其ノ二
僕たちは、高層ビルの日陰の街に住んでいた。都会の喧騒が届くくらいのところではあったけれど、その一方で下町みたいな人間臭さがどこか漂っていた。
彼女のアパートは僕の家から少し距離があった。そこまでに行くには、肌艶の良い新興住宅の並ぶ丘や、や乾き切った木造住宅の雑木林を抜け、幾つもの坂を越えなくてはならなかった。
さて、寂れた町のちょっとしたダンジョン攻略が終え、ようやく彼女の根城に着く。そこは”ぐびじん荘”という二階建てアパートの端っこだった。外観はボロいとも新しいとも言えない、薄汚れたコンクリート張りの建物だった。
僕は階段を上がって、玄関まで行くとノックもせず、インターホンも鳴らさずに、そのまま中に入る。これがこの部屋の入室ルールだった。彼女は人に扉をノックされたりインターホンを鳴らされたりするのが大嫌いだったのだ。
あまりに無防備な掟(何も縛ってはいない」だったけど、僕の知る限りでは一度も事件が起きたことはない。まぁ、僕らの街があまりにも退屈すぎただけかも知れなかったけれど。
そういうわけで、僕はそのままドアを開け、彼女の匂いに出迎えられる。玄関には、履き潰されてクタクタになったジャックパーセルと、ソールの皮が剥げて所々肉の露わになったビーチサンダルが倒れている。一方、壁際にはいつ履くのかわからないピカピカのミドルカットブーツが立派に立っていた。僕は自分の靴を脱ぎ、彼女のコンバースの隣に揃えると部屋に上がった。