人間至上主義
一週間後。
最近、能力持ちを穢れた血だと罵る人間至上主義の過激派集団が増えているらしい。というか突然変異の能力持ちを穢れた血と罵る事自体お門違いも甚だしいのだが。そういうちょっとの過激派がいるぐらいなら大したことはなかった。ただ気になるのは、この能力持ち連続殺人事件。どうも…無関係なようには思えなかった。
これは…俺の、ナイトの出番かもしれないな。
最初のうちはたしかに100%グリードの為に活動していた。だが…。最近はそうでもなくなっていた。
悪人を裁く悪人は必要だ。これが悪なのは変わらないし殺しを正当化するつもりもない。だが…それでも、今回のような…。なにも、悪くない人らが殺されていくのを何もせずみていることなんてできるものか。ナイト用の指輪を発動して夜の街に繰り出した。
ここ一週間は学校も休み、ナイトも中止していた。この前の終焉の業火の影響がまだ残っていて満足に力を出せなかったからだ。それでも死の匂いを感じ取ることはやめなかった。すると東京に集中していたことがわかった。
毎日、毎日誰かが死んでいる。
俺はそんな誰かを減らす為に殺しをする。
今日は誰も死なせない。俺がいるから。東京タワーの一番上に座り、街を見下ろす。
この夜景が好きだ。闇の中の数々の光が。星のようで。
「ん…?」
妙な空気を感じる。これは…。誰かが救いを求めてる。
その方角に屋根伝いに向かう。すると、路地で大の大人がよってたかって少女を取り囲んでいる。
俺は迷わずその少女の前に飛び降りた。
「お前らは何者だ。」
もしかしたらその殺人事件かもしれないし、そうじゃないかもしれない。
「あぁ〜??テメェこそ誰だ。俺らはその嬢ちゃんに用があんだよ」
「…俺は闇の 覇者…。通称ナイト。」
「…おいおい、そんなわけねぇだろうがよぉ…!」
相手が殴りかかってくる。ちゃんと武道をやってる者の殴り方だ。…だが。
俺には通じない。ただの人間だったらそれでも戦えたろう。
「がはっ…!?」
俺はソイツの懐にむぐりこみ、腹に一発くらわせる。他の男も一斉に襲ってくる。その攻撃を全て躱すと、数人が勝手にぶつかりあって倒れた。協調性がなさすぎる。
よし、これで全部だ。男達を縄でまとめた。
一応全員生きている。
「大丈夫か。」
俺は少女…といっても多分同じぐらいの歳の女の子に手を差し出す。
「っ…だい、じょうぶ…。」
絶対大丈夫じゃない言い方だよな。
「なにやられたか言ってみろ」
「なんか…穢れた血…とか、なんとか…。よくわかんないけど…。」
…なるほど。だが、あいつらは用があると言った。この事件はもうちょっと奥が深いものかもな。
「家はわかるか?送るか?」
「うん。送って…。」
少女を抱きかかえる。
「じゃ、行くぞ。しっかり掴まってろ。」
…いつもより速度を落とそう。いつもの速度で走ったらトラウマを与えそうだ。
「うわぁ〜!すごい!」
ちょっと飛んだだけでこれだ。
「家どこの方かわかる?」
「えーっとね…。あっち!」
タワマンとかがいっぱい建ってるところを指をさす。おいおい、ボンボン娘か?
「あのさ、なんであんな場所に一人でいたか教えてほしいんだけど」
「…はぐれた」
「だったら合流を先にした方がいいな。はぐれたのはどこだ?」
「あそこらへん」
商店街の辺りだ。だが…この格好で少女を連れて夜の商店街を歩くと俺が勘違いされそうだ。
…どうしたものかな。
「今からこの仮面を取るんだが…絶対誰にも言わないって約束できるか?」
「…わかった。約束する」
少女を連れて商店街に降りて、指輪を解除する。
「…?頭になんかついてる…ツノ?」
「あぁ…。これは気にしないでくれ。」
そうだった。ナイト状態を解かずとも今の俺はツノが生えているし顔に鬼特有の線も入っている。
それから数分は歩いたのだが、この子の母さんや父さんらしき人物はどこにもいない。
「いないね。」
「…うん。なんでかな…。」
…もしかしたら、両親が捨てた可能性がある。
もしこの子の両親が人間至上主義者だったら…。嫌な妄想はやめよう。
「はぐれる前になにか言ってたか?」
「う〜ん…お母さん、特に…。」
「…帰りたくないんだろ」
「…うん。帰りたくない。」
意外だ。はぐれたと信じているぐらいなのだから両親が好きなはず。
「実は、はぐれたのは嘘。捨てられた。」
まさかの自白。
「…そう。じゃあ、さ。」
自分でも馬鹿だと思う。でも、ここでこうしなければこの少女が道端で野垂れ死ぬのを見ないふりすることになる。
「うち…来る?」
「…いいの?」
「妹に…していいか。」
そんなのは…。
「うん!お兄ちゃん!」
許せないから。
だが…一つ忘れていた。子供が見れば泣き出すような恐ろしい形相の鬼が家にいるということを。
その後、正式に妹となった。
「グリード!私はなんの能力があると思う?」
だが…。なぜだかこの子…開楼桃香は、俺は勿論、グリードにも一切の恐れを抱かなかった。逆に怖い。
「そうだなぁ…。お前は…雪女とかどうだ。」
「雪女かぁ〜!たしか、すごい綺麗なんだよね!」
「あぁ…。あれはとんでもない美人だ。」
なんでこんなのほほんとした会話を15歳の少女と鬼がしているんだ…?
「ねぇ、ミサンガしてるけど…願い事は何?」
「あ?あぁ…。これは…。願い事、か。強いて言うなら、あの人にもう一度会いたい…。だな。このミサンガは昔、大事な人から貰ったものなんだ。お守りみたいなものだな。」
もしかしたら、俺の母さんとグリードの会話もこんな異様な光景だったのかもしれないな。
「私も…このネックレスはお母さんがくれた大切なもの。お母さんは私を捨てたけど、それでも大切なお母さん。」
よくできた子供だ。考えれば考えるほど捨てた理由がわからない。
「そういえば…学校に行きたいとかはあるのか?」
「っ…。」
地雷を踏み抜いたようだ。学校が嫌いなのか、いじめられたのか…。
「…すまん。俺は怠等高校に通っててな。それで聞いただけだ。」
「…入るなら、同じとこがいい。私、15歳だからギリギリ高校入れるでしょ?」
「まあ…そうだが。転入生という形で…。だが…双子ということになってしまわないか?」
大分わけのわからないことになってしまう。そもそもクラスメイトは俺にツノが生えていることもまだ知らないし俺が半人半鬼になったのも知らないし…。情報過多過ぎる。
「別に私はそれでもいいよ!お兄ちゃんと一緒に入れるなら。」
…それに。なんで桃香はこんなに俺に懐いてるんだ?普通これぐらいの年齢は色々躊躇いがあるものでは?
「だが、能力がまだ発現していないよな。」
「あ…そ、そうだね…。だめ?」
能力持ちの能力発現は人によって時期が異なる。強い力であればあるほど幼少期から、人によっては高校生からなんてのもある。成人までに発現しなければ基本発現することはない。
「…だが、捨てられる時にはもう発現していたんじゃないのか?」
「…うん。隠しててごめん。私の能力は獏。人の夢に干渉することができるの。」
なるほど、能力としては程度の低い方とされる。
「…穢れた血と言われたか?」
「いや…。そうは言われてないけど…。同じ血が流れてると思うと吐き気がする…って。」
…能力持ちは突然変異。当然、人間至上主義者の子供が能力持ちになることもありうる…酷い話だ。
「そうか。…嫌なこと思い出させて悪い。」
泣きながら話をする桃香の涙を指ですくう。
「あ…ありがとう…。」
「じゃあ、入学手続きは済ませておくぞ。」
「うん…お願い。」
新たな、強くなる理由ができた。
桃香の能力は獏。戦闘面はあまり期待できない。…俺が守らなければ。色々と物騒な世間だしな。
「桃香。ちょっといいか」
「ん…なに?」
「この前みたいなことがあっちゃ困る、これを渡して置こうと思ってな。」
「…指輪?なんで?」
「その指輪には俺のこの指輪と連動するようになってる。桃香がこのボタンを押すと俺の方に知らせられる。俺の力が必要だと思ったときは迷いなく押してくれ。あと、通信機能もついてる。」
こういう保険を用意しておかないと、俺の気が保たない。
「…わかった。ありがとう」
いつか…グリードと俺のことも話さないといけないな。




