御用聞きは名君のはじまり
「えーと、まずは……村の問題を解決していかなくちゃね」
この村をざっと見渡して、すぐに分かったことがある。
――水だ。完全に、水が足りていない。
村の周囲には水源らしき小川があるが、濁っていてとても飲めたものではない。
通り沿いの家々には、大きな水がめがずらりと並んでいる。おそらく雨水を溜めて使っているのだろう。
だがこの地方は乾燥が激しく、雨も滅多に降らない。
となれば、答えは一つ。
「井戸、作ろっか」
「はあ!? 井戸だぁ? 簡単に言うなよ。こんな場所で、掘ったところで水が出るもんかよ!」
さっそく食ってかかってきたのは、さっきの青年だ。
「そうですよ、アルス様……。残念ですが、できることとできないことが……」
テレジアも心配そうな顔をしていたが、俺は微笑んで首を振る。
「――大丈夫だよ」
そう言って、俺は静かに右手を掲げた。
「《街づくり》スキル、解放」
頭の中に、カチリとスイッチが入った感覚が走る。
すると、まばゆい光が俺の周囲を包み、まるで幻のように半透明のウィンドウが宙に現れた。
《あなたをリーア領主として登録しました》
そんな表示が浮かび上がるのと同時に、目の前に地形の簡易マップと施設メニューが開かれた。
俺は迷うことなく、「井戸」を選択する。
――資材:木材20、石材10、鉄釘5。
ふもとの町で買い込んだ資材で、ちょうど足りるようだ。
「建設」
タップした瞬間、地面から光の粒子が舞い上がる。
それらが空中で集まり、形を成し、音もなく“それ”はそこに現れた。
……井戸だった。
まるで元からそこにあったかのような、立派な石造りの井戸が、堂々と村の広場に姿を現していた。
「う、うおおお……!?」
「すげえ……何だ、今のは……!」
「水が、ある! 本当に……!」
野次馬に集まっていた村人たちが我先にと駆け寄る。
井戸の中を覗き込み、バケツを下ろして水を汲み上げ、口に含む。
「……うめぇ……!」
「助かる、うちもう水が尽きかけてたんだ……!」
驚き、感激し、泣き出す者さえいた。
俺はそっと、さっきの青年の方を見て微笑む。
「これが、僕のスキル。《街づくり》だ。――少しは信用してくれた?」
青年は驚いた顔のまま、しばらく何も言わなかったが……やがて、ふっと笑った。
「……すげえな。まさか、あんたが本当に何かをやるとは思わなかった」
「アルスだ。よろしく。君は?」
俺が手を差し出すと、青年も戸惑いながらもそれを握り返してきた。
「ウェルナー。……その、よろしく頼むよ。領主様」