第2話 追放されたら妹と一緒に風呂に入ることになった 2/4
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追放を言い渡された俺は、父の前から去り自室に戻った。
物がほとんどない、閑散とした部屋。
壁には格子がついた小さな窓が一つついているだけ。
子供の部屋、というよりは空の倉庫に近い内装だ。
俺はそこで、自分の置かれた状況について思いをはせる。
ついにこの日が来た。
俺はアンダーウッドの名を失い、ただのネクとなってしまった。
もう、このアンダーウッドの家紋が入った服を着る資格はない。
俺は着ていた服を脱いだ。
そして、丸めてからベッドの上に放り出す。
もはや、この家紋に用はない。
だから――。
「自由だ~~~~~!!」
俺は歓喜の声を上げた。
そう、俺はアンダーウッド家から追放された。
それと同時に、アンダーウッド家から解放されたのだ。
「ようやくこの日が来た! 何が魔法学院だよ、所詮は学び舎だろ。ぬくぬく育った貴族のお嬢様がたが通うお上品な学校で、この俺が死ぬわけがないだろ! ふはははははは! この時をどれ程待ちわびていたか!」
ついテンションが高くなってしまった。
テンションアゲアゲで叫んでしまっていた。
だって、仕方がないだろ。
死霊術なんて言う気持ちの悪いものに一生を捧げるのを回避できたんだ。
前からこうなるとは思っていた。
でも、中々決定が下りなくて内心焦っていた。
このまま当主になってしまうのではないかと危惧していた。
そして今日、決定が下りたのだ。
俺は、自由だ!
両手を高く掲げ、天を仰ぎ見る。
傍から見たらおかしな光景だったかも知れない。
だが、このパンツ一丁の姿こそが、自由を体現した姿なのだ。
「やっぱり、そういうことだったのですね」
全身で自由を噛みしめていると、背後から声がした。
それは、無感情で事務的な声。
俺は後ろをゆっくりと振り向く。
そこにいたのは、美しい顔立ちの少女。
俺の妹であり、つい先ほど次期当主の座を押し付けられたイヴだった。
「イヴ、いたのか」
「ええ、いましたよ。それよりも、お兄様は何か勘違いをされていませんか?」
「勘違い?」
「随分とライプニッツ高等魔法学院を甘く見ていらっしゃるようですが、卒業までに多くの生徒が命を落とすというのは、冗談でも何でもありません。お嬢様がたが多く通っているというのは事実でしょうが、彼女たちはそれぞれ訓練を受けて卒業できると見込みをたててから入学してきています」
「そ、そうか。まぁ、その辺は何とかするさ! この俺の持ち前のセンスで!」
「それがないから今回追放されることになったのでは?」
情け容赦ない指摘だった。
それに反論できずにいると、イヴは軽くため息をつく。
「でも、ネクお兄様がそれをお望みなら、それで構いません。次期当主の座は私が確かに受け取りました」
「何か、悪いな。面倒なことを押し付けて」
「いえ、これについては問題ありません。私もアンダーウッド家の名を使ってやりたいことが色々とありますから」
「そうか。お前なら、きっと出来るんだろうな」
「ええ、どこまでうまくできるかは分かりませんが」
そう言って、イヴは微笑んだ。
おそらく、彼女ならなんでも上手くやってしまうだろう。
アンダーウッド家随一の天才。
齢十三歳にして、あらゆる魔法を使いこなす傑物。
パンツ一丁で騒いでいる俺の姿に一切動揺を見せない大物。
それが、イヴ・アンダーウッドという天才なのだ。
そんなイヴは、愛想のよい笑顔を浮かべながら俺に言う。
「ですが、お兄様にお願いがあります」
「断る。なんだか、面倒くさそうな感じがする」
「次期当主の座、お兄様に返しますよ?」
「おいおい、俺が妹の頼みを断るような人間だとでも思うのか? さっきのは冗談だよ。イヴの頼みなら、何を捨て置いてでも受け入れるに決まっているだろ。さぁ、何でも言ってくれ!」
俺は即答した。
イヴなら、本当にやりかねない。
彼女にかかれば、父の決定を覆すことも出来るだろう。
「正直ですね……。さすがの私も、お兄様に対する敬意を失いそうです」
「それは残念だ」
「嘘ですよ。そもそも、ネクお兄様に対する敬意など最初から持ち合わせていませんから」
「辛辣だな!? だけど、お前はまだ甘い! 俺はすでにアンダーウッド家を放逐された身! 今更お前からの尊敬を失ったところで、痛くもかゆくもない!」
「清々しいほどに性格がねじ曲がってしまいましたね」
イヴは俺の妄言に動揺することなく、淡々と受け答えをした。
考えてみれば、この妹が焦ったりしている姿を見たことがない。
「それで、お願いというのは?」
「一つ目は、いつかこのアンダーウッド家に戻ってくること。……嫌な顔をしないでください。何も役割を押し付けようとしているのではありません。ただ、ネクお兄様に物理的に戻ってきていただきたいだけです」
「物理的に!?」
「はい。時期に関しては、後日指定させていただきます。ただ、生きてもう一度私の下に帰ってきてください。私はそれを心待ちにしています」
「……ありがとう」
正直、イヴがここまで言ってくれるとは思わなかった。
てっきり、兄どころか人としてみなされていないとさえ思っていた。
面倒ごとを押し付けてしまったのに、嫌な顔一つしていない。
まったく、出来た妹だ。
「二つ目は、魔法学院で『召喚の儀』に参加すること。これは魔法学院でしか出来ないことです。入学当初に行われるはずなので、必ず参加してください」
「ああ、分かった」
「それで、最後のお願いなんですが」
「ああ、うん。なんでも遠慮することなく言ってみろ。是が非でも、万難を排して、あらゆる倫理を無視して叶えてやろうじゃないか」
「ああ、はい。こちらは大したものではないのですが――」
「うん」
「今から、一緒にお風呂に入ってください」
「……うん?」




