第6話 いつの間にか魔王の魂が入っていた件 2/3
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「まったく、おかしな夢だ」
「違うぞ、ネク・アンダーウッド! これは夢などではない。お主は、ここに見覚えがあるのではないか?」
「この真っ白な空間に?」
言われてみれば、初めて来た気がしない。
何故だか分からないが、懐かしさを感じてしまっている。
それが安心感の正体なのだろうか。
だとすれば、これは――。
「分からん!」
「分からんのかい!? 今、思いついた感じの顔をしたじゃろ!」
「考えるのが面倒だと思い至っただけだ!」
「この男は……。まぁ、妾も間借りさせてもらっている身。求められれば、ヒントくらい与えようではないか」
普通にヒントをくれるらしい。
なんだか、チョロいなー。
「ヒントというか、まぁ、答えみたいなものなんじゃが。お主は、ネクロマンサーなんじゃろ?」
「そうだけど?」
「……分からんか?」
ソフィーはもどかしそうに体を揺らしている。
同時に、おっぱいも揺れている。
揺れ動いている。動揺している。
おっぱいが動揺している!
「まぁ、分かっていたけどね。ここは俺の深層心理の中。自分の魂を具象化した空間だろ?」
「分かっとるではないか!?」
ツッコミを入れる美女。
ちなみに、この『魂の具象化空間』は誰もが心の中に持っているものだ。
だが、ここに自分の意思で入り込むためには、それなりの訓練を受ける必要がある。
その訓練は、俺も昔受けたことがあった。
死霊術は、魔力と魂を操作する魔法技術だ。
その第一段階として、自分の意識をここに飛ばす訓練を受けることになるのだ。
ちなみに、訓練を受けたことのある俺は、服を着た状態でここにいる。
ここでは、慣れれば色々と出来るのだ。
だが、こんな美女を作り出した覚えはない。
「だとすると、お前は何者だ? 本来、ここには俺以外の存在はいないはずだ。だからこそ、最初は俺の願望が反映された夢だと思ったんだけど。いや、ここは俺の深層心理だということを考えると、まさか――」
目の前の美女は、妖艶な笑みを浮かべた。
「思い至ったようじゃな」
「……ああ」
「では、答え合わせじゃ。言ってみよ」
「イヴの裸体が印象的過ぎて、俺の魂に成長後の想像図が刻まれたというのか!?」
「違うと言っておろうが! そもそも、イヴという娘は黒髪であろう! 妾とは似ても似つかぬであろう! というか、お主、わざとじゃろ! 分かっていてわざとやっておるんじゃろ! この空間の支配権がお主にあるから、調子に乗っておるんじゃろ!?」
「うん」
「認めおった!」
美女は、その場で地団太を踏む。
スタイルのいいお姉さんがやると、とんでもない絵面だ。
大きなおっぱいは縦横無尽に揺れ動き、肉付きの良い太腿が大胆に動く。
それを恥ずかしがる様子は一切ない。
その堂々たる様のためか、折角の裸体なのに色気を感じない。
何だか、損をしているような気分になる。
「ところで、ソフィー」
「ほう、そちらの名を選ぶか」
「そちらもなにも、グレゴールって魔王の名前だろ?」
「そうじゃ。何せ、我こそは――」
「自分のことを魔王だとか、あまり言わないほうがいいぞ。かわいそうな子だって思われちゃうから」
「本物じゃ! モノホンじゃからな!」
かわいそうなマッパ女は、自分が魔王だと主張し始めた。
ここまで重傷だったとは。
どうしてこんなになるまで放っておいてしまったのだろうか。
「まぁ、どっちでもいいよ。それで、あんたはどっちで呼ばれたいんだ? ソフィーか、それともグレ子か」
「妾のことは愛情をこめてソフィーと――ってグレ子ってなんじゃい!?」
「グレゴールの女の子でグレ子」
「分かっとるわ、そんなこと! 名前の由来を聞いておるのではない! 妾が聞いているのは、何故そのようなふざけた呼び方をしておるのかということじゃ!」
「そんなことよりも、聞きたいことがあるんだけど」
「そんなこと!?」
「ここが俺の魂だとして、お前は結局何なんだ? 魔王でも何でもいいけど、どうしてここにいる? まさか――俺の身体の中に、別の魂が入り込んでいるというのか」
「察しがよいではないか」
自称魔王の痴女は、口角を上げて挑発的な笑みを浮かべた。
「……あり得ない」
「あり得ないということはないじゃろう。ネクロマンサーは己の身体の中に、魂を入れるための余剰スペースを持っておる。そこに他の魂を受け入れて、その魂を道具として使うというのが死霊術の技術の一つであるはずじゃ。妾の魂が入っても不思議はあるまい」
「だからこそ、その辺の野良魂が入らないように、ネクロマンサーは常に『防壁』を張っている。魔力がほとんどない俺でも、その技術は身に着けているはずだ」
「その辺の事情は知らん。じゃが、妾の魂がお主の中に入っているのは事実じゃ。原因よりも、今後の対応を考えたほうが良いのではないか?」
確かに、それは一理ある。
ことが起きたことの原因をいつまでも考えていても仕方がない。
まずは、異常な状況の解消をするべきだ。
「それじゃあ――」
俺は中空に剣を出現させ、それを手に取った。
ここは俺の魂の領域なのだから、この程度のことは自由自在に出来る。
「妾と戦う気か?」
「こうなった時の対処法は一つ。不法侵入してきた魂を体の外に追い出すことだ」
「そうか。じゃが、妾を本当に追い出してしまってよいのか?」
「どういう意味だ?」
ソフィーは掌を上にした状態で、右手をこちらに向ける。
すると、その掌から何か黒いものが溢れてきた。
ドロリとした液体が、その掌から際限なく湧き出る。
「何だ、それ?」
「何じゃと思う?」
尋ねてはみたものの、その正体には大体の予想がついていた。
というより、肌感覚で分かる。
それは、俺が欲して止まないもの。
いくら努力しても、手に入らなかったもの。
それは――。
「すさまじい量の手汗」
「よし、死ね」
「冗談だよ。それ、膨大な量の魔力だろ?」
「その通りじゃ。しかも、ただの魔力ではない。魔王たる妾が所有する特別な魔力じゃ!」
特別な魔力。
確かに、魔族のトップが持つのだから、大変なものなのだろう。
まぁ、一般魔法使いが持つにしては、手に余る代物だけど。
「お主には、この魔王の魔力を使わせてやろう」
「裸王の魔力か……」
「そうじゃ。妾の魔力は膨大かつ強力無比。それをお主は使うことが出来るようになる。どうじゃ? 人の身には余る光栄であろう――って、お主、今『裸王』とか言った!? 言ったじゃろ!? ついついスルーしてしまったが、お主魔族のトップになんてことを言うのじゃ!?」
「裸族の王?」
「ま・ぞ・く! 裸族の王って何じゃい!」
「うん、いいツッコミだ」
「もうよいわ!」
「どうも、ありがとうございました~」
「終わらせるな! 今、何かが終わろうとしたような気がしたぞ!」
俺も何故だか、そんな気分になっていた。
まぁ、気のせいだろう。
「とにかく! そんなことよりも、話を戻すぞ」
「ああ、うん。でも、ちょっと待ってくれ」
「何じゃ?」
「一つだけ、どうしても気になることがあるんだ。その疑問を解決しないと、他のことを考えられないと思う」
「……一体、何じゃ?」
ソフィーは怪訝そうな顔をする。
何度も話の腰を折られているのだから仕方がない。
だが、俺としては、この疑問を放置しておくことは出来ない。
その疑問というのが――。
「その恰好、恥ずかしくないのか?」




