文化祭
ついに文化祭当日。
この前服屋に行った時についでに良さそうな服を見ておいて正解だった。
「じゃあ、頼むぞ開楼!」
「あぁ。」
俺のするべきことは、
挑戦者の視界に映らない様に位置に気をつけながら、特定の位置に挑戦者が来たら後ろから声をかける。それで振り返ったら後ろに俺がいるって訳だ。
初手はカップル。わかりやすいバカップル。
「ねぇ…これ怖いのかな?」
「どうせ怖くねぇだろ、高校の文化祭だぞ。」
「でもぉ…。」
あとちょっとで、位置につく。今だ。これのコツは足音を殺すのは当然として早く挑戦者の後ろに行くこと。丁度真後ろに。
「待て」
声量を落としつつも、通る声。
「今なんか言ったか?」
「なにも?」
二人が振り返る。
「ぎゃああぁぁあぁあ!?!?」
初手は大成功だな。ちょっと楽しい。
その後も順調に脅かし続け、全員から悲鳴を浴びせて貰った。
「休憩だってー。」
梨沙か。
「あぁ。楽しかったが、ちょっと疲れた。」
「お疲れー、つーか隈酷いけどどしたん?」
ナイトの活動…(桃香との生活をより快適にするための金の調達)してて寝てないとか言える訳ないな。
「はは、ちょっとな」
「あー、もしかしてより怖さを演出しようと?流石は開楼!」
まあ、それでいいか。
「桃香ー?」
桃香がいない。もしかして可愛すぎてナンパに…?
「あ、お兄ちゃんいたー、一緒に周ろ!」
「あぁ、いたのか。後ろの連中はなんだ?」
桃香の後ろに、大量の男達が連なっている。
「あ、あはは…。連絡交換しようとしてきた人達…。」
「…そうか。周る前にちょっといいか?」
「懲らしめる程度にしてあげてね。」
桃香は優しい。その優しさに付け込もうとは、悪い奴らだなぁ。俺がここで問題を起こすとアレだ、妥協で拳だけにしてやろう。
「よくも俺の妹に手出してくれたな…?逃げんな。」
「ひ、ひぃいぃいい!!つい、つい出来心だったんです!!!許してください!!!」
「二度と面見せんな。」
走って逃げていった。ちょっと脅しただけでこれだ。触れてすらないのに。
「遅くなった。」
「いいよ!じゃ、行こ!」
焼き鳥、焼きそば…。桃香の目を引くものも多い。
…桃香が目を輝かせてこっちを見ている。
「なにが食べたい?」
「焼き鳥と、焼きそばと、からあげと…。」
計10品。桃香が大食いなのは知っていたがここまでとは。そんなに食べて痩せている理由が知りたい。体質の問題なのか…?
「一つずつな。」
「はーい!」
俺も大概甘いのかもしれない。でもそれでいい。コイツの笑顔が見られるなら。なんか、こう…。孫を見ているような気分なんだ。孫どころか子供すらいないしそんな年でもないんだが…。恋愛だとかそんな単純な感情じゃない。今まで家族の温もりと言うものを感じてこなかったからか…?
「お兄ちゃん?」
「え?あぁ、すまん。ぼーっとしてた。」
「もう、隈も酷いし、疲れてるんじゃない?」
「あぁ…すまない…。」
眠い…。
「お兄、ちゃ…」
お兄ちゃん、寝ちゃった。お兄ちゃんが肩に寄っかかって来る。多分、ナイトをやってて寝るのが遅くなったんだと思う。お兄ちゃんがここまでナイトを本気でやってたなんて知らなかった…。
色々…考えてたけど、やっぱりお兄ちゃんが悪人なんておかしい。たしかに法律的には悪いかもしれないけど…でも、法で裁けない悪もいるし、法律の裁きだけじゃ納得しない人達もいる。そんな人達にとっても、お兄ちゃんは悪なのかな…?
「ん…?」
寝てたみたいだ。って…。
「桃香…。ありがとうな。」
俺は隣で寝てた桃香の頭を撫でた。
「あー、開楼ここいたんだ、って...」
俺はしーっと指を立てた。折角の桃香の眠りを妨げたくない。
「おっけおっけ、休憩時間もうちょいのばしとくから、一時には教室来て〜。」
今は十二時。本当、梨沙は優しいな。
この学校の文化祭は毎年盛況。能力持ちの特性を活かした出し物が多いからだ。例えば、ただの焼き鳥だろうと、火を使うのに能力を使う。能力の無駄遣いと捉えることもできるが焼き鳥は低火力でじっくりと焼くことが大事。その火加減をキープするのに集中力を使う。良い訓練だ。他にも、うちのお化け屋敷なんかでは勝手に火が灯る演出をやったりするがそういうのはやはり能力持ちならではの演出。普通ならばたかが高校生に勝手に火が灯るなんて危ない演出はできない。本格的なお化け屋敷でもできるかわからない。
本当に、この学校に来てよかったと思う。
「ん...。あっ、お兄ちゃん...ごめんね。」
俺の肩で寝ていた桃香が目を覚ます。
「あぁ、起きたか。一時までに教室に戻るようにいわれてるから、またな。友達とでも周っててくれ。」
桃香は俺と違って友達がいるし、持ち前の明るさと顔の良さで今や一軍女子。兄の俺とは似ても似つかない。まあ、血は繋がってないし当たり前といえば当たり前なのだが。
「うん、わかった。待ってる。」
そんなに友達がいるのにも関わらず、毎日俺と帰ろうとしてくれる。きっと、こんなのは普通の兄妹でもない、ましてや義理の兄妹の仲ではありえないことだろう。そのためだろうか。とんでもない優越感。悪いな世の兄、可愛い妹に好かれてて。
「あー、開楼来たよー!」
俺は今回のお化け屋敷においてのエース。俺がいなくては始まらない。
「梨沙、すまんな。遅れた。」
「桃香の安全が第一っしょ!」
口調や見た目こそギャルだが優しい。良いクラスメイトを持った。
その後も順調に怖がらせ続け、文化祭の時間も終了間際。最後の一組だ。
「...。」
お化け屋敷だというのに、楽しむ気があるのかというほど無言、真顔の男一人。これが最後なのか。
まあ、普通のカップルとかは飽きてきていたしな。最後ぐらいアドリブを入れてやってもいいかもしれない。
「...待て。」
ここまではいつも通り。ここから先で少し捻る。
振り向く相手の視界に入らない。さっきと同じならここで姿を見せる。
「そこだ」
「っ...!?」
なぜ気付かれた。だがまだやりようはある。
「お前が開楼帝人...。ナイト。よくも我が息子を...。」
は...?
「ナイト?」
しらばっくれる作戦だ。
「わしはこの耳で聞いた。一応アイツには盗聴器を仕掛けておいたのだが...。まさか、自分から姿を見せるとはな。」
...なるほど。そっちからきてくれるのなら...。
「おっと。殺る気か?」
「...あぁ。」
「...いいだろう。遊んでやる。」
随分と余裕な態度だ。
「その余裕な面、剥がしてやる。」
『闇の魔剣』
相手は剣術の使い手のよう。俺もコイツに応えよう。
「醜い...なんと禍々しく醜い剣だ!」
その表情には怒り、嫉妬...そんな感情が混ざっていた。コイツに何があったって言うんだ?
...相手はなかなかにやるな。でも、先生よりは下。なにより、速度が足らない。
「あぁ...。その速度...アイツと戦ってるようでイラつくわ!!」
アイツ...とは誰のことだろうか。
というか、教室が保たない。今にも壁や天井が崩れそうだ。そして、奴は天井を突き破って外へ出る。
一年生の教室が最上階タイプの学校でよかった。これは...奴が開けた穴なんだから別に通っても問題ないよな。奴の後を追う。
「あの、あのリッパーの速度...。いや、それより速い...なぜ、なぜお前らはそんなに速い...!!」
そう言いながら剣を振るう姿はどこか悲しさが漂っている。憎しみと悲しさと怒りと嫉妬が混じったような声。
もし...この人が能力持ちなら俺は負けてる。
「おい!亜浪、言うとおり攫ってきたぞ!」
まさか。今の戦いはただの時間稼ぎだったのか。
「あぁ、そうか。ではな、少年。二人を返して欲しくば我が城に来るといい。」
だが...時間稼ぎにしては、良い剣だった。
俺は一旦家へ帰ってきていた。梨沙には止められたが...やっぱり俺はアイツを討ちにいく。ただ、一人じゃない。
「....というわけだ。二人の救出を手伝ってくれ。グリードがいないと救えない。」
「まあ、俺としても桃香はいないと寂しいしな。...作戦は任せる。指示だけ教えろ。」




