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闇の覇者  作者: 快良
19/33

悠刻神クロノス

「はぁ...はぁ...死ぬかと思った...。」

亡霊王に促され、俺と閻魔様は京都に来ていた。

...その移動時間はわずか10分。俺だって最初は無理だと言った。だが...。『私がお前の移動速度を引き上げてやる。魂力も分ける。それならできるはずだ。それとも、お前の平和への切望はそんなものか』とかそんなことを閻魔様に言われ、限界の状態の身体に魂力を注ぎ込まれた挙句に、閻魔の特殊能力『上に立つもの』...。相手に任意の能力バフを与えられるとかいうぶっ壊れ能力で移動速度上昇のバフをつけられ半ば強制的に京都まで。それでも断りも、途中でめげることもしなかったのは俺も...平和を、日常を愛おしく思っているから。

「よく耐えたな。途中で投げ出すこともできただろうに、それをしなかったのはお前の覚悟と私は受け取ろう。では、悠刻神の元へ向かうとするか。」

ここが、きっと...。ロードという人物が、閻魔であり続ける所以なのだろう。最初に厳しく言い、耐えた者には賛辞を。本当、よくできた人だ。


「ん〜?おぉ、閻魔ではないか。久しぶりじゃな、いやぁ、久しぶりの地上は良いというものよ。どこかの誰かさんのせいで永らく地上におられんかったからなあ。して...そこの奇怪な半鬼は何者じゃ?」

そして現れたのはまさかの美少女だった。薄い藍色の髪は腰付近までスラーっと伸びており、そして特徴的な萌え袖。いや、萌え袖というかなんというか...。長すぎて萌え袖といっていいのかもわからない。そして特徴的な目をしている...。濃い藍色の目に時計のような印が刻まれている。ローマ数字がアナログ時計の配置で薄く刻まれている。俺よりも背が低い...160cmと言ったところか。それに随分と可愛らしい声をしている...これが本当に悠刻神と言われる人物なのか...?とも思う反面、今の半鬼に対しての反応的にやはり神というのは間違いなさそうだ。妖怪などからすれば半人半鬼など奇怪以外の何物でもない。

「久しぶりだな、悠刻神。帝人、自己紹介を。」

「俺は半人半鬼の開楼帝人。グリードとの融合者。」

「おぉ、グリードか!あやつは...近頃会ってないのう。まあ、わしが現役で王宮にいたのも随分と昔の話じゃからなぁ...。グリードは元気かの?」

どうやらグリードを知っているらしい。いやしかし、この美少女の見た目でその口調だとどうも調子が狂う。

「え?あぁ、グリードは元気ですよ。それで、貴方が悠刻神クロノス...?」

「はっはっは〜、いかにもいかにも、わしが悠刻神クロノスじゃ!なんじゃ?何が望みじゃ?寿命か?過去改変か?」

たしかにこれは気分屋そうな人だ...。テンションが高い...。

「あぁ。過去改変だ。」

閻魔様が早速本題を切り出した。

「ほう...過去改変とな?何をお望みかえ?」

「半人半鬼を...最初から存在する種族にするため。今の地上のこの惨状は知っているでしょう。それで創造のオーブの復旧にあたっていたのですが...。もう修復完了という時になってオーブが砕けちった。それが俺という中途半端な存在のせいだという結論に至った。過去改変に手を貸してほしい。」

これが精一杯。これで断られたら、どうしたらいいのか。

「ふむ....。断る。」

「なっ...!?」

つい言葉が漏れ出た。そんな、ことって。

「まあ待て、頭ごなしにダメだと言い張るつもりはない。だが、わしとてそれほどの過去改変は怖いのじゃ。だから...そこで条件がある。」

断られこそしたものの、なんとか首の皮は繋がっているようだ。

「それで...条件とは?」

まあ、どんだけ首の皮が繋がっていようと条件によるのだが...。

「わしと戦え!」

...は?一瞬、声が漏れかけた。戦う?神と?

「...いやまて、帝人はここにくるまでで消費しすぎてまともにお前と戦えない。」

「おぬしに聞いておらんわ」

直後、クロノスは閻魔様の腹に手を当て、軽く吹っ飛ばす。

「がはっ....!」

いくら不意打ちとはいえ、あの閻魔様を軽く吹っ飛ばす...強い。流石は神、か。俺に勝てるかどうか....。

「別に勝たなくてもよい。わしが気に入ったらそれで良いのじゃ。で、やるか?」

話に聞いていた通りの気分屋らしいな。...やってやろうじゃないか。全快の状態でないのが残念だが。

「あぁ....。やろう。勝たなくてもいいという前提があるのなら。」

「帝人、悪い事は言わない。クロノスと殺り合うのはやめといたほうが...。ぐっ!?」

クロノスがすっ転んだ閻魔様の腹を踏み躙り、閻魔様の喉から悲痛のような声が漏れる。

「はぁ、さっきからじじいがうるさいのう。じゃあ...始めようかの?」

閻魔様をじじいというならクロノスも十分婆さんなのでは、と思ったが引っ込める。

「今わしのことババアって思ったか?」

「い..いえなにも。」

「そうかそうか、それなら良いのじゃ。」

そうだった。こういう奴ら、心読む力を平然と使ってくるんだった...。というか、こういう奴らが心読む力を持ってるならサトリの存在価値ないんじゃないか?

「じゃあ、先攻は譲ってやろう。好きなタイミングで来い。」

『闇の短剣』

相手の戦闘スタイルがわからないうちは対応しやすい短剣の方がいい。加速し、クロノスの元へ。

気づいてなさそうだ。これは貰った...!

「っ....!?」

なぜ、なぜ今俺は一撃をくらった...!?クロノスは気付いてなかった...。

「あぁ...言い忘れておったがな。わしは悠刻神じゃ。時を止める程度は容易いぞ。」

そういうことかよ...!じゃあ、どうしろっていうんだ...!時を止めれるということは未来も見えると考えていいだろう。

最初から負け試合だ。少し足掻く程度にしか考えずにいこう。

こんな時もあろうかと開発しておいたものがある。

『灼熱-改』

灼熱の改。改の方は、追尾式。こんな化け物と戦うことになるとは思ってなかったが、追尾式はどこかしらで役立つと思って作っておいた。

「はっはっは、追尾式か。本当にどこまでもついてくるのう。面白い。少し神の威厳とやらをみせてやらねばな?」

『巻き戻し(リワインド)』

クロノスが指を鳴らした瞬間、俺の灼熱がまき戻っていく。そして最終的に灼熱の魂力が俺に帰ってきた。本当にただ巻き戻すだけらしい。

「どうじゃどうじゃ、もう打つ手はなかろ?降参するか?」

灼熱の改が効かないなら...。あまり使いたくはないが、出し惜しみしている余裕もない。

クロノスに近づく。本当に、最高速度で。

『終焉』

近付いて終焉は逃れようがない。

「ぐっ...やりおるな。いいぞ、いいぞ...!やってやる!!これでどうじゃ!!」

そういって発動したのは炎の技のよう。

『燃やし尽くせ!!焼却(バーニング)!!』

とんでもない火力の炎。灼熱以上終焉未満。

だが散々炎の技をくらってきた俺には通じない。なによりこっちは赤鬼が半分。赤鬼への炎の効き目は弱い。

「これで避けるか...楽しくなって来たぞ!!!はーはっは!!」

「そこまでだ。」

閻魔様の制裁。流石にライン超えだと判断したらしい。

「もう十分だろう」

「あぁ!?少しと言わず世界の裏側までぶっ飛ばされたいのか!」

邪魔されたことが気に障ったのか、怒り心頭といった様子で叫ぶ。

「落ち着けって言ってんだろうが、身の程を弁えろ悠刻神。」

口調的に、閻魔様が戦闘モードに入った。目付きが変わる。

「げ...。戦闘モード...。だるいな。仕方ない、中断してやる。」

急にクロノスの目が険しくなる。もしかしてさっきまでの可愛い雰囲気は作ってたのか?...というか、そんな昔から戦闘モードがあるのは変わらないんだな。

「わかればいいんだ。ところで戦闘モードとは?」

...本人に自覚がないのが一番タチの悪いところ。すると、クロノスは覚悟を決めたように話しだした。

「まあ、覚悟は伝わった。いいだろう。過去改変をしてやる。半人半鬼の伝承を過去に創ればよいな?」

「あぁ。頼む。」

すると、クロノスは紅く変色した天に手を翳し、詠唱を始めた。すると、さっきまで目に薄く刻まれている程度だった数字が強く光り、その時計の針が巻き戻り始める。これが...神の力。

『悠刻神クロノスが望む。半人半鬼をこの世の種族として正式に認める。この悠刻神の断定に世界の干渉は1ミリたりとも赦さぬ。

...過去改変(パサードタンジェント)

「これで...。大丈夫なのか?だが...いくら砕けちった原因を切除しようと壊れた創造のオーブは...。あれ?」

クロノスも、閻魔様もいない。空も雲一つない晴天。やった...のか?

流石に閻魔様の力なしに祠までいくのは厳しいな...。どうしたものか。

....そうだ。

「桃香の指輪から話しかけてる。誰か聞いてるか?」

指輪の通信機能がこんなところで役立つなんて。

『帝人か。どうなった?』

俺の声に応えたのはグリードだった。

「クロノスが無事過去改変をしてくれた。」

『そうか、こっちは、急に砕けちったと思ってた創造のオーブが急に元に戻って、自ら祠におさまったんだ。』

オーブが...。そう、か。

「今からそっちへ向かう。ちょっと待っててくれ。」


「遅かったな。」

これでもできる限りは飛ばしてきたんだがな。いつもなら10分足らずで移動できるが、クロノスとの戦いのこともあり30分近くかかっていた。まあそれでも速いことに変わりはないのだが。

『ふむ...。じゃあ、異界に行ってみるとするか。準備はいいか?』

亡霊王が祠に触れると、目の前が白で満たされ、その後に異界の薄暗い世界が映し出される。


『ここが我の創った場所なのか。いやあ、実は一度も見たことがなかったものでな。』

「あ〜!帝人ではないか!それに...亡霊王?亡霊王なのか!?」

誰かと思ったら、クロノスだった。手をぶんぶんと勢い良く振りながらこっちへ駆け寄って来た。

クロノスは亡霊王に抱きつこうとするが、実態がないためすりぬけてずっこける。

「いてて...。なんで実態がないんじゃ!依代に復活するんじゃないのか?」

『あ、あぁ。最初はそのつもりだったがな。依代の意識を奪わんでも復活できたのでな。』

「そうか...。じゃあ帝人に抱きつくとするか!」

「おわっ!?」

クロノスが俺の腰あたりに頭突きをかます。痛い...。俺がそんなになってる中、亡霊王と閻魔様は業務連絡のような会話をし始める。

『これで大丈夫なのか?ロード?』

「あぁ、大丈夫だ。異界に異変はない。」

これで一安心か。桃香を抱えさせられてたりクロノスとボロボロの状態で戦った俺のことも少しは労ってほしいものだが。

「そういえば帝人よ、お前はなぜ半人半鬼などになったのだ?」

「それは聞かないでいてくれると助かるんですケド...。」

腰に抱きついたクロノスに離れてくれと視線を送るもスルー。

「いいや、聞くぞ。グリードとも久しぶりに会ったしな。どうしてグリードと融合したのかぐらい聞いてもよかろ?」

話したくないのもあるが、それ以上に話すのがだるい。

「じゃあ、グリード、クロノスの面倒頼んでいいか?」

「まあ、いいぞ。悠刻神、こっちへ。」

「グリード、ちょっと見ない間に堅くなったのう!わしが面倒を見てた頃はクロノスさま〜ってはしゃいで抱きついてきたのにいつの間にかでかくなりおって...可愛げがないのう。」

なんか今信じられない会話が聞こえたような気がするが聞かなかったフリをしておこうか。

というか、グリードにも子供の時代があったんだな。なんか想像がつかないというかなんというか。

「これからも少し呼び出したりはあるかもしれないが、その時は応じてくれると助かる。」

言葉では助かるとしか言ってないがその言葉の本質は命令。

「あぁ、わかりました。グリード、俺は帰るが...。」

「俺も帰る。というか、コイツどうにかしてくれないか?」

グリードの肩にクロノスが抱きついていた。

「帝人〜、貴様、そんな辛い過去があったのか

!わし、涙もろいからな、泣いてしもうたわ。」

そう言いながら俺の背中を叩く。神の威力だということを意識してほしいものだな。

「わしも地上に住みたい!だめか!?なあ閻魔!?」

「私は構わん。帝人がいいなら。」

「はぁ...。来たいなら来い。」

俺はなんだかんだ言って人を突き飛ばすことが苦手だ。

「帝人は優しいのう!」


「はぁ...どっと疲れた...。」

やっぱコイツ置いてきた方がよかったかも。

「帝人の目線はいつもこんななのか!いいのうこの視点は!」

俺の肩に乗って降りない。子供か。こんな見た目と中身で数千年も生きてる神だって言うんだから世の中なんでもありだよな。

というかこの家人外が多すぎるな...。亡霊王に悠刻神に鬼と半人半鬼?まともな人間が桃香だけって...。と思ったが桃香も能力持ちだったな。人間の枠は出てないが普通ではなかった。

「なあ!この服はなんじゃ!?可愛い!わしこれ着たい!」

おい待て。それは制服だ。見た目的にはセーフかもしれないが歳的にアウトだ。しかも桃香のだ。お願いだからやめてくれ。

「なあー!着たい!着たーい!」

「いくら服を引っ張ってもだめだ。」

クロノスは子供のように俺の服のはしを掴み、着たい着たいと駄々をこねる。

「もういい!こうなったら時止めて着てやるからの!」

「やめろって言ってるだろ」

俺はクロノスの頬を引っ張る。これは母さんがよくやってたやつだ。俺がなにかやらかして話を聞かない時によくやられた。

「あぁ〜!それやめるんじゃ!痛い!この中途半端人間!薄情!やめんか!」

「だったら諦めろ」

神に対してやるのは罰当たりかもしれないが。

「わかった!強請らんからやめよ!」

俺はクロノスから手を離した。

「はぁ...。それが神への所業か!罰当たりじゃぞ!」

それはわかってるが、神なのを忘れさせるぐらい幼稚なクロノスが悪い。最初はまだ神の威厳もあったというのに...。全く面影がない。

「疲れた、寝させてくれ。」

ソファに横になると、クロノスが横に来る。

「...なんだ?」

「人肌恋しいかと思ってな!」

「人じゃないだろ、悠刻神?」

「そういうときだけ神扱いするのはやめよ!」

俺も...随分と大切なものが増えたな。前なんて、大切なものをあえて作らないようにしてたのに。前の俺が見たらなんていうか。まあ、もっとも...そうやって大切なものを作らないようにしてたのも俺の勘違いだったわけだが。

「...さっきは茶化したが...。わしならお主を十数年前...つまり、お主の母が生きておった時に飛ばすこともできるのじゃぞ。人間はただでさえ短命。それで親の顔もロクに覚えておらんのは辛いじゃろう?」

まあ、たしかに...。全く見たくないと言ったら嘘になる...。だが。それ以上に、俺は今が大事。

「いや、いい。俺は今が大事だ。それに...。過去に縋るような人物であれば俺はとっくにこの世を去ってる。でも、今は楽しい。...過去を受け入れ、超えていく段階はもう超えた。これからは、新たな記憶を作っていくことで精一杯だ。クロノスも、俺の記憶の一部になってくれるんだろ?」

そうクロノスに語りかけると、クロノスは呆気にとられたような顔で語りだした。

「お主は...強いな。わしは、やろうと思えばいくらでも過去に縋れる。実際、わしは幾度か過去に縋った。過去の映像をなんどもリピートして、過去に縋った。だが...お主は、帝人は違うんじゃな。」

そういえば、伝承にもいくらかそのような事があった気がする。

「...少しだけ昔話をさせよ。地上で暮らしていた時、わしと閻魔と亡霊王はいっつも三人でおった。だが...。異界創造...つまり、亡霊王がいなくなってからわしらはおかしくなってしもうた...。」

感傷に浸ったような表情で天井を見つめながら、ぽつぽつと喋りはじめた。

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