愛王家
翌日。
朝日が眩しいな。俺が頭を覚まそうと起き上がると、桃香がこっちに来た。
「昨日はどこ行ってたの?」
桃香が俺に問う。素直に答えてもいいんだが、桃香は心配するだろうか。
「...ちょっとな。」
俺がそう言うと桃香は少し俯いて去っていった。
「どうせナイトでもやってたんじゃろ?」
「...まあ、そうだが。」
「きっと桃香は、お主から問題ないと聞きたいんじゃろ。それで、ロクに答えてもくれなければ不安は募る一方じゃろう。」
...不安、か。
「そう、か...。」
「...やっぱり俺は人間の底を読むのは苦手だな。表層からの感情しか読み取れない。」
...正直わかる。グリードほどではないが、明らかなものしかわからない。
今の今まで桃香の変化に気付いていなかった。くッ...これでは兄失格。妹に心配される兄がどこにいると言うんだ。
「2人とも〜!もう行くよ?グリード、お留守番よろしくね!」
気付いたらもう家を出る時間。
「あぁ。任せとけ。」
グリードは俺らが家にいない間なにをしているのだろうか?
「おはよ〜!」
教室に入ると藍が駆け寄ってくる。
「ん?藍、そっちは?」
藍の隣に立っていたのは隈の目立つ気だるげな青年。
「あぁ、私の幼馴染の東海 深太郎くんだよ!」
「東海はなんの能力なんだ?」
俺が問うと、東海は目を逸らしながら言った。
「...強くはない。」
「も〜、深くんがそれを言うのは嫌味ってやつでしょ?」
なるほど、強い方ではあるのか..?
「少なくとも、授業中に教師と全力でぶつかれるような化物よりは違う。」
「な、なるほど?」
「まあ、それはそうかもね。」
なんで能力を隠す?俺のようになにか理由があるのか...?
「私にはわかっちゃうけど...言わないほうがいいよね。」
そうだった、桃香は魂を見ただけで能力を見抜ける。その魂の本質までをも見ることができる。
「あ...そうじゃん。桃香ちゃんには魂が見えるんだよね。」
「はあ?なにそれ。本当に人間なわけ?」
まあ、そうなるのは当然。
『それは我がいるからだな。』
なっ...。
「え...何、コイツ...。今、どこから?」
『桃香の体内からだ。あ...悪いことをしたか?』
「とりあえず戻ってもらっていいか?」
あまり表で出て欲しくないのだが。まあ、藍の友達ならそんなに言いふらしたりもしなそうだが。
「今の...何?」
「...放課後、細かい話をする。それまで待っててくれ。後...人には言わないでくれると助かる。」
「はあ...まあいいけど。」
話していると、キンコンカンコーンとチャイムが鳴った。
「今日の授業は前回の続きから。世界から妖怪が消えた後の歴史の話だな。」
「う...ワシが苦手なとこじゃ。」
クロノスが嘆く。俺も苦手だ。
「まず...。これは復習だ。祠ができる前の時代のことをなんというか。帝人、わかるか。」
えーっと...。祠の前だろ...?
「...わからないか。正解は、O,Bだ。意味はorder beforeだ。要は、祠ができたのを秩序とし、その秩序の前か後かってことだ。じゃあ、サービス問題だ。祠ができた後の時代をなんという?」
祠ができる前がO,Bならば、後は..。
「多分...O,Aじゃないか?」
「正解だ。」
あっていてよかった。
「そういえば、祠ができたことによる影響をうけなかった妖怪を知っているか?」
影響を受けない妖怪?そんなのいるのか?
「ふむ...わしも知らぬな。その時生きている妖怪などは全て余すことなく異界へ移動されたはずじゃ。...そうか。」
クロノスはしばらく悩んだあと、手をあげた。
「原初の吸血鬼...デセス・ヴェニアルじゃな?」
「流石だな、黒井。」
原初の吸血鬼...。そんなやつならなおさら祠の影響を受けないはずはないと思うんだが...。
「アイツは、祠ができるよりも前に地上で封印された。封印されていたためあやつに閻魔の異界への移動の命は発動されなかった。」
なるほど...。
「そして...。今年は、そんな封印されるような凶悪な吸血鬼の封印が解ける年と言われています。...この国の軍はただの人間同士の争いの為だけじゃなくこういう時の為というのもある。そして...。この学校の3年生にも、国から協力依頼がかかっているんだ。」
それは..あまりにも危険じゃないのか。妖怪は俺でも疲れるほどの強さ。並の奴らが戦って勝てるとは思えない。しかも相手はそんな原初の吸血鬼とかいう奴。並の奴では太刀打ちできない。なんなら死んでしまうだろう。
そしてなにより...そんな吸血鬼、この俺が逃すわけがない。俺が声をあげる前に声を発したのはクロノスだった。
「危険じゃ。お主らは、妖怪を舐めておるのか?この前の混沌で理解したと思っていたのじゃがな。妖怪は人間の数倍強い。」
いつもニコニコしてるクロノスが、目を細めている。余程危険に思っているのだろう。
「だが...こういうときに国に力を貸すという前提でこの学校は成り立っているんだ。それに逆らえば廃校は免れない。」
「それならどんな奴かもしれん奴よりわしと帝人を行かせよ。この学校から力を貸してるというのは変わらんじゃろう。」
...クロノス、何勝手に。いやまあ、関わるつもりではあったが...。ナイトとしての方が自由に動けるから裏から支えるつもりだったんだが...。
「いや、いくらなんでもそれは..。」
「ふーむ、なら、わしらが単体でその生徒より強いことを証明できればいいんじゃな?」
多分そういう問題じゃないぞ、クロノス。たしかにこの世界は割と実力がものをいうが出過ぎた杭は打たれる。もしクロノスが標的になってしまったら?
「ま、まあ...そういうことにはなるがな...。」
あーあ、承諾しちゃったよ。ここで決まりだからと突き放してくれたほうが助かるんだが..。
「そうと決まったら善は急げじゃ!その生徒とやらの決闘をさせよ!」
そういって席を立つ。気が早いな。
「さ、流石にそれはないぞクロノス...。」
「なんじゃ、だめなのか?」
空気だとか、そういうものを厳密には知らないわけではない。ただ、思い立ったらすぐ行動Lv.100なだけだ。
「今すぐは無理だが...今日の放課後でどうだ。」
「うむ。それなら良いじゃろう。」
そう言って席につく。授業の半分の時間を潰してしまった...。すまない、先生。
そして、放課後。
「それで、貴方達が私より強いって?」
随分とプライドの高そうな奴だな。こんな奴が本物の戦場に立てば、変なプライドで突っ走って死ぬ。
「それに...。そっちの女の子なんて随分弱そうじゃない。本当に私に勝てるのかしら?」
その女子は、紅い瞳を光らせ、綺麗に巻かれた薄い金髪を風にはためかせながら歩いてきた。
「...クロノス。殺すなよ。これは決闘であって殺し合いじゃないからな。」
「それぐらいはわかっておる。大丈夫じゃ。所詮は子供の戯れ。」
まあ、流石は悠久の時を生きる神だ。
「なによ、子供って。私より背低いクセに。」
「言い争いはそこまで。これより..。」
「いえ、二人同時でいいわ。二人でも私は倒せない。」
...いやいや。流石にそれはないだろう。
「...いいのか?加減はするが、二人同時相手はどうなるかわからん。」
「そうやって舐めるのはやめてくれるかしら。貴方達にそんな時間を使うのがもったいないの。」
審判が合図を始める。
「では...レディー...ファイ!」
俺とクロノスは合図と共に走り出す。
「見えてるわよ」
俺の行動が読まれた...か。
彼女は俺の短剣を軽く弾き、クロノスの攻撃もものともしない。どうやら強いというのは本当らしいな。
「あら?こんなものなのかしら?」
殺さない程度に、というのが難しいところだな。
俺は彼女の出方を伺いながら距離を取る。
すると、彼女は一気に距離を詰めてきた。...驚いた。生徒にこれほどの実力者がいるとは。彼女は剣を俺の腹に突き刺そうとした。
「なッ...!」
なんと、彼女の剣の方が折れてしまった。...俺は腹を硬化させていた。その硬さはダイヤモンドにも匹敵する。そんな硬さのとこに鉄製の剣が当たれば、剣が折れるのも必然というもの。
「そんな、そんなの...。人間業とは思えないわ。たしかに私は貴方に敵わないかもしれない。...それでも。」
彼女は単身で突っ走ってきた。...もう彼女に勝算はない。そんな彼女を突き動かすとは、一体どんな事情があるというのか。
「はぁぁああぁあ!!」
彼女は驚くべきことに、頭を俺の顎に向かって突き出した。モロに頭突きをもらい、意識が遠のく。俺は拳を握りしめ、痛みで意識を無理矢理引き戻した。
「大丈夫かの?」
頭突きをくらって一度距離を取った俺に、クロノスが寄ってくる。
「あ、あぁ...。なんとかな。」
「はあ、はぁ...。」
彼女の方も相当来ているようだ。俺よりはマシというレベル。そんな彼女の元に、クロノスが歩み寄る。
「何、かしら...。」
「...お主の力、見覚えがある。」
そう言ってクロノスは彼女の顔をまじまじと見つめる。
「じゃが...思い出せぬ。喉元まで出かかっておるんじゃがの。」
クロノスは彼女の能力の元の妖怪を知っているのか?それともなにか別のものか。
「審判、もういいわ。私の負けでいい。私はこの人達に敵わない。...それに、手加減していたというのも本当らしいしね。」
...なぜわかる。先生ほどであれば相手が制限した動きをしているかどうかぐらいわかっても不思議ではないが...なぜ、こんなただの一生徒にわかる?
「...名乗ってませんでしたわ。私は愛王家の跡取り...愛王 清華。以後お見知りおきを。」
お辞儀し、去っていく。愛王...有名な家なのか?
俺達は教室に戻ってきた。
「すごいね!あの愛王先輩相手に!」
教室には藍と東海と桃香が待っていた。さっきの決闘を見ていたようだ。
「あの?なんか有名な人なのか?」
「...本気で言ってる?」
東海が信じられない、といった様子で言う。そんな引かれるほどの事言ってるか?
「愛王ってのは、あの原初の吸血鬼を封印する術を代々受け継ぐ家のこと。しかも、そんな凶暴な奴を封印できるってんだから、国で手厚く扱われてて、言っちゃえば貴族みたいな立場の人。まあ、そんな身分制度はこの時代にはないけどね。」
東海が丁寧に説明してくれた。なるほど、たしかにあんなおしとやかなわけだ。だが、そんな偉い奴が金髪っていいのか?
じゃあ、あの人が選ばれた理由の一つにそれもあるんだろう。
「...で、朝の約束忘れたわけじゃないよね?地味に気になってるんだけど..。二人のことも。」
...朝の約束。亡霊王の件だろうな。
「あぁ。亡霊王、出てこい。」
『そんな簡単に呼ばないでほしいものだがな。我は亡霊王キーン。この世の魂を統べる王である。』
「これが...。亡霊王って...たしか祠を作った...?」
東海がぶつぶつと独り言を連ねると、亡霊王が反応した。
『いかにも。そしてこっちは...。』
「こんな制服姿で悪いがの。わしは悠久の時を生きる神...悠刻神クロノスじゃ。」
いきなりの情報量に耐えられなかったのか、東海は頭を抑える。
「か、神に、王...?」
俺のように最初から妖怪を見慣れているか、桃香のように妖怪に対してなにも思ってないような奴じゃないとそう簡単には受け入れられないだろう。
「じゃ、じゃあ開楼さんはなんだっていうんだ?」
「俺は鬼と融合した半人半鬼。このツノや頬の痣はその影響だ。」
俺がツノを指指していうと、東海は食いついてきた。
「なんだそれ!羨まし...な、なんでもない。」
...羨ましいって言ったな、うん。
「まあ、実際そんなツノとか生えたら邪魔そうだし...。ほら、天井に頭ぶつけたりとか。」
「東海は大丈夫じゃないか?俺より背低いし。」
「...人のコンプレックスを刺激するな馬鹿野郎。」
...コンプレックスだったのか。とは言っても東海は見たところ168cmとかそこら。別に低い方ではない気がするが..。
「それは悪いことをした。悪気はなかったんだ。」
「...悪気のない悪こそなんとやらじゃな。」




