夢はでっかくトラクター
建設スキルによって出現した巨大な溶鉱炉。その隣には、なぜか立て札が突き刺さっていた。
──《溶鉱炉スターターパック!》──
その立て札の下には、山のように積まれた鉱石の山。鉄鉱石に、石炭、それに混じってチラチラと輝くのは……まさか魔石か?
(……おいおい、誰か課金したのかってレベルだぞコレ)
俺は内心でツッコミを入れつつ、苦笑いを浮かべた。
「こ、これは……! 鉄鉱石、しかも高純度! 石炭も十分すぎるほどに精錬向き……魔石まで……!」
イーヴァルディが、宝物でも扱うように一つひとつ手に取りながら唸る。
「小童……いや、アルス殿。礼を言わねばなるまい。これは職人として、感謝の念に堪えぬ……!」
「いやいや、これはスキルの副産物というか……俺自身が何かしたってわけじゃないんだけど……」
困ったように笑いながらも、イーヴァルディのまっすぐな視線からは逃げられない。
「儂の職人魂が、黙っておれんのじゃ。なんでも作ってやろう! 欲しいものがあれば言ってみい!」
頼もしすぎるその言葉に、俺は頷いた。
(よし……これなら、あれも夢じゃないかもしれない)
「それじゃあ……ちょっと変わったものなんだけど、これ、作れるかな?」
俺は地面にしゃがみ、靴の先で土を使ってざっくりとした図を描いていく。
円筒状の胴体、燃焼室、圧力弁。そして、車輪を駆動するためのシャフト。
感のいい読者なら、もうピンと来ているかもしれない。
──そう、俺が今作ろうとしているのはボイラー。そして、蒸気機関だ。
この世界の農業は、あまりにも非効率すぎる。土壌も痩せており、馬や牛といった家畜を導入するにはリスクが高い。ならば──いっそ最初から機械化してしまえばいい。
……そう、トラクターを作るのだ。
「……ほうほう、なるほどのう。構造は複雑じゃが、理屈はわかった。できなくはないぞ」
イーヴァルディが腕を組み、図を見ながら唸る。
「で、これを何に使うつもりなんじゃ?」
「ここで火を焚いてお湯を沸かして、出てきた蒸気をこの部分に送る。それで圧力がかかって、ここの部品が回転するんだ」
「ふむ……湯沸かし器と風車の合体か?」
「それを車輪に繋げてみてくれ」
「……!!」
イーヴァルディの目が、ぱっと見開かれる。
「……ま、まさか……自動で走る馬車……ということか!?」
「さすが、察しが早い。そういうことだよ」
「こ、これは……! 夢物語じゃと思っていたが……! 火の魔石を動力源にすれば、魔力の節約にもなるし、連続稼働も見込める……!」
イーヴァルディが、今にも飛び上がらんばかりに感激している。
だが、村人たちやウェルナーはというと──
「え? 馬車が勝手に動くって、それ、魔法じゃね?」
「でも、魔法使ってないって話だったよな?」
ぽかんとした顔のままだ。まあ、そりゃそうか。俺だって説明を受けずにこんな話を聞いたら、たぶん信じない。
けれど、イーヴァルディだけは違った。
「……よいぞ。職人の誇りにかけて、儂の魂を注ぎ込んでやる! アルス殿、これよりこの村の未来を変える一歩を踏み出すのじゃ!」
うわ、燃えてる……。
だけど正直、こうして共に歩んでくれる人がいるってのは、ありがたい。
「よろしく頼むよ、イー爺さん」