偉大なる溶鉱炉
やっとの思いで山道を下りきり、見慣れたリーアの村が視界に入ってきた。
「……あー、疲れた……」
思わず声が漏れる。足が重い。帰ってきた安心感と全身の疲労が、どっと押し寄せてきた。
「けっこうハードでしたね……。ご飯、ご用意しますね。ウェルナーさんもいかがですか?」
テレジアがいつも通りにっこりと微笑む。
「お? マジ? ラッキー!」
満面の笑みで返すウェルナー。
(……コイツ、大丈夫か?)
まだ陽も沈みきっていないというのに、村の広場ではイーヴァルディがきょろきょろと落ち着きなく視線を泳がせていた。
「ところで儂のための炉はどこじゃ?」
「ん? ああ、まだないよ?」
俺が何気なくそう答えた瞬間、イーヴァルディはがくんと膝をついた。
「……だまされた……」
「いや、これから作r──」
「これから作る!? 何か月かかると思ってるんじゃ!!」
顔を真っ赤にして叫ぶイーヴァルディ。怒りというより、もはや絶望に近い。
「イー爺、アルスはすごいんだぜ? この井戸も一瞬で建てたんだ!」
ウェルナーがなぜか誇らしげに言う。お前が作ったわけじゃないだろ。
「……信じられるか! ならば、目の前で見せてみろ!」
「わかったわかった。そんなに怒ると血圧上がるよ、イー爺さん」
俺は苦笑しつつ、スキル画面を開いた。
項目から「建設」を選び、「溶鉱炉」の設計図を表示する。
――
【建設:溶鉱炉】
資材:石材 ×30 鉄板 ×3
――
「イー爺、鉄板と石ってある?」
「鉄板はアイテムボックスで持ってきておる。石材は……その辺の岩を砕けばよかろう。このあたりの石は品質がいい」
「じゃあ、用意してもらえる?」
「任せよ」
イーヴァルディはずしりと重そうな玄翁を背から下ろすと、近くに転がっていた岩へと歩いていき――
ドゴォン!!
軽く振り下ろしただけに見えたのに、岩はあっという間に砕け散り、規格の揃った石材に変わっていた。
「すげぇな、イー爺!」
ウェルナーのテンションがやたら高い。ほんと、調子に乗りすぎだって。
「じゃあ、これで作れるな……」
資材のチェックを済ませ、俺は「建設」をタップする。
すると――
地面から光の粒子が浮かび上がり、空中で渦を巻くように集まっていく。
やがて閃光とともに、何メートルもある高炉がその姿を現した。
「「「なんじゃこりゃ!!!」」」
全員が絶叫した。
それはどう見ても、現代の鉄工所にあるような本格的な溶鉱炉。レンガと鋼の重厚な構造で、装飾は最小限だが、無骨で美しい。
これさえあれば、鉄も鋼も自由自在に加工できるだろう。
「おぉ……これは……これは素晴らしい……!」
イーヴァルディがうっとりとした目で炉に駆け寄る。
溶鉱炉の縁をなぞり、素材を確認し、煙突の角度を見て、嬉しそうに何度もうなずいていた。
「……見事じゃ。儂が欲しかったのはまさにこういう炉だ……!」
その顔は、まるで子どものようだった。