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14 不穏な噂

「最近……ある、不穏な噂を耳にしてね」


「え、ええ?」


 面白くなさそうなオルランド様に、私は嫌な予感がした。


「そうだ。レティシア嬢。君の友人である……ブラント伯爵令嬢について、なのだが……」


「は……はい」


 私はここで苦々しい表情を浮かべたオルランド様から、クラウディアの名前を聞くだなんて、まったく想像もして居なかった。


 だって、貴族令嬢は多く居て第三王子であるオルランド様の周囲には、それはそれは多く居るだろう。その中で名前を覚えてくれるということが、あまり考えられなかったのだ。


「なんでも、君が彼女を傷つけるために、僕にすり寄ったとか……そういった良くない噂が流れていると聞いたのだが」


 ……一瞬、胸が詰まった感覚がした。


 私たちの話は貴族中に盛大に噂が撒かれたのだろうし、オルランド様にご注進した者も居たのかもしれない……おそらくは、ご本人に届いたのが、一番最後で……今、私の元へ来たのも、そういうことなのよね。


 私はどう言うべきだろうか。


「それは……その」


「彼女が僕のことを慕っていると公言していたと聞いたが、僕と君はあの時まで、話したこともなかった……そうだろう? ブラント伯爵令嬢の一件があったから、断ったというのか?」


「それは、その」


 どうしよう。これは、あまり良くない話の流れだとは思う。


 あの時のことを……クラウディアが悪いのだろうと、オルランド様はそう言いたいのだろうか。


 私は彼女を、悪者にしたいのだろうか。


 もし、私がオルランド様をお慕いしていたら、それは喜ぶべきかもしれない。


 けれど、今は……。


「……オルランド殿下。行き違いになった女性同士の友情について、その原因となった貴方があまり口出しすべきとは思えません」


 一歩踏み出したイーサンが助け船を出してくれたので、私はほっと安心した。


 自分の気持ちが……まだ、はっきりとわからない。


 クラウディアとの間に何か行き違いがあるのなら、正したいとは思う。オルランド様に証言してもらえば、思っていたことと違うと証明が出来るかもしれない。


 けれど……もしかしたら、それは、恋を失うことになる彼女を追い詰めてしまうことにならないだろうか。


「アイズナーだったか。ならば、お前はそれなら、どうすべきだと思う。僕はレティシア嬢が社交界デビューするのを、ここ数年、今か今かと待って居たんだ。未婚の彼女を誘って、誰かに邪魔されるような話でもない」


 眉を顰めて、気に入らない様子でオルランド様は言った。彼がヘイスターの王族とは言っても、イーサンはゴールセン王国の民で、王族の言葉だからと従う必要はなかった。


「……もし、それほどに大事なお相手であれば、焦りはより禁物かと……事態が落ち着いてからでなければ、上手くいくものもいきませんよ」


「別に焦っているわけではない。僕は」


「彼女についての噂を耳にしているのであれば、公衆の面前で友人に罵られ、どれだけ辛い思いをなさったか想像つくでしょう。ご自分が原因だという自覚があるのならば、気持ちを考えてゆっくりと距離を近づけられるのがよろしいかと……私はそう思います」


 王族であるオルランド様に睨まれても、イーサンは全く怯まなかった。


 私一人であればどうして良いかわからず、オルランド様の言われるがままに行動していたかもしれない。


 そんな彼を見つめてから、オルランド様は、はあと大きく息をついた。


「確かに……一理ある。落ち着くまでは、時間を置くことにしよう。それでは、レティシア嬢」


 私は黙ったままで、王族に対する深いカーテシーをした。ゆっくりと遠ざかっていく赤い背中を見送り、ほっと息をついた。


「ありがとう……イーサン。私一人では断ることが出来なかったと思うから、とても助かったわ」


 彼を見上げてお礼を言えば、精霊が棲むという不思議な緑色の瞳が細まった。


「いえ。あれは確かに、返答に困る質問でした。レティシア様も、ご友人を悪く言いたい訳ではないと、俺はわかっていますので」


「イーサン」


 じんわりと胸に、温かなものが広がった。


 あまり彼に事情を詳しく伝えているわけではないのに、イーサンは私がどうしたいかをわかってくれている。


「とは言え、オルランド殿下はレティシア様に、とてもご執心であられることには、間違いなさそうですね」


 イーサンは苦笑して私と目を合わせると、そう言った。


「それは……その」


 オルランド様が先ほど仰っていたことを思い出せば、確かにその通りだった。


 私の社交界デビューを待って居たと彼は言ったけれど、オブライエン侯爵家の娘と結婚したいと思っていたということだろうか?


 ……彼は確かに第三王子で、結婚するのならこの上ない人ではあるけれど。


「レティシア様は……オルランド殿下のことを、どう思われているんですか。ご友人のことがなければ、求婚者として申し分ない方だとは思いますが」


 その時のイーサンは、とても落ち着いていた。


 そして、私はというと好きな人から、他の男性をどう思うか尋ねられている。


「イーサンは……イーサンは、どう思われますか? オルランド様のこと」


 私の質問を聞いて、イーサンは驚いたようだった。


 私だって質問に質問で返すようなことを、するつもりではなかった。イーサンがあまりにも動揺することなく、私に聞いたから……それが、面白くなかったのかもしれない。


「ええ。申し分ない男性ですね。王族で姿も良く、そして、第三王子であれば臣籍を得て、法定相続人であるレティシア様と結婚することも可能ですし……求婚者としては、最適かと」


 少し苦笑いを浮かべながら、イーサンは言った。


「その通り……ですね」


 私が思っていた通りのこと。ただ、クラウディアの一件があるから、素直に彼のことを良いと思えないだけ。


 自分のこれからの未来を考えれば、結婚相手として最善の人。


「……面白くないとは、思いますが」


「え……?」


 私はパッと顔を上げれば、イーサンは微笑んでいた。そんな彼を見て、私はどうしても……胸が高鳴ってしまう。


「すみません。正直に言ってしまうと、とても面白くないですね……俺も別に、負けていないと思ってしまうので」


「それは……その」


 イーサンに微笑んで言われて、私は困ってしまった。王族であるオルランド様に、負けていないと思っていると言ったイーサン。


 そんな彼に、私はどうしても期待してしまう。


「いえ。すみません……ああ、どう言えば良いか。そうですね……俺は、面白くないです。オルランド殿下についてはそう思っています。レティシア様は、彼のことどうお思いですか?」


「私は……私は、その……」


 ここで、なんと言うべき? イーサンの気持ちを、私は……受け入れてしまって良いのだろうか。


 無言のままで顔を熱くした私に微笑み、イーサンは背中に手を当てた。


「そろそろ……帰りましょうか。もう夜も遅いです」


「……はい」


 それ以上は何も言えないまま、私はオブライエン侯爵邸へと帰ることになった。


 イーサン……未来のない身分違いの恋なんて、私はするつもりなんてない。


 早く、彼を断ち切るべきなのだわ。



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