第7話 魔族の領域へ進め!
勇者一行はロング村の戦いの後、魔族の動向偵察のため、東部方面の森を目指す。
以前、エリゼのいたパーティーが全滅した場所で、オスカーもここでモンスターを狩った経験がある。人間の活動域と魔族の活動域の境界線だ。
すでに人里を離れて数日経っている。森はすぐそこだ。いつ魔族に遭遇してもおかしくない。レイブンの考えはこうだ。
「みんな、今回は魔族の活動した痕跡が見つかれば良しとしよう。それからどうやって魔族に対抗するか戦略を立てる」
エリゼも言った。
「そうしましょう。この先は魔族の支配地域だから。絶対、無理に攻め込んではいけない!」
彼女は以前のパーティーが全滅した時の恐怖を思い出し、からだがこわばるのを感じた。冒険者生活で最大のショックな出来事だったからだ。
(この場所に戻って来る日が来てしまうとは……)
オスカーもこの森でモンスターの巣窟を一掃した経験があった。
「ただでさえ、凶悪なモンスターが潜んでいる。慎重にいくべきだね」
ついに、魔族の活動域の森へ入る。奥へ進んでいくと小川に丸太の橋が架かっていた。向こう側に行くのが目的らしい。茂みに身を潜めていると、魔族の集団が対岸から歩いてくる。6〜7体いそうだ。
場合によっては、戦闘が起こるかもしれない。一気に緊張が走る。
敵は橋の向こう側に集まって集団で何かをやっているらしい。泥や土埃で汚れていて、森で何かを探している様子だ。
オスカーが予想した。
「この先はダンジョンがある。奴らダンジョン探索でもやっているんじゃないか?」
魔族が話していた。
「魔力消費を抑える指輪だとよ! 人間たちの王国を一気に潰すには一度に膨大な魔力を使う。だから、指輪の力で魔力を節約しつつ攻撃すると言ってるぞ」
「幹部の考えは分からんね! 弱い人間どもにはアイテムなんか使うまでもない」
魔族たちは貴重なアイテムを求めて、ダンジョンに入っていた。
レイブンも危機感を持つ。
その指輪とやらを先回りして俺たちが取らないといけない。敵の手に渡ると危険なアイテムだ。
その時、一行の背後からゴブリンが2体出てきて、オスカーに飛びかかった。魔族が物音に気付く。エリゼがオスカーに防御魔法をかけ、ゴブリンの攻撃は防いだものの、魔族が向かってくる。まだ、パーティーは姿を見られていない。ゴブリンは攻撃が反射して自滅している。しかし、どの道魔族との鉢合わせは避けられなかった。
レイブンが目配せし、各自体勢を整える。その瞬間、外敵の気配に気付いた魔族が攻撃魔法を放ってきた。茂みが一気に吹っ飛び、勇者一行の姿が現れる。
魔族も瞬間的に戦闘態勢を整えた。
オスカーが攻撃する。フレアストームだ。空中に小型の火球が現れ、魔族の立ち位置を包むように飛んでいく。小規模な爆発が次々起こりダメージを与え、敵の逃げ場を奪う。
体勢の揺らいだ魔族勢にレイブンが斬りかかり、トルネードストライクを繰り出した。上から下へ振り下ろす連撃で、相手に混乱を引き起こす。
魔族も反撃した。
「こいつら、人間だな! 意外と手応えあるじゃないか。弱々しい奴らが生意気だ」
魔族たちは、レイブンに対して拳に魔力を込めて殴りかかってくる。更に、攻撃魔法を飛ばして、オスカーとエリゼを襲う。
敵の魔力量は人間の比ではない。一発一発の威力がある上に連続攻撃も素早い。
レイブンも魔族の拳が肩をかすり、軽傷を負う。しかし、敵は次第に互いを殴り始める。混乱の効果が出てきた。
オスカーとエリゼはそれぞれ、足に攻撃魔法を受けるも、事前にエリゼが施した防御魔法の効果があり、軽傷で済んでいる。
混乱する魔族の集団にオスカーが強烈な攻撃を加える!ドラゴンズブレスを発動した。直線状に火炎が発射されピンポイントで魔族たちを攻撃する。
完全に体勢を崩した敵陣にレイブンがとどめを刺す。
毒牙の双刃だ!剣に魔力で生成した毒をまとわせ、相手の両脇腹を斬りつけていく。
魔族はレイブンの連撃と毒の効果で倒れていった。
「オスカー、エリゼ、先を急ごう! 魔族が魔法の指輪を狙っている。先に取られたらまずいぞ!」
エリゼが素早く回復する。
「みんな軽傷を負っているし、治癒と体力回復をするから少しだけ待ってて」
エリゼは回復魔法であるリストアライトで自分も含めて全員を回復した。中程度までのダメージなら瞬時に回復できる。彼女が傷に手を当てると光が出て治療できた。
勇者一行は、ダンジョン探索する魔族を退治するため、先を急いだ。