鬼も歩けば奈落
『あれは今から何年前のことか。100年?
怪異にも世界がある。地球の真ん中当たりの空洞に怪異の世界があった。通称異界。
これは俺がその異界にいた時の話だ。』
「おい、ラス。お前…地上に興味があるって本当か?」
「あぁ、本当だよ」
ラスキーシュ。気に入らねぇが、息だけは合うやつだ。俺が頭の右の方にツノが生えていて、コイツが頭の左の方にツノが生えていることから相棒のように扱われていた。
「地上について調べるのはご法度じゃなかったか…?」
「そうだけど…でも気にならない?あの世界が。こんな薄暗くないんだって、太陽ってのがあってさ…。見てみたいとは思わない?」
「…別に思わん。」
全く気にならないと言えば嘘になるが。
「はー、つまんないの。逆になんで気にならないの?」
「そんな話ばっかしてると追放されちまうぞ」
「俺は追放された先の世界も気になるけどね?こことは違う世界で、地上とも違う世界なんだよ?」
異界で地上の話をするのはご法度。
ましてや、興味があるだなんて。コイツ程肝の座った奴でもないとそうそう口にもしない話。
「俺は上の奴らに支配されたままこの鳥籠の中で死ぬなんて御免だよ。」
「たしかに俺も支配されるのは嫌いだ。だが、だからって追放されるのも嫌いだ。だからこれは俺の意思でここにいるだけだ。」
「…はは、グリードは面白いなぁ。」
「おい、お前ら。地上に興味があるんだってな?」
コイツはこの現場を仕切ってる奴だ。
気に食わないが仕事だけはできる。仕事だけは。
「俺はそんなんじゃない。ラスだけだろ。」
「そこでお前らにいい仕事を持ってきた。」
何だかとても嫌な予感が。
「地上の捜査だ。」
「ええっ!?やる!やるよ!」
「まあ、そういうことだから。ラスキーシュのお守りも兼ねてお前にも一緒に行ってもらう。」
「なんで俺がコイツと一緒に行かなきゃいけねぇんだ…。行かせておけばいいのに…。それに、捜査って…今更何を?」
地上に行きたいとか話してるだけで追放されるルールが作られたのも随分と昔の話だ。ルールが作られるきっかけは最初の地上の捜査のあとだったはず。たしか、最初に地上に行った奴が人間に恋をして子供を作って帰ってきた。その事件以降、繰り返さぬように、とそんなルールを作ったはずだ。
「それがな…。最近、人間の奴らに俺ら怪異の力が宿る事件が起きていて…。」
人間に俺らの力が宿る?直接とりついている訳でもないのにどうして宿るんだ…?
「なんと、目ざとい事に人間の奴らは俺らの力を軍事戦力だとかなんとか言って争いに使ってるらしい。」
俺らの力をそんなことに使うなんて…。はっ…待てよ。
「わかった。要はそいつらの争いを止めればいいんだな?」
「そういうことだ。だから捜査というのはあくまで表向きのもんだ。」
「じゃ、行くぞ。」
「あれ〜?案外楽しみだったりする〜?」
「別にそんなんじゃない。」
人間界の物はコレクターに高く売れる。
地上で上手くやれれば人間の持ってる物や金なども入手できるかもしれない。
遥か昔、俺らが生まれるより前にここと地上をわける為に作ったとされる祠だ。昔は地上で俺ら鬼も一緒に暮らしていたらしいが…。争いが絶えず、世界を隔てることにしたそうだ。この祠から地上へ行けるらしいが…。肝心の祠はもう寂れていてロクな手入れもされていない。こんなボロボロの祠から本当にワープなどできるのだろうか。
「じゃあ飛ばすぞ。3,2,1…」
次の瞬間、視界が光で満たされた。
ここでは滅多に見る事のできない眩しい光。
俺達はその光の中に飲まれていった。
「ここが…地上…?眩しい…!じゃああれが…太陽…!?」
「ん…?なんだここ…それにこの岩は…?随分と丁寧に整備された岩だな。特段綺麗というわけではないが…。しかもいっぱいある…。」
「あ〜!これお墓ってやつじゃない!?あ、みて!あそこになんかいる!もしかしてあれが人間…!なんか手を合わせてる…?」
人間は思ったより小さかった。大して背は変わらないと思っていたが…。化け猫を最大限に伸ばした時ぐらいは背が違うな。
「きゃああぁぁあぁ!?!?」
甲高い悲鳴が響く。
「そう驚くことはない、お嬢さん。ちょっとだけこの辺りのことを教えてくれればいい」
俺は己の欲のためだったらなんでもする。威圧感を与えぬように屈みながら優しく声をかける。
「あ、あぁ…。あの…あなた達は…?」
「俺らはちょっと訳アリでここのことを知らないんだが…。教えてくれないか?」
「あ…はい。いいですよ。ここは東京で…。」
「いやぁ、流石だねぇグリード。あの猫の被りっぷりは賞賛に値するよ。」
「そりゃどーも。俺は顔いいからな。」
「まるで俺が顔悪いみたいな言い方しないでくれる?俺も顔いいからね。」
「お前は性格終わってるから残念イケメンだよな。」
「性格悪いのはグリードもだろ?」
まあそれはそうかもな。
「今戦争を仕切ってるっていうこの国の中心...なんだっけ、東京?に向かうとするか。」
この国の中心は東京で、ここはそこから少し離れた場所らしい。
「ああ、そうだね。でもさ〜、俺達ってやっぱ人間からしたら怖いんだね。」
さっきの悲鳴はなかなかのものだ。
「お前はまだ華奢な方だが、それでもまあガタイはいいし、背も高いしツノも生えてるからな。人間からしたら十分畏怖の対象なんだろ。」
それにしても...なんだこの感覚は。
「なんか変な感じしないか....?」
「わかるよ、なんなんだろう…この感覚…。腹の辺りが落ち着かないっていうか…。」
身体が重くて、動かすのがだるくて…。なぜか無性に、人間に目がいく。
「もう…我慢できないっ…!」
「おいっ、ラスっ…!?」
突如、ラスが人間に向かって走り出した。
後を追うように俺も走り出す。
「これを…多分腹が減ったっていうんだ。本で読んだよ。地上には空腹っていう状態があるって…。俺らは鬼だから…人間を食べないと死ぬみたいだ。」
そん、な…。人間を食べる…?
…それが争いが絶えなかった理由だろう。
「ごめん、本当に悪いと思ってる。でも、これが食物連鎖なんだ。」
ラスが人間の腹を切り始める。
「俺も…たべ、たい…。」
人間にはさらに魂もあり、魂も食べることができたから食べてみると、人間の肉や魂はすごく美味かった。
「これ、は…。美味い、な…。」
今まで空腹?なんてもの知らなかった。
なにかを食べるという行為はあの世界に必要ない。
初めて喰った魂はすごく美味かった。
ラスは言葉を発することもなく喰べ続けていた。
「はぁ…地上は大変だね。」
「そうだな。人間と対話しなけりゃいけないのに人間を喰わなきゃいけねぇなんてな…。」
今回の仕事の内容は戦争に俺達の力を使わせないこと。俺達の力を使うことで俺らへの恐怖心を煽ることを避けたかったんだろうが、俺らがこの世界で生きるために人を殺さなきゃいけないことを考えると恐怖心は自然と募りそうなものだが。
まあ俺らは鬼だからいいものの、他の神とか妖怪は人間からの信仰なども大事な生きる源だからな。そこを考えると恐怖心を与えないというのは重要だろう。
「全くだよね。とりあえず俺らぐらいの速さだったらそこには数分で着きそうだけど」
「じゃあ向かうか。先頭は任せる」
「はぁ〜、しょうがないな」
そう言って走り出す。なぜだか前より速い気がする。
「ここが国会ってやつ?とりあえず中に入ってみようか」
「あぁ、そうだな。歓迎されるといいんだが。」
まあ、なんとなく予想はついてるが
「ひ、ひぃいぃ!!お前ら何者!?」
「俺らは鬼だよ。」
ラス、流石に初対面の人間に鬼は…。
「お、鬼!?あ、あの鬼!?」
予想通りの反応だ。そりゃそうなるだろう。
「いやぁね?君達人間が、俺達怪異の力を宿した人間を軍事利用してるって聞いてさ〜…俺らオリジナルは憤慨してるってワケ。わかる?」
どうやら鬼の存在を知っているようだが…。俺らが本で人間の存在を知っているような感覚だろうか。
「そういうことだ。まあ、こんな下っ端に何を言ってもムダだろうよ。偉い奴を呼べ。基本俺らも無駄な殺しはしたくない。」
兵のような奴らはなにやら小声で話し合った後奥へ消えていった。
「…私が今の戦争の最重要権利者だ。」
出てきたのは老人だった。
「おお、あんたが。早速で悪いんだが…。俺ら怪異の力を宿した人間を軍事利用することをやめてほしい。」
「いきなり何を申すかと思えば。鬼と言いましたが…本当ですか?現実にいるなんて聞いたこともない。」
たしかに、いきなり鬼だと名乗る奴が来ても混乱するだろう。
「ほう…。じゃあ、ここにいるお前以外の人間を殺したら証明になるか?」
「なっ…!?そんなことできないだろう!やれるもんならやってみろ!」
ラスと目を合わせ、合図をする。次の瞬間、周囲の人間の首が飛んだ。
「んなっ…こんな、こんなの…。」
「あ〜、人間ってこんな脆いのか。壁まで壊しちまったよ。あ〜いてぇいてぇ。強くやりすぎて拳がいてぇな。それに比べてお前は鞭で楽そうだよな」
「なにを言うのさ。鞭で首を飛ばすのだって難しいよ」
刃付きの鞭を使っておいてよく言うぜ。
「と、とりあえず…貴方がたが本当の鬼なのは理解しました…。ところで、話というのは…。」
「あぁ?言っただろ、俺らの力を宿す人間の軍事利用をやめろっつったんだ。できるな?」
「い、いやぁ〜、それが…彼らは今や我が国の一大戦力でして…。」
「ところでさ…なんでそいつらが俺らの力を宿してんのかってわかってるの?」
たしかに俺も気になってはいた。直接とりついているわけでもないのに力が使えるのは意味がわからない。
「えーっと…それが実はよくわかってなくて…」
「はぁ、それも知りたいが今は軍事利用をやめさせる方が先決だ。で…どうしてもやめてくれないっつーんなら…。俺らが戦争を終わらせる。一対一でやってんのかもっと複数の乱戦なのか知らないが…。俺らの要求を飲まなかった場合俺らが戦争してる国のお偉い野郎共を皆殺しにする。そうすれば戦争は終わるだろ。さて、どうする。」
人間は結構脆い。国が全部でどのくらいとかは知らないがまあなんとかなるだろ。
「ところで…なんでそんな怒ってらっしゃるんですか?大体、能力を使ってるからってあなた達に直接害があるわけでは…。」
「害ならある。俺らへの恐怖心が高まってしまう。元々異形の物は恐怖の対象なのに、軍事利用されてしまえばより恐怖心が募る。それに神とかも異界にいるわけだが、神はお前ら人からの信仰がないと力を無くし、やがて死ぬ。それは防がねばならない。最初に俺らの力を利用しようとした時点でお前らの負けなんだ。諦めろ。」
「いえ…で、ですが…少し話し合う時間をくれはしないでしょうか…?」
話し合う、か。まあ、それぐらいなら。
「ま、いいんじゃない?急なことだろうし。」
「あぁ!なんとお優しい!特別に貴方がたの部屋を用意させていただきますので!」
「料理は用意されたが…。これを食べて腹は満たされるのか…?」
「さぁね。食べてみないとわからないよ。」
目の前に用意されたのは肉。
なんだ、この、感覚…は。意識、が…。
「ごめんね」
ん…?ここ、は…。なんだ、これ。力が入らない…。
「ラスっ…!?お前っ…!」
クッソ…身体が思うように動かない…。はめられた…。
「グリードの力なら、ここをもっと…。」
なんで俺はこんな牢屋…?に入れられてるのにコイツは…!
「おい、ラス…!なに考えてんだ!!」
「あぁ…ごめんねグリード。これは俺の好奇心の結果だ。君を差し出せばなぜ能力持ちが生まれたのかを教えてくれるっていうからさぁ…。で、ごめんだけどグリードの力は俺が封じてる。」
どおりで身体が動かないわけだ。でも、いつ話す時間が…?
「おい…ラス。調子乗ってんじゃねぇぞ。俺、言ったよな。支配されるのは嫌いだって。」
「うん。いったね。」
「だから…。」
俺は牢を蹴り破る。
「なっ…!グリード、俺が抑えてるのになんでそんな力が…!?」
もうどうでもいい。俺は本来強欲のはずだが、もうそんなのどうでもいい。人間もこの世界もぶっ壊す。
「もうどうでもいい。お前は殺せないから上に言って追放してもらう。そんで、話し合いは無理だとわかったから、戦争を無理やり終わらせる。」
周りもなにも知ったこっちゃねえ。
「五大奥義…伍。」
「終焉」
俺じゃ殺せないのはわかってるが何もしないのも腹が立つ。
終焉は、俺を中心として周囲半径1kmに爆発を起こす、まさしく最終奥義だ。
その後、俺は世界中の偉い野郎を殺して周った。
ある者は泣き叫び、ある者は許しを乞いた。
それを全無視で殺して周った。
ラスの野郎は一度異界に帰った時に上に報告し追放された。
体感100年後。
再び地上に戻ってきた。人の味が恋しくなった。
『そして偶然喰ったのがお前の母さんだったってワケだ。』
「なる、ほど…。でも、歴史にそんな話はなかった気がする…。」
『人間のことだ、どうせ都合の悪い事は揉み消したんだろ。んで、これが俺の過去とさっき会った奴が危ない理由だ。』
ラスキーシュ…なんか、好奇心は猫をも殺す、の体現のような人だな。
「その好奇心が俺に向いたって言うのか?」
『その通り。アイツは俺からお前を取ろうとした。』
「じゃあ、昼にあんまここにいちゃいけないって言ってたのは…。」
『そういうことだ。』
「ところで、追放された奴が戻ってくることはあるのか?」
『いや…例はない。かれこれ千年以上生きてきたが聞いたことねぇ。そもそも追放先の世界自体話に聞くレベルのあやふやなもので詳細は作った奴しか知らねぇよ』
世界を作る?そんなことが可能なのか…。
『とりあえず気をつけろって話だ。』
「あぁ。…でも、そんな奴にどう気をつけろって?」
そんな凶暴?な奴なら俺でも勝てないと思うんだが。
『あ〜…。そうだな…。これ以上強くなる方法はあるにはある。だが…。』
「だが、なに?」
『お前が今学校でついてる嘘は通じなくなるし身体や魂への負荷も計り知れない。それでもやるか?』
嘘が通じなくなる…つまり外見に変化がでるってことだろう。魂への負荷…はちょっとよくわからないが…。
「やるかどうかは別として話は聞いておく。」
『簡単だ。俺の身体の一部を喰えばいい。』
んなっ…!?鬼の身体を…?
「で、でも…お前こうやって魂に住み着いてる時に実体は無いよな?」
『だから、お前がやるって言うなら一度俺は魂から離れて独立する。』
これは…コイツの支配から解き放たれる唯一のチャンスじゃないか?でも…もし逃げたとして、コイツと戦って勝てるのか?逃げ切れるのか…?
「ちょっと考えさせてくれ」
どうする…そこで素直にまたとり憑かせてしまえばこの生活に逆戻り…。せっかくのチャンスを活かさない手は…ない!




