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其ノ二

思い出せば、彼女と出会ったのは半年前だった。先の鋭い風が乾いた大地を引っ掻くのと同じように、僕らの体にも傷を作っていってしまう、そんな冬の真ん中に佇む時だった。新年が明けたというのに世の中のシャッターはずっと閉まったままで、僕らの時間は動きを止めているようだった。

 そんな中で僕も不規則な学校生活を余儀なくさせられていて、昼間だというのに、帰路についていた。かといって、家に帰っても、閉ざされた部屋で、卓上でペンのシンクロナイズドスウィミングを見させられるだけで、早く帰れることはちっとも嬉しくなかった。

 うんざりしていた僕はその日、家には真っ直ぐに帰らず、家の近くの公園に立ち寄った。冷たいベンチに腰を下ろすと、尻の表面から身体全体に冷気が体温と中和するまで、身を丸めた。

 足元で幽玄に枝を躍らせる影が、僕を飲み込もうとしているようだった。白髪まみれの地表には、新芽がちらほらもう顔を出していて、終わりと始まりの二重構造がよく見えた。体がだんだん温まってくると僕は背もたれに寄っ掛かり、広い敷地を見た。誰もいない昼間の公園。制服を着た僕でさえも、今なら何の違和感もない。泣き喚く幼児たちも、泥だらけの子供達も、ヤニ臭い少年たちも今はいない。僕はまるで世界を手に入れたような気がした。

 鳥が木から木へ飛び渡る音を聞きながら、おもむろに学生鞄からノートを取り出した。日本史の試験対策用に授業をまとめたノートだった。他にすることはなく、かと言ってその頃の僕に”何もしない”ということを楽しむほどの余裕はなかった。でも開いてみても、文章は目で追えず、内容は次々に欠落していく。金閣を建てた人物が、何代目の足利なのかはっきりしないまま、金閣はただ頭の中で炎に包まれている。僕はとうとう空白のページを開いたまま、人気を失った公園をぼんやりと眺めた。

 気がつくと僕はノートに何かを書きつけていた。余白を多く残した言葉の羅列で、文章のようにはなっていたものの、その意味は全くわからなかった。今思えば、それが僕の初めて書いた詩なのかもしれない。

 僕はその原初の詩をじっとみていた。評価しようにもその頃の僕に文学の知識なんて、自分の読書歴以上のものを持ち合わせていなかったから、果たしてそれがいい出来なのかどうかはわからなかった。でもなんだか、自分の中から意識を離れて嘔吐された言葉は卑しくも自然的で、妙に現実味があるようにも感じられた。

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