其ノ二
ドアが開く音がした。パタパタとサンダルの軽い音がする。僕はベランダから中に入って、網戸を閉めた。彼女は寝巻きのショートパンツ姿でだるそうに玄関を上がってくると、「よ」と挨拶をする。
僕は持っていた袋をテーブルの上に置いた。コーラに、スプライト。牛カルビ弁当にチキンとフランクフルト。そして梅のおにぎりと冷やしぶっかけうどん。僕はテーブルに全部並べてしまうと、彼女は「サンキュー」と言って、弁当をレンジ入れた。レンジの中で弁当がぐるぐる回っている間、彼女は物が散乱した床の中から、ジーンズを抜き出すと、そのポケットから財布を出した。ジャリジャリと小銭で膨れた革財布が音を立てる。
「今日はいい」僕はうどんの蓋を開けて、トッピングの乗った容器を取り出しながら言った。彼女はそれを聞き、一瞬手を止め、チラッとこちらを窺う。「なんかあったの」と言うとまた弄り始めた。僕はベタベタするつゆの袋を開けるのに手こずりながら「いや別に」とこぼした。麺を割り箸でほぐしながら「たまには僕が奢る」と言った。彼女はまた僕を見て、動きを止めた。
今度は僕も彼女の方を向いてみる。とぼけたような顔で、財布の中に手を突っ込んでいる。暑さのせいで赤くなったほっぺたが、彼女のスッピンを崩していた。レンジがピーピー鳴って、彼女は首を向ける。「そうかぃ」と言って、彼女は「あっちあっち」と弁当をテーブルに運んでくる。僕は鼻でフッと笑うと、トッピングをうどんに放り込んだ。彼女は弁当をテーブルに置き、ベッドの上に座ると、手首にあったヘアゴムでポニーテールを作った。
「少年」彼女は骨なしのチキンの包みを破った。端の方から齧るとベッドの上から僕の顔を覗いて「顔に悩みでも塗るのが最近のメイクの流行りなのかい」と言った。
「別に」僕はうどんがトッピングと汁に混ざるように、箸でかき混ぜながらそういった。いかにも悩みなんてないとでも誤魔化すかのように。でもそれがやっぱり無駄だと気がつく。
「じゃあさ、相談に乗ってくれるの?」僕は彼女の顔を見返す。すると、彼女は手に持っていたチキンに顔を逸らして
「まさか。アタシはそういうの関わらない主義だから」と僕の問いを軽く蹴飛ばしてしまう。そしてまた一口食べて「アタシに相談したって何も解決しないのわかってるでしょ」そう言って彼女は鼻で笑った。
「そりゃそうだろうね」僕はようやく混ざりきったうどんを啜った。
「まぁ、気にせず存分に悩みたまへ。赤ちゃんは泣くのが仕事。少年は悩むのが仕事だよ」チキンの包みを手の中で丸めて彼女は言った。
「大人は?」口の中の隙間で僕は喋った。
「大人は知らんぷりするのが仕事」
「そうなると君は大人か」
「いかにも」彼女は弁当を片手で持って、口で割り箸を割った。
「少年は偉いんだよ。子供は大人の父つってね」そう言って、炊き上がる湯気を吹いた。




