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闇の覇者  作者: 快良
18/33

混沌

桃香との旅行も終わりを迎えようとしていた。

「桃香は...楽しめたか?」

「うん!美味しいものもいっぱい食べれて...。なにより、お兄ちゃんと一緒だから...楽しかった!」

そういって微笑む桃香を見ると、こっちも自然と笑みが零れる。

「そうか、楽しんでくれたならなによりだ。」

この数日間、俺自身もすごく楽しかった。桃香の浴衣姿を見たり、他にも服を買ったり...。少し前の悩みごとなど吹っ飛んでしまうほどに。この部屋ももうすぐでさよならだ。ここからの景色は本当に綺麗だ。また来たいな。

「お兄ちゃんも楽しそうだったよね〜」

「そ、そうか?」

昔から、無表情、無愛想と散々言われてきた俺には想像もつかない言葉だった。

「うん。たしかに表情の変化は少ないけど...。それでも楽しんでるっていうのは伝わるよ。家族だもん。」

...そうか、家族か。血は繋がっておらずとも、ちゃんと家族になれていたんだな。

「そう...だな、ありがとう。」

そして、今日はそんな楽しい旅行が終わってしまう日。

「じゃあ、そろそろ帰るか?」

「うん...そうだね、そろそろ我が家が恋しいよ。」

部屋から出ようとした時に、桃香の様子がおかしくなった。

「お、おい。どうしたんだ!?」

桃香が胸を抑えてうずくまる。一体何が...もしかして、亡霊王の...。

『ちゃんと会うのははじめてだな。我は亡霊王キーン。夢で話した通り、そろそろ異界が崩壊する。さあ、祠へ急げ。そろそろ...。そうだな、もって数分と言ったところか。』

「あんたが...亡霊王か。桃香の意志は残っているんだろうな?」

亡霊王は和を基調とした服装で、ところどころ人魂のような柄が刻まれており、髪は肩ぐらいまでの髪を束ねている。所謂おさげという感じだろう。

『ああ。大丈夫だ。ほれ、桃香。』

「ん、んん...?お兄ちゃん...私、どうして...?」

よかった、ちゃんと意識がある。

「じゃあ早いとこチェックアウトしなきゃな。」

部屋を出て、桃香を抱えて階段を駆け下りる。...といっても、階段を降るというよりは階段から落ちると言ったほうがいい。一階分程度なら階段を飛び降りても大したダメージはない。普通に降りるよりこっちの方が速い。

『そういえば、この前の件、ちゃんとロードに伝えたか?』

「あぁ。その日のうちに伝えたら手を貸してくれると言っていた。」

普通に降りるより数段速く一階に着いた。他の客に異様な目で見られたが気にしない。

「じゃあ、ちょっと待っててくれ。」

頷く桃香を亡霊王に任せ、チェックアウトを手短に済ます。


「待たせたな。」

『あぁ、全くだな。あと数分で世界崩壊だというのに。...!』

突如、ゴゴゴゴという地響きが響き、さっきまでの視界が一変し、さっきまで雲一つなかった晴天がまるで嘘だったかのように真っ赤に染まる。

『...遅かったか。被害を少しでも減らすことに尽力せよ。』

どこかで甲高い悲鳴が響いた。どうやら、本気で急がないといけないらしい。

「くッ...。桃香を連れてだと全力で走れない...。」

『だったら我が桃香の代わりに走ろう。それで良いな、桃香。少し身体を借りるぞ。』

「う、うん。わからないけどわかった!」

桃香の承諾を得ると、亡霊王は桃香の身体を乗っ取った。桃香の身体に男が...とか思うような気がしないでもないが、今はそれどころではない。

「よし...この状態なら十分に速度が出せる。祠へ急ぐとしよう。」

桃香の姿でそんな声を出さないでくれないか...。

亡霊王...。速い。これほど速いと、戦闘も強いのだろう。

「クッソ...出来れば殺したくないんだがなッ...。」

さっきから、走る俺を喰おうと追ってくる妖怪が多々。その度に魂力を使っているためなかなかに疲れる。

「大丈夫か?帝人。」

「あ、あぁ。なんとか...。」

俺が強いのはあくまで人間の中での話。大抵の能力持ちに勝てるといっても妖怪はその力の大元。そもそも能力持ちが能力として扱えるのは身体能力も魂力も能力もなにもかも元の妖怪のほんの一部。そんなほんの一部程度しか持たない奴らに勝てたところで能力持ちの数倍強い元の妖怪に勝てるかという話。そんな奴らを最速で走るのを維持しながら蹴散らしていく。あと数分....。保つかどうか。

「保つかどうかじゃない、保たせろ。大切なものを守りたければな。」

こういう奴らは通常で心の中を読んでくるのはなんなんだ...。わかってる。保たせなきゃ桃香も莉も...。大事なものを守るためにここまで強くなったんだ。

「くッ...。」

速度を維持するためにもある程度の魂力を使い、妖怪を殺すのにも魂力を使う。これはキツい戦いだ。これ以上ない苦戦を強いられている。

「はあ、情けないな。少しだけ魂力を分けてやろう。」

人に魂力をわけるなんて...。そんなことが可能なのか...。

「あぁ。人から人への場合はその人物らが深く繋がっている必要がある。多くの時を共に過ごし、魂レベルで仲良くなれば可能だ。」

なるほど、だったら桃香から俺へはできないわけがないな。

「桃香の身体は大丈夫なんだろうな?」

「あぁ。問題ない。」

...それならいいが。もうすぐで祠に着く。


「これが祠か。実のところ、創った後に肉体がなくなったから我自身は見たことはなかったのだ。...ところで、閻魔はどこだ?」

「それより、桃香の身体を返してもらっていいか?」

俺がそういうと、『あぁ、悪い悪い』と身体から離れた。俺は桃香の体を抱える。

『じゃあ、ロードを探すとするか。』

「その必要はない、亡霊王。」

声の主は閻魔様だった。さっきまでいなかったのに、一体どこから...?

『おお、久方ぶりだな。我が友よ。』

「...そうだな。」

数千年ぶりの再会のはずなのに、閻魔様の反応は随分と薄かった。いない間になにかあったのだろうか。

「じゃあ...早速始めるか。」

「ちょっと待ってくれませんか。俺はさっきまで戦い続けていたんです。魂力が保ちません。」

『ふむ...。では、どうしたものかな。我は二度も死ぬつもりはない。そのためにはお前かそれ以上...。』

「なら、グリードを連れてきます。少し待っててください。」

俺は最後の魂力を使い切るほどの気概で走る。


「グリード!いるか?」

「ようやくか。これはどういうことだ?」

ソファに座ったグリードが慌てて入ってきた俺に返事をする。

「細かいことを教えている余裕はない。とりあえず祠に向かってくれ。俺は...。ここにくるまでで魂力切れになってしまった。早く行ってくれ。」

すると、グリードは呆れたようにため息をついた。

「お前がいないでどうするんだ。お前一人抱えて全力で走るぐらい造作もない。早く行くぞ。時間がないんだろ。」

グリードは俺を抱え走りだした。

「なんでだよ...?」

わからない。俺なんていなくても、あの人らなら。

「はっ、少しは自分で考えろ。自分が周りの人間にどれほど必要とされてるかぐらい。わからないフリはやめておけ。」

...。本当だな。俺は..。俺が嫌いだ。どれほど強くなっても、大切なものを守れない。守れない力は弱い。そして...。そんな弱い俺は嫌いだ。

グリードに抱えられながら見る空は、ただでさえ紅くて不気味なのに、やけに薄暗い気がした。


「来たか、グリード。」

もうすでに魂力を注ぎ始めていた閻魔様が振り返る。

「はい。して、これは...?なんの状況説明も受けていないのですが..。」

『祠が朽ち、異界の奴らが地上に解き放たれた。だから祠の核となる..。創造のオーブを修復する。』

地面には、砕けたであろう創造のオーブが落ちていた。素材は俺の剣と近い。魂力から作られたものだろう。それだと、魂力を消費し続けることにならないか?

「なるほど...。魂力を添えればいいと?」

『そういうことだ。』

俺は...。魂力切れでなにもできない。

『この感覚...随分と久しいな。そう思わないか、ロード?』

「あぁ、本当だな。こんなに魂力が限界に近くなるのは久しぶりだ。」

三人は順調に修復を続けていく。なにもできない俺を置いて。

「さぁ...こっからラストスパートだ!」

...オーブが完成しかかった瞬間、そのオーブは砕けちった。

「な...!?どういうことだ!?」

俺にもよくわからなかった。ただわかるのは...。修復が絶望的だということ。そもそも、魂力からオーブを創るからいけないのではないか...?なにか、魂力を注げる素材に魂力を...。いやそもそもこの世界にそんな素材はない。どうしたらまたオーブを...。

そんな風に頭をぐるぐると回していると、亡霊王が口を開いた。

『ふむ...。どうやら、帝人に反応しているようだな。』

「はぁ!?」

思わず声がでた。なぜ俺に反応したらオーブが砕け散るんだ?

『そもそも、このオーブは純粋な魂の結晶。半人半鬼という中途半端な存在がいることによって理に拒否されたのやもしれん。』

...なんだよ、それ。じゃあ、どうすればいいっていうんだ。鬼になれってか?

『方法は3つ。人間に戻るか、完全に鬼になるか...。理を覆すか。』

「理を覆す...?どうやるんだ?」

『そうだな、一番手っ取り早いのは悠刻神(ゆうこくしん)クロノスに頼むことだな。』

「悠刻神...?どんなやつなんだ?」

名前も聞いたことがない。名前の響き的に時にまつわる神ではありそうだが。

『アイツはとにかく気分屋な奴だが...。まあ悪い奴ではないさ。地上のどこかにいるはずだ。アイツのことだ、地上を満喫してるんじゃないか?』

間違ってないわけではないがあってもいない返答を聞いた後、閻魔様が声をかけた。

「...多分帝人が聞こうとしてるのはそういうことじゃないぞ。悠刻神がどういう伝承の奴かとかそういうことだろ。」

こくと頷いた。すると、亡霊王はそうだったかと納得し、解説を始める。

『えーっと....。クロノスはな...。』


悠刻神クロノス。亡霊王が死ぬより前に主に活躍していた神。極度の気分屋。気に入られれば簡単に言うことを聞いてくれる。日本ではあまり知られていないが海外の一部では今も信仰されており長年生きながらえているとか。その伝承は多々ある。気に入った人間の寿命を引き延ばしたりだとか、過去に戻ることを懇願した少年を過去に飛ばしたりだとか...。だが、それでも世界に影響を与えない程度のことしかしないらしい。安易に世界の理を変えるのは危険なのだそうだ。

...それはそうとて、そのクロノスとやらはどこにいるのか。皆目見当もつかない。


『...奴はどこにいると思う、ロード。』

「そうだな...。閻魔としての力が使えれば手っ取り早いんだが..。ここは異界じゃないしな。情報量に耐えられない。」

閻魔としての力。たしか、前に言っていた気がするな。世界にどんな生物がいるかを見られるみたいな、そんなことを言っていた。...気がする。

『しょうがない、直接探すか。』

直接探す?流石に冗談がすぎるだろ.....。そんな風に思いながら亡霊王の様子を見てると、急に宙に浮かんだ。すると...さっきまで綺麗な蒼だった瞳の色が暗い朱色に変わった。

「亡霊王のあれは....いつぶりか。あれはアイツだけの、亡霊王だけの特殊能力...。慧眼。」

...慧眼。この世のあらゆる魂を見ることができるらしい。しかも、その魂の見え方は普通の見え方ではなく亡霊王ならではの特別仕様。真理まで見抜くことができるという。

「あれを...桃香が使うことは可能ですか?」

グリードに取り憑かれていた時の俺でも今の俺でも魂が見えないのはグリードが鬼だからだろう。桃香に魂が、なんならその本質まで見抜けていたのは亡霊王が宿っていたからなのだろう。ちょっとコツを掴めばできるはずだ。

「理論上は可能なはずだ。」

桃香はさっき身体を乗っ取られていた時の影響でまだ目が覚めない。桃香が目を覚ます頃にはこの混沌が終わっていればいいんだが。

『見つけたぞ...。クロノス。場所は...。京都だな。よし、じゃあ帝人。クロノスの元へ行ってこい。』

「ついてこないんですか?」

『まあついていってもいいし久しぶりにアイツに会いたい気もするんだがなあ....これ以上身体を乗っ取ったら桃香が死ぬ。それでもいいなら行くが。あぁ、そうだ。じゃあロードが帝人についていけ。』

「はぁ、勝手な奴だな。まあいいが。じゃあ、行くぞ。手短に終わらせる。」

「閻魔様が一緒なら、まあ...。」

閻魔様が一緒だったら、そのクロノスとやらの交渉もうまくいきそうだ。

「グリード、桃香を頼んだ。」

桃香をグリードに預け、閻魔様の元へ。

「...あぁ。任せとけ。」

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