其ノ二
僕たちは駅前の小さなショッピングセンターの広場で話した。二人で小振りなテーブルを囲んで、長時間座っていると体のあちこちが痛くなりそうな椅子にもたれた。彼はギターケースを椅子に立てかけて、近くのキッチンカーで冷えたコーヒーとラテを買ってくると「どっちがいい?」と僕に聞いた。「どうも」と言って僕がコーヒーを選ぶと彼は「何かいる?砂糖とかミルクとか」と立ったまま言った。「いや」と言って首を振ると彼は不思議そうな顔をして、「そう」と頷いてキッチンカーの方に歩いて行った。
行き交う少数の人々の視線が僕たちを縛っているようだった。紺色の制服を着た青年と、その正面に座るだらけた服を着る青年。異様なくらい綺麗な対立構造が日常に突如としてフェードインしてきたのだから、確かに注目には値する。でもその関係の一対をなす僕としてはいい気持ちではなかった。彼は友達でもなかったし、なるつもりもなかったのだから。
「君はあいつといつから知り合いなの」それはこっちのセリフだった。名乗りもせず、いきなりぐびじん荘の名前を出してきて、そこに入り浸る僕に声をかけてきたのだから、先に質問する権利はこっちにあるはずなのだ。
「今年の始まりくらいから」僕はそっけなく、愛想なく答えた。興奮と虚栄の足音が聞こえてくるような気がする。彼は「うん」と頷いてストローに口を当てる。
「あなたは?彼女の知り合い?」次の質問が来そうだったので、ラテを飲む彼に食い気味で聞いた。
「君に頼みがあるんだ」もしかしたらこいつは別の世界からやってきたのかも知れない。会話がなんなのか、コミュニケーションがなんなのかまるでわかっていないみたいだ。僕は新たに、憤りの唸りを聞く。
「わかってるよ。君のほうが聞きたいことが多いくらい」彼は笑って、シワだらけのシャツからタバコの箱を取り出した。セブンスターだった。そして口に咥える。
「でもまずはこっちの話を聞いて欲しい。とても大事なことなんだ。それに俺の話を聞いていれば、その大半に答えたことになると思うよ」そう言うとジッポのライターで火をつける。音を立てるだけで、全く火を起こす気のないライター。白昼堂々こんな公共施設で喫煙するのは間違ったことなのはわかっていた。でも僕には彼の口元からタバコを奪うほど度胸はなかったし、火種に困っている人間を放っておくことができるほど、もう卑屈ではなかった。
気がついたら僕はポケットからライターを取り出して火をつけていた。彼は僕を見て、一瞬驚いたように目を見開いたが、「サンキュー」と言って火に近づくと息を吸い込んだ。僕はライターをテーブルに置くと、コーヒーを飲んだ。酸味に舌を炙られたような気がしながら、彼の話を待った。




