其ノ三
「どっか行ってたの」そう言って僕は汁と一緒にうどんを啜った。
「あぁ?んん」と彼女は首を縦に振り、湯気が天井に迸る弁当を冷ましている。
「ちょいと野暮用でね」口に食べ物を詰め込んで発音がおぼつかない。
僕は「え?」と切り返す。「ベーシストがまたやり直そうって言ってきてんの」
「でもどうせやらないんでしょ」
「まぁね」
「なんで、いまだに誘ってくるんだろう」僕はおにぎり片手にそういった。「さぁ」彼女は肉と米を器用に箸で掴んでから、しばらく口の前に置いた。でも、見たことないくらい本気だったんだよなぁ、あいつ」まるで湯気を覚ますかのようにか細く言った。
「ん?」うまく聞こえない僕もうどんを運ぶ手を止める。
「いや、アタシはもうやんないって決めたから」そう言うと肉と米を口にかき込んだ。僕はうどんとおにぎりを飲み込むまでの間、今日のことを思い返して、そこに次の会話の種がないか探した。昼間、ここに来る前に父親に連れられて、リサイクショップに行った。「少しは息抜きしろよ」と言われて僕は連れ出されたのだが、それは建前で、本当は掘り出し物のレコードを漁るための手伝いをさせるのが本音だった。それに一人で行って何か買ってくると母に何か言われる。でも僕が一緒にいれば少しは口実に使える。分かりきった魂胆だったが、僕は嫌とも言えず、渋々ついて行った。そのついでに僕は楽器売り場に行ったことを思い出した。
「あ、今日あのギターを見たんだよ」僕はベッドの壁に貼ってある、ポスターを指さして言った。そこには金髪の男が、昼間僕がリサイクルショップで見たギターをかき鳴らしている。「マジで?」「うん。どこのブランドのやつかとかはよく分かんないけど、全く同じ形だった」
「へぇ」と彼女は目の中を泳ぐ何かを見つめるようにして言った。




