詩人の始まり
17の時、僕は詩人だった。その肩書きが本当に正しいのかは知らない。なぜなら別に詩で賞を取ったこともなければ、何かの文芸雑誌に載ったことだってないからだ。そもそも他の誰かに「僕、詩を書くんです」なんて言ったことだってない。だから、実のところ世界の誰の目にも僕が詩人として映ったことなんてないんだと思う。それでも僕は、17の頃は詩人だったと言う。なぜなら、たった一人だけ僕の詩を読んでくれた人がいたからだ。それは17のまだ大して青くもない少年が自分を詩人と呼んでしまうには十分な理由だった。でも、本当は何者でもない少年が詩人として生きていくには、その理由はあまりにも無力だった。だから少年は埃の舞う子供部屋でただ一人、ひっそりと息を引き取ってしまう運命を最後まで知ることはできなかったのである。
僕の詩を読んだあの人はミュージシャンだった。別に有名でもなんでもなかったし、どちらかといえばフリーターという肩書きの方が合っている人だったけれど、僕はそれでも彼女をミュージシャンと言い切ろうと思う。
彼女はいつもギターを剥き出しのまま背中に背負ってどこかをほっつき歩いていていた。色の褪せたジーンズに、クタクタのバンドティシャツ。そしてブリーチで傷んだ髪が、自由を求め、風に向かってその枝分かれした毛先を伸ばしていた。それが彼女の外見の全てだった。そんな締まりのない立ち姿のうちで、ギターだけはいつも血色が良く、太陽を浴びて気持ちよさそうに彼女の背中を抱いていた。
僕はそんな彼女のことが好きだった(これだけははっきり言おうと思う)。それもどうしようもないくらい鮮烈に、他のことなんてどうでも良くなるくらいに好きだった。でも当時僕はまだ高二で、彼女は僕よりもずっと年上だった。正確な年齢はわからないけど多分10歳位は離れていたと思う。そんなに歳の離れた人を好きになってしまうなんて、まだ十代で、世の中のことをほとんど知らない僕にとって尋常なことではなかった。