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闇の覇者  作者: 快良
28/33

平和

「...後味の悪い悪夢じゃったな。」

俺も、あまり好きな話ではなかったな。

デセス・ヴェニアルは...人間が好きだったあまりに人間の醜い部分を知った時に、失望してしまった。人間に、世界に。

「な、な...あの者らが原初の吸血鬼を殺ったぞ!!」

後ろの奴らはお祭り騒ぎ。奴の語りを聞いていた者もいるだろうのに。まあ、人間に酷い仕打ちをしたのも事実。そこに、どんな理由があろうとも。

「協力...いや、討伐感謝する。」

後ろから男が歩いてきて、俺に声をかける。

「若き英雄として国全体を上げて奴の討伐を祝いたい。」

...なるほど。俺の技のことも言及されると考えていいな。...だるいな。というか、英雄って...。

「いや、俺は...。」

「いえ!主役がいないなど国として顔が立たない!それに最近やけにテレビなどで吸血鬼の話題を出すように仕向けたのは其方だろう。その対価...とすれば、断れないのでは?」

ぐ...。痛いところを突くな。

「俺はもう吸血鬼討伐という対価を支払った。それに参加することは対価に相応しくない。」

「ぐぬぬ..。来いと言っているんだガキが。」

全く、大人というのは子供を強制するのが大好きなようだ。

「俺より背の低い人にガキと呼ばれてもなぁ。」

「なんだとッ...!」

彼は俺を見上げて俺を睨む。だが、見上げられているせいか威圧感というものが全く持ってない。

「おぬしら、それぐらいにしたらどうじゃ。それに帝人も。名前が広がるのを防ぎたいんじゃろうがな。そう我儘を言ってやるな。」

まあ、コイツら、承諾するまでいつまでもつきまとってきそうだしな。それだったら早く終わらせてしまったほうが楽か。

「...わかったよ。それだけだからな。」

「では。日程が整い次第家に封筒をお送りしますので、ここ数日は予定を開けておくように。」

「...帰るか。」

さっきまで紅かった月は、淡い青の光を放っていた。


「おかえり!大丈夫だった!?」

家に帰り、扉を開けると桃香が駆け寄ってきた。

「あぁ。大丈夫だ。」

「そっか...!なら、いいんだけど。」

「というか桃香、こんな時間まで起きてたのか。」

今は深夜一時だ。俺はいつもからこれぐらいの時間にも活動しているからまだマシだが、いつも12時前には寝ている桃香がこんな時間まで起きてるとは。

「だって、自分の兄がそんな危険な事に首を突っ込んでるんだよ!?心配にならない妹なんていないよ。」

「大丈夫だ。俺は簡単に死なない。」

俺がいつも通りの軽い感じでいうと、桃香は下を向いて言葉を紡ぎだした。

「でも...わからないじゃん。だって、だって..。この前の祠の時だって、ギリギリだったみたいだし...。私には、お兄ちゃんが必要なの...。わかってたって、怖いものは怖いの。...家でただ待つことしかできないんだよ!でも、私みたいな足手まといが言っても逆にお兄ちゃんが全力出せないかな、とか...。」

桃香は声を震わせながらそう発した。

...兄失格だ。妹のこんな不安を、気付いてやれなかったなんて。そう...そう、だよな...。自分の知らないところで、大事な人が命を賭けて戦っているなんて、気が気でないのは当たり前なのに...。なぜ、俺はそんな当たり前のことに気付なかったんだ...。

「お兄ちゃんが罪悪感を感じることはないよ。私が、弱いだけだから。現に、力があるゆうちゃんはお兄ちゃんと一緒に行ったんだもんね...。」

どう言葉をかけていいかわからないまま、俺はその言葉を否定した。

「...それは違う。俺が、桃香を大切に思うがあまり桃香の気持ちを考えず、危険に晒したくないという俺の一方的な感情だけで一線を引いた。桃香にそんな思いをさせたのは俺のせいだ。」

「まったく、おぬしらは本当にシスコンブラコン兄妹じゃな。俺のせい、私のせい、って。それじゃいつまで経っても和解なんかできんぞ。」

なっ...。

「別にシスコンじゃねえ。普通の兄妹愛だ。」

「別にブラコンじゃないよ!普通でしょ!」

俺らが同時に声をあげると、クロノスがため息をつく。

「...そういうとこじゃぞ。」


あの後、頭が冷えてから考え直してみたが、やっぱり俺のせいでしかない。クロノスのいってた桃香の不安は今回のことのようなものだったんだな。じゃあ、桃香に俺の戦っている様を見せれば...と思うが桃香を危険に晒したくないのは事実...。

今の桃香にはもう亡霊王がいる。亡霊王に桃香の身を任せつつ、桃香自身にも自分で自分を守れるほどの力をつけさせてナイトに一緒に連れて行けば...。とは思うものの、やはり面倒事に桃香を巻き込みたくない気も....。

「俺はどうすればいいんだ!!」

「...帝人。」

声の主はグリードだった。いるのに気付かないほど俺は...。

「その...なんだ、外、ちょっと歩かないか。」


静寂に包まれた夜の街を歩きながら、桃香についての事を軽く話した。

「そうか..。俺は...馬鹿だからわからないが....。お前が、今までついてくるなって雰囲気を出してたからだったんじゃないのか?お前の意思をちゃんと伝えたら、桃香は聞いてくれるだろ。」

...そうか。俺は...。桃香を真正面から否定することを恐れていた。無意識のうちに、嫌われることを怖がっていた。だが、それは反って桃香に不安を与えていた。

「...ありがとう。」

俺がそう発すと、グリードが目を丸くしながら俺を見つめた。

「な、なんだ?」

「いや...いい笑顔をするようになったと思ってな。...あの人の子供だというのを再認識した。にっこり笑顔ってわけではないが...微笑みが、あの人と話しているようでな。」

あの人..。母さんのことだろう。

「そんなに笑ってたか?」

「...あぁ。自然で、いい笑顔だ。」

「そうか...。」


数日後。

郵便箱になにか入っている。封筒...。たしか、あの男の人が言っていたやつか。

『明日の夕方6時、愛王家にお集まりください。』

パーティは愛王家で行われるのか。

「ねぇ、それ何?」

リビングで読んでいると、桃香が覗き込んできた。

「あぁ。吸血鬼の討伐祝いの宴があるらしい。一応参加することにこそなってしまったが...。」

「私も...行っていいかな。」

桃香は元々育ちがいい。恐らくお偉いさんだらけであろうとされるそのパーティーでも、生き残ることはできる。

「...できる限りは俺が守る。だが、万が一俺の手が届かないこともある。そういう時...自分の身は自分で守ると...約束してくれ。」

俺がそう桃香に告げると、桃香は最初の頃のように...屈託のない笑顔を見せた。

「うん...!私、強くなったんだ!」

「...そうか。」


翌日。

指定された時間に、クロノスと桃香と俺の三人で愛王家を訪れた。

ピンポンを押すと中から威厳のある顔持ちの男が出てきた。

「おぉ..其方が若き英雄様か。娘が世話になったようだな。...して、そちらは?」

そういって桃香に目線をやる。すると桃香は、ドレスをつまんでお辞儀をする。まるでお姫様だな。今日の桃香も100点だ。

「私は妹の開楼桃香と申します。兄が主役のパーティーとのことですので、私も参加させていただきたく。」

流石はセレブの家の育ち。桃香がこうも礼儀正しい挨拶ができるとは。逆に俺の方が目立ちそうだ。

「なるほど、妹様でしたか。では、こちらへどうぞ。もう他の者は集い、皆様を待ちかねております。」

そう言い、俺らを中へ通す。

中はスーツを着た偉そうな大人達で溢れかえっていた。その中に、見覚えのある奴が1人居た。

「...貴方達、やったみたいですわね。」

愛王がこっちへ歩いてくる。いつもは制服しか見ないが...愛王はドレスを着こなしていて、いつものおしとやかな雰囲気に拍車がかかっている。

「...あぁ。そっちは大変そうだな。」

「えぇ、本当に。中にはろくでもない大人もいることだしね。」

愛王は容姿端麗だ、そういう視点からみる男もいるのだろう。こういう奴らがいるだろうと思ってたから桃香を連れてきたくなかったんだが...。

「お嬢さん、甘いものに興味はありませんか?」

「いいえ、結構です。」

桃香は意外とガードが硬い。小さい頃からそういうのがあったんだろうか?

「そういわずにさあ〜」

肩を出した服を着ている桃香の肩を男が掴もうとする。その男の腕を俺が握る。

「その汚らしい手で桃香の素肌に触ろうとするなんていい度胸だな。俺ですら服越しでしかないのに初対面で触られたら兄の面子が丸潰れなんだが?たしかに桃香は可愛い。白い肩に丁度いい肩幅に文句一つつけようがない。そうやって言い寄りたくなるのはわかるがな、俺が許さない。絶対だ。」

やべ、本音ダダ漏れた。桃香に『やだ、私のお兄ちゃんってシスコン...?気持ち悪い!』とか言われたら泣いてしまうんだが?

男の腕をつかむ手に力を込める。

「あ、あはは...。」

慌てて距離を取った。これで大丈夫そうだな。

「多分、その言動の方が兄の面子潰れると思うのじゃが...。」

クロノスの方は手を出されていない。クロノスには恐怖心が勝つといったところか。

そんなことを考えてると、愛王のお父さんが歩いてきた。

「では、英雄様はこちらへ。」


言われるがままついていくと、ひとつの部屋に連れてかれる。書斎のようだ。

「あの...?」

「...はぁ。疲れますな。英雄としてではなく、開楼帝人として聞いてほしい。」

なるほど、さっきまでは英雄として扱われていたからなのか。

「まずは自己紹介からするとしよう。わしは愛王家当主...。愛王 空人(くうと)。うちの秘書が世話になった。すまない、あれに気付けないなど...。」

だが、なぜこんな一対一での対話を...?

「して...帝人くん。わしが話したいのは一つ。開楼悠人...。君のお父さんの話だ。」

父...さん?

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