!

美奈子!貴女も今まで散々男遍歴があるけれど、蓋を開ければあなたなんて男どもの肉便器に過ぎなかったことぐらいわかるわよ!

だってワタクシ、男子生徒が貴女のことを話すときは必ずあなたのエロいスタイルで盛り上がっていたのを覚えているもの!

恐らく貴女は貴女でむなしさを感じていたのでしょうね、自分のナイスバディだけが目当ての男子に。

欲求不満の日々にたまたまクソ真面目なワタクシの存在がしゃくに触ったのでしょう。それからワタクシを徐々にいじめるようになっていき、そこで貴女は意外なことを知る。

ワタクシをいじめると周囲の人間がそれに同調してくれるという現実を知ったのよ。

当時のワタクシはたしかに今以上にクソ真面目で周囲にとってはうっとうしい存在だったから。

貴女は男たちのエロい視線とは別の意味で少しでもクラスの人気者になるためにワタクシを利用して、いつの間にか話題はいつも『今日は田村君子をどのように苛めて遊ぶか』ということだけになり、そこからワタクシへの激しいイジメへとつながっていったのよ!     

そしてそのいじめっ子精神は今でも持っている。

伊集院さんと貴女に共通するところは二人共他人を見下したりいじめたりして自分自身との現実から逃げてきたということなのよ!」


 一気にまくし立てた田村君子は目から涙を流しながら、震える体で伊集院と美奈子を睨みつけていた。

 美奈子はこんなに主義主張を叫んだ田村君子を初めて見たらしく、石のように固まっていた。

 良太、阿部、石本も唖然とするばかりだった。

 アルコールを飲んだ影響らしいが、それだけで性格は全くの別人になっていた。

 伊集院は震えながら拳を握り締め、歯を噛み締めている。

 ギリギリという歯の軋む音がこちらにまで聴こえてきそうだ。

「ふっ…ふふふふふふふふふ…言ってくれるじゃないか、田村さん。こんなにコケにされたのは生まれて初めてだよ。するどいご指摘には恐れ入ったよ。あながち間違ってもいないようだね……」

「伊集院さん、そして美奈子…貴方たちが幸せになれる方法があるわ」

 田村君子は二人をまっすぐ見て言い放つ。


「新発売、激レアヨーグルトを買いなさあああい!」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ