私にできること
私の頭をぽんと叩いてお兄ちゃんは部屋を出ていった。
「本当...ずるい人だなあ..。」
そそくさと着替え、ゆうちゃんの元へ足を動かす。
「ゆうちゃーん?」
まだ寝ていたゆうちゃんは...とてもうなされていた。起こしていいのかもわからないぐらい...。
「んん...凰...。」
凰...?ゆうちゃんは神で長生きだから...。多分、長い生の中の誰かの名前なんだろうけど...。その顔は随分と悲しそうなものだった。
「ッ...!!ハァッ...ハァッ....はぁ...。」
急に飛び起きて、喘ぐように呼吸すると、私に目線をやり、徐々に落ち着きを取り戻していく。
「うなされてたけど...大丈夫....?」
「ちょっとな..随分と昔の夢を見ていたようじゃ。気にせんでよい。」
本当にそうなのか...と聞きたかったけど...。今のゆうちゃんの様子を見る限り、聞いてほしくなさそうだし、聞いてなにか得があるとも思えなかった。
「んじゃ、少し準備してさっさと帰...。」
ゆうちゃんの顔が険しくなる。
「桃香、気を引き締めよ。賊じゃ。」
すると、私の中からキーンも出てくる。
『そうだなあ、全三十人。ここでやっとくかあ?』
「一人は残せ。わしが見る。」
また...私抜きで話が進んでく。私が弱いから、話に入れてくれない..。
「桃香?聞いておるのか?」
「えっ?ご、ごめん。聞いてなかった、何?」
頭が真っ白になって声が頭に届かなくなってたみたい。
「桃香にも手伝ってほしいんじゃ。敵..そうじゃな、一人でいい。一人、眠らせてくれ。それで運ぶ。」
「...私の、獏の能力で?」
「あぁ、薬とかがない以上それは''桃香にしかできない仕事''じゃ」
それだけで...その言葉だけで、心が軽くなった気がした。
「うん、わかった!」
「チッ...。てぇな...。」
身体の節々が痛い。なんとか生きはしたみたいだが...。
「そっちは大丈夫...か?」
「あ、あぁ...。なんとかな。年寄りにはちとキツいがな...。」
よかった、愛王さんも生きているようだ。それにしても、あの高さから落ちてよく無事だったな。半人半鬼の俺はまだしも、サトリの能力だけで生き残るとは...強靭だな。
「こんな満身創痍で無人島とか大丈夫かよ...?」
って...。なにやら見覚えのある人影が...。
「帝人?こんなとこで何してんだ?」
...グリードだ。
「まあ...ちょっとな。つか、グリードこそなんでこんなとこに。」
「今俺が追ってる連中のアジトがこの近辺にあるって噂でな。」
そういえばグリードは最近裏の連中を追ってるとか言ってたか。なら、さっきの奴らはそのグリードの追ってる奴らは同一の組織と考えていいだろうな。
「俺らも多分その組織の奴らにやられた。ここに親父がいるというガセネタを掴まされたみたいでな。」
「なるほどな。あいつらのやりそうなことだ。」
愛王さんは流石に無茶が祟ったのかダウンしている。今のうちにやれることをやっておかなければ。...と、その前に。
「帰る手立てはあるのか?」
「いいや、残念ながらない。俺は鬼だから他の動物には狙われないから、俺だけなら問題はなかったが...。帝人やそこの奴も一緒にと考えたら帰る支度を整えるのに数日は要すだろうな。」
数日か。まあ、数日程度でよかったと思うべきだろう。
「俺は木の実を収集してくる。帝人は近辺を見ておいてくれ。」
そういってグリードは茂みに消えていった。
「まあ、サバイバルで大事なのは水だよな。」
だが...水の濾過ってどうすればいいんだ...?...そうだ。
『闇の繭-改』
これで砂などを省き...。
『灼熱』
邪魔な物を省いた状態で加熱すればいいだろう。そして、全体的に大きくしていけば..。効率的な濾過装置の出来上がりだ。まあ、魂力を常に使うことを除けば完璧だ。
「っ...。」
愛王さんが目を覚ましたようだった。
「大丈夫ですか?」
「あ、あぁ。すまない、手間をかける。って..。」
愛王さんは目の前の濾過装置に目を丸くする。
「これで水を濾過しているんです。」
「能力とは...便利だな。」
愛王さんはそこそこの年を取ってはいるが...弱くはない。離れても大丈夫だろう。
「少し周りを見てきます。それでほぼ半永久的に濾過し続けられるので好きに飲んで構いませんよ。」
島はそこそこの大きさだ。これなら数日過ごすだけの資源も食料も十分にあるだろうな。
あとはいい感じの洞穴を探すだけだ。森を駆け抜け、土地を脳に焼き付けていく。
「...?」
湖...と、その付近にワニがいるな。ワニは食べられる。いい食材だ。
剣を出し、そっと近付く。いくら半人半鬼だろうと、野生動物に近寄られたら危ない。
「はぁッ!」
頭のところに剣を突き刺した。周囲に血生臭い香りが漂う。
「臭みがすごいな..。」
ワニの死体に近付こうとした、次の瞬間。
「は...?」
目の前に、龍がいる。なぜ...?なにより、龍がいるなら他の...異界にいるような奴がいてもおかしくない..。
「安心せよ。ここには我しかおらぬ。」
しかも喋るのか...。
「半人半鬼よ、ここは異界と繋がる湖なのだ。閻魔様から我がここを守れと直接命じられたのだ。して、こんな辺鄙な地になんの用かの?」
祠以外に、異界と繋がる場所があったなんて。初耳だ。
「少しあって、遭難...みたいな感じだ。数日ですぐ帰る。人間にこの湖のことは伝えない。」
「そうかそうか、なら良い。ではな。」
そういって湖の中に消えていった。なんだったんだ...。
それはそうとて、洞穴を探さなくてはな。
「よし...これで大丈夫かな?」
敵の男の人を一人眠らせる。
「全く、後ろがお留守じゃぞ。気をつけよ。」
「あぁ、ごめんごめん。」
私のすぐ後ろまで迫った敵をゆうちゃんがやっつける。本当、強いなあ...。ゆうちゃんは神だけど、時を操れること以外は私とほぼ変わらないはずなのに。
「あとは亡霊王に任せてコイツを中に運び込むぞ。」
「うん、わかった。」
ふと空に目線を移すと、キーンが派手にやってた。本当、あんなのが自分の体内に住み着いてると考えるとなんだか...。
「はっはっは!!どいつもコイツも骨がないな!!まともにやれるやつぁいねえのか!!あぁ!?」
...なかなかの暴れっぷり。
苦笑いを零しつつ、男の人を建物の中に運び込む。
「この男の人に何するの?」
「まあ...あんま見るのはおすすめせんが...。」
そういうと、男の人を椅子に座らせ、腹を蹴る。
「起きんか。」
な、なんか...ゆうちゃんって荒っぽいんだなぁ...見た目で私と同い年ぐらいに錯覚してしまうけど、神だし、なにより何千年も生きてきたわけだし...。
その間にも起きるまで容赦なく蹴り続ける。
「がはっ!?」
「...。」
なにも発することなく、ただ見つめ続ける。
「...主は?」
気付けば、部屋から離れていた。たしかに、蹴ったことは衝撃的だった。だが、本当に怖いのはそこではない。相手を見つめる眼差し。冷えきった鋭い目。まるで、獲物を見据える肉食動物のような。
「終わったぞ。」
「お、お疲れ様。」
私の歯切れの悪い返事から何か察したのか、戻ってきたばっかなのに背を向ける。
「その...。外の様子を見てくる。」
発そうとした言葉は...喉に締め付けられて消えた。
そこにあった感情は、恐怖かもしれない。
特別なにか暴力を振るったわけじゃない、拷問したわけでもない。それでも、あの纏う空気は、今までのゆうちゃんからは感じたこともない...。ゆうちゃんが神なんだと、人間ではないのだと、そう再認識させる要因としては十分で。
なにをしたのかが気になる。そう思い、さっきの男の人がいる部屋へと向かった。
「...え?」
男の人は、傷一つ負って居なかった。あんなに蹴っていたのに?
「時を戻したんじゃ。その男の肉体の。」
そんな器用なこともできるんだ...。そんなことができるなら、きっと男一人確保するのにだって、私の能力を使わずともできたはず。気を遣われていたことに気付いて、尊敬と罪悪感が押し寄せる。
「...怖くないのか?」
「全く怖くないわけじゃないよ。でも...驚いただけ」
言い切る前に、ゆうちゃんが私に抱きついてくる。
「っ...よかった。嫌われたかと思った。あの、なにか得体のしれない物を見る目...。」
「大丈夫、私は、そう簡単に人を嫌いになったりしないよ。」
「...それでも、ありがとう、と言いたい。わしは」
心のどこかで、ほっとした自分がいた。なんでかはわからないけど...。すると、キーンがやったであろう死体がガラスを突き破ってくる。雰囲気が台無し...。
「うん、キーンは本当強いよね。」
「まあ、世界の理じゃからな。強くないわけがない、というかなんというか...。」
そういえば、と思ってたことを零す。
「それで...なにかわかった?」
「いいや?下っ端もいいとこで、有力な情報は何一つ得られなかった。もしかしたら....。」
「もしかしたら、何?」
「...いいや、なんでもない。」




