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ド田舎の食事事情

ある朝のことだった。朝靄がゆるやかに晴れていく中、村の台所に立つテレジアが、テーブルに肘をついて頭を抱えていた。


「うーん……今日のお昼ご飯は、何を作ろうか……」


 悩みの原因はただひとつ――食材が圧倒的に足りないことである。


「アルス様、最近ご飯のたびに笑顔が引きつってるんだよなぁ……」


 仕方がないとはいえ、ここ二日間は干し肉を挟んだだけの質素なサンドイッチが続いていた。あのアルスでさえ、食事中の表情が若干こわばっていたのは見逃していない。


 これは由々しき事態である。


「……ということで、なんか食材とか、他にありませんか……?」


 すがるように訊いた相手は、いつも食料調達を担当している狩人、ウェルナーだった。


「食材なぁ……干し肉とか、黒パン、それにジャガイモ?」


「もう飽きましたァァ!!」


 テレジアの悲鳴が台所にこだまする。


「あと、水」


「それもはや食べ物じゃない!!」


 だがウェルナーは肩をすくめてため息をつく。


「とはいえ、俺らも毎日それだからなぁ……」


 思わずテレジアは天を仰いだ。今さらながら、州都で毎朝市場に行って、新鮮な野菜や卵、肉を選んで買っていた日々のありがたさが胸にしみる。


 だが、ないものねだりをしても仕方がない。……ならば!


「もうこうなったら、自分で調達してくるっきゃないっ!」


 そうと決めれば行動は早い。軽装に着替え、腰に布袋と出刃包丁を下げたテレジアは、干し肉のサンドイッチを口にくわえながら村の門を飛び出した。


 ちょうど朝食を終えたところだったアルスが、その姿を目に留める。


「お、テレジア、お出かけか?」


「ちょっと一狩り行ってきます! お昼ご飯は台所に置いときましたからね!」


「おー……いってら……って、狩り!?!?」


 アルスの驚きの声が、背後から遠ざかっていくテレジアに届く頃には、すでに村の外れの道を駆け抜けていた。


 歩くこと約一時間。隣町へと続く山道のふもとに到着する。


 リーアの村に来たとき、このあたりでウサギが何匹か跳ねていた記憶がある。運が良ければ獲れるだろう。そうすれば、今夜はウサギ鍋。あったかいスープに、山菜をちょっと添えて……。


「うーん……いないなぁ」


 甘くはなかった。探せば探すほど、足音に警戒したのか獲物の姿は見えず、テレジアは次第に山の奥へと入り込んでいく。


 足元で、枯れた草がパリパリと乾いた音を立てる。


 そのとき――


 岩陰から、「コッ……コッ……」と、何かが動く音がした。


「!」


 テレジアは反射的に腰の出刃包丁に手を伸ばし、慎重に一歩ずつ岩に近づいていく。


 草をそっとかき分け、視線を向けると……


 そこには、藁で作られた鳥の巣と、手のひらほどの大きさの卵が三つ、ちょこんと並んでいた。


「た、卵!?」


 あまりの僥倖にテレジアの目が輝く。


 これがあれば、明日の朝は目玉焼きだ。目玉焼きにパンを添えれば、いつものサンドイッチも立派なモーニングに変身する。


「よし……!」


 そっと手を伸ばした、その瞬間――


 ――ギャアアアァァァーーーーーッ!!!


「ひぃっ!?」


 けたたましい咆哮とともに、岩陰の上から、大きな影が飛び降りてくる。


 振り返るとそこには、鋭い鉤爪と禍々しい翼を持つ、明らかにヤバいやつ――ワイバーンが、テレジアを睨みつけていた。


「……へ?」


 血の気が引いた。


 ワイバーンの赤い瞳がギラリと光る。


 ――このときテレジアは悟った。


(あっ、これ、ママだったんだ……)



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