能力競技祭
「能力競技祭...たしか、普通のスポーツに能力の要素を足した能力スポーツの学校全体での催しだ。」
バスケやサッカーの上位互換、のような認識をされている。
「それ、わしがやったらほぼ反則じゃないかの?」
「詳しくは聞かないとわからないが...。あと、正体隠すの忘れてないよな?」
「スポーツかあ、楽しそうだね!」
なにより...吸血鬼の一件が片付いたことで、来週からは普通に学校だ。また、俺の日常が返ってくる。
「っけねえ!!遅刻!!」
俺はクロノスと桃香を両脇に抱え、全力で走る。
「わしが時を止めてやろうか?」
「お前が運んでくれるんだったらいいけどなッ!」
クロノスが時を止めている間は本人以外動けない。この場面で時を止めたところで全くの無意味だ。
そんなことを会話しながら。なんとか校舎まで着き、二人を降ろす。
「はぁ...ハァッ...。」
息を荒げながら教室へ向かう。なんとか間に合ったみたいだ。
机にぐったり身体を預ける。
「しんど...。」
夢現な状態で、昨日の夜のことを思い出す。
今日の組織がなんだったのか...。ナイトなら、なにか探れるかもしれない。
見る限り、街に異変はない。それだけ、組織が上手い奴らだということ。...そういえば。
「...ということで、なにか知らないか。」
斎藤先生の家に訪れていた。先生の他にも、そのお兄さんや莉もいる。なにかしら情報が得られる確率は高い。
「...わからんなあ。」
「そうだな...僕も知らない。そもそも、その魔術...?という存在自体、今初めて知ったよ。」
まあ、こんなことだろうとは思っていた。
「じゃあ、まあそっちはいい。麗央...単刀直入に聞く。俺の父親について、知っていることはないか。...開楼悠人について。」
「やっぱりなあ...開楼って、あの人の子供やったんか、自分。」
あの日、名乗った時に開楼という名字がなにか引っかかったようだから。なにか知っているんじゃないかと思ったが...ビンゴだったか。
「開楼さんは...。オレの師匠や。オレは元々能力について研究しとった。能力の可能性、能力がどこから来たのか...要は、じいちゃんの真似事を。なかなか成果が出んで落ち込んどった時に一緒にやらんかって誘ってくれたんが開楼さんや。あの人の方が年上やったから...オレはあの人を師匠、師匠と崇めた。」
たしか...愛王さんの話では、ロボットの研究をしていたと...その前には能力について研究していたということか。
「だが...あの人は、ある時から...狂ってしもうた。奥さんの死や。奥さんの死で...あの人は狂ったようにAIやロボットを研究しだし...挙句...。」
挙句?愛王さんはロボットを研究していた時のことしか知らない...ということか。その後があるんだな。
「挙句に、死者を蘇らせるとか、わけのわからないことを...。」
死者を蘇らせる?そんなの...能力の範囲じゃやりきれない。頭に、ただ一つ、最悪の仮説が浮かび上がる。
「それは...魔術じゃないか?」
「魔術...?あの人の研究室を見ればなにか見つかるかもしれんけど...。」
「それだ...研究室はどこにある!?」
敬語もなんも忘れて、夢中で。
「ここだ。」
そういって差し出されたのはスマホの地図アプリ。
「これは...。」
家。自分らが住んでいる、家。
「地下があるっていうのか?」
「あぁ。」
「奥さんを亡くして...ショックで家を飛び出した...って噂や。悪いが、その先の場所まではオレにもわからんしこれが確かな情報とも言えん。」
その情報だけでも大収穫だ。正直どっちもあまり期待はしていなかったんだがな。
「ありがとう。それだけで十分だ。」
もし手記みたいなものがあったとしたら、組織の名前まで見つかるかもしれない。
即刻家に帰り、調べよう。
「グリード、この家に地下があるってのは本当か?」
「いきなりなんだよ...眠いんだが。」
地下を調べるためだけにグリードを叩き起こした。
「ここの地下に俺の父の研究室があるらしい。それが見つかれば組織への足がかりとなる。」
そう思い、しらみつぶしに調べてみたが...まるである気配がない。
「地下室なんて本当にあるのか?」
グリードがそうぐちぐち言い出すほどに。
「これは...次に持ち越しだな。」
そんなこんなで寝るのが四時ほどになり、二人も疲れていたのか起きるのが遅くなり...見事に遅刻ギリギリということだ。
「ふぁ〜ぁ...。」
正直、いつもから寝る時間は少ない。日中は学校、夕方、夜はナイト。半人半鬼だから、寝る時間は3時間もあればいいのだが...人間である以上欲求に完全に耐えきることは難しく、寝すぎてしまうことが多々ある。そして今日は他でもないその日だったのである。
「よし、今日は再来週の能力競技祭に向けてまず出場競技決めと練習を行う。」
出場競技...。たしか、学年で一丸となって戦う、絶対参加のリレーと、後四つの競技から好きなものを選ぶんだったな。一人最大二つまで参加可能...と。
「じゃあ...まず、競技の簡単な説明から...。」
説明を要約するとこうだ。
出場競技はまず全員強制参加の一般的なルールのリレー、次に任意参加の能力サッカー、能力バスケ、能力二人三脚、能力リレーの計五つ...いや、バスケだけは男女で別れているために計六つか。
能力サッカーは、難しいルールを全て省き、とりあえずゴールにボールを入れたら点が入る。炎を使おうが時を止めようがなんでもいい...らしい。バスケもほぼ似たようなものだ。ただ、バスケは、少しルールが厳しい。選手は技を予め用意しておき、運営側に報告。そして試合中はその認定された技だけを使用可能、あと屋外でやるということ以外はほとんど普通のバスケと変わらない。
次に、能力二人三脚。最悪の場合歩かなくてもいい。飛んだってジャンプしたって構わない。足さえ繋がっていれば。だが、他の選手の妨害は禁止。チームワークが大事...というのは普通の二人三脚も能力二人三脚も変わらない。
そして最後、能力リレー。能力リレーは普通のリレーと違い、様々な能力が使用可能となる上、ほか選手への妨害も可能。死なない程度の技ならなんでもよし...ということだった。
「じゃあ、出場する競技を選んでくれ。十分後に聞くから、好きに立ち歩いたりして話して決めとけよー。」
さて...俺はどうするか。リレーもありだが...個人的にはサッカーがやりたい。楽しそうだ。
「お兄ちゃんは何やるの?」
「俺は能力サッカーがやりたい。」
「はは、無双しそうじゃの。わしは...うーむ、どれもあまりあわなそうじゃな..。」
クロノスは神というだけあって元の身体能力もある程度高いが時を操れるという最強で唯一の技を封じられると途端にちょっと身体能力がいいだけのただの人間と同じくらいになってしまう。しかも学校にいる間は正体を隠している。すると、能力使用禁止の通常リレーぐらいでしか本領を発揮しきれない。これは、クロノスに非常に不利だ。
「能力が使えればいいんじゃがのう。」
「まあ任意だから参加しなくても...。」
俺がそう言うと、クロノスは急に顔色を変えた。
「せっかく華の高校生じゃって言うのに参加しないはないわ。」
うーん、まあそれもそうというかなんというか...。
「じゃあ、わしは二人三脚に出るとするかの。桃香は?」
「うーん...。私は...。別にいいかなぁ..。運動あんまり得意じゃないし。」
あんなに戦闘のセンスがありながら運動が得意じゃない...だと。
『じゃあ我が代わりに出てやろうぞ!!我はこの能力バスケとやらがやってみたい!!』
亡霊王、あんなにしつこく学校に居る時は出てくるなって言ったのに...馬鹿か?
『灼熱』
俺が炎を出して亡霊王に向けると、ヘラヘラして手を上げた。
『あ〜あ〜、やめいやめい。いやあ、せっかくだからクロノスと一緒にでてーなーみたいなな?』
全く弁明になっていない弁明。
『灼熱-X』
『あっち!!!やめんか!!それが妹の命を救っている者への態度かって!あぎゃあぁッ!!』
俺が亡霊王をダウンさせると、周りの視線が俺に釘付けなことに気がついた。
「....今のなんだ?」
先生が訝しげに問う。
「気にしないでください集団幻覚と集団幻聴です。」
はあ...散々だ。桃香がでないからーなどと言い訳していたが結局は自分が祭りごとに出たいだけだろうに。
最終的に桃香が「それでもいいよ」というから出てもいいと言うことになったが...。嫌な予感しかしない。
『そんな顔をするでない!!この亡霊王がついているのだッ!このチームの勝ちは約束されたも同然じゃろうて!』
そう意気込む亡霊王をよそに、俺は藍達の参加種目に目をやる。あいつらも俺と同じでサッカーらしい。藍がいれば心強い。
「同じサッカーだね、帝人。頑張ろ...って言っても、帝人じゃサッカーでも無双しちゃうのかな。」
「そんなことはない。俺でも得意不得意はあるさ。」
いくら半人半鬼とて、最強でも全能でもなんでもない。半人である以上人の領域からは出られない。
「でも、運動じゃ右にでる人はいないんじゃない?」
「...人間ならそういないな。」
俺の力は努力で身につけた物もあるが大半は能力の部分が大きい。
「...まあ半分人間やめてるんだもんね、そりゃいなくて当然か。」
「半分やめたぐらいでは最強の片鱗すら見えなかったがな。」
俺がそう発すと、藍は真剣な眼差しでこっちを見た。
「帝人は...どこに向かおうとしてるの?」
「そんなの、勿論...最強だ。周りの人間を、日常を...。あらゆる物から守れるほどの、力を。たとえそれで人間を完全にやめたとしても...俺はその力が欲しい。」
「...そっか。」
藍は冷たい相槌を残して去っていった。
元より、精神面ではとっくのとうに人間などやめてしまっているがな。人を当然のように殺してなんの心も痛まない者など、人間ではない。そんな汚れた手で、周りの人間を守るなどと宣っているのだから余計に救いようのない化物だ。そんな終わりのない自責を終えた後、桃香の元へ足を進める。
「...桃香。」
「あ、お兄ちゃん。何?」
能力競技祭の要項に目を落としていた桃香はすぐこっちを向いた。
「いや、なんでやらないんだろうな...と思っただけだ。」
「私、あんまり運動が得意じゃないから...。怖いんだ、みんなの足を引っ張って...。」
そう話しをしだす桃香を、俺は遮った。
「そうか。暗い話させて悪かったな。なあ、見てくれ、これ。帰りにでもどうだ?」
桃香に刺さりそうなスイーツのお店。
「....うんっ!」
その笑顔が作り物なのか本物なのか、俺にはわからなかった。
その後、桃香とクロノスと俺の三人でスイーツを食べて帰った。
「ただいま...って、グリード。」
俺がグリードを認識すると、すぐさまテレパシーが飛んできた。
(空振りだ。なにも掴めやしない。今までの組織がいかに杜撰な奴らだったかがよくわかる。情報一つ掴めやしなかった。これで振り出しだ。)
振り出し...ではあるものの、相手の組織がなかなかに強大だということはわかった。だが...これでは愛王が浮かばれない。いつまでも父親がいないままっていうのは...。あまりにも。
(この家の地下が見つかれば話は早いんだがな。)
俺の親父の秘密が眠っているであろうこの家の地下さえ見つかれば...。もしくは、書斎...。
(一つ、突破口を見つけた...かもしれない。)
そうして場所を移したのは物置部屋。俺が小さい頃から状態はほぼ変わっていないが...。もしかしたら、なにか地下への足がかりとなるかもしれない。
(この部屋は元々は父が使っていたらしい。研究に本腰を入れるごとにもので溢れて地下を使うようになったっていう話だったが...。)
愛王さんの話と俺が知っている情報を合わせると...。父は、俺が生まれる前にはこの部屋で研究をし、俺が生まれてからは地下に篭り...。母さんの死をきっかけに人知れず外へ出ていった...か。もしかしたら、母さんの部屋からも何か出てくるかもな。
頭の中で情報を整理しつつ、手を動かしていく。
だが...。なぜ俺は父さんの存在に微塵も気が付かなかったのか。いくら地下に篭っていたとしても食事や飲み物を持っていく母さんの姿くらい見ることはあったかもしれない。俺が覚えていないだけなのか、なんなのか...。
「...!」
手にしたのは、一つの写真立てだった。埃を払うと、それは...。恐らく父親であろう男と、母さんの姿。俺が生まれる前の写真だろう。
「....それ、は。あの人の....。」
グリードの目にも映ったらしい。なぜか...引き寄せられる。目が離せない。
「...?」
写真立ての裏側に、なにかが挟んであるのがわかった。...紙だ。
幾度か折られた紙を広げると...。そこには長文が書かれていた。
『桃...俺は外に出るよ。外にはもっと研究に役立ちそうなものがあるからな。来年には一度戻ってくると思うから。そうでなくても俺は直接顔を合わせられないし...帝人を頼んだよ。 悠人』
父の...母さんへ向けた手紙。...そうか。
父さんは母さんが死んだことにショックを受けて出ていったんじゃない。出先でショックを受けて戻ってこなかったんだ。だけど...。『そうでなくても俺は直接顔を合わせられない』...これは、一体どういうことなんだろうか。それに、俺は直で父親の姿を見たことがない。それも...関係があるのか?
「...グリード。」
俺の心を読んだのか、空気を読んだのか知らないがグリードは答えた。
「俺はなにも知らない。第一、俺が知っているのはあの人の子供の頃と俺が喰う直前だけだ。...まあ、随分といい家だとは思ったが。」
それは...そうか。グリードが知らないのも無理はない。ただ...それ以上に、こんな手紙がなぜ物置に...?次から次へと疑問が押し寄せる。
すると、次の瞬間、とんでもない眠気が俺を襲った。
「...今日はここまでだな。ありがとな。」
よろめいて物に手をつきながらそう答えた。
「あぁ。」
親の秘密を...俺は、いつ暴くことになるんだろうか。嫌な予感がするんだ。とても、嫌な予感が。




