模擬戦
2日後。
「えー…この前はありがとうございました。」
放課後進路相談室に来るようにと先生から呼び出されていた。
襲撃の当日はもうとりあえず一斉下校、次の日は休校。まともに話せるのが今日だった。
「屋根を破壊されたのは痛かったですがね…はは」
あれは仕方のないことだったんだ。正面から入れば姿を見せてしまうし、不意をつくにはあれか窓を蹴破って入るか程度しかなかった。まああの程度なら不意を突かずとも倒せたかもしれないが…万全は期したかった。
「ところで…あの連中がどういった目的で来てたかはわかりますか?」
「…アイツらはセーロス教。能力持ちから能力を奪いそれを自分らのものにしようとする集団。」
「能力を奪う!?」
たしかに理論上はできるのかもしれない。…が、とてもできるとは思えない。
「…はい。魂力を奪うらしい。だがなぜかあの男は俺が独自で名付けた魂力を知っていた…。」
「独自で魂力を名付けた…?あぁ、帝人くんは知りませんか。魂力は我々研究者がよく使う、所謂業界用語です。自力で魂力に行き着くあたりは流石としか言いようがないですが」
そうだったのか。アイツは白衣も来てたし研究者なのだろう。
「あ、そうだ。あの時急用とか言って出ていった時は何があったんです?」
「あぁ…。グリードと桃香…義妹がアーロア教の奴らに連れ去られてしまって。」
「連れ去る!?大丈夫だったんですか!?」
「幸いにも輸送中で、助けることができた。運転手をグリードが拷問してくれたが何も吐かなかったらしい。では、今日はこれぐらいで。」
学校を後にし、ダッシュで帰る。
「ただいま」
「お兄ちゃんお帰り!」「お帰り〜」
二人の声がする。今は…。帰ったらちゃんと返事が返ってくる。
両親がとんでもない量の貯金をしておいてくれた為今でも難なく生活できている。
「俺はちょっと用事があるから、出てくる。」
桃香にはまだナイトのことを伝えてない。
いつか話した方がいいとは思ってるが。
「あ、ねぇ!これ見て!」
そう言って指差したのはテレビだった。
『2日前、東京都の怠等高校がなんらかの集団によって襲撃されたようですが、何者かが事態を収め…。』
「これ、お兄ちゃんだよね?最初にあった時、こんな感じの服来てた!」
…教えないといけないか。というか、映ってしまったのか。一体どこから撮ったんだ…?
「桃香、見てくれ。」
俺はスマホに掲示板を表示して見せた。
「なに…闇の覇者、ナイト…?執行人…?どういうこと?」
「それは…俺だ。そして…これを教えるにあたって、グリードのことも教えなければいけない…。聞いてくれるか」
「え…?お兄ちゃんが…殺人、を…?助けて、くれたのに…?わからない、わからない!なんで、なんで!」
混乱させてしまったらしい。
「グリードは…。この地上で生きるためには、人を喰わないと死ぬ。俺らが肉を、魚を食べるように、グリードは人を喰う。。それに極限に達すると我を忘れて周りの人間を喰う。勿論、俺らも喰われる。」
「…」
桃香はショックで言葉を失っているのか、何も発しない。
「そして…この前まではグリードに飯を用意するために俺が代わりに殺人をしていた。それがナイトだ。だが最近は…。グリードが肉体を持ち、自分で飯を用意できるようになった。でも、俺は続けるよ。悪を裁く悪は必要だから。必要悪…というものか?」
「お兄ちゃんが悪なんて…信じない!
私を助けてくれたお兄ちゃんを悪人と呼ぶのならこの世に善人なんていない!」
「そう言ってくれるのは嬉しい。…それでも。人殺しは悪いよ。いくら相手が悪人でも。でも、やめない。命が尽きるまで。罪の無い人を殺す悪を殺す。桃香にも、ちょっとずつ戦闘を教える。でもそれで教えるのは、最低限の身の守り方だ。」
桃香には、手を染めてほしくない。…俺のように。
「なんで…そこまで…。」
それは…ただ、自分の日常を、今を守りたいから。
何も社会の裏側を知らないまま生きていたら、いつか日常が壊されてしまうだろうから。
「じゃあ、行ってくるよ」
ナイトの指輪を発動した。
「ッ…!?」
死の匂いだとかそういう能力を使わなくても事件が起きたというのはわかった。爆発したのだ。
…桃香があの時指差した辺りが。
アーロア教絡みかもしれない、行ってみよう。
現場は酷い有様だった。タワマンの上層部で爆発が起き、建物が倒れ、周りにもタワマンやビルが連なっているため他の建物に当たって大惨事。
…ヘリが飛んできた。撮られるといけない。
俺にできることは…。犯人の特定だな。まあ、ただの事故という可能性がないわけじゃない。アーロア教の仕業と決めつけるのはまだ早い。
…どうやら事故ではないみたいだ。本格的に警察が介入してくる前に調べよう。
建物に入った。
「…これは」
酷い有様だ。この人は恐らく桃香のお母さん。原型を留めておらずかろうじてレベル。そしてこれは桃香のお母さんの物だろう。桃香と同じ、アメシストのネックレスだ。お揃いでつけてるとも言っていたしな。
「何者かね?」
「…俺はナイト。お前は?」
「私はアーロア教幹部の第三席。ここにいる能力持ちを殺せと命ぜられたのでな。対象の死を確認しに来た。」
恐らく、桃香のお母さんのことだろうな。わざわざ確認しに来る辺り、仕事はできるのだろう。
ん?能力持ち…。母も…。そして、アーロア教が出張ってくる。…なるほど。桃香のお母さんはきっと…。
「この爆発はお前が?」
「あぁ。ここにいたのは穢れた血。私達が殺すべき奴らだ。…そして、お前も。」
「それはどうだろうな。穢れた魂かもしれない。」
相手は剣を持ってる、ならこちらも剣で応えるべきだろう。
『闇の魔剣』
魔剣。実験に実験を重ね、棍棒のような形から完全に剣の形状に変えることができた。鬼の中には刀を使う奴もいるからかギリだが近付けられた。
「な、なんだ、なんなんだそれは…!?」
「敵にわざわざ教える必要もないが…。まあ、冥土の土産…というやつだ。教えてやろう。これは、自身の魂力を武器に変えている。壊れることはないし、すぐに出せるし切れ味もいい優れ物だ。」
「んなっ…そんな…そんなことが…できて良い訳が…。」
俺は動揺した奴の腹に闇の魔剣を突き刺した。
「がっ、は…こんな、これが…人間に許された力なのか…!?」
「俺は…半分人間をやめてる。」
俺は剣を引き抜いた。…あまり事件性は持たせたくない。爆発に巻き込まれたということにしよう。
『灼熱』
これなら顔も判断できない。大丈夫だろう。
…こんなのがアーロア教幹部の力か。まあ、能力持ちですらないのだからそんなものだろう。
だが…俺は規格外だからおいておくとしても、悪魔の能力持ち程度ならコイツに勝てると思うんだが…。アーロア教は、能力持ちを穢れた血と言うぐらいなんだから能力持ちが幹部とかにいるとは思えない。それでどうやって能力持ちを殺すって言うんだ…?
信念だけで言うならまだセーロス教の方が理解できる。
「今日はもう収穫は無さそうだな…。帰るか。」
桃香もグリードももう寝てるらしい。俺も…ちょっと疲れた。寝よう…。ソファに倒れ込んだ。
「お兄ちゃん、もう起きなよ?」
ん…。よほど疲れていたらしい。
「あぁ…朝ごはんまで…悪いな。」
桃香は家事に限らず色んなことを卒なくこなす。
「じゃあ行ってくるよ」
ただ…桃香が登校するに当たって少し不安なことがある。俺だから数分もかからずに着くが、普通に歩いていくと30分はかかる。流石に俺が抱えて登校するのはな、とも思う。…まあそれは後々考えるとしよう。
今日は遅刻ギリギリな為ショートカットをするためジャンプして窓から入る。前までだとギリギリ届かなかったかもしれない。想像以上に半人半鬼の利は多かった。なんなら入る直前まで部屋着だ。ナイトの指輪にはもう一つ機能を追加してある。いつでも制服に着替えられるという大変便利なもの。
「相変わらず大胆だね」
「遅刻しそうだったからな」
数時間後。
次の授業は…グラウンドか。
「今日の授業は実習です。二人ペアになって模擬戦をしてください。」
…どうしようか。友達がいない。藍はいるが他の奴と組んだ。
「俺のペアは先生でお願いします。」
俺の実力だと先生ぐらいでもないとうっかり殺してしまいそうだ。
「しょうがないですね。」
次は俺らの番だ。
「…本気でやった方がいいですか?」
「お手柔らかに」
先生の能力は鬼童丸。世にも珍しい鬼の能力者だ。普段なら肉弾戦で挑むところだが、色々と試したいことがある。
『闇の魔剣』
「それは…?」
「魂力を剣の形状に変える術です。」
使う毎に精度が上がり、今や切れ味の鋭いいつでも使える壊れない剣だ。剣に魂力を込める。
『灼熱』
剣に炎を纏わせる。試したかったことその一。
「そんなことまでできるんですか…。いいでしょう、私も全力でいかせてもらいます。」
「先攻は譲ります。」
ッ…!?先生が消えた…!?上に跳んで避ける。
「へぇ…避けますか。」
…強い。ラスキーシュとどっちが強いかという所。
長期戦は無理だ。一瞬で決める。
『闇の魔剣-X』
「なんだあれ!?」「すげぇ!!」
試したかったことその二。
割と丈夫そうな木の枝にのり、数十本同時に出し、一斉に先生の方へ。外れたものから魂力に戻す。それを繰り返していく。
「当たらなければなんてことはありません。」
当たらないッ…!?後ろか。
「どこいった…!?」
先生がこんな罠にハマってくれるとも思えないが。
ん…?後ろからくると思ったのに、正面から突進してくるとかありかよ…!!
『闇!』
こっちの衝撃派で相殺する。…効いてない、か。
「ッ…!?」
…負けた。
「私の勝ちですね。」
「…負けました。今、何が?」
「正面から突進してくると思わせた後に後ろに移動して首に刃を立てただけです。」
「負けるとは思ってなかった…。」
先生にすら勝てないとは。年の功…というやつか?
「次、火南藍 vs 高灯茜里」
藍か。そういえば、藍はなんの能力だったか。
「行くよ〜…。」
「はじめ!」
藍も随分と速いな。融合前の俺の半分ぐらいの速度はある。
あれは…鎌か。鎌で速いとなれば、恐らくカマイタチだろう。だが…持ち味の速さを、鎌のせいで全く活かせていない。後で話をしてみようか。
対する高灯は…。
…あれは恐らく天狗だ。藍のカマイタチも速度系の妖怪だが…。速さをより活かせてるのは高灯の方だ。
天狗はただでさえ速いのに、自分で風を起こすことができるからさらにバフを受けることができる。それに天狗は飛べる。地の利もある。これは高灯の勝利だろう。
「そこ!」
これは驚いた。まさかの藍の逆転勝利。
勝利のちょっと前、藍は攻撃を溜めていた。外せば負ける、博打の技。…藍は本能的に魂力を制御している。藍の真の強さはそこにあるのだろう。…その制御力を自身で操れたら。
「藍、ちょっといいか」
「そっちからなんて珍しいね」
「いやぁ、勝負を見ていたら凄いなと思ってな。」
俺の態度がやたら気に食わないのかムスッとしてるが、感心したのは本当だ。
「凄いのは帝人もだけどね…。」
「カマイタチの利が活かせていないなと思ってな」
「なに、利って。」
「言葉通りだ。鎌に身体がついていってない。折角のカマイタチの速さを活かせていないんだ。どうも勿体無くてな。」
「じゃあ、どうしたらいいの?」
「簡単だ。…こうすればいい。」
帝人に放課後空いてるかーって聞かれて何かと思ったら模擬戦、か。
「はは、まさか放課後にも模擬戦とはね。」
「さっき話した事をやれば俺にすら勝てるかもしれん。全力で来い、俺は簡単には死なない。」
「…行くよ!」
本当、偉そうだけど…。でも、実際強いんだから、そうなるのもわかるな。
さっき教わったこと…それは…。
「そこ!」
鎌は直前まで出さない!魂力…というのはまだピンとこないけど…。でも、やり方はわかった。
あと、鎌に頼りきりになってるから肉弾戦もできるようになっとくといい、とも言われた。
「まだまだ甘い。及第点だな。」
「あはは、帝人には敵わないね。」
さっきのは大分辛口で評価した。今日の昼間の授業の時と比べれば速さも段違いだ。
速さなら俺にも引けをとらないだろう。
それに、魂力の扱いが上手すぎる。俺がやった時は魂力を武器に変える技は何度か練習してやっとだったのに、藍は一発で成功させた。今度模擬戦でも頼んでみようか。
今日はナイトはせず寝よう…疲れた。
「なんだと。幹部の一人の行方が知れない?なぜだ…?…まあいい。桃香に関してだが…奴は危険だ。回収できないなら、早めの処分を。」
「御意。父さ…教祖、先日の東京都で爆発が起きた件についてはどうお考えですか」
「丁度、アイツがそこに居たらしい。…巻き込まれたんだろうなぁ。またセーロスの奴らか?」
「いえ…。恐らく、奴が独断で爆破したものと。」
「…勝手なことをしおって。恐らくアイツの行方不明にはナイトが関わっているはずだ」
「あの…ナイトが!?我々は能力を持たない。あの男と交戦になれば我々に勝ち目は…!」
「どんな手を使っても構わん。奴を殺せ。」
「ッ…御意。」




