アーロア教教祖の息子
「あ、そうそう。今日から私も学校行くんだ!」
そうか、もうそんなに。時の流れは早いな。
「あぁ、そうか。一緒に行こう。」
見た目はどうなんだろうと思うが、桃香を抱えて登校することにした。
「私は最初に職員室寄らなきゃだから、またね!」
どこのクラスになるんだろうか。
今日は余裕がある為普通に歩いて校舎に入る。
「ん…?」
なんだこの指輪。どっかで見たような気がしないでもないが…。まあいいか。
そういえばもう少しで文化祭だな。…何も起きなければいいのだが。
「今日は転校生がいる。入りなさい。」
あ…同じクラスなのか?大体双子とかはクラス離されるイメージなんだが。
「開楼桃香です!よろしくね!」
あぁ…可愛い。流石は我が義妹。制服もよく似合っている。
「開楼ってことは…」「可愛い!」
…そうだろうそうだろう、可愛いだろう。自慢の義妹だ。
⸺この男、実は極度のシスコンである。
「ねぇねぇ、帝人。あの子は帝人の何なの?」
藍が聞いてくる。気になるよな、可愛いもんな。
「あぁ…藍、桃香は俺の義理の妹だ。」
「あっ…なんか、ごめん。聞いちゃいけなかった?」
「いや、いいよ。」
いきなり友達と同じ名字の女の子が転校してきたら聞きたくもなるってものだろう。
「お兄ちゃ…えっと…なんて呼んだらいいかな…。」
「いや、いつも通りでいいよ。」
「じゃあ、お兄ちゃん。その人は?」
俺が口を開く前に、藍が被せて自己紹介する。
「あぁ。私は火南藍。帝人の数少ない、いや唯一の友達だよ。」
…余計なことは言わんでよろしい。
「へぇ…!カマイタチの能力者かぁ!」
…は?
「え?今、能力がカマイタチだって言ってないよね?」
「…あぁ。言ってない。何なら藍のことを話題に出したことすらない。」
普通、能力は発動しているとこを見て分析してようやくわかる物。桃香の能力がサトリとかならまだしも、桃香は獏。人の能力を読んだりするような能力があるとは思えない。
「え?なんか変なこと言った?」
しかも本人は何も不思議なことだと思っていない。
「…いいか。能力は基本発動しているとこを見なきゃわからないんだ。」
「そうなの!?お兄ちゃんがただの人間なのも目に見えるんだけど…。」
俺が元々ただの人間なのも!?
「いやいや…桃香と会った時から俺はグリードと融合を終え半人半鬼だったはずだ。なんで元々ただの人間だったのを知ってるんだ!?」
「え…今はたしかにグリードと似てるけど基本はただの人間だよ?なんだろ、魂って言うのかな。人の胸の辺りに丸いのが浮いててさ。グリードは真っ黒だったけど藍さんとお兄ちゃんは白いよ?お兄ちゃんのはちょっと黒ずんでて、藍さんのは白い魂の周りに風?かな、みたいなのがまとわりついてて…。それでカマイタチかなって。」
意味がわからない。グリードは魂が見えるのは鬼とか妖怪だけって…。半人半鬼の俺ですら魂は見えない。となると…。
「グリードが言っていた。魂が見えるのは妖怪だけ、と。半人半鬼の俺ですら魂は見えない。まあ、桃香が妖怪でないのだから本当は能力が獏ではなく他のなにか、とかか。」
それぐらいしか考えられない。
「普通の能力持ちより妖怪要素が強い、というだけかもしれない。まあ、なにか起きても俺がいる。安心していい。」
「うん!そうだね!」
謎は深まるばかりだな…。
「今回は体力育成です。好きなようにやってください。」
だったら、桃香を強くしなければな。
基本は俺かグリードが守るが、どちらの手も届かなかった時に自分の身すら守れないようではすぐ失ってしまう。
「桃香、一緒にやろう。」
「うん、わかった!」
「いいか…。まず簡単な刃物の使い方から教える。」
『闇の短剣』
闇の魔剣のちょっとした応用だ。
「これを使って俺を殺しにかかれ。」
「え…!?でも…。」
「桃香の知ってる俺はそんなに弱いか。」
覚悟が決まったようで、桃香は走り出す。鬼の速度に慣れてる俺からするととんでもない鈍足。
「ただ刺しにかかっても簡単に避けられる。それでできるのはグリードや俺、藍のような速度がある者だけだ。」
「じゃあ…どうしたら?」
「相手に答えを求めるな。…答えは後で教える。今は自分が思うようにやれ。」
ちょっと酷いかもしれないが、人は過酷な状況におかれないと進化できない。
さあ…どうくる。
「は…?何、を…。」
膝をついた。すごく眠い。何故…?
「私の勝ち…だよね」
首に刃が当たる。
「…やられたよ。獏って夢を喰うだけだと思ってたよ…。眠気を制御できるなんてな…。」
「で、さっき言ってた答えって?」
「あぁ…。桃香には必要ないかもしれないな…。まあ、一応答えると、一般的には不意を狙う。さっきと同じ位置に戻ってくれ。…そう。で、ここからどうするか…。」
速度をさっきの桃香と同じぐらいにして走る。
「こうやって…相手の予想できない動きをするんだ。」
俺は桃香の目の前で斜め切りした後、すぐ切り返し真っ直ぐ桃香の顔に刃を突き立てる。勿論寸止めだ。俺が桃香の肌に傷をつけるわけない。
「うわあっ!?」
「な?同じ速度で刺しにかかってもやりようによってはここまでやれるんだ」
「精が出るね」
「あぁ…藍か。桃香はまだ戦闘に疎いから、色々教えてたんだ。そうだ、模擬戦しないか?桃香に目を養わせたい。それに、藍の戦い方には目を惹かれるものがある。」
「いいよ、私も帝人とは戦ってみたかったんだ。」
「よく見ておけよ。この模擬戦で主に見て欲しいのは俺らの速度だ。俺も藍も速い。目標は試合が終わるまでに目で追えるようになることだな。じゃあ、頼むぞ。」
試合開始の合図は桃香にやってもらう。俺らはとても速い為に、どちらかが一瞬でも早く判断できるととんでもない差が生まれる。平等にするためだ。
「じゃあ…開始!」
開始と同時に藍がこっちに走ってくる。とんでもない速度だ。目に捉えるのがやっと。
「ちょっと遅いんじゃない?」
『風の加護!』
とうとう俺のレベルに来やがったか。魂力操作がとんでもなく上手い上に飲み込みが早い。なんという脅威。
「そうでもないさ!」
『闇の短剣』
魔剣の方でも良いかと思ったが、今の後ろからの一瞬の攻撃に対応するには短剣の方が何かと使い勝手がいい。
「くっ…防がれちゃうか…!」
藍は悔しがっているが、本当に危ない所だった。一瞬でも判断が送れていれば俺の首が危なかった。
一度距離を取るか。上手いな。
「どこにいると思う…!?」
なるほど、考えたな。カマイタチの速さを活かし、沢山の残像で相手を翻弄する。
…だが。
『闇の魔剣-X』
どこにいるのかわからないなら狙わなければいい。
「ちょ、それは反則!」
「大丈夫だ、ルール上はなんら問題はない。」
「そういう事じゃないでしょ…!」
…?
「はぁあぁあ…!」
…これは。高灯との模擬戦で見せた必殺。必殺技というのは、相手にタネがバレていないから必殺技なのだ。…来るッ!
「そこ!」
「だと思った!」
俺は急接近してきた藍の後ろに周り後ろから短剣を突き立てる。
藍のこの必殺技は、一瞬立ち止まる代わりに対象にこの目でも捉えられない速度で急接近できるというもの。初めての相手には効果抜群だが…。
「一度技を見せた相手にやるのはやめておけ」
「…負けちゃったかー!」
「もう、お兄ちゃん達、全然目で追えない!」
「まあ、最初はみんなそんなものだ。そのうち慣れるさ。じゃあ、帰るか。」
「ただいまー!」「ただいま…。」
今日は行こうと前から決めていた。
「じゃ…行ってくるよ。」
「…今日も?」
「今日も。力をつけるために。」
ナイトの指輪を発動して家を出る。
今日は…。目覚ましいことはあるだろうか。ない方が良いはいいが。できるなら、先生ぐらいの強い人と一戦交えたい。
「…?」
殺気。この殺気は…どこから…?殺気自体はある。だがどこからかわからない。とりあえず何をやられても良いように全身を硬化する。
「…!?」
これは…。矢。先に致死の毒。
矢を使うということは恐らくアーロア教。だが、なぜ…。ナイトの存在なんてロクに信じられていないのに。アーロア教に勘付かれるようなこと、も…。
そういえば幹部の人殺したな。でも死人に口無し、伝わるとは思えないが…。
矢が飛んできた方向的に…。ここより下の…あそこか。遠隔で終焉を撃ってもいいんだが…。周りを巻き込む可能性が…。
まあ、直接行けばいいか。相手がただの人間なら逃げられる心配もない。
俺は立っていた建物を飛び降り、ある程度の速度でアーロア教の奴らの居る場所に飛んでるのかと言いたくなるような体制で向かう。
「うわぁ!ナイトがこちらへ来ます!」
「そのまま迎え撃て!殺すんだ!」
なぜ俺がそんな殺人の対象になっているんだ。
『闇の短剣-X』
二十個もの短剣が教徒を襲う。
「うわあ!」「なんなんだ!」
阿鼻叫喚。これじゃどっちが悪者なんだか。
「…貴方は本当に…!」
「一つ、聞いていいか?」
「…何だ。」
一応対話はできるらしい。
「なぜ…。なぜ、能力持ちを恨む?何があるんだ?」
「…能力持ちはっ…!妖怪の魂が混じっており穢れてると父から教わっている!父は…!父は、人間だけの世にしようとしている!父さんは間違ってない…!」
…なるほど。親に刷り込まれたんだろう。できれば、殺したくはない。そして恐らくコイツの父がアーロア教の教祖なのだろう。
「…なるほど。ならば。ここでお前に提案がある。」
「なんだ…?」
「ここでお前に一緒に来てもらう。一回能力持ちを間近でみてもらう。」
親の洗脳は子にとって大きい。その洗脳を覆す為には、それ相応の体験が必要だ。
「なにを言っている!!」
「そもそも、周りを見てみろ。お前以外は全員死んでる。俺の提案を受けなきゃここで俺に殺されるだけだ。ただ殺されるか、一度世界を見てみるか。」
「世界を…見る?」
「あぁ。お前の世界の見方はとんでもなく偏っている。一度、違う視点から世界を見てみて、それでも思考が変わらないならそれでいい。俺に監禁されてたでもなんとでも言って組織に戻っていい。」
指輪の機能を停止する。
「っ…!?高校、生…?」
「あぁ。うちの高校に来い。能力持ちだけの高校に。」
こういう凝り固まった価値観の奴には体験が必要。この手を取らないならここで殺すだけ。
「…。だが、僕は能力持ちじゃない。どうやってその高校に入れと?」
「それはそうだな。…いいツテがある。先生の補佐をしてもらう。」
「ふっ…わかった。どうせ僕の思考は変わらないさ。」
「しかし、あのナイトの正体が高校生とは…。僕は一応君より年上でこれだというのに…。それほどまでに能力持ちとただの人間の差は大きいのか…。」
二十歳前半ってとこだろう。って、待て。
「ナイトってそんな有名なのか?」
「一般的には別に有名ってわけでもないが…。我らみたいな裏の住人の中では名は知れてる。お前の断罪があるかもしれないんだからな。」
そんな風に思われてたのか?初めて知った…。
「…俺は開楼帝人。怠等高校の一年だ。そういえば名前はなんて言うんだ?」
「あぁ、僕は亜浪莉」
「莉か。いい名前だ。」
「ちなみにだが…。もし本当に、価値観が変わったらうちにこい。」
「もしもし、先生、先生。」
『…なんですか帝人くん。』
「今から家に言っていいですか?」
『いいですけど…。』
「お邪魔しまーす」
「…帝人くん、その男の人は…?」
「アーロア教の教祖の息子。」
「はぁ!?危険じゃないんですか!?」
そりゃそうなるよな。
「とある事情があって彼は能力持ちを間近で見てみたいそうだ。」
「…なるほど。そういうことですか。よろしくお願いします。お名前は?…」
案外すんなり受け入れてくれてよかった。
今日はもう疲れた。帰って寝よう。
「アイツに続き、莉までも行方不明、か。ナイト…わしの息子を捕まえて何をするつもりじゃ…?」




