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闇の覇者  作者: 快良
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人間と神

「遅かったのう、帝人。」

莉(斎藤先生)の家からの帰りでそのまま先生を探して今日はもう収穫がなさそうだと帰った。そんな俺を家で待ち受けていたのはクロノスだった。本当、なんでこんな好かれてるんだろうか。

「まだ寝てなかったのか。」

「あぁ。ちょいと話したいことがあってな。」

もう眠いし、寝たいところだが...。俺の眠さすら読んでいるだろうのに、それでも話したいだなんて、相当大事なことだ。

「なんだ、話したいことって?」

「...あぁ。わしの見た未来が正しければ....。1週間後....。お主の言ってた斎藤一輝が逮捕される。」

なに...言って。いや、コイツは悠刻神。見た未来に間違いはないだろう。このままでは、という話。

「...なぜだ?過去の話が掘り返されたのか?」

「いや...違う。新たに殺人を犯し、それがバレて処刑される。...表面上ではヤケになって殺人...という話だが、恐らく違うじゃろう。帝人から聞く斎藤一輝という人物ならば、ヤケになってするものは自殺。殺人などせん。なにか裏に黒いものが渦巻いておると考えるのが良いじゃろう。」

やっぱり、裏になにかがいるのは間違いなさそうだ。だが、どうやってそいつを見つけるのか...。

「なあ、さらに先の未来を読んだりして犯人が誰かわからないのか?」

「それはできぬ。わしが未来を見ることができるのはせいぜい1週間に一回。そして改変ができるのは過去のみ。未来を変えるには現在(いま)見たものを自力で変えるしかないのじゃ。」

まあ、時を操ったり過去改変したりできるというだけで強いのに未来まで変えられたら最強というもの。

「わしもできるだけ補助はしよう。」

悠刻神という補助付きで、ただの半人半鬼にどこまで未来が変えられるか。やってやろうじゃないか。

「まあ、今日のところは寝るよ。教えてくれてありがとうな、クロノス。」


「お兄ちゃん!ゆうちゃん!もう朝だよー!」

ん...。ソファで寝ていた俺は桃香の声で身体を起こす。

「んぁ〜!まだ眠いのじゃ!」

「そういえば、最近グリード見てないな。あいつどうしたんだ?」

「あぁ、あいつなら..。」

クロノスが答えようとした瞬間に、桃香が慌ててクロノスの口元を抑える。

「ど、どっか行ってるんだよ、ね、ゆうちゃん?」

...?たく、グリードは何してるんだか。


「今日の授業は神や妖怪と人間の歴史だ」

歴史、か。こういうのの授業で聞くより細かく知ってそうなやつが隣にいるんだが。

「まず、妖怪や神とはなにか知っている人は?」

「おう。知っておるぞ、妖怪は人々の噂や畏怖から、神は人々の信仰から生まれるものじゃ。じゃが、だからといって最初から成体で生まれてくるものでもない。どんな妖怪も人間のように赤ちゃんの時期があるのじゃ。」

「よ、よく知ってるな...というか、そうなのか?」

「あぁ。例えば、鬼は最初の100年程度は人間の子供のような容姿じゃ。」

そうだよな、そうなるよな。なんなら、クロノスが授業した方が正確な授業ができるよな。

「まあ...それは置いておくとして。そう、妖怪や神は我々の思考の塊。何千年も前は、ここで妖怪や神も暮らしていた。だが...。妖怪は、散々破壊しつくし、ここに飽きて、こことは別の妖怪などだけが住まう世界を創った。」

普通、ここを聞いただけじゃ違和感は抱かない。だが...。クロノスと俺はその普通じゃない。

「それは違う!!」

クロノスが立ち上がって、声を荒げた。

「キーンは、亡霊王は人の事を想い...。妖怪達に喰われていく人間達を見てこんなのおかしいと...!それで祠で創造のオーブを創り、異界を創った!わしは人間は大好きだ。だが...そういう自分らに都合のいい解釈しかしないところは大嫌いだ!」

「まあ待て、クロノス。そう声を荒らげることは...。」

俺は宥めるつもりだったのだが、火に油を注いでしまったらしい。

「帝人までそんなことを言うのか!?こんな、こんな...。キーンのことを冒涜するような話を聞いてじっとしていろというのか!?」

閻魔様が戦う時に感じたような圧を真正面から浴びる。俺でもきついものがある。

歳こそとっているものの、中身と見た目は子供そのもの。すぐ激化する。

「よく考えろ、クロノス。たしかに今の話は耐えられるものじゃない。でも、それは今から何年前の話だ?それが近年のことだというなら怒るのもわかる。お前、言ってただろ?人間の寿命は短い。だから正確に受け継ぐのにも限界がある。それに、人間からすれば妖怪は異形のもの。そういう捻じ曲げた解釈をされてもおかしくはない。」

「そう...か。そう...じゃな、声を荒げてすまんかった。友を悪く言われた気がして落ち着いていられんかったのじゃ。許しておくれ..。」

クロノスは話せばわかってくれる。だから、対話するのも嫌いじゃない。

「...友というのは?」

先生が問う。すると、クロノスはこっちへ視線を寄越した。だが、俺はこの場で答えることの許可は出さなかった。その代わり...。

(後で個別で教えるぐらいだったらいい。今は名乗るな)

いくら優しい奴が多いこのクラスでも神などと名乗ればどこから情報が漏れるかわかったものじゃない。

「...それは後で話そう。細かくはまだ言えんが、妖怪とかの歴史はよく知っておる。誰よりも正確な情報を提供しようぞ。」

その後は、なんの問題もなく授業が進められた。幸いなことに、その話以外はあまり訂正どころはなかった。


そして、授業後。人の居ない部屋で。

「それで、君は...。黒井さんは、何者なんだ?」

このチャラそうな教師...名前は、なんだったっけ...。たしか幸廻(こうかい)だかなんだか...。

「わしは...祠創造の時より前からこの世で生きる...。悠刻神クロノスじゃ。」

クロノスがそう自己紹介すると、合点がいったと言わんばかりに驚いたような表情を見せる。

「そう...か。貴方が...悠刻神クロノス様なのですね。ですが、伝承には目に時計のような印が刻まれていると...。」

そうなるのも当然だ。外見で人間から離れてるところは眼ぐらいだったから、コンタクトで誤魔化していた。

「あぁ...それか。」

そうだった、とでも言うようにコンタクトを外す。すると、眼に薄く刻まれた時計の針とローマ数字が姿を表す。

「あぁ...伝承通りの綺麗な眼をしている。」

指輪やピアスバチバチのチャラそうな見た目をしておきながら、こんな敬語を使うんだな。なんか意外というか..。

(わたくし)は...幸廻(こうかい) 綾人(あやと)と申します。かつて、悠刻神様の恩恵を授かりし者の末裔。貴方様のことは書物でしか知り得ませんがこうして会えたこと、光栄に思います。」

そう言って、膝をつき、頭を垂れる。

なるほど、敬語になるわけだ。だとしても、クロノスが今でもこんなに語り継がれているとは。

「ふむ...。恩恵、というと...寿命か?」

「はい。それに、その未来を読むお力で我が一族の滅びの未来を変えてくださったとか....。」

クロノスの奴、そんなことまで...。

「未来を変えた覚えはない。わしにできるのは伝えることまでじゃ。じゃが...思い出してきた。恐らく、お主の言う恩恵を授かりし者とは、(おう)のことじゃろうな。凰は良き長じゃった。」

クロノスはその凰という人物との過去について語り始めた。


数千年前の、ある日のこと。

「クロノス。こうしてお前と居られることが...なにより嬉しい。」

凰は、本当にわしのことが好きらしい。一国の王だというのに。一国というのは正しくないか。その領地の、長だというのに、わしという神と信じられないくらい親交を深めておった。午後には、共に茶を飲むことが至高じゃった。

この間まで凰は戦で戦地に赴いており、ここにはおらず、数日間、こうして茶を飲むことは叶わなかった。

「そうじゃな。死んでも蘇生できる...と言いたいところじゃが、わしは人間の争いに干渉しない盟約じゃしな。」

わしのように位の高い神などになると、人間を喰わずとも生きることができる。だが、他の妖怪などはそうではない。わしのような奴が一国に最低一体といった風に他の妖怪を抑えることしかしてはならない。そして一国に神などを置く場合には他の国との差が出過ぎぬよう、人々の戦争には無干渉という盟約を結ぶというのが世界の結論。

「なあ...。クロノス。吾の寿命を延ばすことは、干渉に入るだろうか?」

「ふむ...。いや、世界の目を欺いて寿命を延ばそう。わしもお主ともっと話がしたい。」

わしは凰の方へ歩き、頭に触れる。

『悠刻神クロノスが命ずる。この者の寿命を延ばせ。』

「これで良いはずじゃが。」

「ははっ、クロノスは本当に常識というものを知らないな。」

そう言って笑う。わしだって常識ぐらい知っておる。

「常識とは壊すためにあるのじゃ。」

常識に囚われているようでは神ではいられない。

「なあ、知ってるか?東の方では原初の吸血鬼という奴が暴れているらしい。」

「ほう、あやつか。一度ぐらいは会ったことがあったな。」

あやつはたしか、同じ吸血鬼でも比べものにならないほど能力の効果が強い。ちょっとした風邪を流行らそうとしたら死をもたらすような病を流行らせてしまうような奴だ。

「それで、東の奴らはどうするのじゃ?」

「どうしようもないから、封印するらしい。」

「そうか。」

...こんな日常が楽しくてしょうがない。時にはぶつかったりもしたが、凰と仲直りした後は決まって共に縁側から空を見上げる。その時に見る空は澄んでいて、とても綺麗じゃった。

...凰となら、いつまでも退屈せず生きてられそうな気がした。

時は経ち、二百年後。

わしは...。墓の前に立っておった。何を思うわけでもなく...。ただ、呆然と。

「また気に入った人間が死んだのか。」

声がした。この声は。振り返ろうかとも思ったが、動く気力すらおきなかった。

「凰...。」

わしは墓を撫でた。二度と、あの顔を拝むことができなくとも、凰はここにいる。

「おい、返事とかしたらどうなんだ。」

「黙ってろ!!!」

つい叫んでしまった。悠久の時を生きても、死だけは本当に慣れない。いくら経験しようと、学ぶことなく繰り返す。人が死ぬのが辛いなら、最初から関わることなどしなければ良いのに。

一番最初の人間も寿命で、その次は暗殺。その次は大戦で死に...。どれも、わしの能力がもっと強ければ死ななかったであろう者達。

「...悪い、出直してくれんか。」

このわしとて、万能なんかではない。人間の寿命を延ばすにも限界というものがあった。なぜ..。なぜ、こんなことに。いや、そんなのは明白。わしに力があればよかっただけのこと。もっと力があれば...。

「雨、降ってるぞ」

そういってわしを傘の中に入れる。もうすでにずぶ濡れなのだから、今更だろうに。

「...話があるならまたにしろ」

ロードには悪いことをした。つい、当たってしまった。やはりわしには...。

それからさらに数十年は経ち、ある程度は飲み込めてきた。

「その、クロノス様。」

こいつは...凰の孫。とはいえ、もう三十になる。人間はあまりに死ぬのが早い。

「なんじゃ?」

「私は敵国に行ってきます。その間、国を...。」

こんな、こんな日常のために生きているのではない。なにか、奥で燻るものがある。思いっきり暴れたい、そんな思いが。

わしは、そんな思いを宥めるように、立ち上がった。

「...敵国とやらに、わしが単独で行けば人間の戦争に干渉したことにはならんだろう。」

「で、ですが...。」

「わしは気分屋でな。国一つ亡きものにしてしまうかもしれんが...。恨んでくれるな。」

その敵国とやらに向かう。

わしは何がしたいのか。あれだけ愛した人間を、この手で大量に殺戮しているのだから。

「貴様は..!なぜそんな残忍なことができる...!」

「時を操る神だというのに、時には抗えないという辛さを知って憤りを覚えただけのただの馬鹿じゃ。すまぬ。こんな、八つ当たりの標的にしてしまって...。」

寿命を延ばすことができると言っておきながら百年しか延ばせず結局わしより先に死ぬ。

未来を見ることができると言っておきながらちょっと先の出来事だけしか見えず犯人など一番大事なところが見えず結局変えられない。

こんな...こんなののどこが神だっていうのか。

こんななら...神になんて、なりたくなかった。

人間に...なりたかった。


帝人達には、出来事だけを軽く話す程度にした。こんな気持ちの悪い感情を、話したくはなかった。

そして...帝人は、凰によく似ておる。わしのことを尊敬しながらも堅い反応はしない。友のように扱ってくれる。

...帝人は半人半鬼じゃ、そう簡単には死なぬ。

「そう...でしたか。私の先祖はそんな聡明な...。」

「あぁ。あやつは良い人間じゃった。」

あやつは、とても良い人間だった。信じられないぐらい。本当に、惜しい。あの時代に戻れたなら、どれほど良かったか。他の者を過去へ飛ばすことはできても自分が過去へ行くことはできない。神には、現世を見守るとかいう使命がある。それさえなければ...。それさえ、なければ。わしはここにいなかっただろう。

「...凰のことは惜しいが、それでも、あやつの血族にこうして会えたのじゃ。それだけで、わしは嬉しい。」

あの家系が現世にまで受け継がれているなど思ってもみなかった。とうに滅んだものだとばかり。

「まあ、ここにいる間はわしは悠刻神クロノスではなく黒井結じゃ。ただの生徒だと思って接するが良い。」

「そう命ずるのであれば。」

しかし...堅くなったな。凰は、帝人のように気軽に話し掛けてきたというのに。


桃香は少し用があるようで、二人で歩く帰り道。

「...明日は三人でどこか出掛けよう。」

クロノスに語りかける。過去を語ったあたりから明らかに様子がおかしかった。

「...。」

反応がない。考え事でもしてるのか?

「クロノス?」

「あ?あぁ...すまない。少し、暗い気持ちになっておった。」

まあ、そうもなるだろう。

「お前は神だが...だが、今は俺の家族の一人だ。なにか悩みごとがあるなら、素直に言ってくれ。一番悩みごととかを言えない俺が言うのもおかしな話だが。」

俺が気遣いながらそう口にすると、クロノスは驚いたような顔をした。

「なあ....帝人。」

立ち止まって、いつもの元気なクロノスにはない、消え入りそうな声を発した。

「変な事を言うようだが...。帝人の前では...神じゃなく、ただの女の子でいられる気がするのじゃ。わしが女の子という歳でもないのはわかっておる。」

拳をぎゅっと握り、一つ一つ、絞り出すように話していく。

「わしは...人間になりたかった。お主や桃香もいつかは死ぬと考えると...恐ろしくてとても正常ではいられないのじゃ。今日、凰の事を思い出して、帝人らもいつかは死ぬということを...再確認、して...。」

泣いているのか、声が途切れ途切れになる。

...なんて声をかけたらいいのか。

「こんな、こんな思いをするなら、神になど...。」

「そうか。悠久の時を生きるクロノスからすれば俺らの一生も短いものだろうな。」

「わかっておる。こんな思いをするなら最初から人間と関わらなければいい。頭ではわかっておるが...!」

それでも、どうしようもなく人間が好きなのだろう。難儀なものだな。

「俺が...俺が完全に鬼になれば、お前のその辛さも、軽減できるのか?」

「じゃが...そんなことをすれば帝人は帝人でなくなる。わしは、わしは...。でも、わからん...!わからんのじゃ!何を望んでおる?わからない..。」

悩みごとがある時に色んな感情がごちゃごちゃになって混乱することはよくある。俺もそのタイプだ。頭をぐるぐる回すうちに、色んな感情がでてきて頭の中がよくわからないことになる。

「俺にはなんとも言えない。その辛さが俺にわかるとは言えない。その人にしかわからないような辛さには配慮したり寄り添ったり...それしかできないから。」

みんなよくあるような事や、自分も同じ苦しみを抱えているなら「わかる」とか同意の言葉を発してもいいと思っている。ただ...。その人にしかないような苦しみに簡単に同調するのは自分が許せない。自分が、「わかったような口をきくな」と思ってしまうような人間だから。

「帝人は...よくできた人間じゃな。少し落ち着いてきたわ。聞いてくれてありがとうな、帝人。」

そういって帰路を再び歩き出す俺ら二人の背を、綺麗な夕暮れが照らしていた。

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