プロローグ
僕の好きなゲームは、いわゆる「街づくり」系だ。
〇ities: Skylinesとか〇imCityとか。
マイナーどころだとO〇enTTDなんかも好きだった。
……だった、というべきか。
いまの俺には、そんなもんをやる時間なんてない。
なぜなら俺は、筋金入りのブラック企業勤め。
下手な馬車馬の10倍は働かされて、大学の同期からは「汽車犬」なんて渾名までついた。
今日も終電帰り。
帰って寝たらまた出社。
そんな日々に疲れながら、俺は無意識に電車を待つ列に並んでいた。
「まもなく3号線を特急列車が通過いたしまァす――」
……そのときだった。
突然、足の力がスッと抜けて、視界がぐらりと傾いた。
ああ、まずいな――と思った次の瞬間。
俺の体は、ホームに倒れ込み、そのまま線路へと落ちていった。
そして、意識は闇に沈んだ――。
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「これより、故アラン・ウィトゲンシュタイン卿の遺産分与について議論を始める。」
地方の有力貴族、ウィトゲンシュタイン家。
その当主であったアランが、突然の卒中で急逝した。
三人の子供を残しての死。
当然、遺産――とくに領地の分配を巡って、一族と重臣たちによる協議が開かれることになった。
今回の対象は三つの領地。
隣国との交易路に位置する商業都市スターソン。
大河の畔にに広がる、発展著しい州都のヴィライテ。
そして、誰もが忌避する未開の地、「空白地帯」リーア地方。
地元の有力者たちの間では、今回の分配は「リーア地方を誰が引くかのババ抜き」などと揶揄されている。
利権のない荒野を押しつけられることだけは、誰もが避けたがっていた。
だからこそ、その一言は衝撃だった。
「――私は、リーア地方を所望いたします」
発言したのは、三男のアルス。
「……っ!?」
「まさか……本気か……?」
重臣たちがざわつく。
長男と次男も目を丸くし、言葉を失っていた。
「本当に……よろしいのですか?」
一人の老臣が、思わず確認の声を上げる。
だが、アルスはまっすぐに答えた。
「――もちろん、です」
そうして辺境男爵、アルス・ウィトゲンシュタインが誕生した。
「アルス様、本当に……よろしいのですか?」
「ああ、いいさ。ボクが決めたことだよ」
部屋に戻ったあと、恐る恐るそう尋ねてきたのは、メイドのテレジアだった。
アルスと同い年で、十歳のときに災害で親を失い、この屋敷に引き取られてきた少女だ。
……なぜ俺が、よりによってあの辺境地・リーア地方を選んだのか。
その理由は、ただひとつ。
町が、作りたい。
そう――何を隠そう、俺は転生者だ。
前世では、ブラック企業に搾り潰され、趣味だった街づくりゲームをろくに遊びきれぬまま死んだ。
家の〇eamのアカウントには積みゲーが山ほど残っていた。
だからこそ、この新しい人生で俺は決めたんだ。
今度こそ、自分の手で理想の町を作ってやると。
最初は訳も分からぬまま赤ん坊として目覚めて、戸惑いながらの日々だったが……何とかここまで育ってきた。
幸運にも貴族の三男として生まれ、衣食住に困ることはなかった。
そして何より、俺には【スキル】がある。
――《街づくり》。
ステータス画面を開けば、俺にしか見えない形で表示されている唯一の能力。
他人からは“スキル無し”と笑われた子供時代もあったが、連中は知らないのだ。
このスキルが、どれほどの可能性を秘めているのかを。
神様か、何か知らんが――
せっかくこの力を授かったからには、とことんまで活用してやるさ。