桃香の秘密
「今日から先生の補佐をさせていただく亜浪 莉。」
あの先生、間近で能力持ちを感じることで価値観が変わるのではないか、と馬鹿正直に言ったのだろう。ガチで補佐としてくるとは。
「帝人、ちょっといいか。」
なんだろうか。教室で話せる話など限られてると思うが。
「…莉。いや、莉先生か。」
「莉でいい。僕は…幼い頃からずっと教団にいたせいで普通の学校すらまともに見たことないんだ。…普通の子が羨ましかった。人殺しの方法なんて覚えさせられない、普通の人間が。」
そらそうだろう。…俺も、かつては普通の人間を羨むと同時に憎んでいた。だが、この男が発しているのは羨ましいという感情だけ。生まれる環境が悪かっただけで根は良い奴なんだろうな…。まあ、だからこそ俺も手を差し伸べたのだが。
「あぁ、悪い。つい暗い話を…。」
「いや、いいさ。しょうがない。」
いつものように体力育成。そして今日も桃香に戦闘を教えていた。
「帝人は、いつもこんなことを?」
「…あぁ。身を守る術ぐらいは教えたいからな。」
「そちらの方は…?」
「あぁ。妹の桃香だ。」
その瞬間、明らかに取り乱した。なんだ?
「桃香…って…。…後で、二人きりで話がしたい。授業が終わったら来い。」
桃香について知っているようだ。アーロア教関連か?
「あぁ。」
「桃香…あの子は…。亡霊王の依代だ。」
「おい、そりゃどういうことだよ…!」
…意味がわからない。亡霊王?依代?しかも、なぜよりによって桃香が?…閻魔様なら、亡霊王について何か知っているかもしれない。
「僕も…詳しい話は知らないんだ。ただ、父さんがそう言って回収するようにと…。」
「…ありがとう。」
俺は、今日は桃香を先に帰し、異界へ来ていた。
相変わらず暗いところだ。まあ、性にはあっているが。俺は王宮を訪ねた。
「ん…あぁ、帝人か。入れ。」
あの時は見る暇がなかったが…。よく見てみると法隆寺のような建築様式だった。なんだっけか、エンタシスだかなんだか。
「んで、なんだ?」
「…亡霊王について、なにか知っていますか。」
「あぁ…。亡霊王か。アイツは良い奴だったよ…。」
とりあえず、悪い奴ではないらしい。
…亡霊王。その名の通り、亡霊を統べる王。祠が建てられる前…神や妖怪も人間と共生していた時代にいたらしい。その時代は、人の死は絶えず、争いにすらなっていなかった。そしてその死んだ魂を御するのは亡霊王。その為亡霊王はとんでもない多忙だったということだ。そしてなにより、人間の悲鳴が絶えない世界はおかしいと、変えたいという優しい心の持ち主でもあった。そんな亡霊王は、閻魔様と共に祠を建てて世界を隔てた。当初、亡霊王は生きるはずだったが、思った以上に世界創造は難しく、閻魔様に後を託し消えていった。そんな亡霊王が、桃香が16歳になる日に桃香の身体を依代とし復活するそうだ。
…ちなみに、異界で地上に出てはいけないという法律を作ることにしたのは、やはり人間と妖怪は交わってはいけないと感じたらしい。人間と妖怪のハーフなど、生きづらくないはずがない。
「ちなみに、なぜ桃香の身体を依代と…?」
「…奴は、身も心も綺麗な人間を見てみたいと言っていたからな。もしかしたらそういうシュミなのかもな?」
全く、いじるのも大概にしてほしいところだ。
「…ちなみに、復活するとどうなるんですか」
「復活すると、その人間の意識は消え、成り代わる。止められる方法は…他の人間…スケープゴートを用意することだ。」
桃香の代わりに、他の人間を犠牲にする…ということか。
「それ以外はないのか?」
「少なくとも、私が知る限りではな。」
犠牲を出すことに抵抗はない。
「ありがとうございました。帰ります。」
…たとえこの世の理を覆すことになったとしても、他の何万人の人間を犠牲にしたとしても、俺は俺の日常を、大事なものを守る。
数日後。文化祭が近くなり、色々決めた結果…。
ウチでやるのはお化け屋敷。普通の能力持ち程度なら外見の変化がないのであれだが、このクラスには見た目に変化のある者がいる。そう、俺という怖そうな見た目をした奴がいたらお化け屋敷の流れになるのも必然。
「お兄ちゃんがお化け役かぁ!鬼なのにね!」
「…半分な。」
みんな各々仮装をしたりお化け用のメイクをしたりするわけだが、俺は衣装をそれらしいのを見繕うだけでいいらしい。まあメイクなんてせずともアルビノの綺麗な白の髪とそこに交じる黒がいい具合に怖さを演出してくれる。さらに実際見る時は暗いのだ。より怖いだろう。
「俺は何をすればいい?」
「うーん、そうだなぁ…。ウチ的には、開楼みたいな感じだったら無言の方が怖いかなー?」
コイツは大口梨沙。
所謂褐色ギャルってヤツだ。合唱コンとかで『ちょっと男子!ちゃんとやってー!』と言うタイプの行事に積極的なギャルである。たしか…能力は雪女だった気がする。めちゃくちゃ焼けているが。まあ、必ずしも能力が見た目に伴っているわけじゃない。
「…そうか。何か用意で手伝えることは?」
「主役は休んでていいっしょー!ウチらでやっとくから!桃香と帰りなって!」
そして優しい。うちのクラスは良い奴が多い。
「あぁ、じゃあお言葉に甘えて。桃香、帰るぞ。」
「お兄ちゃん、あそこ寄ってかない?」
そう言って指差したのはデカめのショッピングモール。
「あぁ、良いぞ。行こうか。」
今日は家に直帰するつもりだったが…まあ、桃香の頼みを断る理由もない。
桃香は服が好きみたいで、何回か服屋に来る度、何着も試着し、あれもこれもと俺に買うつもりの服を持たせる。桃香の辞書に遠慮という文字はないのか。可愛いから良いが、どこで着るというのか。部屋着か?部屋着なのか?そんなことになったら俺は眼福で死ぬかもしれない。だが逆に外で着てほしくない気もする。害虫が増える。
「ねぇねぇ、これなんかどうかな…!?」
白を基調として、目立たない程度の花柄があしらわれたワンピースに麦わら帽子。今の季節だともう夏も終わりでちょっとどうかと思うが、夏の花畑とかで今の桃香を見ようものなら俺は卒倒するだろう。黒色の肩につくかどうかという髪とアメシストのネックレスがよく映えて良い。
「あぁ。すごくいいぞ。」
我が妹、可愛すぎる…。顔と声に出しすぎないようにしていたら握った拳から血が出ていた。強く握り過ぎてしまったようだ。だがこれも妹の服の試着をちゃんと評価してくれるカッコイイ兄を演じるためには仕方のない犠牲。
「ねぇねぇ、これはこれは!?」
…これは驚いた。我が妹、オーバーサイズもいけるだと。袖など全体的にだぼっとしているかつ丈の短いパーカーにほんのりだぼっとしたズボン。思わず拳に力を込めた。
「お、お客様!?血、血が!」
「大丈夫です邪魔しないでください。」
笑顔でいるのがやっとだった。
「お、お兄ちゃん…?」
流石に試着室のカーテンから顔だけひょこっと出すのは反則だろ。
「お兄ちゃんは大丈夫だ、お兄ちゃんだからな。」
「お、お兄ちゃん…?」
若干変な目で見られた気がしたが、気のせいだ。気のせいだ。誰がなんて言おうと、桃香が俺を変な目で見る訳がない。よって気のせいである。気のせいである。
「ちなみに、どれを買うんだ?」
「全部!」
…少々財布は厳しいが。しょうがない。金なんて犯罪者から巻き上げればいい。この満面の笑みで言われては断れる訳がない。この笑みの為なら犯罪者狩りなんて安いものだ。
「いいの?荷物持って貰っちゃって。」
「いいんだ。兄の役目だからな。」
結構な重量だがしょうがない。
「そろそろ腹のすく時間帯だな。」
「そうだね、なんか食べていいの?」
「何が食べたい?」
さっき財布がキツイって再確認したばっかりなのになぜ俺は飲食店に行こうとしている?
「あ!いいのみっけ!」
桃香が指差したのは可愛らしいクレープ…ではなく。
二人でがっつり食べれば2000円は堅いラーメン屋。…一応聞いてみようか。
「…クレープか?」
「ラーメン!クレープもデザートにいいかも!」
…。今日は徹夜コースか。
結局桃香はラーメンもクレープもちゃんと食べた。
俺はというと目の前でラーメンとクレープを食べる桃香を見ながら一切食べずに我慢した。途中、『食べる?』と聞かれたが食べたらなんか負ける気がしたからあえて一切食べなかった。腹減って死にそう。
「ただいまー!」「ただいま」
「じゃ、俺はちょっと用事があるから出てくる。留守番頼むぞ。」
はぁ…。莉の奴、なんで尾行なんか。
「気付かれてたとは。」
「気付かないわけないだろ…。…で?何があった?」
「あぁ…。父さんが…。父さんがセーロスと手を組んだ。」
…それはつまり、アーロア教とセーロス教の同盟。対立していると思っていたのに、何故。
「…桃香の回収に本腰を入れるらしい。」
「基本、俺は家にいる。グリードも四六時中家でゴロゴロしてるし…。大丈夫だとは思うがな。…一応警戒はしておく。ありがとうな。」
絶対、何がなんでも桃香は渡さない。亡霊王の魂も、俺がどうにかしてみせる。
その夜はひたすら犯罪者を狩った。痴話喧嘩が殺人にまで及んだ夫婦、轢き逃げ犯…ありとあらゆる犯罪者を狩り、犯人から金を盗りまくった。犯罪者は桃香の幸せの一部となれることを幸せに思った方が良い。




