衝撃
「なんで知ってるか…って?簡単だよ。グリードは俺が地上に来たのは最近の話だと思ってるかもしれないけど…。ずっといたんだよ。」
そんな…訳がない。
「そんな訳ないって?でもそれが事実なんだよ。なぜなら…。あの時追放されたのはあくまで分身だから♪」
…分身?俺ら鬼に初期からそんな能力は備わってない。それにさっきから心を読まれてる気がする。とすると…。
「まさか…お前…。」
「そのまさかだよ♪妖怪を喰ったんだ。」
「それに…分身であの閻魔様を欺けたというのか?」
あの…閻魔様を。
そもそも、異界で喰うことはできるのか…?
腹がすくという感覚が地上限定というだけで喰うという行動はどこでもできるのだとしたら。
「もし…お前が俺を喰ったら…。」
「…俺に敵う者はいない…♪」
コイツの目的は最強になることだったのか…?
「だが…。最強になればお前の好奇心はどこに向けるんだ?」
「元から最強ぐらい強いんだから、やることは変わらないよ。あっ!でも、追放の先の世界を創ってる妖怪を喰べて自分の世界とか創ってみたいかも!」
たしかに、それは心配無用だったな。俺ですら勝てない強さだ。この世界じゃ最強と言っていい。
…閻魔様に敵うかはわからんが。
「…なぁ。一つ聞いていいか?」
「なにかな。」
「お前のその瞳は…そのオッズアイは…。どうしたんだ?鬼は基本、俺のように薄暗い色だろ?それも…他の妖怪を喰った弊害なのか?」
俺の知る限りではコイツの目の色が変わるだなんて記憶はない。たしか、出会ったときから右目が黄色の左が青のはず。
「…いや、元からこれだよ。そもそも他の妖怪を喰えるのではという発想ができるようになったのは地上に行くちょっと前だしね」
ちょっと前…あの時の時点で、狂ったような今の力があったと?
「じゃあ…無駄話はここらへんにして…。」
諦めたかけた時、壁が盛大に壊れた。
「帝人…!?」
思わず声が溢れた。
「俺とコイツはもう魂で結ばれてしまったんだ。
悔しいが、コイツの方が体力が多い以上コイツが殺されると俺も死ぬことになる。それに…コイツを殺すのは俺だ。」
ごちゃごちゃ言ってるが、要は助けに来たってコトだ。あの、帝人が。
「だが…いくら融合したからって…お前でもラスは…。」
いくら融合したとしても、相手はあのラスだ。
「コイツに勝てなきゃお前には勝てない。勝つしかないんだ。」
「本当君達は…どこまでも邪魔してくれるね…」
憎悪に満ちた顔。…コイツは悪。
「ナイトとして、帝人として…殺す。」
俺は今や半分鬼、半分人間のバケモノ。だがその利は沢山ある。…まず。
普通、鬼は図体がでかい。それでも速いは速いが人間の図体で鬼の速度が出せたら…より速い!!
俺は最速でコイツの後ろに周る。
「速いッ…!?」
この速度は鬼の意表も突けるらしいな。
そして…速さに警戒させたとこで敢えて立ち止まる。
…狙い通り。標的を捉えると鞭を取り出す。
俺の狙いはその鞭。いくら俺がアイツと融合したからと言えど本物の鬼に敵うとは思えない。俺の身体の硬化の力があれば刃付きだろうが鞭などなんの効果もないのだから、殴り合いよりも隙を見て反撃する方が勝算は高いはずだ。
一回、二回…三回目は少し振りが遅い。今…!
俺は振られた鞭を掴んで奴ごと投げ飛ばす。
「がはっ…!?」
アイツは脳筋の闘い方しかしないから駄目なんだ。ちゃんと頭脳を使えば戦える。
「…やるねぇ。でも…そう簡単に倒せると…思うなよッ…!!」
「ッ…後ろ…!?」
速いッ…でも…。
「甘いッ…!」
俺も肉弾戦しかできない。だから…そっちから近寄ってくれるのは好都合でしかないっ…!!
俺は振りかざされた拳をバク転で躱し、ついでに顎に蹴りをお見舞いしてやった。
結構無理な体制からのバク転だったが、なんとか躱すことができた。
「がっ…」
ほぼ後隙なしで奴に近付き渾身の一発を腹にくらわせる。これは決まった。
「…分身だけど。」
あぁ…これは…間に合わない…。さっきもう一発、と欲張らなければ防ぐこともできただろう。
「あれ…痛くない…?」
なんで、グリードが…。
俺はただの遊び道具なんじゃないのか。なんで俺を庇う…。
「ただの遊び道具なわけねぇだろうが…!お前は…」
じゃあなんなんだよ…!
「頼む…俺はしばらく戦えねぇ。ラスを…。」
ああ…イラつく。話せよ。
「お前の中に俺の技が刻まれてるのだとすれば…。俺の五大奥義も使えるはずだ…。勝てよ」
五大奥義。恐らくこれのことだろう。
今まで俺が使ってきた技やコイツの技が視覚となって頭の中にインプットされていく。
これにしようか。
「手加減はしない。してちゃ死ぬからな。」
コイツの五大奥義…。伍。
「終焉」
その瞬間、周囲に大きな爆発が起き、炎が立ち昇る。死の匂いがしないということは…これでもまだ死んでいないのか。しぶとい奴だ。
「…死ね。」
俺は念の為持っていた予備ナイフを奴の首、心臓…あらゆる臓器に捻り込んだ。死の匂いがする。恐らく、これで大丈夫なはず。
だが、ここで一つ疑問がある。コイツも俺も基本肉弾戦しかできないのに、この奥義とやらでは爆発が起きた。それなら普段からそういう力が使えるんじゃないか?
「人間が鬼を殺す時が来るとはな…。」
「…ところで。俺はお前にとってなんなんだ?」
俺はコイツの遊び道具でしかないのだと思っていた。
「…わかった。今度こそ教えるさ。全て。」
俺は…恋をした。戦争を終わらせた後…数十年後ぐらい…また地上に行った時。
道を歩いていた。
「…どうしたの?」
そこに居たのは可愛らしい子供だった。
肩ぐらいまで綺麗に伸びた白い髪。瞳も…まつげも…白い。美しいとまで感じてしまうほどの白。
「…恐くないのか?」
この姿を見て恐れない人間は居なかった。
「だって、困ってそうだったもん。それに、私は見た目で判断しないの!」
この髪や瞳のせいだろうな。汚い人間の事だ、差別や虐待などを散々受けたんだろう。
「…そうなのか。」
「うん、そう。で、どうしたの?」
「腹が…減ってな。」
最も、人間に言ったところで…だが。
「へぇ…家で食べていきなよ!」
なんの偏見も差別もせず、接してくれた。
「いや…いい。」
「いいからいいから!」
手を引かれた。こんな体験は初めてだ。
少なくとも何十、いや百数十cmも背の高い相手を手を引いて行こうとするなんて、可愛らしい。
この少女は小さかった。軽く触れただけで壊れてしまいそうなほど。
「これはなんだ?」
「これはね、お米だよ!」
お米…?
「いいから、食べてみなって!」
鬼に人間以外を消化することはできるのか…?
柔らかい。不思議な食感だ。
「どう?どう?」
「これは…美味い。」
「良かったぁ〜、何か飲む?」
その笑顔が眩しくて。
「そう…だな、じゃあ、選んでくれ。」
「じゃあ〜お茶!はい、どうぞ」
これが…お茶。前にアイツがなんか言っていたような気もする。
「熱っ…!」
「あぁ、ごめんね、言っておけばよかった!」
なぜだか心が温まる。
「あぁ!そうだ、これあげる!」
そういって差し出したのはただの紐。
「これは…なんだ?」
「ミサンガって言って、紐が千切れるまで身につけてると願いが叶うんだって!」
「願いが叶う…?なぜこんな紐で…?」
この紐に特別な力が込められている感じもしない。もし本当に願いを叶える力があるならどういうカラクリだ?
「本当に叶うわけじゃないよ、そういうおまじないなの。」
「おまじない…?」
おまじない…呪い…?わからない。
「そういうもの!細かいことはきにしない!」
「あ、あぁ。」
地上はまだわからないことが多いな…。
「ほら、結んであげるから!」
そうやって俺の足に括りつける。
「…あ、あぁ、ありがとう…?」
どんな紐でも…これは宝物だ。
「ありがとう。今日のところは帰る。」
「うん、また来てね!」
その笑顔が眩しくて、何日か通い詰めた。
最初のうちは良かった。だが、俺がずっと同じ場所に行っているのが閻魔様にバレた。
それから少なくとも数年は地上に行けなかった。
ある日、閻魔様の目を盗んで地上に行った。
すると、とんでもない空腹に見舞われた。ほぼ意識もなく、身体が勝手にあの人の家へと向かう。
ついた頃には、もう意識はなかった。
気がついたのは、俺があの人を喰い散らかした後だった。俺は直ぐに理解した。
俺がこの最愛の人を喰ったのだと。
これはきっと、俺の強欲の代償だ。俺が欲張ったから。
俺が横を見ると、子供が居た。見た瞬間わかった。この人の子だと。白い髪に白いまつげに白い瞳。
この人は言っていた。髪とかが白いのは病気のせいだと。その病気が遺伝したのだろう。
…これが、愛する人を自分で喰い散らかすのが…この強欲の代償ならば、せめて、この人の子供ぐらいは安全に暮らせてやるべきだろう。
だが俺は鬼だ、外見も恐い。それに、俺にどんな理由があれどコイツからみたらただの親の仇。なら、思いっきり怖くした方がいいだろう。
「この女は俺が喰った。…お前は喰わずにいてやろう」
こういう、取り繕った言い方しかできなかった。
魂の方を見ると、なんと、魂が歪んでいた。
これは恐らく…コイツの先祖かなんかの、戦い好きな奴の魂が混ざっている。
魂は人格にも大きく作用する。これでは、いつか暴走してしまう。そして俺は、コイツの魂に干渉してそれを防ぐ事を選択した。
コイツには悪いが、こうすることでしかあの人への贖罪が果たせない。それとも、俺はコイツの精神が壊れるのを加速させているだろうか…?
数年後。
いつも、コイツが学校に行っている間、俺はコイツの魂の中で寝ているのだが、事件はその時に起きた。寝ている間は俺の監視の目がないから、その魂が暴れたのだ。
そして魂はコイツの友達を虐殺した。
その後にその友達の親達から「なんであんただけが生きてるんだ」「お前がやったんじゃないのか」「バケモノめ」…。そんな心もない言葉をかけられてコイツはその街を離れた。悪いことをした。俺が魂にとりついていなければ防げたかもしれない…。
俺はその魂を制御するのに手一杯で殺人の妨害はできなかった。魂に干渉している時は肉体がないからだ。
あろうことかコイツはその殺人を俺のせいにしている。でもそれで構わない。自分の魂が歪んでいるなど、帝人が知るにはまだ早い。
それならば…俺が全ての罪を被ろう。
「そんな、そんな…訳が…ない。」
ずっと、コイツは憎むべき奴だと思っていた。
なのに、護られていた?ふざけるな。
膝をついて崩れる。力が上手く入らない。
「信じられないだろうが、それが事実だしもう俺らは魂で繋がれてるんだ。受け入れるしかない。」
いつもは感情が真っ先に表情が出るなんてことはない。よほど衝撃を受けているらしい…。
俺の母親がコイツの最愛の人で、コイツはその最愛の人を喰っただなんて。
「そんなの、そんなの…。」
言葉にならない。どうやって言葉に表したらいいんだ、こんな感情。
「今まで黙っててすまなかったな。俺はもう独立したし、お前も力をもった。俺はお前から離れることもできる。
…後はお前次第だ。ナイトなんて活動ももうしなくていい。…ただ願いが叶うなら、まだお前の側に居させてほしい。」
コイツから離れるのは、当初の目的であり、俺がずっと懇願していたもの。でも…そんな、護られていたなんて知った後に逃げたいなんて…。
「もうその魂が暴れる危険性はないのか?」
「ないわけではないが…。大分心が安定してきたんだから、危険性は大分低いと思うぞ。」
「それでも…いくら事故でも、その後守ってくれていたのだとしても…お前は俺の親の仇じゃないか。」
「…あぁ。そうだな、だからお前次第だって言ったんだ。」
本当なら許せる訳がない。でも、コイツは事実うちの母さんが好きだったのだろう。なぜだかわかる。
「…好きにしてくれ。」
本当なら…ふざけるな、とでも言いたかった。
だが…こんな話を聞いた後じゃ到底言えない。
「いい…のか?ずっと、お前は俺から離れたかったはずだろ?ナイトの活動だってもうしなくていいんだ。」
「だぁ〜もう!うるさいな!また魂にとりつくなりとりつかずとも近くにいるなり離れるなり勝手にしろって言ってるんだ!細かいことは聞くな!俺でもよくわからねぇんだよ!」
「じゃあ、これからもついていく。そして…守らせてくれ。」
守らせろだぁ?
「あのなあ、俺はあくまでお前が側にいたいって言うから好きにしろって言っただけで別に守らせてやるなんて一言も…!」
なぜだろうか…全てが円満に終わったはずなのに、背中に悪寒が走る。嫌な予感…というやつだ。
「細かいこと気にすんなって。まああいつみたいな脅威ももう居ないんだし守る機会があるかもわからん…がっ…!?」
嫌な予感が的中してしまった。
グリードの腹の後ろから腕が貫かれていた。




