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02. 鑑定による新事実

「それで? エンゲル公爵から私に報告があるということだったが?」


「はい、陛下。きっと陛下にお喜び頂けると存じます」


「ほう?」


「我がエンゲル公爵家は、ユンゲラー伯爵家のロベルトを支援して大規模な召喚魔法に成功し、異世界から聖女を召喚いたしました。我が家は王家へ聖女を献上いたします。これで流行病などの脅威に備えられますし、仮に発生しても治癒ができますゆえ、陛下の憂いも晴れることでしょう」


 今私は、王宮の謁見の間という場所で、顔を伏せながら床に膝をついて跪いている。


 目の前にはエンゲル公爵とロベルトさん。そしてさらにその先には王座の椅子に腰掛ける国王様とその側近がいるという状態だ。


 数日滞在したお屋敷とは比べ物にならないくらい、王宮は優美かつ豪華であることには驚きを隠せない。


 以前ヨーロッパ旅行した時に観光した宮殿を思い出させる。


「其方の後ろにいる女性たちが王家へ献上したいという聖女というわけか?」


「さようでございます。なんと本来は一人しか召喚できない魔法ですが、我がエンゲル公爵家が支援したロベルトは二人もの聖女を召喚することに成功したのです。我が家の国への貢献は計り知れないものとなりましょうぞ」


「まぁ、待て。まずはその聖女が本物かどうかの確認が必要だ。エンゲル公爵を疑っているわけではないがそこは理解して欲しい」


「承知しております。どうぞ王家所有の鑑定水晶でご検証くださいませ」


「ふむ。では側近は鑑定水晶の準備を頼む。そして聖女、顔を上げよ。名は何と申す?」


 ここまで静かに控えていた私と凛ちゃんに対して、初めて声が掛かる。


 エンゲル公爵から国王様が発言を許可するまでは黙っていろと事前に言われていたので、作法が分からない私達はそれに従った形だった。


 ……名前を聞かれてるってことは、これが発言許可ってことだよね? ていうか黙って聞いていたけど、私達を王家へ献上するなんて初耳なんだけどなぁ。


 それなりに社会経験があり、色んな大人を見てきた私は、権力者への貢物に私達が利用されることを察した。


 エンゲル公爵は典型的な権力に擦り寄るタイプの人物なのだろう。


 そんなことを頭の中でつらつら考えながら、私は言われた通りに名乗るため顔を上げる。


 そして真正面から国王様を見て軽く目を見張った。


 ……イ、イケメン……!!


 そこには金髪碧眼の非常に見目麗しい、まるで童話から飛び出してきたかのような美丈夫がいた。


 声の感じから若そうだと思ってはいたが、想像以上に若い。


 国王様らしい威厳と風格はあるものの、私より少し年上くらいの年齢なのではないだろうか。


 隣にいる凛ちゃんも見惚れているのが分かる。


 私は驚きから、凛ちゃんは見惚れて、理由は違うが二人して固まって言葉を失ってしまった私達を、国王様は怪訝に思ったのか少し眉を上げる。


 ……いけない! 不審に思われたら今後の処遇にも影響するかも! 思わぬイケメンぶりにビックリしたけどしっかりしなきゃ!


「お初にお目にかかります。私はレイナ・オイカワと申します」


 ハッとした私は慌てて自身の名前を名乗る。


 ここ数日の屋敷での滞在で、海外と同じように名前はファーストネームが先であると知った私はそれに倣うようにした。


 続いて凛ちゃんも私を真似して名乗った。


「レイナとリンか。私はサウザンド王国の国王、ニコラウス・サウザンドだ。聞いていたとは思うが、今から其方らの鑑定を行わせてもらう」


 その言葉に合わせて、国王様の傍に控えていた側近が大きな水晶玉のようなものを恭しく抱えてこちらへやって来る。


 そして凛ちゃんへ向かってその水晶玉を差し出した。


「その鑑定水晶に手をかざしてみよ」


 王座から様子を見下ろしている国王様がそう述べる。どうやらこの水晶玉は魔法を鑑定する道具のようだ。


 凛ちゃんは躊躇するように周りをキョロキョロと少し見回した後、覚悟を決めたのか恐る恐る水晶玉に手を伸ばした。


 すると触れるやいなや、水晶玉が突然まばゆい光を放ち輝き出す。


 その光は虹色。

 私がカフェの出入口で見たあの幻想的な光だ。


「おお!」

「素晴らしい!」

「なんと美しい光だ!」


 周囲の人々は興奮の混じった驚きの声を上げている。


「これが噂に聞きし治癒魔法の色か。間違いなくリンは正真正銘の聖女のようだな」


 国王様も大きく頷く。


 エンゲル公爵とロベルトさんにいたっては、ドヤ顔と言っても良いほどとても満足気な笑顔だ。


 聖女と認められた凛ちゃんも、周囲から崇めるような眼差しを向けられて、自信に満ちた得意げな笑みを浮かべている。


 鑑定した国王様の側近によると、凛ちゃんは魔力量も桁違いに多いらしい。言語理解能力というスキルもあるようだ。


 ……なるほど。今まで不思議だったけど、私達がこの国の言葉を問題なく使えるのはスキルのおかげだったんだ。ということは、間違いなく私もそのスキルはあるってことね!


 魔法や魔力、スキルといういかにもファンタジーな用語に、場違いにも少しワクワクしてくる。

 

 魔法が使えるのかもと思えば、年甲斐もなくちょっとばかり楽しみだ。


 凛ちゃんに続いて、国王様の側近に水晶玉を差し出された私は意気揚々と手をかざす。


 ただ、そこで想定外の事態が発生した。


 ……ん? あれれ?


 先程と違って水晶玉が全く反応していない。


 かざし方が悪かったのかと思い、私は一度手を引いて、もう一度改めて水晶玉に手をかざしてみる。


 だが、反応は全く同じだ。

 水晶玉が光を発することはなかった。


「「「………………」」」


 その場には妙な沈黙が流れ始める。


 ……えっ、これはどういうこと⁉︎


「水晶玉の鑑定はどうなってる?」


 この沈黙を最初に破ったのは国王様だ。


 その台詞にハッとした国王様の側近が水晶玉を覗き込んだ。


 魔力やスキルは水晶玉の中に表示される仕組みのようだ。



「リン様と同じく言語理解能力のスキルをお持ちです。魔力量は………普通以下かと」


「「「…………………」」」


 再びその場がシンと静まり返った。


 周囲からは憐れむような目を向けられる。

 凛ちゃんは耐え切れないというようにクスクスと小さく笑っていた。


 ……えーっと、虹色に光らなかったということは私には治癒魔法はなくって、しかも魔力量も普通以下。つまり聖女ではないってこと、かな……?


 言語理解能力のスキルは、異世界へ召喚された人に自動的に付くものなのかもしれない。ライトノベルによくそういう設定があった気がする。


 そしてライトノベルにありがちな展開としてもう一つ。


 ……もしかして私、巻き込まれただけだったりして?


 一緒に召喚された凛ちゃんには適性があり、本物の聖女だと判明した事実を鑑みると、その結論に簡単に行き着く。


 召喚された時、私達はカフェの出入口ですれ違うところだった。


 さっきエンゲル公爵は本来は一人しか召喚できない魔法だと言っていた。


 そのことからも、私は凛ちゃんに巻き込まれただけだと考えるのが正解な気がする。


 ……ということは私はなんの価値もない役立たずってことだよね? えっ、この場合、どうなるの⁉︎


 私が思わぬ事態にヤキモキしている間に鑑定は終了となってしまったようだ。


 再び最初の配置にて国王様とエンゲル公爵による会話を始まった。



「鑑定により、リンは本物の聖女として認められた。国家のため、エンゲル公爵からの献上としてありがたく受け取ることとしよう」


「はっ。ぜひとも今回の我がエンゲル公爵家の貢献をご考慮頂き、色々ご配慮頂けますと嬉しく存じます」


「……心得た」


 国王様の応答に上機嫌にニタリと笑ったエンゲル公爵は、私の存在はもうまるで視界に入っていない。


 凛ちゃんは国賓待遇で今後王宮で暮らすことになるようだ。傍にはエンゲル公爵の用意した護衛や使用人が付くらしい。


 二人の会話は当たり前ではあるが本物の聖女である凛ちゃんに関することばかりである。


 鑑定以降、私の存在には一切触れない。


 このままでは役立たずとして見放される未来がありありと想像できてしまう。


「ではリンの今後の処遇はそのように。……そして聖女ではなかったレイナだが……」


 話し合いが一旦着地し、そのタイミングでようやく国王様が私の名前を口にした。


 なんとも言えない憐れむような視線を投げかけてくる。


「あ、あの。もう一度魔法で元の世界に送り返していただくことはできないんでしょうか?」


 不必要な存在なのであれば、日本に帰らせて欲しいと言い募ってみる。


 だが、その望みは一瞬にして打ち砕かれた。


「そうしてやりたいがそれは難しい。なにしろ戻す方法が存在しない。それに言い伝えによると、召喚された者はその時点で元いた世界で存在が消えると言われている」


……え、なにそれ!? うそでしょ!?


 召喚魔法による召喚は一方通行ということだ。しかも存在まで消されるなんて驚愕である。


 国王様が説明しながら気の毒そうな顔をする中、追い討ちをかけるように、この召喚魔法を成功させたロベルトさんが声を上げる。


「さすが陛下! 博識でいらっしゃいます! おっしゃる通りです。付け加えるならば、そもそも召喚魔法には選別機能もあり、家族関係が気薄で、いなくなっても悲しむ者がいないような人物が召喚されるのです」


 ロベルトさんが媚びへつらいつつ述べた言葉に私は思わず眉を顰めた。


 確かに私は家族と折り合いが悪かった。それは事実だ。だけど、召喚魔法にそう判断されたなんて事実知りたくなかった。なんとも複雑な気分だ。


「聖女ではない者――本物にただ巻き込まれて召喚されただけの者は不必要な存在ですので、献上はもちろん見合わせます。陛下にご迷惑はおかけできません。私が責任を持ってしかるべく処分しておきましょう」


 最後にそう申し出たのはエンゲル公爵だ。


 聖女ではないと判明した今、彼は私をゴミでも見るような目で見てくる。


 ……処分って! それ絶対面倒だから存在を消す感じでしょ!




 及川玲奈、26歳。

 PR会社勤務の会社員。


 ある日突然、異世界へ聖女として召喚されましたがただの巻き込まれだったようで能力はなく、呼び出した人達から不要物として処分すると言われました。


 もう日本に戻ることもできないようです。

 大ピンチな状況を迎えています。


 さて、どうしよ――⁉︎


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