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闇の覇者  作者: 快良
27/33

原初の吸血鬼デセス・ヴェニアル

吸血鬼。

人間の生き血を吸い、生きながらえる生き物。

その伝承は多岐に渡り、多くの人間を恐怖に陥れた。

その中でも、最も最強と謳われる吸血鬼は、人間を恨んでいた。

...それは誰も知り得ない、人間と吸血鬼の物語。



そして、明後日。

今日は、デセス・ヴェニアルの復活の日。もうすぐで満月が中天にかかる。

「腕がなるのう。」

「...。」

原初の杭の付喪神というだけでは呼びづらいということで、ウィーナと名付けた。

ウィーナはやけに暗い顔をしている。

「あともう少しでその時刻だ!皆、気を引き締めろ!」

軍の人が叫ぶ。そして...。

月が紅く染まり、目が眩むほどの光を放つ。

「久しぶりだな、クロノス。今回は敵側なのか。残念だ。...月が綺麗だな。いつになろうとも、月だけは、綺麗だ。」

月に浮かんだ吸血鬼の姿は、目を奪われるほど美しかった。吸血鬼の大きな羽が月の紅い光によって照らし出され、その輪郭が浮き上がる。

暗闇の中で、彼の紅い瞳が輝きを放つ。

「...悪いの。今のわしは中立ではなく人間側じゃ。封印が解けてなお、人間を虐殺しようというのなら....お主でも容赦はせぬ。」

この2人は知り合いなのか...?

「...そうか。結局俺は、封印が解けたところで裏切られる運命なんだな。いや、裏切ったのは俺の方か。」

そう語る彼の目には、悲しみが浮かんでいた。

三人でいる時に二人しかわかんない話題だすのやめろよ。

「...。」

俺が事前に用意した銀の剣を片手に奴に迫る。奴の真っ赤な瞳が俺を捉え、奴は血液操作で作った刃を俺に飛ばす。俺はその飛んでくる刃を弾き飛ばす。

「はは、なるほど。たしかに俺のような吸血鬼には銀は有効的だ。...傷が与えられたらの話だが。」

たしかに...そうだ。俺は剣技自体あまり得意な部類ではない。そもそも攻撃を与えられなければ銀を使っても意味はない。

「言っておくが...俺の前で時を止めるのが効くと思うなよ、クロノス。」

クロノスが時を止めて後ろからアイツに近付くが、肘で簡単に突き飛ばす。

「さあ、来い。名も知らぬ少年よ。」

アイツは余裕そうにさっきと同じ攻撃を仕掛ける。

「俺は帝人だッ...!」

俺は血液の刃を高速で弾き飛ばしながらアイツの方に近付く。

「ッ...。」

急に後ろに...。どんだけ速いんだ、これが...原初の吸血鬼の実力か。たしかに...あのルードとかいう奴でさえ強かったのに、それより遥かに強い。奴の攻撃を振り切り、奴と距離を取る。

灼熱(ファイア)-改」

火球を奴に向かって放つ。だが、効き目がない。

「はっはっは、なかなか面白い芸じゃないか。やるな、帝人。だが....融合した鬼が悪かったな。俺に炎は効かんぞ。さあ、どうする?」

...たしかに、俺だけの力だったら倒せなかったかもしれない。だが、今の俺は...独りじゃない。俺が先生に根回ししたこと...。それは、吸血鬼の弱点を広めること。今、世間ではコイツへの畏怖で溢れかえっている。そして畏怖と共に弱点も広がれば、弱点の効果がより大きくなる。そして原初の杭を奴の心臓にぶっ刺せば...。俺の、俺らの勝ちだ。たとえ...どんな卑怯な手を使おうとも。

原初の杭を持っているのはクロノス。クロノスの時を止める能力があまり効果がなかったのは予想外だったが...あれはあくまで牽制。相手の油断を誘うために。

そして、俺の役割は、アイツに隙を作ること。

出し惜しみしている暇はない。

闇の繭(オスクロズカプラ)

終焉(フィナーレ)-改』

このコンボで動きを止める。

繭から解き放たれた奴は、黒焦げではあったが徐々に白を取り戻していく。

「ははっ!なんだ今の技は!面白い...あ?」

クロノスがやったようだ。デセス・ヴェニアルの心臓に原初の杭が突き刺さる。

「これ、は...お前が消したはずの...原初の杭。...まあ、でも...いいか。もう疲れたんだ。封印されている間に頭が冷えたよ。...ありがとう。最期に、楽しい思い出をくれて...なぁ、クロノス。今、同胞達は、幸せなのか?」

飛ぶ力もないのか、地に落ちた奴はそう語りだす。デセス・ヴェニアルの顔は、どこか儚げで、優しかった。なんでだ...?デセス・ヴェニアルは、人を散々いたぶった吸血鬼。なんでそんな顔を...。

「...あぁ。旧友よ。安心して眠れ、デセス。そして...来世に会うならば、人間となってわしの元に来い。」

クロノスとデセス・ヴェニアルが旧友...。わからないことだけが増えていく。

「...最期だけ、弱音を吐かせろ。この身が保つのは後10分とちょっと。」


ある晴れた日の朝。自分の屋敷に引きこもりながら、自分の部屋の姿見に語りかけた。

「なぜ...なぜ俺は吸血鬼なのか?」

俺が人間であったなら、アイツとも...。

「またそんな戯言を!貴方は吸血鬼の王なのです!」

俺は吸血鬼の王。望んで吸血鬼になったわけでもないのに、周りの奴より少し強いだけで簡単に持ち上げられ、吸血鬼の王と呼ばれ...。俺は、人間になりたかったよ。心の底から。

俺の目に映る彼らは自由で、なにに縛られることもなく...。

「デセス様!」

「...あぁ。莉緒(りお)。」

莉緒は、俺の空虚な心を埋めてくれる、謂わば俺の月のようなもの。俺の真っ黒くてくすんだ心を、その純白で、綺麗な心で照らしてくれる。

「...デセス様?」

俺がボーッとしていたからなのか、莉緒は俺の顔を覗き込んで俺の名前を呼ぶ。

「あ、あぁ。美味そうだな。人間の食べ物か?」

「そう!作ったの!」

そして莉緒は...この城で唯一の人間。

人間の事を愛おしく思っているのに、人間のことを知る術のない俺の為に、こうして時折お菓子などを作ってくれる。それがまた絶品で、生きるのに必要などなくても食べたくなってしまう。

「じゃあ頂こう。」

「パンケーキって言うんだって。」

ふわふわしていて...莉緒のようだ。

莉緒は、最初からこんな感じだった。最初に...迷い込んだ時も。俺のような吸血鬼にも分け隔てなく接し、笑顔を見せてくれる。

莉緒との出会いは、あっちの方からだった。莉緒がこの屋敷に間違えて迷い込み、俺のところへたどり着いた。すると、俺が人間が好きなのに人間と関われないと知った莉緒は、定期的に来てくれるようになった。俺らのことを恐れない人間がいるのかと、感動した。普通の人間が吸血鬼などに会えば、「血を吸われる!」と思って逃げ出してしまう。だが、俺は必要最低限しか吸わない。人間の害になりたくないから。

前に原初の杭の件で知り合った悠刻神クロノス。奴も同じく人間を愛おしく思う同士であった。アイツは、神であるから、人間を食べなくとも生きていられる。だが、俺は...。


ある日のこと。

今日は、莉緒が来る日だ。扉が開く音がして、玄関の方へ向かうと、そこは血に塗れた地獄だった。

「お前がデセス・ヴェニアルか!忌々しき吸血鬼め!殺れ!」

一斉に杭を持った者が俺の心臓を狙って飛んでくる。中心の老いぼれの手には、莉緒が抱えられていた。

「無駄な抵抗はよすんだな!莉緒の命が惜しいならな!」

初めて、人間に殺意を覚えた。コイツらは、吸血鬼の能力を知らないのか?俺は血液を操作して周りの奴らを吹き飛ばし、そして、莉緒を優しく血で抱き上げ、引き寄せる。

前にも命を狙われたことがあったが...。人間はこんなに下劣で卑怯だっただろうか。前に来た奴らは、真っ当な理由で俺を狙ってきた。なのに、こいつらは。

「なッ...!莉緒に何をする!」

自分で人質扱いをしておいて俺を悪役に仕立て上げようとするその姿勢に、酷く腹がたった。こんな奴らのもとにいたら危険だ。

「そっちの方こそ、莉緒を人質にするな。同族の子供を人質にすることが、お前ら人間のやることなのか?」

俺はそいつらを睨む。俺を殺すための杭を作った奴らは俺に恨みがあった。だから、俺は殺さない程度に痛めつけて杭をこの世から存在ごと消した。でも..俺はこいつらになにもしていない。

「...きょ、今日はここらで引きましょう。では、次に会う時はヴァンパイアハンターが貴様の命を狙うでしょうな。」

「...させるわけないだろ。」

俺は踵を返していく奴らの首を切り落とす。

「どうせ、人間が連れ去られたとかそんな理由をこじつけて俺を殺す口実を作りたいだけだろうに。俺がそんなのを許すわけないだろうがッ!」

もがき、苦しんで死ね。莉緒を苦しめるような人間なんて、全員死んでしまえばいい。莉緒以外の人間を滅ぼしたなら、その時は一緒に..。たとえ、友を裏切ることになってしまったとしても。

「デセス...様?なんで私、ここに...。」

莉緒の顔を見ると、人間を滅ぼすことに、少しだけ躊躇が生まれた。...それでも。それでも、俺はやらなきゃいけないんだ。俺のような奴を減らす為に。


後日、俺は村を焼きにでた。まずはその村の長を。その次に、村ごと焼いた。

他の村も、また違う村も。もう、周囲にはなにもない。あるのは焼け焦げた草と俺を残酷にも照らし出す月だけ。

「...どうしてッ。どうして村を焼いたッ!」

背後から声がする。生き残りが居たらしい。その人間をも殺す。もう、人を殺すことにも慣れて、血の温もりも、冷たさも、もはや何も感じられなかった。

「...どうして、か。」

どうして、だろうな。出てきた涙は血と混ざりあって消えた。

「見つけたぞ!あれが原初の吸血鬼だ!」

なにやら、大量の人間が俺を睨んでいる。

「...なんだ?」

「今ここに希うは悪しき吸血鬼を封印せし鎖。」

人間は俺の問いに答えることなく詠唱を始める。まったく、せっかちな奴らだ。

...抵抗しようと思えば、できる。体力も魂力も満タンに近い。だが...もう、何もする気が起きない。だが...コイツらは、封印しかしてくれないらしい。もう、いっそ...。

「悪ヲ結ブ光!!」

光に包まれ、意識だけの状態で何千年の時を過ごした。

...封印が解けた後の世界に、期待することとしようか。もう...もう、生きる理由もないが。莉緒には悪いことをした。なぜ、こんなことになってしまったのか...?俺の器が小さいからなのか?


吸血鬼と、人間。

混ざり合うことのない種族が混ざり生んだ悲劇。

人間の醜さが生んだ、悲しき怪物。

そんな彼は、今後も人間を滅ぼし尽くした残虐な吸血鬼として、語り継がれるだろう。



一通り語った後、デセス・ヴェニアルは塵となって消えた。それと同時に...。

「...!」

クロノスが手に握っていた原初の杭が消えかけようとしていた。なぜ...。

「元々、私は付喪神でもなんでもなかったの。デセス様...。私は、貴方が壊れていくのを見過ごせなかったの。だから..。私は貴方と共に消える。役目はもう、終えたから...。」

...なるほど。原初の杭から出てきたのは...。ウィーナ...いや、莉緒が原初の杭に取り憑いた怨念だったからなんだな。莉緒の強い想いが、クロノスの過去改変すらも、捻じ曲げてしまった。クロノスの過去改変は絶対。それすらも覆すほどの想いを、人は奇跡と呼ぶのだろう。

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