ギルド嬢シェリーの探偵日記
藤谷葵、初ミステリー作品です。
ミステリー作品と言いましても、トリックらしきもののない、なんちゃってミステリーですが。
ファンタジー世界のミステリー。初めてにしてはいい感じに書けたと、作者的には思っております。
ただ、描写が拙い所が多いですが、そこは目を瞑っていただけると幸いです。
※作者が描写を苦手としている為。
【1】
「やあ、シェリーさん、こんにちは」
冒険者ギルドの受付に立っていると、声をかけられた。声の主は、冒険者Sランクで評判の良い、カイザーさん。
「カイザーさん、こんにちは。今朝、受けたクエスト、もう完了したのですか?」
「ああ、俺とサウスにかかれば、どうってことないよ」
「じゃあ、今、精算を行いますね」
討伐クエストのアイテムを確認して精算が終わると、カイザーさんは購入も求めてきた。
「毒消し草が欲しいんだけど。今回の討伐の仕事で、ちょうど切らしてしまってね」
「毒消し草ですか……申し訳ありませんが、今は在庫がありません。只今、採集のクエストで依頼中になってます」
「ギルドに備蓄されている毒消し草あるじゃん? あれは売って貰えないのかな?」
私は、ギルド倉庫に保管してある、毒消し草を思い出す。
「あ~、あれは緊急時用でして、お譲りすることはできないことになっているのですよ」
申し訳なくて私は頭を下げる。
「いや、いいですよ。無理言ってすみませんでした」
カイザーさんは、爽やかな笑顔で帰って行った。
今日もいつも通りの一日が終わると思っていた。そう思っていたら、衛兵がやってきた。
そして、時間が惜しいのか、口早に用件を言ってきた。
「街中で、人が死んでいる。調査に協力して欲しい」
【2】
現場には、やじ馬が集まっている。
現場を荒らされないように、衛兵が両腕を広げて、やじ馬たちを遮っている。
「入らないで! 調査の邪魔をしないように!」
衛兵が声を荒げて、一般市民たちを抑止している。
私は、衛兵にギルド職員カードを提示して、現場に通らせてもらう。
私はその亡き人の顔に見覚えがあった。
「サウスさんですね……」
「知っている人間か? 大した外傷もなく死んでいるので、何者かの攻撃を躱したときに転倒して、打ちどころが悪かったのかもな」
衛兵が質問してくる。私は頷き、しゃがみこんで、サウスさんの外見を確認する。
身体には外傷がある。剣による傷のようだ。
(首元だが、太い血管に傷はなさそうだ。大した出血はない。これが死因? 切り傷的に、鉄の剣のようだけど……)
不審に思い、鑑定スキルを使ってみる。すると、体内に『バジリスクの毒』があることが判明した。
「バジリスクの毒に侵されてますね。死因は毒による死亡です」
「あんた、鑑定スキル持ちか? 毒が死因だと? つまり、何者かが毒の剣で切り付けて、逃げて行ったということか?」
「恐らくそうでしょう」
私は衛兵隊長と思われる人と話しつつ、辺りを追跡スキルで確認する。
「現場、結構、人入り込んじゃいました?」
「いや、第一発見者と我々だけだ」
「そうですか」
それぞれの足跡を調べていく。第一発見者と衛兵の足跡を照合してみても、一人分だけ足跡が足らない。これが犯人の足跡だろう。
私は魔道具の写真機で、その足跡を撮影しておいた。
【3】
冒険者ギルドに戻ると、カイザーさんがとても悲しそうな表情で、ギルドマスターに縋り付いていた。
「サウスのやつが殺されたんだ! 必ず犯人を捕まえてくれ!」
私が受付カウンター内に戻ると、カイザーさんは私に話しかけてきた。
「シェリーさんが、現場を見てきたのか?」
「ええ、そうです」
「何か分かったか?」
「首元に剣による切り傷があるくらいで、他は何も……」
調査に影響が出ないように、誰が見ても分かる程度のことだけ、話しておいた。
すると、カイザーさんは心当たりがあるような口ぶりで言ってくる。
「サウスのやつ、一昨日、俺と飲んでいるときに、誰かと会う約束をしていたみたいなんだ。昨日の夜に会うと言っていた。多分、そのサウスと会ったやつが殺したに違いない」
「剣の切り傷からして、どこの武器屋でも手に入るような剣を使用して、殺害したようですね。Cランクの冒険者が使うような鉄の剣だと思われます」
「……ちくしょう!」
カイザーさんが俯いた。私にできることは、そっと肩に手を添えるだけ。
しばらくすると、カイザーさんは帰って行った。
カイザーさんの背中を見届け終わると、ギルドマスターに、執務室に来るように言われた。
私は頷き、ギルドマスターの後に続いて、執務室に入る。
「……で、調査した結果、どう思う?」
「死因は、『バジリスクの毒』でした。でも、この街にバジリスクを倒せる人物は、Sランク冒険者のカイザーさんか、サウスさんしかいません」
「ふむ……」
ギルドマスターは顎髭を撫でつつ、思案する。
「首元に切り傷、そして、バジリスクの毒。自殺の線は?」
「自殺ではないと思います。自殺の割には、首元の切り傷が不自然でした。そもそも剣でなくても、ナイフ程度で自殺はできます。それをわざわざ切りにくい場所を剣で切り付けるとは思えません。それに追跡スキルで足跡を確認しましたが、現場にいた人間以外に、足跡が不明な人物が一名います」
「なるほど……依頼掲示板の方は?」
「依頼掲示板のクエストには、ポイズンワームの依頼が数日前に出されていました。でも昨日、カイザーさんがクエスト完了の換金にきました。バジリスクの討伐クエストの依頼は、最近は出ていません」
ギルドマスターは、机を指先でとんとんしながら、質問をしてきた。
「シェリー的にはどう思っている?」
「クエスト以外で、バジリスクの討伐をした何者かが、バジリスクの毒を利用して、サウスさんを殺害したのだと思います」
「そうか、わかった。業務に戻ってくれ」
「かしこまりました」
私はお辞儀をして、執務室を後にした。
【4】
翌日の朝、私が受付で業務を行っていると、衛兵がやってきた。
「昨日、調査にきたシェリーさんはいらっしゃいますか?」
急に私の名前を呼ばれて、どきっとした。私は一呼吸してから、返事をした。
「私ですが何か?」
「怪しい人物の目撃情報が入ってきた。その容疑者は既にこちらで保護している。シェリーさんからも取り調べをしてほしい」
「分かりました」
私は今、行っている業務を他の人にお願いして、衛兵について行った。
留置所に案内されると、牢獄の向こう側には、容疑者がいた。
格子の向こう側で背を向けて座っている人物は、私たちの足跡を聞いて振り返る。私はその人物のことを知っている。
「ゼノスさん?」
私に気づき、壁際からこちらに歩いてくる。
「シェリーさん! 助けてくれよ! 俺はなにもやっていない!」
個人的な感想を言うと、この人に殺人はできない。何しろクエストで『人型の魔物』ですら、殺せないとクエストに失敗したことが以前ある。
だが、個人的な感情にとらわれず、ゼノスさんにお願いをする。
「ちょっと、足の裏をみせてくれませんか?」
「足の裏か?」
そう答えると、靴を脱ごうとするので、止める。
「靴は脱がなくていいですよ。靴底を見せて下さい」
「あ、ああ」
本人も混乱しているのか、動揺気味である。
私は格子の隙間から差し出された靴底を確認する。
(確かに足跡と一致するわね。いえ、正確に言うと足跡だけが一致している)
「ちょっと、牢獄内を歩き回ってみてくれませんか?」
そういうと、のしのしとがに股で歩く。
「とりあえず、わかりました。ありがとうございます。質問なんですが、あの晩は、ゼノスさんは何をしていましたか?」
「俺は酒場で酒を飲んだ後、そのまま宿屋に借りている部屋に帰ったよ」
「なるほど……宿屋ですね」
そう言って帰ろうとすると、ゼノスさんが格子を掴み、懇願してくる。
「シェリーさん! 俺は本当に人なんて殺していない! 助けてくれ!」
私は振り向き、笑顔で一言だけ伝える。
「ええ、必ず助けます」
【5】
ゼノスさんに聞いた宿屋に向かう。
「ここか……」
見上げると、失礼な言い方だが、安宿やという感じである。まあ、Cランクの冒険者の稼ぎと言えば、相場的にこのくらいの宿屋であろう。
私は扉に顔を戻し、中に入る。
「こんにちは」
「いらっしゃい。泊まりかい?」
泊まり? 宿屋なのだから泊まりは当然のことだろう。内部を見ると、食事も兼ねているようだ。そういう意味で聞いたのか。
「いえ、すみませんが違います。こちらにゼノスさんが泊っていると聞いたのですが」
私はそう言いつつ、ギルドカードを提示する。
「ああ、ギルド職員の人かい。もしかして、ゼノスさんが殺人を犯したという話かい?」
既に知っていることに驚くが、平静を装い聞き返す。
「ええ、そうです。もうご存じなのですか?」
「そりゃあ、昨日衛兵が来たし、それにうちの宿屋は冒険者が多いからね。冒険者の噂話は絶えないよ」
なるほど。言われてみればそうかもしれない。
「事件当日、ゼノスさんはどうしていましたか?」
宿屋の女将さんは、記憶を辿るような表情をして、考え込む。
「ん~、確か酔っぱらって帰ってきたよ。結構早い時間に帰ってきてたね。その後はすぐに借りている部屋で寝たみたいだけど」
「そのお部屋、見せていただけますか?」
「ああ、いいよ。ただし、荷物には手を触れないでおくれ。容疑者として捕まっていても、一応今はまだお客だからね」
「わかりました」
階段を上り、二階に上がる。そして、女将さんは合鍵で扉を開けた。
「さあ、どうぞ」
広くはない部屋。だが、一人が泊るには十分だろう。
私は窓際に行き、窓を開けてみる。大人でも出ることは出来そうだ。だが、下を見ると、高さはある。飛び降りても足を痛めそうだし、何よりも部屋に戻ってこれない。そして、窓の外は大通りに面している。深夜とは言え、人目につかずに動き回るのは、無理だろう。
私はゼノスさんには犯行は無理と確信した。実際に宿屋の女将さんのアリバイもあるし。どうやら、衛兵は目撃情報だけで、犯人をゼノスさんとしたようだ。
私はもう一度、衛兵詰め所に向かう。そして、衛兵隊長に面会を求め、ゼノスさんを逮捕した理由を聞いてみた。
「目撃情報って誰のですか?」
「誰だったかな……。ああ、冒険者のカイザーとかいう人だよ」
パラパラと調査書をめくり、そう言い放った。
「カイザーさんですか?」
目撃者にカイザーさんの名前が出てきて、不審に思う。つまり、『犯行時刻に現場近くにいた』ということになる。
私は衛兵隊長にお礼を言ってから、衛兵詰め所を後にした。
【6】
ギルドで受付仕事をしていると、カイザーさんがクエストの受託申請をしてきた。
「このクエストを受けたい」
「わかりました」
私は申請用紙を処理しつつ、カイザーさんに話しかける。
「衛兵にゼノスさんが現場にいたと目撃情報をしたのは、カイザーさんらしいですね。それってつまりカイザーさんも現場にいたということですか?」
「はは、嫌だな。俺を疑っているのか?」
そう笑いつつあるが、目は笑っていなく、とても冷たい目つきであった。
「現場の足跡は、ゼノスさんと一致していましたよ」
「ほら、俺じゃないだろう」
「ただし、ゼノスさんでもありませんですけどね」
笑顔は消え去り、ドスのきいた声で質問してきた。
「……何が言いたい?」
「ゼノスさんは特徴的な歩き方をしています。地面の足跡の沈み方だと、不自然なんですよ。まるで別人みたいな」
私はそう言うと、書類から目をあげて、カイザーさんを見つめる。
「カイザーさん、確か変身魔法を取得していましたよね?」
カイザーさんはしばらく黙り込む。そして、再び口を開く。
「衛兵には話していないことがあるんだが、二人きりで話せないかな? 人に聞かれると、俺の命が狙われかねないから、人気のない所で……」
「わかりました。では、このクエストの手続きが終わりましたら、お話を聞きましょう」
【7】
使われていない空き家で、話を聞くことにした。空き家には本来、鍵をかけるという規則があるのだが、空き家を管理している商人が杜撰なもので、スラム街の住人が住み着くという案件が、ギルドにも上がってきて困っている。今回はそのだらしない商店の杜撰さに感謝した。人に聞かれないようにするには、空き家が一番手頃であろう。
「それで、話していないことってなんですか?」
そう言うと、カイザーさんは、アイテムボックスから剣を引き抜いた。私は後退る。
「……なんのつもりですか?」
「お前はもう、俺が犯人ってことを分かっているんだろう? まだ他の人間には話をしていないみたいだから、このバジリスクの毒を塗った剣で、ここで死んで貰うよ」
「やはり貴方だったのですね……サウスさんを殺した動機はなんなんです?」
身構えつつ、質問をする。カイザーはもう私を確実に殺せると思い、嬉々として語る。
「俺の方が活躍しているのに、サウスのやつと報酬を半々というのが気に入らなかったんだよ!」
「……報酬が半々って、ギルドカードで確認したときには、むしろサウスさんの方が、魔物を倒していましたよ?」
私がそう答えると、カイザーは我を忘れたように怒り狂う。
「うるさい! うるさい! うるさい! 誰が何と言おうと、俺が最強なんだ! 一番なんだ!」
冷静にカイザーを見つめる。人の命を奪った犯行動機は、下らないプライド。この真犯人は、人の命よりも己のプライドの方が大事らしい。
カイザーは怒りの視線を私に向けて、これでこの事件のことは終わりだと言わんばかりに、剣を握りしめ近づいてくる。
私はスカートを太ももまで捲り上げ、短剣を取り出す。
「ソードブレイカーか……タカが一介のギルド職員に、その気難しい武器を扱えるかな?」
そう言うと、カイザーが襲い掛かってきた。
剣をひらりと躱す。
「チィッ!」
カイザーは躱されるとは思っていなかったようで、舌打ちをした。
再び、剣を振りかざしてきた。今度は、ソードブレイカーで受け止めて、へし折った。
「なんだと!?」
カイザーは、バックステップをして距離を取った。そして、再びアイテムボックスから剣を引き抜いた。日頃、見かけることの多い剣。カイザーの愛剣である。
「これなら、そのソードブレイカーで折れないぜ。何しろミスリル製の剣だからな」
「……」
私は無言で、左手にソードブレイカーを持ち替え、右手は右太ももから新たな短剣を引き抜いた。
「二刀流にしたって無駄だぜ。Sランクの冒険者である俺に勝てるわけがない!」
言葉を言い終わると同時に、再び襲い掛かってきた。
カイザーの剣を二刀で受け流す。
「クソッ! なんで当たらねえんだ!」
「貴方と私の実力の差ですよ。力は貴方の方が上ですが、素早さと技術力は私の方が上です」
「ほざくなっ!」
カイザーの剣をソードブレイカーで受け止め、右手の剣で首元を斬りつけた。
「これで勝負ありましたね。ギルドに自首して下さい」
「はぁ? 何言ってやがるんだ? この程度で俺に勝て……」
そこまで言うと、カイザーは跪いた。
「きさま! 何をした?」
カイザーは必死に立ち上がろうとしている。私はその問いに答えた。
「毒ですよ。バジリスクほど強力ではないですが、そのうち全身に毒が回り死に至るでしょう」
すると、カイザーはアイテムボックスを探り始めて、舌打ちをした。
「クソッ! 毒消し草が……」
「ないはずですよね? ギルドには緊急用の毒消し草しか在庫はなく、まだ毒消し草のクエストは、誰も受託していない。人の命より、プライドの方が大事みたいですし、そのまま毒殺人事件の被害者にでもなりますか?」
「わ、わかった。自首するから助けてくれ」
ゼノスさんは釈放され、入れ替わりにカイザーが牢獄へと入ることになり、『バジリスクの毒、殺人事件』は幕を閉じた。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
『ギルド嬢シェリーの探偵日記』というタイトルのように、シリーズで書けたらいいなと思っております。
その為には、ミステリーの勉強をもっとしなければいけないと、本作品を書いて痛感しました。
今後とも、藤谷葵の作品の応援をよろしくお願いいたします。