ウイスキー・ボンボン
「まだ時間あるわね…」
私はバイクを走らせた。
バイトに向かうときに通るいつもの道ではなく、通いなれた細道に入る。
小さな贈り物を持って。
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傷つくのが怖い。
人を信じられない。
裏切られるのが恐ろしくてしょうがない。
いろいろなことを知る度に、背負うものが増えていく。
毎日が苦しかった。
彼の言葉は私を救うと同時に、苦しめていった。
「前向きになりなよ」
「俺にいつまでもおんぶにだっこじゃだめだって」
「大丈夫だよ」
「俺を信じて」
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心から信頼したい、そう思っても、近づいて傷つくのが何よりも怖い。
私はその恐怖に押しつぶされそうだった。
私はそう、ヤマアラシのようだ。
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2月。
もうすぐバレンタイン。
お店に入ればバレンタイン特設コーナーに目が行く。
きらびやかなお菓子たち。
それらは、今の私には眩しく感じた。
その中の一つを取る。
彼の好きそうなウイスキー・ボンボン。
「これが最後の贈り物かもしれないな。」
気づくと、心に思ってたことが声に出ていた。
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バイトは7時から。
今から彼の家に行っても、彼はまだラボにいるはず。
彼がいたとしても、顔を合わせる気はなかった。
会ってしまったら、私はまたその胸に顔をうずめてしまいそうだった。
メッセージカードを入れ、袋をドアノブにかけて、その場を去った。
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翌朝、携帯を見ると、彼からメールが入っていた。
「チョコありがとう、早速食べています。」
自分の心を覆っていた何かが、溶けていく。
それを知らないふりはできなかった。
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傷つきたくないのに、私はいつまでもあなたのそばを離れられない。