第4話 盗賊との微妙な闘い 4/11
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「さてと――」
――まずは、詳しい状況把握だ。
俺は周囲を見回して状況確認を行った。
まず、隣にいる少女。
おそらく、この子が女商人だろう。
肩までかかる程度の赤みを帯びた茶髪。
顔立ちはやや幼く可愛らしい。
白いシャツに黒のスカート、その上にローブを着ている。
ややフォーマルな印象を受ける服装だ。
体格は小柄で、特筆すべき点はない――わけではなかった。
一人称が『ボク』であったことから、少年のような容姿をしているのだとばかり思い込んでいたが、とんでもない思い違いだった。
着用しているローブを押し出すように、大きな胸が激しい自己主張をしている。
窮屈なところに閉じ込められているような張り出し方。
彼女がほんの少し後ずさっただけで、その膨らみはたゆんと揺れた。
見ただけで、その質量のあるエロスを感じ取ることが出来る。
成程、これが巨乳というものか。
概念は知っていたが、生きた人間の巨乳を見るのは初めてだ。
ソフィーの裸体は見たが、いまいち現実感がなかったからな。
そんなことを考えていると、女商人が非難の声を向けてきた。
「な、なんですか、じろじろ見て」
「じろじろなんて見てないよ」
「いいえ、嘘です。ボクのおっぱいをじっくり、ねっとり、の~んびりと見ていました」
「見てませんー!」
「見てました! 絶対に見ていました!」
「見てないって言ってるだろ! それに、仮に見ていたとしても、それをお前が知っているってことは、そう判断できるくらい俺のことをじっくり見ていたということだよな?」
「そ、そんなことはありません」
「言い逃れはできないぞ! 俺がおっぱいを覗くとき、おっぱいもまた俺を覗いているのだ! 故に、俺がいやらしいというのであれば、同様にお前のおっぱいもいやらしいということになる!」
「なんてことを言うんですか、この変態!?」
少女が叫ぶ。
だが、俺はそれに対して冷静に言葉を返す。
「ほう、俺が変態だと?」
「え、ええ。そうですよ」
「ほほう、では教えてくれ。変態とは何なのだ?」
「えっ!?」
少女は俺の問いかけに、驚いていた。
だが、至高の変態性癖の探究者として、そこを見逃すことは出来ない。
「それは、異常な性癖を持っている方のことで……」
「そもそも異常な性癖とは何なのだ? 性癖が異常であるかどうかはどのような基準で決まる? そもそも、性癖に正常と異常の区別をつけることは可能なのか? この俺を変態と罵ったからには答えてもらおう。まず第一に、変態とは何か?」
「え、ええっ」
「変態の定義だ。変態と呼ばれるためには、どのような要件を満たせばいい?」
「知りませんよ!」
「変態と罵っておいて、それが一体どのようなものなのか答えられないとはな……」
「何で偉そうなんですか、この人!?」
少女はドン引きしながら叫んだ。
そしてターゲットをそらすべく、女盗賊を指さし――。
「そ、それよりも、あっちを気にしたらどうですか?」
苦し紛れにそう言った。
俺がその指さす方向を見ると、そこには一人の女がいた。
くすんだ短めの金髪の女性だ。
彼女が例の女盗賊なのだろうが、想像とは大きく違っていた。
体中が土埃にまみれた清潔感の欠片もない蛮族のような姿をしていると思っていたのだが――。
実際の盗賊は割と小奇麗な見た目をしていた。
ボロの布を何枚も重ね着しているようで、野暮ったい服装ではある。
だが、全体的に盗賊っぽくはない。
何というか、育ちの良さのようなものを感じる。
「あれが盗賊か……」
俺に視線を向けられた女盗賊は、相当動揺していた。
嫌悪と驚愕の表情を浮かべ、一歩後ろに下がる。
確かに、箱から人が出てきたら驚くだろう。
あれほど驚くことはないとは思うが。
だが、そんなことはどうでもいい。
俺は彼女に対して、どうしても言っておきたいことがあった。
「そこの盗賊、お前に言っておくことがある」
「な、何だというんだ、この変態が!」
「誰が変態だよ! いや、それはいい。これだけは言っておきたかった――助けてくれてありがとう! マジで!」
彼女がいなかったら、俺は死んでいたかもしれない。
それは冗談でも誇張でもない。
魔封印された箱に入れられるということは、そういうことだ。
俺は珍しく、心の底からの感謝を表明していた。
対して、女盗賊の方は俺を警戒しているようだった。
丸腰そのものである俺に、どうしてそこまで警戒するのだろうか。
「お前は何なんだ?」
「何なんだと聞かれても……。俺の名はネク。アンダーウッド家から追放された男であり、今は何者でもない! 故に、何者にもなりうる無限の可能性を持った男だ!」
「無駄に格好いい言い方!? いや、そういうことを聞いているんじゃないんだよ!」
「じゃあ、何を答えればいいんだ?」
「だから、何で……」
「何で?」
「何で、裸で、箱に入ってたんだよ!?」
「ん?」
なんだこれ。
見てみたら、俺は裸のままだった。
昨日の夜に倒れてから、使用人たちがそのまま箱に入れたらしい。
俺の扱い、ひどすぎないか。
いくらなんでもこれはないだろ。
一体、俺が何をしたというのだろうか。
何故、このような仕打ちを受けなければならないというのか。
俺はすぐ側にいる少女に声をかける。
「何でだと思う?」
「知りませんよ!?」
ですねよー。




