驚きの転校生
地上の偵察の直後のことじゃった。
「ロード、わしは認めんぞ。人間とわしらは共生できる。」
「いい加減現実をみろクロノス!」
全く、最近のロードはピリピリしておるわ。少し意見が相違しただけで声を荒げおる。あれもこれも、全部キーンのせいじゃ。あやつがおらんだけでコイツの機嫌は悪くなる一方じゃ。
「歩み寄らなければわからんじゃろ!現に、子供を作るほど共生できたんじゃろ!?」
「それはいいかもしれないが、半人半妖などそんな異質なもの、どうせ人間は畏怖し、迫害する!」
たしかにロードの言うことは的を得ているかもしれん。だが...。
「これで良いのか?わしは地上と人間が大好きなんじゃ!それなのに、地上に行きたいとか話しているだけで追放?ふざけるのも大概にせよ!」
「はっ!言ってろ、俺は人間なんて大嫌いなんだよ!大体、ふざけてんのはそっちの方だろうが、悠刻神とかいう神の力を不用意に使う神の出来損ないが!」
「あ...?今お主なんて言ったんじゃ?たかが閻魔の言葉など神の耳にはノイズにしか聞こえんわ!」
キーンが居てくれたら、『そんな喧嘩するな』って仲裁してくれた。なのに、あいつが...。アイツの優しさは好きだが、そのために自らの命すら差し出す身勝手さは嫌いじゃ。残された者の事を考えてはくれぬ。
「ロードさま、クロノスさま...?」
そこにいたのはグリードとラスキーシュじゃった。こんな可愛い子供達の前で喧嘩などできるわけもない。二人はいつも一緒で、仲が良くて...わしらのように決別することにならなければ良いのじゃが。
「はぁ....。馬鹿らしくなってしもうた。今回はわしの負けで良い。この国はお主に譲ろう。わしは遠方に住む。」
「あぁ、ぜひそうしてくれ、悠刻神。」
口ではそう言っているが、心の声がダダ漏れじゃ。隠す気もないじゃろう。
「そんなわざとらしく心の声をさらけ出さんでも戻ってなど来んわ、閻魔。」
「クロノスさま...?」
「最初はわしが異界の長じゃった。だが、閻魔との反りが合わずに今の長は閻魔。結局、亡霊王がいなければわしらはバラバラだったのじゃ。」
人間に寄り添おうとしたクロノスと、人間を拒絶した閻魔様と、人間を守りたかった亡霊王。
似通っているようで、どれも違う。
「そういえば...。前に閻魔様に亡霊王の話をしていただいた時に、亡霊王に意思があるのは奇跡だとかなんとか言ってたんだが....。知ってるか?」
「はぁ、閻魔の奴、そんな話をしたのか。いいじゃろう、話してやる。」
亡霊王の存在は、いうなればまさしく奇跡。
本来は...ただの世界の管理システム。意志などないはずだった。わしが狂わせた。
ある日のこと。
「悠刻神クロノス...。人間ノ寿命ヲ延バスノハヤメヨ」
「お主はなんじゃ?いきなり現れおって。」
「ワタシは亡霊王。世界ノ管理者。」
その心のこもらない声に不快感を覚えたわしは、過去を少しいじくってみた。亡霊王という存在を軸に過去へと遡り、生まれた起源を調べてみると、なんということか。『世界の理を安定させるため』だけの、本当にそれだけの存在。意識もなければ、どこから生まれたなどもない。ただ、本当にぽっとこの世に産み落とされた、いわばロボット。
「ナニ、ヲ...。」
「何、亡霊王に意志を持たせてみたらどうなるのかと思っての」
そんなロボットに、伝承を与えて、一種の妖怪の類としてみた。すると、いきなり与えられた感情に耐えきれなかったのか、ショートしたかのように倒れ込んだ。しょうがないから、わしの家で様子を見てみることにした。
すると...。ある日、目を覚ました。
「ここ...は。私は...?」
「おぉ、目覚めおったか。お主、亡霊王とか言っておったか。名前は?」
「それが、名前。」
なんと。二つ名だけが名前だと?
「しょうがない。わしが名前をつけてやろう。そうじゃな...お主はキーンじゃ!」
「なるほど、それで...。」
「あぁ、わしがつけた名だから、ちゃんとした場では亡霊王としか名乗らなかった。その結果、わしらだけの秘密になったのじゃ。」
いやしかし、悠刻神の能力は異次元だな...。
「まあ、あいつが復活してもかつてのように三人で仲良く...とはいかんかもしれんが。」
「案外そうでもないんじゃないか?その意見の相違からどれほど経ったんだ。大体のことは時間を置けばなんとかなるものだ。それに、そんだけ経ってれば少しは冷静になれてるかもしれないしな。」
人間も妖怪も、よほどのことでない限り時間が経てば忘れてしまう。その時の憎悪も、憎しみさえ。
「そう...じゃな!グリードも異界にいることだし、今度、グリードを迎えがてら行ってみるとするかの」
ん?なんでグリードが...?
翌日。
「へえ、悠刻神クロノス...か、ゆうちゃんって呼んでいい?」
「何千何万と生きてきたが初めてそんな呼ばれ方したわ。いいぞ、好きに呼ぶがよい」
『クロノスのことをあだ名で呼ぶ人間が出てくるなんてな。時代が変われば人間も変わるものだな。』
神だと理解してこれなのだからすごい。神なの!?と、少しは驚いても良いと思うんだがな。
数日後。
大分日常に2人が馴染んできた。学校ではとりあえずの校長が決まり、そして今日は久しぶりの登校の日なのだが...。
なんで...。なんで?
「転校?してきた、ゆ...黒井結じゃ!よろしくの!」
本当になんで?桃香が転校してきたのは俺がやったから。莉が教師の手伝いで来たのも俺...というか先生がやったから。なんで?
「よう帝人!隣じゃな!」
そしてなんで例によって隣なんだ...?本当にわからない。何歳だと思ってるんだよ。他の周りの奴らと何歳離れてるかわかってるのか?いや、コイツのことだから制服着たいからとかで来た可能性が..。
「なんでお前がいるんだ」
小声で聞くと、普通の声量で応えた。配慮とかはないのか。ないんだろうな。神だから。
「なんで...か。レイ?とかいう奴が家の前まで来ておってな?それで高校とやらに行きたいと話したら簡単に手続きをしてくれたぞ!名前はその時適当に考えた!」
莉...。なにやってくれてるんだ...。こんな勘違いババアを高校生にだなんて...。狂ってる。
「おい、帝人。今なんて思考した?一回ぐらい死んどくかの?大丈夫じゃ、時が戻せるんだから死んだぐらいじゃ死なん。」
「い、いや...なんでもない...。」
心読む能力を通常で持ってるの本当やめてくれないか。命がいくらあっても足らない。
「なんでもなくないな?わしが年齢を気にしてるのを知っての所業か?あ?それが神への...。」
「い、いやいや〜、神の能力者だなんて、黒井はすごいな〜!!」
神だってのがバレたらめんどくさいだろ!?
コイツが心を読めるからこその芸当。
「ふむ...それもそうか。」
「そこ、静かに!」
先生に注意されて今気づいたが、斎藤先生が担任から外れていた。なんでだ...?
「は、はい。すみません。」
はぁ...。疲れる。これはコイツが神だとバレるのは時間の問題だな。
「もう、ゆうちゃん、初手から隠す気ないよね」
朝のHRが終わり、桃香がこっちへ駆け寄ってくる。そして桃香はなぜかクロノスのことをゆうちゃん
呼びしている。多分悠刻神の悠の部分から。
「はは、ちょっとやりすぎたわ。」
やりすぎたじゃないぞ。神が高校へ通う世界線があってたまるか。まあ、見た目だけで言えば俺の方が人外らしい見た目はしているのだが。
久しぶりの授業の体力育成。
「帝人!わしと模擬戦をせよ!あのときの続きじゃ!全力の帝人と戦ってみたかったのじゃ!」
「わかった。殺さないでくれ。」
「殺してもお主の身体を巻きもどすだけだから死にはせん。大丈夫じゃ。」
...なにも大丈夫じゃないが?
「じゃあ...。開始!」
桃香の合図で俺は走り出す。
「その手は通用しないと言ったじゃろう!」
俺は最近闇の短剣や闇の魔剣を詠唱なしで出せるようになっていた。そして詠唱なしでクロノスに駆け寄り、首を狙う。だが、時を操るクロノスにこの攻撃が効かないのはわかっていた。
『灼熱』
小さい声で。技を叫んでは、次何をするかを言っているようなもの。
「...!?」
俺のトラップの灼熱に引っかかり、クロノスの肌が焦げる。
「くくっ...。閻魔でさえわしに一発も与えられなかったのになあ...。久しぶりの傷を帝人に付けられるとはな!!良い、良い!!この感覚じゃ!やはりわしは帝人が好きじゃ!!」
『この世の全てを焼き尽くす業火を我に...!!完全焼却!』
終焉と同じかそれ以上の威力の爆発。流石にきついものがある。だが...。この前の焼却もよく見ていた。...俺にもできる。
『完全焼却!!』
「な...!?」
明らかに驚いている。今が勝機。
音もなくクロノスに駆け寄る。
「俺の勝ち...か?」
「はは、はははは!!完敗じゃ!何千何万と生きてきたが...負けたのは初めてじゃ!流石は帝人じゃ!!」
そういって俺の肩をバシバシ叩く。痛い。
「お兄ちゃんすごい!あのゆうちゃんに勝っちゃうなんて!」
「まあ完全焼却ができるかどうかは賭けだったけどな。」
正直、あのタイミングでクロノスを驚かせられないと勝利は絶望的だと思った。
「それでもこの神に勝ったんだから、誇ってよいぞ!」
次に戦うのは藍と桃香。どっちも見どころがある。
「藍さん!手加減はしないでよ!」
「あはは、わかったよ!そっちもね!」
「じゃあ...開始!」
今度の合図はお兄ちゃん。私だって少しは強くなったんだから!私は事前にお兄ちゃんから渡されてたナイフを握る。相手は速さ自慢の藍さん。
「そんな速度で大丈夫!?」
凄まじい速度で走り寄ってくる藍さんに、私は声をかけた。
「藍さんの心配には及びません!」
私は藍さんの鎌の横ぶりの一撃を躱し、にじり寄る。
「これを...こう!」
前にお兄ちゃんが言ってたこと。相手の不意をつくような動きをする。私は躱した後に間髪置かずに相手に寄り、斜めに切った...後に、すぐ藍さんの首にナイフを突きつける。
「ッ...。」
前の私ならこう速くは動けなかった。だけど、亡霊王のおかげでこんな速く動けるようになった。
「私の勝ち...かな?」
「いやぁ、やられた。まさか妹ちゃんにこんな淀みない動きができるなんて。」
「あはは、私でも信じられないくらい。」
体制をほどき、藍さんと談笑する。すると、すかさずお兄ちゃんが駆け寄ってきた。
「桃香はこんなに速かったか?すごいじゃないか!速さ自慢の藍に速さで不意をつくなんて!俺も想像してなかった、というかなんなら桃香に勝ちは厳しいと思ってたのに!」
聞く人が聞けば嫌味にしか聞こえないような言葉を素で言っちゃうんだから、本当...。
「でた、帝人の褒め殺し。」
藍さんは、私よりもお兄ちゃんを知ってる。
「別に褒め殺しをしてるつもりはないんだが...。本当に思うがままを言っただけだ。」
「それで本当にそう思ってるってのが珍しいよね...。」
帝人は帝人で用があるらしくて、放課後結ちゃんから呼び出されてた。何を話すんだろう..。
誰もいなくなった教室で、二人きり。
「藍は、帝人のことが好きか?」
「なっ..!?何言ってるの、結ちゃん?」
帝人は...。好きだけど、それは友達として。それに....ナイトの活動を尊敬しているから。別に、他意はない....と思う。
「ほう...。ナイトとしての帝人が好きなだけなのか。まあ、それならよい。わしとて、気になる人間を放っておくほど老いてはない。」
「というか...。ずっと気になってたんだけど、結ちゃんって何歳なの...?」
「わしは永遠の100歳じゃ!あ、流石に100じゃ若すぎたかの?あ、でも人間の生は短いから...50歳?」
とりあえず1000とかいってそうなことはわかった。何者なんだろう、結ちゃん...。
「何者か、か...。ナイトのことを知ってるなら教えてもよかろ。わしは、悠刻神クロノスじゃ。」
なるほど、1000歳いってそうと思ったら神...って神!?
「た、帝人は相変わらずすごいのを連れてるね...。鬼の次は神、か。」
悠刻神...。悠刻神...?なんか聞いたことがある気がする。
「ねえ、その悠刻神っての、字に起こしてもらっていいかな?」
すると、手短な机(帝人の)に書き起こす。
「これでいいか?」
...やっぱり。
「見たことある。家の倉庫かなんかで前に見たことある気がする...。」
「ほう、そういえば...。昔...何千年前じゃろうな、人間に過去改変をしてやったことがあるわ。」
過去、改変...。
「多分それ!『悠刻神クロノス。過去をも変える時の神』みたいなことが巻物に...。」
「どの人間かのう..。見てみたい。家に行ってもよいか。」
「あ...でも、家の倉庫があるのは実家の方なんだ。ごめんね。」
同時刻
「莉、本当に知らないのか?」
俺は先生の家を訪ねていた。
「あぁ。隠す理由もないさ。僕も知りたい。」
結局、先生は学校から姿を消した。
「そう、だな。じゃあ、先生になるの頑張れよ」
「あぁ。教員免許を取ったら、帝人にも授業をしてやるさ。」
莉の家を後にした。あの先生が責任から逃れようとするはずがない。むしろ全部を背負おうとする。何かがある。きっと。




