アーロア教とセーロス教
今日は久しぶりの登校だ。
先生が校長には先に話を通しておいてくれたらしい。あの斎藤先生が担任でよかった。桃香はあと数日で来るらしい。
俺は人間の中なら十分強いと言える。だが…。閻魔様には敵わない。グリードですらわからない。それに…。最近噂になってる集団の底も知れない。強くなるにこしたことはない。
「な、なな…なんだアイツ…!?」「かっこいい…。」
…予想はしていたが、案の定視線が痛い。
ツノを引っ込めたりできない以上はこの視線に耐えるしかない。
「…へぇ。嘘つくのやめたんだ。」
たしか…火南藍だったか。
「できれば嘘をつき続けたかった。でも見た目に変化が出てしまってな。」
この前鏡を見た時は驚いた。
見た目の変化が思ってた倍大きかった。
角は生え、左頬には鬼特有の線が入った。さらには、母譲りのアルビノの白髪にグリードの赤紫の髪がメッシュみたいな形でところどころ入ってしまった。
「起立、礼」
朝の号令。眠くてあくびがでる。
「え〜っと…。まず報告が3点…。」
眠すぎる…。なんでこんな…。そうか、グリードの眠気がこっちに来てるのか。…は?グリードは別に好きに寝てればいい。それでわざわざ眠気をこっちに押し付ける理由があるとすれば。くっそ、グリードの位置はなんとなくしかわからんからテレパシーは使えない。指輪に通信機能をつけておいて正解だった。
「おい、桃香、大丈夫か?」
「お兄ちゃん…!?きゃっ!?」
…やっぱりか。人間に負けるグリードではない。だが…。妙な胸騒ぎがする。駆けつけよう。
「3点目。最近人間至上主義が高まっていますが…。」
「先生!」
俺は声を荒げて立ち上がる。
「なんですか?」
「ちょっと急用があるので外しますッ!片付き次第戻りますッ!」
窓から飛び出て家の方へ向かう。
「えっ!?あ、ちょっと!?」
先生には悪いことをしたな。あとで謝ろう。それより今は二人の無事だ。
一応犯人がまだいる可能性があるため家へ向かう。
予想はしていたが…。二人は居ない。死体があるわけでもなく、居ない。
「貴様、何者だ。」
背後に人ッ…?そんな、気付かないなんて、疲れてるのか動揺してるのか相手が上手なのか。
「桃香とグリードをどこにやった。」
「あぁ…。あの穢れた血とその元か。お前も穢れた血か?」
「…人間至上主義者か。連れ去って何をする。」
「我々…アーロア教はこの世から穢れた血とその元の妖怪を根絶やしにすることを目標としている。そのための実験をするんだ。ッ…!?」
コイツが気付く間もなく意識を掠め取った。そしてその死体を思いっきり空へ投げた。これなら多分大丈夫だろう。グリードと融合していて正解だった。グリードと融合してなければ居場所がわからずこの男を拷問するハメになっていた。
「待っていろ、桃香…!」
どうやらトラックにいるらしい。トラックを壊してもいいんだが…。周りの車を巻き込みかねない。トラックを掴んで別の場所に移動してから壊すとしよう。まずトラック運転手を死なない程度に意識を奪う。その後、トラックを掴み、道路じゃない場所に運ぶ。トラックの後ろの部分を開ける。名前は知らない。
「桃香!グリード!」
二人が縄で拘束されていた。普通の縄で鬼が制御できるわけないと思うが…。
「あぁ…帝人。すまんな。桃香が人質に取られたせいで。」
なるほど。グリードは鬼だが人の心があり、人情に厚い。それ自体はいい事だが、人質や良心に訴えかけるようなものにはめっぽう弱い。
…本当に、こんな人物を殺すことを人生の最終目的にしていたなんて、考えられないな。
「無事ならいい。俺、今学校抜け出して来てるから早く戻らないといけないんだ。…あと、グリード、頼めるか。」
「あぁ。桃香のいないとこでやっておこう。」
最速で行く。先生に心配はかけたくない。
「戻ったぞ…ありゃ。」
誰もいない。それに邪悪な気も感じる。なーんか嫌な予感。よく考えてみれば、なぜあの二人が狙われたんだろう。丁度、ピンポイントで鬼と能力持ちがいる家にそんな過激派の宗教団体が来るなんてとても偶然じゃあり得ない。あるとすれば桃香の親絡みだろうか…?
…まあそれは後にして、今ここでなにが起こっているのかの状況理解が先だ。
数分前。
「えっ!?あ、ちょっと!?」
帝人くんが行ってしまった。
「…帝人くんは行ってしまいましたが…。事前にこういう事があるかもしれないというのは聞いていますので、安心してください。気を取り直して、これでHRは終わりです。号令」
実際は一ミリも聞いていないけど…。クラスの皆さんを冷静にさせるためにはしょうがない。
「気をつけー、礼」
『ありがとうございました』
『手を上げろ!』
…!?この学校を襲撃…?
「私の教え子達に手を出すと?」
「あぁ、そうだ。だが…お前は何もできない。なぁ…リッパーさんよ」
コイツ…何故私の過去の名を知っている。
リッパー…それは私の人生の汚点。帝人くんに寄り添うようにしていたのは昔の私のようにならないため。
「その名は捨てた。」
「いくら捨てようとお前はお前だ。」
所詮人は変われないということか…。だが、コイツは誰だ?
「大人しくついてくればいいんだよ」
ふと生徒の方を見ると、全員が拘束されていた。…手際が良いし、なにより早い。私にこれほどの速度で拘束することはできない。…ここで抗うのは無駄だ。
「わかった。」
幸いなことに帝人君は外にいる。…頼みましたよ。
どうしたものか。恐らく体育館にでもいるんだろうが…。もしこれがなんだっけ、アーロア教?の仕業なら…。規模感は大分大きいと見ていい。
悲鳴やら怒号やらが体育館の方から聞こえてくる。恐らく全員をそこに誘導したのだろう。だが…集めることになんの意味がある…?奴らは能力持ちとその元の妖怪全てを根絶やしにすることを目標としていると言ったな。…なら、この学校の生徒や教師も根絶やしの対象。ならば、恐らくやることは殺戮。…なんの罪もない人を殺めるのは許さない。ナイトとして行くか、帝人として行くか迷うが…。俺は将来的にアーロア教と戦うことになる。敵との交流も大事だ。ナイトの装いでいこう。
なるほどなぁ。この学校、地下があったのか。
目の前にあるのは地下への階段。普通にしてたらまず見つかることはない。不用心なことに階段がむき出しになっていた。場所は職員室の棚の後ろ。人の居ない校舎を歩き回っていたら職員室にたどり着き、この階段を見つけた。
こんなむき出しになっているんだ、絶対なにかある。階段を降りていくと、なにやら血なまぐさい匂いがする。降りるごとに匂いは強くなる。
「ッ…!?何者だ!」
「俺はナイト。お前こそ何を?」
「はは、はは…はは…。私か?私はなぁ…。ある実験をするんだ…。この場所が一番効率がいい…。能力持ちから能力を取り上げるんだぁ…!!それで、犬にその力を注げば…。犬は魔物へと変化し、人間へ注げば…ひひ、ひひひひひ!!」
白衣を着た研究者のような装いの男だ。コイツはアーロア教のものか?
「お前、アーロア教は知ってるか?」
「アーロア?あぁ…アーロア、アーロア…。アイツらは傲慢だ!貴重な能力持ちを殺すとか言うんだ!私達はその力がほしい!」
「お前らはなんなんだ?」
「私達はぁ…。セーロス教。私達は…能力持ちの能力を自分らのものにするんだ!はは、はは、はははははは…」
…とりあえずこの男の状態が普通でないことはわかった。今回の事件はアーロア教の仕業ではなかったのか。だがまあ…。能力を奪うだけなら、死にはしない…。ナイトの活動の範囲外だが…。
「どうやってとるんだ?」
「どうやってぇ…?魂力を奪うんだ…。そう、魂力魂力魂力魂力魂力魂力!!!」
魂力を奪う。厄介だな。人によっては生死に関わる。
「どうやって?」
「専用の機械だ…。魂力を吸い取って、そのビームを私が受ければ…私は最強…!」
なるほど、能力を選ぶためにあんな大人数を集めたのか。だが能力持ちは見た目だけじゃわからない。どう見分けるんだろうか。それも機械か?
「仲間はいるか?」
「仲間…仲間…。あぁ、そうだ、連絡、連絡…。」
そういってスマホを取り出した。
「はぁ!?いい能力者がいないだとぉ!?あんだけいるのに!?悪魔は!?…そうか、悪魔ならいるか。じゃあ今からそっちへいく!準備をしておけ!」
悪魔…。アイツだろうか。色々と情報は聞けた。
「ぐっ…が…」
情報が聞けたら後は用無しだ。体育館に行こう。
あれが恐らくその機械だろう。随分と大掛かりな装置だ。上から突入して機械を壊す…。炎…でもいいがあまりやりすぎると学校が火事になりかねない。これぐらいなら大丈夫だろう。夜な夜な練習していた魂力を使った能力の威力調整。終焉は威力こそ高いものの高火力すぎて使い勝手が悪い。
ある程度の作戦は立てた。あとは実行あるのみ。
俺は拳に少量の魂力を込めて体育館の屋根を殴った。生徒の位置は大体わかっていたため敵がいるであろう位置を狙って屋根を落とす。
…あった。恐らくあれがあの男の言っていた機械。
『灼熱!』
機械に向けて火球を飛ばす。機械が壊れたのを確認。
『闇の魔剣』
魂力を多少削り、その魂力を剣へと変える。よく切れるし実態が無いため壊れる心配もない。一時的に使うだけで戻せば魂力も回復する。魔剣とは言うがあくまで鬼の能力の範疇でしか出せないから棍棒のような形状をしている。
これも灼熱を創る時に一緒に創っておいた。
いくら肉体が強かろうと魂力が強かろうと、人質などを助ける時に縄で縛られてる奴の縄を燃やすのは本人がやけどする危険性があり、かといっていちいち千切るのも面倒。そのために開発しておいたもの。
体育館を走り回り生徒や教師の縄を闇の魔剣で切り裂いていく。
…よし。これで役目は終わりだ。アイツらは能力を吸い取るだけと言っていたしなにかするとも思えない。
「隙あり!」
後ろから剣を持った奴が突進してくる。俺はその剣の切っ先を手で握る。普通なら血が出るが、俺は手だけ硬化している為血も何も出ない。強いて言うなら手袋が破ける程度だ。俺はすこし手に魂力を込めて剣を折る。
「…脆いな。」
ちなみにいうと、魂力を込めるとかいうことができるようになったのは灼熱の研究の副産物だ。
グリードの奥義を研究しているうちに魂力を自由自在に操れるようになった。今なら即興で技を創ることも可能だ。精度は劣るが。
「こんな剣で俺相手に何ができると思った?」
「クッソ…!総員、撤退!」
どうやら撤退してくれるらしい。コイツらは能力を手にしてどうするつもりなのか知らないが能力を奪うだけなら人は死なない、逃げるならそれでいい。深追いする必要はない。ただ…。能力を手に入れて世界を壊すだとか、そんなことをした時は…俺が黙っていない。死を持って制裁を下す。
ふむ…。うちの家を襲ったのがアーロア教、学校を襲ったのがセーロス教、か。そこの二つで対立しているらしい。その対立で紛争とかにならなければいいんだが…。どちらも俺の日常の害となり得ることは変わらない。
…俺も魂力を取ったら、普通の人間になれるのだろうか?




