閻魔
地上について眼を開けると、目の前にラスキーシュが待ち構えていた。閻魔様が前に出る。
…!閻魔様の纏う雰囲気が尋常じゃない。俺ほどでもないと耐えられない覇気。これが…異界の長。
「出待ちとはな。俺に敵うと思ってんのか?」
速いッ…!移動するとこが見れなかった。目に捉えられないほどの動き。
「あれが…閻魔。」
想像以上の強さ。俺が戦ったとて一分持てばいい方だ。まともに攻撃をくらえば一発ノックアウト。
これでは…ラスキーシュに勝ち目がない。俺はアイツとギリだが戦えていた。一度は殺せた。閻魔様にかかれば楽勝だ。
「閻魔様出してくるなんて卑怯でしょ…。」
流石のラスキーシュも閻魔様の前ではなす術が無いらしい。防戦一方だ。
…閻魔様のあの戦い方は何なのだ。もっと知的な戦い方をすると思っていた。腕に属性を付与して殴るだけ。なのに、こんなにも差が開いている。
これはたしかに戦闘狂と言わざるを得ないかもしれないな。
「こうなったら…!」
たくさんの分身を出す。どれが本物か見分けがつかない。俺に魂が見えたとしても見分けられる気がしない。
「あひゃひゃひゃ!!!雑魚雑魚雑魚!!!」
見破る以前に全部の分身を殺してしまえばいいという脳筋らしい戦略。
「がっ…」
ラスキーシュ本人に拳があたり、倒れた。だが、俺も一度は奴を殺した。脅威なのはその再生能力。
「あはっ…」
…危ない。
起き上がった奴は後ろを向いている閻魔様の頭に拳を振りかざそうとする。
閻魔様は気付いてない。隣のグリードも静観している。
戦場での迷いは死に直結する。もしかしたら俺の出る幕ではないのかもしれないが…。そんなことは関係ない。もとを返せば俺がアイツを殺せていれば済んでいた話。
俺は過去最高速で奴に近付き腹に拳をくらわせる。
奴の身体が数十メートル先に吹っ飛ぶ。
「…ありがとうな。気付いてなかった」
「えぇ。俺に策があります。閻魔様とグリードの協力が必要不可欠。」
「…わかった。言ってみろ。」
俺が思いついた策は…アイツのあれが再生能力なら確実に屠れるもの。
脳も心臓も全て潰し、一片の塵も残さず殺す。
燃やすだけではだめだった。灰にして、亡きものにする。ただ、それには多少時間がかかる。まず大前提として、グリードの最終奥義で燃やしつくせなかった。つまりはそれ以上の火力のものをこの短時間で用意する必要がある。
そもそもこの世界は、魔法といったものは基本存在しない。
妖怪などの能力を基本とされているものであり、魔法や術というような概念はない。
…だが。グリードのもつ五大奥義をただの能力として片付けるのは惜しい。そこをずっと考えていたら、ある結論に至った。
…魂から力を引き出している。魂の力を魂力と呼ぼう。
さっきグリードは言った。人間が鬼に近づこうものなら魂が砕けると。それを紐解いたら、その答えに至った。妖怪らや鬼が強いのは魂力が強いから。
能力を使うと魂力を消費するのだ。
まあ魂力を消費すると言っても制限があるわけじゃない、時間が経てば回復する。体力のように。
人によって能力の細かな違いがあるのは魂力は人それぞれだから…といえる。
まとめるならば、魂力というのは体力のようなもの。
肝心のグリードはというと、常人の約20倍もの耐久性だ。
だが閻魔様は常人の10倍程度。
それでも閻魔様の方が強いのは、技量が凄まじいからだ。技量は魂力にも勝る。
だが、終焉のような莫大な力を出す技ではグリードが勝つだろう。
今のその分析の結果を掻い摘んで伝えた。
「だから、今回のその燃やし尽くす役割はグリードだ。そして…。能力の限界を俺とともに超えてくれないか…グリード。」
…能力の限界。それは、魂力切れ。
「俺が囮をする。その間にやれっ…!」
そういって閻魔様は走っていった。行動の早い人だ。
「だが…能力の限界ってなんだ?」
「一人で撃てば魂力切れで撃てないような威力も二人で魂力を合わせれば撃てるってことだ。」
「でもそれ、できるのか?」
「あぁ。できる。要はそれぞれの終焉の威力をあわせればいい。そうすれば単純計算で2倍だ。閻魔様も頑張ってくれていることだし、俺らもやるぞ。」
ただ…二つの能力を合わせるということは、特別な詠唱が必要になる。
「詠唱はこうだ。…覚えたか」
「あぁ。」
これで布陣は整った。あとはやるだけ…。
「早くやれ!」
閻魔様が俺らの後ろに飛んで逃げた。その願いに応えるとしよう。
『天を、地を、全てを穿つ灼熱の炎よ、ここに来たれ、終焉の業火』
これが今持ちうる限りの最大火力。これでダメならまた逃げるしかない。
唱えた次の瞬間、目の前が真っ赤に燃えた。巨大な爆発。その光景はさながら災害。
終焉と違ってこれは前方にだけ爆発を起こす。代わりに終焉よりも火力は段違い。
「ッ…!」
膝をついた。俺はさっき終焉を撃ったばっかだ。
その後に終焉の強化版は身体にキたらしい。
本格的に、次はない。これでダメだったら…。
「大丈夫だ。アイツの姿はない。跡形もない。あとは…。」
グリードがラスキーシュのいた方へ歩いていく。
すると、立ち止まって空中で手を思いっきり握った。
「ラスキーシュの魂を握り潰した。…奴の魂は危険すぎる」
周囲は焦げ臭い匂いがするだけでなにもなかった。
「…大義だった。一度異界に来てくれ。私から帝人に贈り物がある。」
あ、戻った。普通、大義だったとか言われたら腹立つ自信しかないが…なぜか悪い気がしない。本当に意味がわからない人だ。
異界は、一つの国にまとめられていた。その国の長が閻魔様。そして俺らは、その国で祝福された。
「あの害虫をやったのか!」「素晴らしい!」
…など。
祝福されるのはいいのだが、追放された奴だからといって害虫呼ばわりはどうなんだ…。
「記念品を贈呈する。」
その記念品は指輪だった。
「それは魂…お前の言葉を借りて言うなら魂力を強化してくれる物だ。ここでしか手に入らない素材。」
「ありがとうございます」
指輪を嵌めると、たしかにさっきまで瀕死ぐらいだった魂力が通常ぐらいに戻っている。この魂力があれば…あるいは。
「俺は元々この場所の者ではない。帰ります。」
「お前は半人半鬼…。異界と地上を行き来することを許可する!それに同行するグリードもだ!ただ、その代わり、地上の世界情勢を定期的に教えにきてはくれぬか」
「えぇ。その程度なら」
だが…強くなる理由もなくなってしまった。
これからどうしようか。
…ゆっくり考えるとしよう。
「計画は順調か。」
「えぇ。滞りなく。皆さん、私に続いて。穢れた血に制裁を!」
『穢れた血に制裁を!!』




