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13 ダンスの誘い

 夜会の華やかな空気を感じれば、いつも緊張してしまう。ただただ、不安になった。私には頼りになるような身内もいなくて、いつも一人だったから。


 そして、唯一の友人から『裏切り者』と叫ばれて、あの時の私は、どうして良いかわからなくなった。


 けど、今は……。


「……レティシア様。何か考え事を?」


 私は隣に居たイーサンから話しかけられて、俯けていた顔を上げた。見上げれば、彼は心配そうな表情をしていた。


 もしかしたら、私がクラウディアのことで、今も落ち込んでいると思っているのかもしれない。


 ……不思議と、彼女のことは考えなかった。経緯を説明して謝罪する手紙は送ったし、これ以上に私に出来ることなんて何もないように思えて。


 クラウディアに罵られて、洋服箪笥(クローゼット)で泣いている時は、本当に絶望的な気持ちだったのだ。


 ようやく、成人する年齢を迎え社交界デビューを果たし、叔父の支配を抜けるために結婚相手を見付けられると思っていた。それなのに、もしかしたら、私は一生叔父夫婦から逃げられないのかもしれないと。


 けれど、私には彼女を裏切って近づいたはずのオルランド様と、今ここに居るわけではない。


 周囲の貴族たちも、次なる新鮮な噂へと興味は移っているはずだし……ついこの前に少し騒がれた私のことなんて、誰も気にもしていないように見える。


 なんだか……私も自分のこととなると色々と、考え過ぎなのかもしれない。そう思った。私が勝手に、悪い方向へと悪い方向へと考えてしまっていたのかもと。


 確かにあの時のクラウディアの叫び声は、衝撃的なものがあった。裏切り者と罵って、周囲から友人と思われていた私を糾弾したのだ。


 けれど、オルランド様の誘いをキッパリとお断りして、こうして別の男性と共に居れば、友人が慕う男性を掠め取ろうとした悪女ではあり得ないはずだ。


 だから、私の境遇を面白がるような視線も、今ではほとんどなくなり、その代わりにイーサンは何処の誰なのかと、彼の正体を知りたがるような興味津々の視線だけを感じる。


 イーサンは私と話しているだけで、誰とも話していない。つまり、紹介のとっかかりになる人物が居ないので、誰も話し掛けられない。


 色々とあった……私にはまだ、誰も話し掛けない。けれど、それはもしかしたら、時間の問題なのかもしれない。


「ごめんなさい。なんでもないの……イーサンが隣に居てくれるから、私は大丈夫よ」


 これは、私の心からの気持ちだった。国王主催の夜会に出られないなど、余程の理由が必要となるけれど、一人でここに立って居ることは、きっと辛かっただろうと予想出来る。


 イーサンが共に居てくれれば、安心出来る。誰であるかはわからないと思うけれど、彼は誰かの紹介を経て夜会へと堂々と出席している。


 それが、彼がある程度の地位を持つことを示していた。


 貴族の身分を持つか、高位貴族以上の紹介か、どちらかでなければ出席することは出来ないのだ。


「それは、良かった。きっと、すぐにご友人の誤解は解けますよ……どんな行き違いも、真実には抗えないものです。レティシア様もあまり、気にしない方が良いですよ」


「ええ。そうね。ありがとう」


 私はイーサンの言葉を聞いて、微笑んで頷いた。けれど、同意は出来なかった。


 あの時、クラウディアは私とイーサンが一緒に居るところを見ていたと思う。けれど、私のことを睨んでいた。まるで、憎んでいるように激しい眼差しで。


 彼女を傷つけるための行為をしたという誤解ならば、それは既に解けているはずだ。


 ……いいえ。そもそも、クラウディアは誤解なんて、していなかったのかもしれないと思う。


 私がオルランド様に気に入られたことが、それがすべての彼女の憎しみの元凶であるならば、それはもう……解決することは、困難だと思う。


 悲しいけれど、彼女とはこれまでの仲に終わってしまうだろう。


「……レティシア嬢」


 一瞬、聞き間違いかと思った。私はイーサンと視線を合わせていて、彼の唇は動いていなかったから。


 けれど、向かい合っていたイーサンの視線は、私の背後の人物へと移動していた。だから、これは聞き間違いでもなんでもない。


 そこに、誰かが居るのだ。


「え……?」


 戸惑いながらも私が振り返れば、そこにはオルランド様が居た。


 彼は黒色の髪と青い瞳を持ち、爽やかで整った顔には優しそうな笑み。第三王子ではあるけれど、軍属に居て鍛えられた長身で、今は婚約者は居ず、彼の妃の座を狙う貴族令嬢は多い……そんな人。


 だから、私本人だって、不思議だった。こんな人が、得る物の少ない私へと、声を掛けてくるなんて。


 ひと目見れば、彼が王族であるということは、誰しも理解出来る。


 特別の装いである赤いマントは金糸で豪華に紋章が刺繍され、オルランド様が王族の一人であることを示しているからだ。


「レティシア嬢……もし、良かったら、踊って貰えますか」


 そう言って彼が手を差し出したので、私はここでどうすべきか困った。


 だって、イーサンのおかげで、ようやく奇異の目に晒されることもなくなってきたというのに……けれど、王族からのダンスの誘いを断ることなんて、出来るはずもない。


 どうしよう。


「申し訳ありません。レティシア様は先ほど……足を痛められたのです。ですので、殿下とのダンスは難しいかと」


 私が返事に困っていると思ったのか、イーサンが代わりに答えてくれた。


「……君は?」


「私はイーサン・アイズナー。ゴールセン王に仕えております」


 まあ、イーサンは……隣国ゴールセン王国の国王に仕える騎士の一人だったのね。


 私には必要ないことと、彼ら三人が何処からやって来たのか、これまでずっと聞いていなかった。ゴールセン王国は、非常に強力な武力を持つ大国なのだ。


 彼らが存在することによって、周辺国の治安は保たれている。そんな中でも、イーサンはゴールセン王から特別扱いを受けているのね。


「ああ。君はゴールセンの騎士なのか。レティシア嬢とは……どういった関係なのだろうか? 出来れば、僕は彼女と話したいのだが」


 ここで私は、心配そうに視線を送るイーサンに頷いた。私の今後を考えて、ここで自分が勝手なことは言えないと思って居るのよね。


 ……優しい人。


「……オルランド殿下。ごきげんよう。素敵な夜ですね。こちらのイーサンは私の知り合いで、社交界デビュー直後で不安なので、今夜はエスコートをお願いしておりました。彼が言った言葉は本当です。先ほど踊っている時に、足を痛めてしまって……せっかくのお誘いをお受けできず、申し訳ございません」


「そうか。ならば、君とのダンスは諦めよう……少し、ここで話をしても?」


 オルランド様がわざわざ会話の許可を口にし、それを断ることなんて許されない私はイーサンと一度目を合わせてから、無言のままで頷いた。


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