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闇の覇者  作者: 快良
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原初の杭

たどり着いた愛王家は想像以上の豪邸だった。敷地も広ければその使い方も贅沢。クリーム色の屋敷に、噴水や花畑の目立つ豪華で華々しい庭。吸血鬼封印の秘術を持つ家というだけでここまで大きくなることができるのか。門の入り口付近にインターホンがあり、それを押すと秘書のような人物が出てきた。

「なんの御用でしょうか。」

俺達を軽く見回すと、なにかに気付いたように「ハッ」という声をあげる。

「その制服...。怠等高校の...。そして、ツノの生えた男と小さい少女の二人組...。吸血鬼討伐の方ですね。ええ、どうぞ中へ。」

案外すんなり中に入れてくれた。なにかあるんじゃないだろうな?

...そんな思考も巡らせつつ、屋敷の中に入る。

「お嬢様はお二人の事が気になっておられました。...私は旦那様にあなた達の訪問を伝え、面会できるように...。」

秘書がそういって歩いていくのをクロノスが静止する。

「わしらの用はそのお嬢様とやらじゃ。」

「...そうなのですか。では、お嬢様に伝えて参りますので、この客間でお待ちください。」

ただの客間でこの豪華さか。流石は国家との繋がりの深い家と言ったところか。

彼女が部屋から出ていったところでクロノスが口を開いた。

「随分と取り繕った家じゃな。」

「失礼だぞ、クロノス。」

「わかっておる。だから目の前では言わなかったじゃろう。本当に強い奴の屋敷ならこんな目が痛い装飾などせぬと思っただけじゃ。」

まあ、たしかに言わんとすることはわかる。絵画に花瓶にシャンデリアに...。侘び寂びというものがまるでない。

「悪いわね、俗っぽい家で。...それで、あなた方が私になんの用?」

...聞いてたのか。会話をドア越しに聞いていたであろう愛王が、皮肉混じりにドアを開ける。

「...本来なら、どうするつもりだった?」

「どうするって何よ?」

「俺達がお前の座を奪った。本来は、再び封印することが目的だったのか?それとも最初から討伐が目的だったのかってことだ。」

俺が愛王に聞くと、愛王は目をそらした。

「...討伐よ。私だって無理だと言ったわ。封印はできるかもしれないけれど、討伐なんてできっこないって言った。それでも、愛王家の誇りにかけてやらなければならないの。正直、あなた達の申し出は嬉しかったわ。かといって、私より弱い人が行って死んでもアレだから私が確認したのは私より強いかどうか。私が粘っても勝てない相手なら、私が行ってた。」

なるほど、それであんな粘ってたわけか。家の誇りだとか、そういうのは大変だな。

「...それで?流石にそれが聞きたいだけってことはないでしょう。」

「あぁ。原初の杭というものを知ってるか?」

すると愛王は考える素振りをした後、口を開いた。

「原初の杭...。いえ、知りませんわ。名前の響きと状況的に原初の吸血鬼を討つものでしょう。そんなものがあれば無理だなんて思ってないわ。」

良い推理力だ。だが、これで降り出しか...。

「本当かの?」

俺が諦めかけた時、クロノスが口を開く。

「本当に、知らないか?そっちの秘書もか?」

「え、えぇ。私も知りませんよ。」

わざわざ聞くということは知っているという確信があるのか?

「...いいや。知らないわけはない。原初の吸血鬼デセス・ヴェニアルの右腕にして眷属、ルード・ヴェニアル。久しぶりじゃな...なんで地上におる?」

な...。この人が、眷属?

「この譲ちゃんの身のこなし...どこかで見たことあると思ったわ。お前の技じゃな。」

「おやおや。流石は悠刻神サマ。それにしても、悠刻神サマが地上でこんなままごとをしているとは。それに...我が主を討伐しようとは。流石の悠刻神サマでも看過できかねます。」

この人間が眷属だというのは別にどうでもいい。人外になれた俺にとっちゃ地上に神が居ようが妖怪が居ようがどうでもいい。でも...。

「なにを、言って...。」

なんの罪もない人間が、騙され、ショックを受けるのだけは。

「愛王、そいつから離れろ。」

俺は愛王とその眷属の間に立つ。

「で、でも..。ルーは、ルーは..。亡き母の代わりのような...。突如としてそんな事実を突きつけられて、納得できるわけが..!そう、ですよね、ルー!?」

愛王は床に座り込み、ショックでロクに頭が回っていない。本人が自白したのだからそれがすべてだというのに。

「...私は、長年の間この愛王家に住み着き、内側から支配してきました。ちなみに...貴方のお母さんが死んだのは私のせい。私がやったんですわ。アイツは私の正体に気付いた。こんなところで思わぬアクシデントには見舞われましたが...。我が主の復活は近い!次の満月の夜、我が主は復活なさる!精々その時まで虚構の夢を楽しんでいなさい!」

そういって霧となって消えていった。

愛王は依然として俯いたまま。叫ぶ気力すらないといった様子。

「もし、貴方達が居なければこんな絶望を突きつけられることもなかったのかしら。」

少し落ち着きを取り戻したように言う。

「あぁ。そうじゃな。じゃが、同時にあいつの操り人形のままでもあったじゃろうな。」

「操り人形...なんかじゃ...。」

打ちひしがれる彼女に、クロノスが追い打ちをかける。

「いいや。実際、お前はあやつを庇おうとした。傀儡になるのも時間の問題だったのではないか?」

たしかに、ルードとやらが眷属と知った時の愛王の反応は異常だった。まるで、神に縋る信徒のようだった。

「...帰りなさいッ!もしこの家に原初の杭というものがあったのだとしても原初の吸血鬼の眷属がいたのです、とっくに書き換えられているでしょう。」

てっきりもう顔を見たくない的なことかと思ったが、言ってることは的を得ていた。

「それもそうじゃな。帰るとするかの。」


「...結局振り出しか。」

「そうじゃな。次の満月の夜...。明後日、じゃな。」

明後日が決戦の日となりそうだ。なんとかして、明後日までにデセス・ヴェニアルを倒す算段を考えなければ。そんなことを思考しながら、帰路の足を進める。

「...どうする?杭のことも振り出し、なにが有効打かもわからない。果たして、わしらに倒すことができるだろうか?」

俯いて言葉を紡いでいくクロノスに、言葉を与えた。

「...倒すしかない。全ての力を以て、倒さなければいけない。俺が倒せなかったら、どれほどの被害が出るか。」

「...帝人。決して、独りで背負うでないぞ。」

俺が首を傾げると、クロノスは小さく口を開いた。

「...なんでもない。」


情報を集めるのも兼ねて今日も夜の静寂の街を彷徨う。今日はまだ特になにも起きていない。

あいつが眷属なら、行動するのは夜のはず。

空に浮かんだ月が、これから起こる不穏な事を伝えるように雲に隠れ、陰っていく。

「雨が降ってきたな。」

...?

なんだか、ただの雨にしては...。霧が多い。俺は警戒して腰を落とす。すると、どこからともなく人が形作られていく。

「そんなに警戒なさらずとも。」

昼間の...ルードとか言ったか。...そうか、吸血鬼の身体を霧に変える能力か。たしかあの後クロノスが言っていた。コイツは他の眷属とは一線を画す強さだと。普通吸血鬼の眷属が得る力は「不死身」と「血液操作」程度。だがルードはデセス・ヴェニアルの最も身近な存在であったがために普通の枠を超え、吸血鬼の力のほとんどを宿した化物。しかもおまけに日光の光をものともしないと。

冷静に考えれば考えるほど化物だな。

「我が主の邪魔となり得る人物を消すことこそ、デセス・ヴェニアル様の右腕である私の仕事。」

だが...逆に、コイツに勝つことができるなら、原初の吸血鬼にも迫れるということ。


...こいつは想像以上に強い。

「どうしましたか?」

俺が結構ダメージをくらっているにも関わらずあっちはまだ余裕そうな表情。

そもそも...こいつと殺り合う事自体、分が悪い。

あっちは飛ぶのにこっちは地面から飛んで殴ろうとするが避けられ、剣でやろうとすればあっちも血液操作で剣を作り出し、単純に技量で押し負ける。つまりどういうことか。吸血鬼どうこう以前に俺がコイツより弱いということ。それで吸血鬼との分の悪さも相まって劣勢なのは俺の方。

「こんなものですか、ナイト。」

たしかに、噂通りの最強の俺を想像したなら弱いかもしれないがな。

闇の繭(オスクロズカプラ)

「...これは。」

これは正真正銘、俺の最終奥義。

終焉(フィナーレ)

これで殺られてくれなければ、今日は逃げる。ナイトとしては0点だが、そうも言ってられない。俺の奥義で倒せないんだ、何をどうやっても倒せないだろう。

「ふぅ...なかなか効きました。」

...帰ろう。これで眷属、か。原初の吸血鬼...倒せる気がしない...。..?

「なんだ、これ。」

杭が光っている。なんでだ?ただの杭が光るわけないだろ。限界すぎて幻覚でも見てるのか?

「な...なぜ、なぜそれが..。お前達は原初の杭を探していたんだろう!?てっきりないものだと...。」

...は?じゃあ、これが原初の杭だっていうのか?

「使い回しできるのか?」

「...!」

できるようだな。俺はルードに近付く。あいつが気付く頃には俺はこいつの懐の中。

「寄るなッ、害虫ッ!」

奴の作り出す血の槍の連続射撃を躱し、奴の懐に潜り込み...。

「はぁッ!」

心臓のある位置に、原初の杭を突き刺す。

「うッ...が...!?貴、様...!まあ、いい...。貴様なんぞではデセス・ヴェニアル様の足元にも及ばぬ..。私など所詮は眷属...。眷属を倒したぐらいで...いい気になるなよッ!」

そういって灰となり、その灰を風が運ぶ。

手元の杭は、血に塗れながら淡い光を消した。


帰ってクロノスにその話をすると、クロノスは考え込んだ。

「なぜ...なぜ原初の杭が存在する?わしが消し去ったはずの原初の杭。なぜ今になって...。それに、それを拾ったのはノーチェルじゃろ?なんであの城に...。」

クロノスと話し合っていると、突如、原初の杭が光り輝いた。

「なんで...なんでッ...!って、貴方誰?」

いやいや、こっちのセリフなんだが。...原初の杭から現れたように見えたんだが...?

「...私を拾った人か!いやあ、過去で悠刻神に消されたと思ってたんだけど...。なんか生きてたみたい。こういうのなんて言うんだっけ、付喪神?」

そんな言葉を放ちながら俺を見つめるのは黒髪の可愛らしい女の子。俺達よりは幼く見える。

「付喪神になって生きておったというのか...!?...まあなんであれ、これで勝機が見えてきたのは事実じゃ。」

付喪神。たしか、物の精霊や神のようなものだったか。だが、付喪神になるには長い年月が必要だ。

「そんな長い間原初の杭は使われ続けたのか?」

「...いや。あれが作られたとわかるや否や交渉を持ちかけてきた。」

...クロノスの過去改変は絶対。それから逃れる術があるなど信じられないが...。

「まあ、今手元にあればそれでよい。何故かなど、知ったところでどうというわけでもないじゃろ。」

...それもそうか。

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