闇の覇者
俺は普段の面だけを切り取ればごくごく普通の男子高校生、開楼 帝人。でも、俺には夜の誰にも言えない秘密があった。世間にナイトと呼ばれる謎の男、それはこの俺なのだ。別名、闇の覇者。
そして俺がなぜそんな最凶と呼ばれるナイトなのかと言われたら、理由は一つだけ。俺の魂に鬼が住まうからだ。能力をもつ者は、基本は能力があるだけで心にも魂にも怪異はいない。だが、俺の魂には鬼が住んでいる。オリジナルの。だから、俺は他の鬼の能力者ともまたちょっと違う能力をもつ。
しかも、その鬼と言葉を交わせるというおまけつき。
そして俺は今日から、この「怠等高校」に転校することとなった。
「今日は、なんと転校生がいるんだ。仲良くしてやってくれ。」
この俺ともなれば、勿論緊張なんてしない。…訳がない。俺でも緊張ぐらいする。足まで震えるほどだ。
「あ、あの…よろしくお願いしますッ!!」
ボッチ確定演出どうも。なんでこうも俺はダサいんだ。
「席はそこの隅だ。じゃあ、これで朝のHRを終わる!」
はぁ…なんだかすごい疲れた気がする。我ながら、どうしてこんなんでナイトがやれてるのかわからん。
「あ、あの…大丈夫?」
「へっ!?あ、いや、大丈夫大丈夫」
クッソ…緊張して変な声が…。
「緊張しなくても大丈夫だよ」
「あぁ、ありがとう」
俺がこの高校に惹かれたのは授業だ。
この学校はそもそも入るのに能力を有している必要があり、授業にも能力があることを前提とする教科がいくつかある。勿論実習もあるし、能力を使ったら俺がナイトだとバレるのではないかと思うかもしれないがそんな心配は必要ない。なぜならあくまでナイトの存在は都市伝説の域を出ず、さらに言えば実在したとてこんな男子高校生だとは思いもしないだろう。ちなみに俺の能力は鬼。鬼は世界に十数人しか居ないという超レア能力。だがそんなことを伝えてしまえばバレかねない。ので、嘘をついて少しランクを下げた牛鬼にしている。同じ鬼だしバレないだろう、という判断だ。
「次の授業は実習。転校生の開楼君は能力テストをしたいから準備運動が終わったら来てくれるかい。」
「はい」
準備運動に関しては普通の体育と大差ないようだ。場所も体育館のような場所だし…。普通にランニングをした後、普通に準備体操をした。
「では、開楼君はこっちへ。」
「能力テスト、とは具体的に何を…?」
ッ…!?あっぶな…。生徒に対していきなり刃物を振りかざしてくる教師がいるかっ…!あっやべ。ついクセでカウンターの動きをっ…!
「っ…!?いやぁ、これはやられた。完全にカウンターされると思ったよ。まさか寸止めとは。」
「い、いえ…。俺の方こそ、ついクセで…。」
「クセ?学生なのにどこでそんなクセを?」
「あ、あぁ。これはまあちょっと。」
あ、危ない…やはり実習とかやるのは危険か…?
意図せず相手の首を掻っ切ってしまう可能性が…。
「これだけで十分です。」
「は…?」
「ですので、私の一太刀を避けた上、カウンターまでこなすとは。相当な実力がお有りでしょう。なぜ高校に通う必要があるのか。この実力があればそのまま講師か国の戦力兵でもなんでもなれるでしょうに」
「流石にこの国も未成年を働かせるほど落ちてはないだろ。それに俺は先生の攻撃を避けきれなかった。ほら、指。」
俺は先生に切れた指を見せた。切りどころが悪かったか、地味に痛い。
「本当だ…。でもあの反応速度は賞賛すべきものでしょう。君には実践寄りの特別課題を与えますので。」
特別課題…?ナイトの活動に支障がでないといいんだけど…。
「じゃあ授業に戻りましょう。今日の授業の内容は能力の底上げです」
「底上げ…?」
「えぇ、どんなにレアな能力であろうと底上げをすることによって更なる境地へと向かうことができます。」
…!その底上げってのをできれば、もっと強くなれるかもしれないな。
「具体的にはどんなことをすれば?」
「そうですね…基本的には能力の精度を上げたり経験値を積んだり…。ただ、あくまでこれらの方法は一般的な能力に言えることですので…。それ以上のレア能力になるとまだわからないことの方が多く…」
そうか、まだ具体的なものはわかってないんだな。これはチャンス。
「ありがとうございます。十分です」
じゃあ今日の夜はなにからし始めようか。肉体の強化でもしてみるか…?
その後の授業はつつがなく進行し、無事に一日を終え帰路についた。
「母さん、ただいま。」
返事はない。
適当に食事を済ませた後、ナイトとして家を出た。
夜にはいろんな事件が起きやすい。だから、俺がいる。肉体強化をしながら、事件が起きるのを待つ。
『おい、なんでそんなのしてるんだ、早く飯を寄こせ。』
「黙って待ってろ」
コイツは俺がナイトの時に殺した奴の魂を喰う。コイツは人の魂とその肉体を主食とする。その為、俺がこうしてナイトの活動をしなければ俺の魂を喰うか、俺の魂を操ってこの肉体を自分のものとし、周りの奴らを殺して周るらしい。そういう契約で、コイツといる。
俺の能力的に見ると一番その境地とやらに達せる可能性が高いのがこの肉体強化だ。
俺の能力はコイツ譲りで、肉体の一部を金棒のように変化させることができる。他にも、人の死が臭いでわかるという能力がある。それを日本中に張り巡らせ、事件に駆けつけるということだ。いくら臭いだけわかっても遅ければ意味がない?全く持ってその通りだが、俺は鬼の能力譲りのバケモノじみた身体能力があるために本気を出せば10分程度で北海道から沖縄まで行くことができる。近場なら数分経たずに着く。
「…!」
死の臭いだ。これは…学校…?学校で一体何が起きているって言うんだ。
「これ、は…。」
あの教師が倒れる程の相手がいるというのか?
「待っていたぞ、ナイト」
「…誰だ?」
いや、ガチで誰。知らない。でもこんな奴に構う必要はないな。先生の治療が最優先だ。死の臭いこそしたもののまだ息がある。
「もうソイツは虫の息だぞ。何をしても無駄だ!」
人を救えない力は無力。当然、治療ぐらい心得ているとも。これでいいはずだ。
「何が目的だ?」
「お前だよ!どこかで殺人を犯せばお前がくると思った!」
「…嘘だな。それならわざわざこんな高校なんて狙う必要ない。通り魔でいいはずだ。この教師に恨みでもあったか?」
「っ…!」
「図星みたいだな。どうせ犯罪者は生かさない、冥土の土産に教えてやる。俺はここの男子高校生だ。…いや、転校生と言ったらわかるか。」
「んなっ…!開楼…帝人…!?」
「はっ…wじゃあな」
俺はコイツをぶん殴って殺した。
「ほら、飯だぞ。」
悪には悪を。自分の殺しを正当化するつもりはないが、それでも俺は悪を許さない。悪は殺す、潰す。根絶やしにする。でも、この行いもきっと悪。いつか裁きがあるのなら甘んじて受け入れよう。悪いのは…俺から母さんを奪ったこの世界だ。
「そこにいるのは…」
まずい。先生が目を覚ましたようだ。立ち去らなくては。
「開楼君…なんですか?」
ここで下手に反応すれば肯定するようなものだ。
「さあな。そう思うならそうかもしれない。ひとつ教えてやろう。俺はナイトと呼ばれる者だ。悪を殺して徘徊するただの犯罪者。じゃあな」
俺は己が信念のために、今日も、明日も、きっとこれから先も、人殺しをし続ける。たとえ間違ってると揶揄されても、歩みを止めない。いや、こんなのは歩みとは呼ばない。ただの拙い醜い意地だ。それでも、止まれない。ここまで来たら、この命に裁きが下されるその瞬間まで…。この意地を貫き通す。
「あれは…」
彼は誤魔化したが、私にはわかる。きっと、あれは開楼君なのだと。本能が告げる。彼は…何かを抱えている。私がなんとかしてあげたいが、恐らく彼はなにも教えてはくれないだろう。…悔しい。彼の相談に値する人物であれなかったことを。あのままでは、彼は罪悪感に耐えきれず潰れてしまう。普通、あんなことをする人物は自分の事を「犯罪者」などと下げた表現はしないはず。彼になにがあったのかだけでも、知りたい。そう、思わせられる。教師として、生徒を支えたいと思うのはいけないだろうか。




