其ノ一
こうして僕たちの夏はあっという間に溶けていった。詩を書いては彼女に見せて、曲を作った。彼女は作った曲を持って、公園や路上を回って演奏した。でも観客なんていない。強いていえば、鳩とか野良猫とか、あるいは散歩中の老人くらいだった。僕はたまに彼女に付いていってそのライブを見た。彼女は楽しそうにギターを弾いて、僕の書いた詩を歌った。それはとても充実した時間だった。拍手をしてくれる人はいなかったけど、グルーヴのないライブに僕たちは満足していた。
僕はそのうちにリサイクルショップに行って、あのジャガーを買った。中古で安くなっていたものの、高校生にとっては全財産を叩く勢いだった。でも僕はギターを大事に持ち帰って、親にバレないよう、ケースの上からさらに毛布で包んでクローゼットの奥にしまった。彼女にいつか渡すつもりだった。
そして日没まで長いはずの夏休みはすぐに終わってしまう。気がつくと残り一週間も残っていなかった。考えることは机の上に山積みで、暑さのせいですでに腐り始めていた。でもいつかは処理しなくていけなかったのだ。僕はそんなこと考えたくなかった。全部が嫌になった。家にいたくなくなった。それで僕は、初めて家出をした。
日が暮れてからすぐに僕は家から飛び出した。そしてとりあえず近所を適当に歩いた。別に帰らないつもりではなかったし、そこまで遠くまで行こうとは思ってもいなかった。ただ、何かの拍子に消えてしまえればいいのにと思っただけだった。全てを放棄する責任でさえ負わなくてもいいような、世界から抹消された存在になりたかった。でも、そんな望みが叶えられた試しがないのを知っていた。だからこんな時間にする僕の家出なんて、夜の散歩もいいところだった。
そして案外、行き先も度胸もない徘徊は、すぐに終わった。僕は気がつくと”ぐびじん荘”の前に立っていたのだ。僕は一つため息をついた。結局またここに来てしまったのだ。行き先なんてないと思っていた僕を嘲笑うかのように、二階の彼女の部屋が見下している。
僕は階段を上がって、玄関の前についた。一瞬開けるかどうか、問答の時間があった。でも僕はいつも通りに、ノブを引いた。思い何かが中から僕と同じ力で引っ張ってくる。家の鍵は閉まっていた。
僕はバカらしくなった。苦笑をして、その場に座り込んだ。僕とは対照的にスッキリした空の顔が何よりも憎かった。寒さを感じるのを忘れて、しばらくの間僕はその場で座っていた。勝手に夜が明けるのをこのまま待とうと思っていた。




