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闇の覇者  作者: 快良
29/33

父親

「俺の父親...ですか?」

俺の父親は...この人と面識があったのか?

「あぁ。あいつは...。あいつとは、大学の時に親友ぐらいの関係値で...。数年後に会ったら、あいつは変わっていた。元々研究とかを専攻していた奴だったんだが...。」


「おい、これ...。」

床に数多の部品が転がる部屋の中に、ぽつんと佇む少女がいた。だが、少女の様子はどこかおかしい。びくともしなければ目も開かない。肩を見てわかった。これは...人間ではない。ロボットだ。

「あぁ、ヌル?ヌルはな、俺が最初に感情を与えようとしたロボットだ。」

「ロボットに...感情を?」

「あぁ!AIは普通感情を持たない。でも、感情を持ったとしたら色んなことに使えると思わないか?」

AIに感情を与えるというのか。たしかにいいこともあるだろうが...リスクの方が高い気がする。

「それに!俺は...もう愛するものを失いたくないんだ。ロボットだったら、定期的な点検だけで済むし、いくらでも一緒にいられる...。人間と違って死んだりしない。」

そういえば、こいつは奥さんを亡くしてるんだったか。

「そ、そういえば、子供いたよな?」

「...桃は他殺だったんだ。それで、帝人が生きてるっていうのか?」

たしか、息子さんは普通の男の子。俺らみたいに能力持ちでもなんでもない。

「犯人は捕まってないのか?」

「あぁ。見当すらつかずお蔵入り。桃...。」


「多分...。悠人は今もどこかの研究所でロボットの研究をしているはずだ。会ってやってくれないか?居場所はわしの方で調べる。これは...あいつの友人としての頼みだ。」

父親...。あまり記憶はない。おそらく、元々ということは俺が生まれてからも研究ばっかだったんだろう。それで...か。たしかにな。

「...わかりました。俺としても気になっていたので。」

「...ありがとう。あいつは今どこで何しているのか...。」

研究者、か...。うちの親父が何をしていたのか...。気になるな。もし会えそうなら桃香のことも紹介したいしな。

「他に用はありますか?特にないようなら、桃香やクロノスの様子も気になるので、そろそろ戻りたいのですが...。」

「...そうだな。わしの方こそ、せっかくのパーティの最中なのに、呼び出して悪かったな。一緒に戻ろうではないか。」

「いえ、お気になさらず。」

そうして俺達は愛王さんの書斎を後にした。

廊下を少し歩き、愛王さんはパーティの会場である広間の階段の上に立つと、言葉を発した。

「皆!聞いてほしい。この者が今回の吸血鬼討伐を達成した若き英雄、開楼帝人である!」

そういって俺の方に手のひらを向ける。なんだか照れくさいというかなんというか...。

次第に人々のざわめきは大きくなっていく。

「では、引き続き楽しんでくれ。」

喧騒の中、こっちに寄ってくる少女がいた。愛王だ。

「...ありがとう。」

「は?」

つい声が出た。そもそも愛王から感謝されるようなことはしていないし愛王が感謝するとは思えない。

「お父様、こういう場が嫌いなの。よりによって自分の家で盛大に、なんて。でも....。今のお父様、すごく元気に見えた気がして...。」

父親想いなんだな。そういえばあの時、『亡き母の』って言ってたか。

このきらびやかな装飾は、こういう事があるからなのか...。そりゃ、あんな反応にもなるか。

「...悪かった。」

それ以外に、返す言葉が見つからない。どれだけ自分の中で言葉を探ろうとも、見つかることはなかった。

「え?」

俺の突然の謝罪にビックリしたようだった。

「...この前、随分と着飾った家だなんて言って、悪かった。」

「...へぇ、優しいのね。」

「いいや、全然。」

ふと雑踏の中に目をやり、桃香を探す。またさっきのようなことがあっては...と思ったのだが、平気そうだ。クロノスと一緒に料理を取っている。

「行きたかったら行ってもいいのだぞ。」

愛王さんが気遣いをしてくれたようだが...。

「いえ、お気遣いなく。俺はこの席の主役ですので。」

「そうか。助かるよ。...でも、君は普通の家の出だろう?なぜ...なぜ、そんなに空気が読める?」

俺なんて、まだ読めない方だというのに。

「普通の家の出だからこそ...です。俺みたいな奴は、あなた方みたいな生まれ持っての気品やオーラがない。だから、その分俺らは努力して空気を読み、場を乱さないようにしないといけない。」

「そう...か。苦労も多そうだ。」

それを貴方が言うのは、捉えようによっては嫌味にもなるでしょうに。


パーティーも円満に終わりを迎え、今はもう月が落ち始めようかという時刻。俺達は英雄ということで屋敷に泊めてもらったのだが、あまりにも寝られず、テラスで風を浴びていた。

「...寝られないのか?」

振り返ると、そこにいたのは大柄な男だった。

「...愛王さんこそ。」

「あぁ。こんなのは久しぶりでな。」

本人の性格上、避けられない事態でもないとこんな催しなどは開かないのだろう。気苦労が見て取れる。

「...なぜ、きらびやかな物があまり好きではないのですか?」

大体の金持ちは豪華な物を身につけるものだとばっか思っていたが...。

「なに、特段なにがあるわけでもないさ。ただ...。ダサいだろう、見せつけるように着飾るのは。」

...そんな人が、この家を持っているのか。

「だが...この国のお偉い野郎共が求めるのはこの家のような豪華できらびやかな館。」

そう語る愛王さんの背中を、月が照らし出す。

「...昼間の件、もう進展があった。」

探すって言ってたのは今日...というか昨日か。昨日の昼間だったのに、もうわかったっていうのか?

...まあ、凄腕の情報屋くらいこの人の立場なら雇うのは簡単だろうな。

「アイツは...。どうやら、孤島で研究をしているらしい。変わってしまったアイツを正すことができるのは...。多分、お主だけだ。ジェットも用意してやる。」

大層な剣幕だ。だが、俺の頭の中に一つの仮説が浮かび上がった。

「俺は...。子供の頃より見た目もなにも違う。それで本当に父をどうこうできるのでしょうか?」

「最悪なにもできなくてもいい。ただ、顔を見せてやるだけで..。」

そう語る彼の目は、どこか悲しげだった。

「ふわ〜ぁ...。」

あくびが漏れでる。

「はは、話してたら眠くなってきたようだな。なに、そう気負うでない。リラックス、リラックスだ。」

そう言い残してテラスを去っていく。

愛王さんは...俺の頭の中でも読めるっていうのか?

忙しなく動いて、考えを止めてくれないこの俺の脳を。

「...寝るか。」


「おはよ、お兄ちゃん。」

桃香の声がして目を覚ます。

「...??」

目の前に居た桃香は、随分とかわいい衣装を身に纏っていた。そう、メイド服だ。なぜ、本当になぜ...??

「メイド服さ、一度着てみたかったんだよね〜!それで、ありますかって聞いたらあるっていうから着せてもらっちゃった!」

愛王さんはなにしてんだ...。

「いいか、桃香。」

そっと声を抑えながら。

「その姿は俺とクロノス以外には見せるなよ。お兄ちゃんとの約束だ。」

昨日のようなことがあってはいけない。

「...?わかんないけどわかったー!」

そこがわかってないとだめなんだって。

「いいから、早く着替えろよ?あと、今日は用があるから、クロノスと一緒に帰ってくれ。」

俺は身体を起こし、伸びをしながらそう言う。

「...そっか。わかった、着替えてくるね。」

また、空気で伝えてしまったのだろうか?桃香は...桃香は、活発系ではあるが...決して馬鹿ではない。ある程度の空気は読める。だからこそ、この前のような衝突が起きてしまった。桃香に何も語らずとも察してくれるから。俺は...そんな桃香の優しさに甘えているのだろう。

「...そんな顔するなよ、明日ぐらいには多分戻ると思うから。」

俺は桃香の頭をぽんと叩き、部屋を後にした。


愛王さんの書斎に向かい、ドアをノックする。

「入れ。」

その声が聞こえた後、ドアを開ける。

「...心の準備はできたということか?」

「いいえ、最初から。俺は最初から、何が起ころうと心の準備はできています。」

俺がそう答えると、愛王さんは目を丸くした。

「...そうか。ヘリはもう用意してある。こんなすぐ用意するのはちと骨が折れたがな。」

「...ありがとうございます。」


ヘリってこんなすごいんだな...。本物のヘリを前に語彙力が溶けた。

「はっはっは。ヘリを間近で見るのは初めてか。まあ、大概の人間はそうか。」

俺の心の内を見透かすように愛王さんはそういった。そしてヘリに乗り込んだ。おお、すごい。これがヘリの座席か。

「じゃあ、話通りに。頼むぞ。」

愛王さんはヘリの操縦士にそう告げる。

...さっきから考えていたことを口にした。

「...もしかして、愛王さんの能力って...。」

「ようやくか?そうだ、わしの能力はサトリ。表面だけの心も、深層心理でさえも読むことができる。」

なるほど、だから...。

「じゃあ、記憶とかも読めるんですか?」

「あぁ。といっても、本人ですら忘れてるような記憶は読めない。だが...本人の覚えている記憶ぐらいは、読めるさ。お主の人生がなかなかに壮絶だということもな。」

やっぱりか。なんも考えないだけで難しいっていうのに、深層心理まで読めるんだから余計にタチが悪い。

「貴方のような立場で、他人の心の内が読み取れてしまうというのは生きづらいでしょう。」

「あぁ。どんなお世辞もわしの前では意味がない。そうと知らずに心の中でわしを罵倒する者も、上辺でだけ持ち上げる者も..。子供の頃から人間は醜いという結論に達しておったよ。」

そんな話をしていると、どうやら目的地に着いたようだ。

「ここが...。」

聞いていた通りの孤島だ。草木が生い茂っている。だが...。こんなところで研究などできるのか?施設なども見当たらな、い...!?

次の瞬間、機体が大きく揺れた。

「どうなっているんだ!?」

愛王さんの乱しぶりをみると、どうやら愛王さんに騙されたわけではないようだ。

「息がない..。心も読めない...。遅行性の毒か。」

ふと後ろを見やると、もう一機ヘリが見える。

「...!」

俺はドアを開けてヘリの上に飛び乗る。

愛王さんは操縦士の方に気を使っている。こっちは俺が。

相手のヘリとこっちのヘリの距離は1キロ程度。ここからジャンプすれば十分届く距離だ。

...相手が何もしてこなければ。念の為剣を出しておこうか。

俺がジャンプすると、相手はわざわざ自分らの方に来るとは思ってもみなかったのか、明らかに狼狽えている。今がチャンスだと見て、中に押し入る。

「吐け、誰に命じられた。」

操縦士の首筋に剣を当て、脅す。

「おっと、手出しは無用だ。」

『灼熱』

もう一人仲間がいたようだから、そっちは燃やした。あえて燃やすことで、実力の差をわかりやすくし、吐かせやすくする。

「...おい!」

無言で死ぬとは。しかし、困ったな。死ぬってことは、やっぱり組織の犯行か。だとすると、情報の仕入先が怪しいが...それすら作戦のうちという可能性もありうる。難しいな。...とりあえず、戻るか。

「そっちの操縦士も死んだか?」

「えぇ。さて、どうするか..。燃料が尽きるのも時間の問題でしょう?」

「じゃあ、しょうがない。サバイバルだな。」

待て。この距離から地上に降りろってか...?島の全体が見えるほどの高度だぞ...?

「でも、そうしなかったら墜落の時に瓦礫に挟まることになる。ワンチャンに賭けるのも悪くないだろう。」

はぁ...。肝の座った人だ。

「愛王さんと心中なんて御免ですからね。」

「わしも心中するならお主の妹のような女としたいわ。」

だが..。なにもなしで飛び降りたら死ににいくようなものだ。なにかないか...なにか...。

「そうだ..!」

闇の繭(オスクロズカプラ)-改』

「なにもないよりはマシでしょう。」

普通の闇の繭は敵を包むようにするが...。繭を一つの布のようにしてみた。さらに普通より強度も増す。

「なるほど、魂力で作ったのか。だが、強度は大丈夫なのか?」

「いったでしょう、なにもないよりマシだ、と。あるなら普通のパラシュートを使ったほうが断然いい。」

「なら、信じるとしよう。」

ヘリには常にパラシュートぐらい積んでおけよ...と思いつつも、飛び降りる。

桃香を連れてこなくてよかったと、心底思った。

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