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闇の覇者  作者: 快良
17/33

休日

あの一件から数日経った。文化祭も無事...ではなかったが終わり...。次の校長が決まるまで休校ということで一週間も休みだ。明日は温泉旅館に行こうとしている。

「そうだ...桃香、これ。」

「え...?これ、お母さんの...。」

「そう。アメシストの石言葉...なにか知ってるか?」

「石言葉...?なにそれ?」

やっぱり知らないか。

「アメシストの石言葉は...。『愛情』。桃香の母さんは、桃香を捨てたわけじゃなかった。」

「じゃあ...どうして?」

「アーロア教だ。アイツらが元凶。あいつらに目をつけられていると気付いた母さんは..。あえて捨てるような形で桃香を逃がした。」

「お母、さん...。そう、なの...?」

「俺が気付いたのはあのタワマンが爆破された時。あの時来てたのはアーロア教幹部とかいうやつ。そいつが能力持ちを殺すために来たといった。だから...。桃香の母さんは..。」

「そう...なんだ。ありがとう、ちゃんと感謝できるよ。」

言うかどうかは大分悩んだが...。でも、親に捨てられたと勘違いしたままでは...と思ってしまった。

「明日の旅行の前にこんな重っ苦しい話して悪いな。どうしても、旅行の前に吐き出しておきたくてな。」

「いや、全然いいよ。私も...知れてすっきりした。」


翌日

「今日は熱海の温泉旅館にいくぞ!」

グリードにも行かないかと聞いたが、どうせ温泉にも入れないし二人で行ってこいと言われた。

「...やっとだね!」

わかりやすい空元気。でもあえてなにも触れない。そのうち本当に楽しくなるから。楽しませるから。俺も桃香も、悲しいことや辛いことを忘れてしまうぐらいに。


熱海ぐらいなら本気で移動すれば数分で着く。だが桃香が耐えられるように数十分ぐらいで着くようにスピードを調節する。

「しっかり掴まれよ!」

桃香をお姫様抱っこで抱えながら屋根から屋根へとジャンプで飛び移りながら移動していく。

「あはは、いつものことだけどすごいね!人間業とは思えないよ!」

「まあ、半分人間じゃないからな。」

「そうだったね!」

笑い合う。笑うことができるようになったのは桃香を拾ってからだ。桃香を生かしてくれた桃香の親に感謝しなきゃな。

「...なあ、思ってたんだが。なぜ俺をすぐ受け入れてくれたんだ?ナイトのこともあるのに。」

「う〜ん...なんでだろ...。わかんないけど、初めてあった気がしなかったの。」

それは...わかる。俺もどういうわけか、ただの少女のようには思えなかった。もっと近いところにあるような...。そんな気がした。

「そうか、ありがとな。」

「...なんで?」

「どういう訳があろうと、犯罪者同然のこの俺を受け入れてくれた。そして、妹になってくれたことに、感謝しているんだ。」

普通ならショックで突き放してもおかしくない。なのに、受け入れてくれたのだから感謝しなければいけない。

「それは私もだよ。私を見つけてくれて、助けてくれて...ありがとう。私、ひとりっ子だったからお兄ちゃんができて嬉しいんだ。」

そんな桃香を見ていると、つい口元が緩む。

幼い頃に親を亡くした俺にとっては、桃香の存在が想像以上に大きかった。妙な安心感がある。第二の母のような安心感。


「ここが熱海かー!来たことなかったんだよね!」

目を輝かせて周りを見渡している。可愛い。

「これが潮の匂いか。」

嫌いとまではいかないものの、気分は良くないな。

「いっぱい美味しそうなのがあるー!」

桃香の食欲はすごい。それなのにこの細さ。一体桃香の身体はどうなっているんだ。

「...ほどほどにな。」

「あ!こっちも!ひとつください!」

...聞いてないな。桃香は服と食には目がない。こういうテンションが上がってる時は特に。まあ、楽しげな桃香を見てるとこっちも笑顔になってくるからいいんだが。

「ん〜!美味しい!お兄ちゃん食べる?」

そういって差し出したのはソフトクリーム。桃香が選んだにしては軽いな。

「じゃあ...。!これは...。」

これは美味い。滑らかかつほどよい甘さ。甘ったるすぎないアイス...。これぞソフトクリームの真骨頂。

「美味しいでしょー?買ってこよっか?」

「いや、いい。自分で行く。」


こういう旅行に来るのは初めてだが...。どうしても財布の紐が緩むな...。いつもは桃香に対してだけなのに、自分に対しても紐が緩くなったのは初めてかもしれない。

桃香と色々買い食いをしているだけで早くも2000円が犠牲になろうとしていた。

「そろそろ宿に行こうか。」

「うん、そうだね!」

とった旅館は十何階とかまであり、そこからは海や街が見渡せ、朝と夜は旅館側が用意し、昼だけ自分らで食べるシステムのところだ。


「チェックインを。」

「はい。...開楼様ですね。こちらが鍵で...。」

チェックインを済まし、エントランスを見ていた桃香の元へ向かう。

「これ、お兄ちゃんにぴったりじゃない?」

桃香が指さしたのは温泉の効能の説明だった。

「なるほど...寝不足解消か。たしかに、最近は無理が多かったからな。」

「もう...ちゃんと寝てほしいんだけど。」

「しょうがないだろ...。」

ここ数日はこの旅行に行くための金を集めるのに必死で大して寝ていない。

「さ、部屋に行こう。」

「あっ、ちょっとまって!見てこれ!」

...浴衣のレンタルか。考えてなかった。

「着たい!」

しょうがない...か。


「じゃあ、無事借りれたし、部屋に行こうか。」

部屋の番号は「125」。いい感じに高いとこだ。

「高〜い!」

廊下の外側の壁がガラス張りになっていて十二階というのがいかに高いかを実感する。半人半鬼の俺でもここから飛び降りたら生きれるかわからない。降り方を工夫しないと骨を折る。

「ここか...。」

鍵をさして中に入る。

「これは綺麗だ...。」

和風という感じの部屋。一面に広がる畳に、奥の壁はガラスが貼られ、そこから海や街が一望できる。

「最高ー!!」

桃香が畳に寝転がる。俺も荷物を床に置くと、畳に吸い込まれた。

「あー...。」

もう動きたくない。指一本動かせない。


「ん...。」

「あ、お兄ちゃん起きた。寝っ転がって数秒で寝てたよ。どんだけ身体追い込んでたの?」

「...三徹分。」

「馬鹿じゃないの...。ねえ、温泉入りに行こうよ!」

重たい身体を起こす。

「そうだな、夕食の時間はたしか...18時だったか。今は16時だから...全然余裕はあるな。少し準備をするから待っててくれ。」


「よし、いいぞ。行こう。」

「温泉、温泉〜♪」

いつにもましてテンションが高い。かくいう俺も結構楽しみだ。温泉に入るのは初めてだからな...。

一階まで降り、温泉の方へ向かう。

「じゃあ、またな。」

「また〜!」

桃香の身体が他の奴らに見られると考えたら気が気でないが...。しょうがない。そういう意識してみるキモい奴らがいないことを願おう。

青色の暖簾をくぐり、脱衣所へと向かう。


「あ”ぁ”〜...。」

思ったより温泉というものは良い物らしい。浸かっていると身体が癒やされていくのを感じる。見た目があれだからタトゥーみたいに温泉に入れないのではと思っていたがこれは大丈夫らしい。どういう基準なんだ...。

サウナ...。気になっていた。入ってみよう。普段から灼熱(ファイア)とか使ってるから暑いのは余裕だと思っていたが...。思った以上に良い。暑いは暑いが...。ほどよい暑さだ。汗が心地よい。

「あ”ぁ”〜...。」

サウナのあとに水風呂に入ったりする...通称クーリングはサウナの効果を引き出すだけにとどまらず、単純に心地よい。さっきから温泉が心地よすぎておっさんのような声がとまらない。最後に露天風呂に入ってこようか。

露天風呂では、外気温と湯の温度差が大きい。上半身は涼しく下半身は温かい。ここの差が露天風呂で最も良いとこだと感じた。最初露天風呂の扉を開けた時の寒さから、湯に浸かった時の温度差もそう。温度差があるということはそれだけ心地よいということ。あと単純に露天風呂から見える街や海が綺麗で見入ってしまう。

...そろそろ上がろう。


まったく、お兄ちゃんなにしてるんだろ。遅いなあ。もう1時間は待った気がする。

私がのぼせやすいからなんだけどさ...。はあ、早く来ないかなあ...。最初のうちは色々見て回ったりしたけど...。一人は流石に飽きたよ。

「待たせたか?」

「待たせすぎー...。っていうか、牛乳とかコーヒー牛乳とか飲まないの?」

「あぁ...さっき自販機に瓶のがあったな。」

「温泉の風呂上がりに飲まないのはないよ!私買ってくる!」

お母さんとかが早くに亡くなったって聞いたし...。そういうの知らないんだよね、きっと。なら、私が教えられるものは教えなきゃ!


「買ってきたよ!ほら、飲んで!」

「あ、あぁ。」

そんな熱量で推すほど美味いのか?

「あ”ぁ”〜....。」

これは美味い。甘すぎなくていい。

「これは...コーヒー牛乳?」

「コーヒー牛乳は、温泉の定番中の定番だよ!」

「あぁ、覚えた。これは美味い。」


「あぁ...疲れた。」

だが..いい疲労感だ。また畳に横たわる。

「また寝ちゃわない?」

「ご飯が運ばれてきたら起こしてくれ...。」

どうしようもないぐらい眠い。

「私も眠いから寝ちゃう〜!」


「んん...。もう18時前か...。」

30分ぐらい寝てたのか...。桃香も起こしたほうがいいだろう。

「んぅ...お母さん...。」

そんな寝言聞いたら起こすに起こせないだろ...。だが、起こさないわけにもいかないか。

「桃香。そろそろ18時だぞー」

しばらくゆすってみたが、起きない。普段ならこれで起きるんだが...。

「亡霊王さん...!?」

そういって飛び起きる。びっくりした...なんだ?

「おわっ!?いきなり飛び起きるからびっくりした。どうしたんだ?」

「なんか...。亡霊王って人が私に夢で語りかけてきたの。『我の復活と共に祠は朽ちる。その時が予想より早まった...。我が復活しても宿主を消さない方法を見つけた。取り憑くことにはなるが...。その時には、そなたらにも祠を...。』って...。」

祠が朽ちる...!?それが意味することは...。言うなれば世界の混沌。数千年も前の妖怪と人間が交わっていた時代に戻るということ。

「....。とりあえず今は、ご飯を食べに行こうか。」

「そうだね。」


食事処は、たくさんの人であふれかえっていて、良い匂いが漂ってくる。

「亡霊王...。一度話がしたいな。」

閻魔様が復活したあとは依代の意識は消えると言ったんだ、その言葉に嘘はないだろう。それに、亡霊王の口ぶり的にもそれは嘘じゃない。新たな方法を見つけたということだろう。そっちはいい。亡霊王とやらは閻魔様の話を聞く限り嘘をつくような奴でもない。気になるのは祠の方だ。亡霊王と閻魔様が手を取ってようやくできるものに俺のようなただの半人半鬼になにをしろというのか。

そんな考え事をしているうちに、料理が到着したらしい。

「お待たせしました。」

「わぁ〜!」

従業員が持ってきたのは海鮮系の料理や、味噌汁など。まあ、和食だ。

「いただきます!」「いただきます」

俺は白米を口に入れながら、さっきの続きを思考する。祠が朽ちた場合、考えられるのは妖怪が地上に溢れかえるということ。そうなれば、いっきに空腹を感じた妖怪達は片っ端から人間を喰い始めるだろう。なんなら妖怪同士で取り合いをする可能性もある。そんなことになって、大切なものを守るには...。

「お兄ちゃん?どうしたの?」

「あ、あぁ。考え事をしててな。」

考え事をしていると、つい目が細くなってしまう。

「もう....。旅行の時ぐらい難しいこと考えるの禁止!いい?」

「あぁ、わかったよ。もうしない。」

たしかに、楽しむべき旅行でこんなことを考えるのは良くなかったな。


「はぁ〜美味しかった!」

桃香は、何杯も何杯も白米や味噌汁をおかわりして、食事開始から約一時間後に食べ終わった。休憩の時間はなく、絶え間なくずっと食べ続けていた。そして今ようやく満足したようだ。

「じゃあ、部屋に戻るか?」

「うん、食べたら眠くなっちゃった!」

この生活で太らない理由を教えてくれ。


「あぁ〜畳〜!」

桃香が畳に吸われる。

「布団敷くか?」

「用意してくれるなら。」

とはいえ、まだ19時。寝るにはまだ早い気がするが...。まあいいか。

「布団は最高だな...。」



「我は亡霊王キーン。そなたに伝えたいことがある。明日、至急異界へ行きロードにこう伝えてくれぬか。『もうじき、祠が朽ちる。数日だろうか。我の復活が思ったより早まったのだ。その時に助力を乞いたい。』と。頼んだぞ。」

なぜ...。桃香の身体に現れたのはわかる。桃香の魂にいるからだろう。だが、なぜ俺に...。

「ちょっと待ってくれ。例え桃香と俺とグリードの力を合わせてもあんたの力に敵うかはわからんぞ。」

「それもそうだな。だが、その時には私が桃香の中にいる。問題なく祠の修復ができるだろう。」

それに、亡霊王がキーンって名前なことも初めて知ったぞ...。なんでだ?

「あぁ、それはな...。」


「くっそ、制限時間かなんかがあるのか...。」

祠の修復...。落ち着いたと思ったらまた面倒事か...。帰ったらグリードにも話しておこう。つーか、至急って言ったか?はぁ...。しょうがない、今行こう。明日の桃香との時間をそんなことに使いたくない。


頑張れば数分でつくものだな。

前に異界に来たのは一週間ぐらい前だっけか。まあいい。

「閻魔様はおりますか。」

「いるぞ、後ろに。」

いつの間に。

「亡霊王キーンから閻魔様に伝えたいことがあるらしいので、俺が代弁します。亡霊王があと数日で復活するそうです。そして...。それに伴い祠が朽ちる、と。」

俺がそう報告すると、閻魔様は少し目を細めた。

「ほう...。祠がか?」

「はい。その時に助力を乞いたい...と。」

「いいだろう。要件はそれだけか?」

そういえば気になっていたことがひとつ。

「最初桃香の中に亡霊王がいると知った時は名前なんて知らなかったんですが...。なぜだと思いますか?あいつらが知り得るとしたら昔の伝承。伝承に名前が刻まれないことなど....。」

「...それか。亡霊王は...アイツが意思を持ったのは奇跡だったんだ。だから亡霊王が名前。それでアイツが勝手にキーンと名乗ってただけだ。もっとも...。俺らは最近、二つ名の方でしか呼ばなくなっていたから亡霊王としか言ってなかったが...。」

二つ名....。閻魔や亡霊王とかの総称のことだろう。なぜ二つ名の方でしか呼ばなくなっていたのか...。

「なるほど....。ありがとうございました。では、帰ります。」

今日はもう帰ろう。グリード...はいいか。眠い。早く寝たい。

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