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其ノ三

三時間くらい高速を回ってから、車は高速を降りた。そして都会をすり抜けて彼女のアパートに戻った。メーターのデジタル時計は0:27を映し出していた。僕たちは車を降りて、彼女の部屋に入った。夜中に灯った白い天井の電気は、いつもとは違う素顔を落とした。僕たちは狭い洗面器で手を洗うと、彼女はベッドの上、僕はテーブルの前という定位置についた。彼女はアメリカンスピリットに火をつけると、空き缶に手を伸ばして灰皿の代わりにした。 彼女の吐いた煙の中にいくつもの言葉が見えた。それらが僕のものなのか彼女のものなのかは判然としない。シルクのような煙にしっかりと編み込まれていて、取ろうにも取れなかった。でも最初にその絡みを裁断したのは彼女の方だった。「あ!」と言って彼女はタバコを潰して缶の中に落としてしまうと、ベッドから降りて僕の来ているロングTシャツの襟を掴んだ。しばらく僕の服を見てから突然、彼女は「脱いで」と言った。 

 僕は聞き間違いかと思って、「え?」と言ったまま様子を伺っていたが、彼女は僕に飛び掛かるようにしてマウントポジションにつく。格闘技の試合なら大ピンチだ。僕は見下ろす彼女の顔を見上げたまま、あの夏を思い出していた。二人で太陽の凝視に隠れながら、創作に作った日々。僕は知らない間に汗ばんでいた。 

 彼女はそんな僕をもろともせず、無理やり服を脱がせた。何がこれから起こるかわからず(或いはそのふりをしている)にいるとランニング姿になった僕から離れて、廊下にある洗濯機のなかを漁り始めた。僕はボカンとしてその後ろ姿を見ていたが、やがて「これならいけるか」と言ってこっちに戻ってくる。その手にはクタクタになった、真っ黒いTシャツがあった。

「これ着て」そう言って僕に手渡す。

「オーバーサイズだから君でも着れる」そう言われて僕はTシャツに袖を通した。首を通すときに服の内側を通る。いつもの洗剤の中に彼女の匂いを探し当てる。サイズに問題はなく、華奢で小柄な僕でもゆとりがあるくらいだった。僕は彼女の服を来てしまうと、また座り直した。今度は小さくまとまって。

彼女は新しいタバコに火をつける。「

少年。ここのルールは知っているだろう?」問いが煙に巻かれて出てくる。「とっても重要な掟だよ」

「インターホンを押すなってルール?」

「それもそうだけど、もう一個作ったじゃん」僕はしばらく考えてみたが何も思いつかなかった。そんな僕を見て彼女は小さい煙の糸を鼻から伸ばす。

「こんなものを着てくるなってルールだよ」彼女は僕がさっきまで着ていた服をつまみ上げた。前面にプリントされた”The Beatles”の文字を指に挟んだタバコで指している。そこで僕はようやく思い出した。

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