02 セーブポイント
こうして、明るい場所で姿をはっきりと認識出来た彼らは、全員揃って細身で長身で、その身軽な服装から察すると冒険者ギルドに集まる依頼をこなす冒険者なのだろう。
彼らのような冒険者自体は、このヘイスター国に生まれ育った私にとっては珍しい存在ではなかった。
ヘイスター王国王都は、とある理由があって、世界中から冒険者たちが集うからだ。国内の街道でも城内でも、彼らのような冒険者たちの姿を見掛けることは良くあることだった。
三人は無言のままで目配せし合い、呼び止めた私に対し、何かを伝えたいようだ。
……何かしら? 本当に、ここまでの経緯も訳がわからないわ。
もうこうなったら、私側からはっきりと聞いてしまった方が早いかもしれない。
質問しようと私が口を開いた瞬間、彼らの方から声を発した。
「すみません! あの……何か、持ってたりします……?」
「おいおい! あまりにもそれは、直接的過ぎるだろ!」
「だって、他にどんな言い方があるんだよ!」
三人の内の一人だけは無表情でむっつりと押し黙ったままだけれど、二人は興奮して言い合いになっていた。
「何か、ですか?」
彼らが何を言いたいのかまったく分からずに、私は戸惑った。
ドレスのポケットの中へ手を入れれば、そこには容量的な問題でハンカチと平たい小さな手鏡くらいしか入れられない。
私はそれを差し出せば、彼らは揃って変な表情になっていた。これは、求めている物と違うのかもしれない。
とは言え、私が他に持っているといえば、身につけているドレスか髪飾りくらいだ。
「いや。待てよ。恐らくは、彼女自身のこと……なのでは、ないか?」
これまで無言だった金髪の男性が顎に右手を当ててそう言い、私は反射的に彼と目を合わせた。爽やかな新緑が透き通る瞳が、やけに綺麗に見えて、胸がドキッと高鳴った。
驚いた。これまでに見たことのない不思議に透き通り、内側から輝きを放つような瞳だった。
「え? どういうことだ。嘘だろ? 人が……まさか!」
「あの……その、ですね。ご令嬢。大変、失礼ですが、お手に触れても?」
「……ええ」
灰色の短髪をした男性にそう問われ、私は頷き右手を差し出して頷いた。彼は慎重な手付きで、私の手を取った。
「……セーブ」
一言口にすると、私たちの周囲にふわっと虹色の光が走って、私は眩しくて思わず目を閉じた。
なっ……何? さっきの光、驚いたわ。おそらくは、何かの魔法が発動したのよね。
「ああ。やっぱりそうだ」
「魔法書を読んで見ると、確かに、生物ではないとは定義されていないな。うわ。まさかの、人……なのか」
「うん。俺たちのセーブポイントって、この人なんだ。なるほど」
「セーブ、ポイント……?」
聞き慣れない単語を耳にした私は不思議に思い首を傾げ、彼ら三人は揃って額に手を当てて天を仰いでいた。
「彼女の身体全体が、虹色に光ったって……そういうことだよな? 魔法の発動条件に書かれた現象、そのままだ」
「いや、それしかないだろう。彼女に触れて『セーブ』が発動することで、それは決定だ。魔導書にも任意で指定することは決して出来ず、完全に無作為で選ばれると、注意事項に書いてあったしな」
「うわ。そういうのも、ありなんだ! まあ、虫とか鳥とか、移動速度が速い何かでなくて、それはそれで助かったけど。そっかー、そうなのか~。セーブポイントが、まさかの、うら若き乙女。かつ、貴族令嬢なのか~」
とても混乱しているらしい彼らは、仲間うちの親しさで口々に言い合い、取り残されている私は、ますます訳がわからなかった。
……もうこれ以上は、黙ったままで済ませることは出来ない。
「あの! ……その、お話し中に、ごめんなさい! 私の名前は、レティシア。前オブライエン侯爵シモーネの娘です。もしよろしければ、そちらの事情を教えていただいてもよろしいですか?」
これまでに私たちは名乗っても居ないし、名乗られてもいない。本来ならば、これはあり得ないこと。
彼らはおそらくは平民で私は貴族なのだから、声を掛けることが出来るのは、私の方からであるはずなのだ……いえ。そもそも城の中の洋服箪笥の中に隠れて泣いていた私に、声も掛けるも何もないとはわかってはいるけれど。
今、目の前に起こる光景は本当に理解しがたいのだから、その辺の事情を聞くしかない。
私の言葉を聞いてから、彼らは自分たちにいろいろと言葉が足りていないと、ハッと気が付いたようだった。